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SEJ 日本のエネルギーを考える会

133 号  「もんじゅ」を活用して高速炉技術開発の継続を -自主技術開発の経験を絶やさず前へ-


カテゴリ:  原子力政策    2016-11-10 13:00   閲覧 (1726)

「もんじゅ」開発の進め方、得られている成果、生じている問題、自主開発の重要性等について、これまで開発の一端を担ってきた技術者の経験から述べてみます。

1.はじめに

9月21日に原子力関係閣僚会議が開かれ、「もんじゅ」について廃炉を含めて抜本的な見直しを行うこと、「高速炉開発会議」で今後の高速炉開発方針を検討することとされました。これらの中では、仏国が進めている高速炉の実証炉ASTRIDへの参画が大きく強調されており、全体の雰囲気としては「もんじゅ」に替わるものと位置づけられているようにも受け止められます。もしそうならば、自主開発という重要な方針からはずれていくことになります。
他の分野もそうですが、新しい巨大システム開発は、研究開発、設計、製作、運転(使用)・保守を通じて、絶えざる相互フィードバックをかけることによって確かな技術として築かれていきます。この間最大の注意を払っても失敗、トラブルは起こるかもしれませんが、その原因を追究・反省し、対策を施すことによって課題を克服しながら開発は進められるものです。
以下に、「もんじゅ」開発の進め方、得られている成果、生じている問題、自主開発の重要性等について、これまで開発の一端を担ってきた技術者の経験から述べてみます。

2.「もんじゅ」とはどのようなものなのでしょうか


高速増殖炉は発電することにより消費される燃料より多くの新しい燃料を生み出せる炉です。「もんじゅ」は高速増殖原型炉で発電プラントとしての成立性を実証することを目的とした炉です。燃料としてはプルトニウムとウランの混合酸化物を、冷却材としてはナトリウムを使っています。発電炉の経済性を実証するためのより大型の実証炉を経て、商用炉へと繋げる役割を担っています。「もんじゅ」に先立ち実験炉「常陽」は順調に運転を続けてきました。



3.「もんじゅ」の開発はどのように進められてきたのでしょうか


先行する米国、英国、仏国等から必要な技術情報を得ることは当然ながら行われました。この中には多額の対価を払って購入したケースもありますが、日本側の開発成果に立ち対等な情報交換を行ったケースもありました。設計の違いや日本の許認可を取得するためには自ら研究開発を行う必要がありました。

3.1 ナトリウムを扱う機器

ナトリウムは化学的に活性なので、材料に悪影響を与えないかという最も基礎的な試験が長期間にわたって行われました。この結果ナトリウムの純度が管理されていれば、材料への影響はないことが分かりました。
並行して早い時期からポンプ、弁、計測器等の汎用的な機器がナトリウム環境のもとで問題なく使用できるか試験を行い、問題があれば改良するという努力が続けられました。例えばポンプについては、ナトリウムとその上部にあるカバーガス(アルゴンガス)とを貫く駆動軸で変形が見られ、ポンプがうまく回らなくなるというトラブルに直面しました。この原因はカバーガス中の自然対流により、ポンプの胴体に温度差を生じたため過大な変形量を起こしたことによるものでした。対流防止板を設置することにより解決しました。このことは試験施設の試験で発見されたから良かったものの、原子炉で起こったら重大な問題になりかねない事象でした。
その他特有な大型機器について実物に近いものを試作して、大型ナトリウム施設で機能試験、耐久試験等を行いました。この結果ナトリウム液面より上に存在するアルゴンガスを通じて蒸着したナトリウムが思わぬ悪さをして駆動の障害になるおそれがあること等、実機条件に近い状態で使用してみて初めて分かる現象も経験して、機器の改良に反映されることになりました。


 
3.2 ナトリウム中で高温で使用する構造物の設計を可能とする評価法

「もんじゅ」では、ナトリウムの温度変化によって構造材に生じる熱応力が支配的であり、高温での長期間の健全性を保証する設計評価法の開発が必要でした。熱応力に関して十分には認識していなかった事態も発生しました。それは米国との情報交換により入手した情報ですが、原子炉容器の液面近傍で定常状態でもかなり高い熱応力が発生するということでした。これを受けてこのような現象を合理的に評価する方法を開発するとともに、設計の変更を行いました。同じ熱応力といっても、例えば原子炉内の過渡的な冷却材の流動・伝熱に伴う構造材温度変化によって生じる熱応力が非常に大きいということが分かり、原子炉内の構造設計に配慮しました。この現象は後述するタンク型の高速炉では重要な問題と思われます。
別の課題は耐震設計です。熱応力を軽減するためには一般に薄肉構造とすることが必要になりますが、このことは耐震性を困難にします。そのため適切な支持方法を工夫する等対応に苦心しました。

3.3 安全性に関する研究

「もんじゅ」の炉心は、燃料集合体が稠密に配置された構成であり、冷却材として高温ナトリウムが使用されるためプラントの過渡的状態、あるいはそれを超える状態での安全性に関する試験、解析、評価法の開発が行われました。蒸気発生器の伝熱管が万一破損した場合には、高温の水・蒸気がナトリウム中に漏洩するので、ナトリウム水反応が起こります。そのため現象の解明、検出系の開発、事故時の生成物を処理する設備等様々な試験・解析・評価が行われ安全設計や安全評価に反映されました。海外炉で発生した事故の経験は貴重な情報でした。

3.4 機器製作経験

原子炉容器は直径7m余り、厚さ50mmのステンレス鋼製ですが、溶接箇所を最小限にするために、リング状の一体鍛造で製作され、薄肉であるため熱処理後のゆがみを最小限にするのに極めて厳重な管理が図られました。また中間熱交換器は長大な容器に多数の伝熱管が挿入された構造ですが、容器と伝熱管の集合体の隙間は極めてわずかで、クレーンで伝熱管の束を挿入する工事では、運転員は斎戒沐浴したとかの噂があるほど高度のスキルを要する作業でした。

4.運転保守と成果


「もんじゅ」は平成6年4月に初臨界到達後40%の電気出力まで運転し、各種の試験を順調に行いました。しかし平成7年12月に、2次主冷却系配管からのナトリウム漏洩事故を起こし停止しました。その後事故原因の究明、安全総点検、対策工事を行ったうえで平成22年5月に運転再開後、同年8月に炉内中継装置の落下トラブルを起こしました。装置は復旧工事を完了しましたが現在停止中です。「もんじゅ」は合計250日間運転を行いました。この間に得られた主な成果、教訓を述べます。

4.1 運転・保守から得られた成果

試運転中の初期段階で予熱昇温を始めたところ、2次主冷却系配管の熱変位が予想と少し違っていることが認められました。このような複雑なシステムではなかなか設計通りの結果は得られないものだと改めて認識しました。その後原因を究明し、ナトリウムを系内に充填して原子炉を起動し、蒸気発生器に通水して蒸気を発生させ発電を開始し、40%電気出力まで合計205日間運転をしました。出力は低いですが発電システムとしての成立性は実証できたことになります。その間に炉物理データを取得して、炉心の設計手法の妥当性を確認できました。またこの段階で増殖比が設計値1.2に対して実測値は1.18と予測通りであることが分かりました。40%性能試験時の原子炉を急停止した時の冷却材の過渡的温度変化データから設計で使用していた仮定が保守的であることが判明しました。その他この段階でもいくつかの基本的なデータを取得できました。
このような運転・保守、試験を通じてナトリウム機器の取扱い、純度管理、ナトリウム洗浄、補修、保守管理等に関する貴重な経験を得ることができました。
4.2 事故・トラブルの原因と教訓

ナトリウム漏洩の原因は温度計を取り付けたさや管の流力振動による金属疲労でした。原因は事故につながったタイプの振動モードのことを十分考慮していなかったことと、さや管の形状が適切ではなかったことでした。漏洩した時、近傍の材料にナトリウムによる腐食が認められました。その現象解明のために研究を行って、周辺の雰囲気温度や湿度等による腐食のメカニズムの違いを究明し、実機での雰囲気管理を適切に行うことを徹底することにしました。漏洩を止めるための措置に時間を要し漏洩量が多かったため、住民の方々や国民に不安を抱かせてしまいました。そのため迅速に漏洩を検知し、漏洩量を減らし、燃焼を抑制するための設備を改良しました。事故時のビデオ隠し等情報開示が不適切であったことは極めて重大な問題で深く反省しております。
炉内中継装置の落下は設計上の配慮が不十分であったために生じた問題です。設備復旧のためにナトリウムが付着する状況での大型機器の補修を安全に行うことができましたが、この背景には大型試験施設での類似の経験が活かされました。

4.3 保守管理上の問題

平成20年12月から当時の原子力・安全保安院の指示を受けて、軽水炉並みの「保全プログラム」を急遽導入することになりました。本来は運転保守経験に基づいて炉型に適応したものであるべきでしたが、「もんじゅ」の場合は経験が浅いうえに、急いで導入せざるを得なかったという事情があって軽水炉ベースのものを策定し、その後「もんじゅ」の保守経験に基づき改定するつもりであったようです。しかし、福島の事故を受けて新たに設置された原子力規制委員会からは細かい箇所までも含め厳密な適合性を要求されたという事情があったようです。とはいえ様々な不備があったことは確かなので改善しなければなりません。

5.訴えたいこと


 これまでに40%出力状態までの運転から幅広い成果を挙げることができました。しかし全出力状態でのシステム、機器の信頼性、耐久性、安全性の実証はこれからです。また種々のニーズに応じて必要となる増殖性能、国内に蓄積されているプルトニウムの効率的利用(燃焼)、高次化プルトニウム及びアメリシウム等含有燃料の照射挙動の把握等重要な成果が期待されます。この結果は高レベル放射性廃棄物の減容・有害度の低減に資することになります。高速炉はこのような優れた特性を持つものですが、それらの燃料を製造し、「もんじゅ」で燃やし、照射後の検査で結果を確認するという手順を踏まない限り成立性は言えません。このような要求を満たすことができ、現実的に使用できる施設は世界で「もんじゅ」以外にはありません。


 前に述べたように「もんじゅ」は、独自の研究開発に支えられ、設計、許認可、建設、運転、試験が行われたものです。すなわち自主開発だからこそ日本に合った設計、付随する課題の研究開発による解決、製作技術の確立を図ってこられたわけです。
 
仏国のASTRID計画に何らかの形で参加協力することは、日本の高速炉開発にとって有意義と思われますが、それでもって「もんじゅ」の代替とすることは適切でないと考えます。ASTRIDはタンク型の炉型であり、大きな原子炉容器内に中間熱交換器やポンプを設置し、薄肉の複雑な形状の隔壁によって流路を形成します。そのため耐震性、原子炉容器内部の複雑な熱流動による熱応力、流体振動等克服すべき技術上の課題が多いように思われます。また内部の構造や機器でトラブルが生じた場合の保守補修が容易ではありません。日本が計画に参画したとして枢要な技術にどこまでアクセスできるか、自らの手による開発とは異なる大きな弱点を抱えることになるかもしれません。技術開発を担う人材も施設の運転・保守を通じて育成されます。このことはメーカーが担う設計、製作技術においても当てはまります。

世界的かつ長期的視野に立てば、開発途上国を中心とする人口増加、経済成長、CO2排出の厳しい制限等から原子力利用の拡大と増殖炉の必要性が顕在化することは十分予想されます。また、その実用化には長期間を要することからフランス、ロシア、中国、インド等では長期的戦略のもとで、数々の困難を乗り越えて開発を進めています。とくにロシアは古くから多くの深刻な事故を克服して、近年では発電炉として軽水炉に比肩できる高い設備利用率を達成しており、実証炉段階の発電炉の運転を開始しています。かれらは当然ながら将来の高速増殖炉時代の到来をにらんでその市場を独占するという意図のもとで、自主開発に伴う困難を克服して商用化しようとしているのでしょう。中国も同様の戦略から取り組んでいると考えられます。商用原子力発電の宗家であった英国が原子力発電から身を引いた一時期を経て、現在新型の原子力発電所を設置しようとしていますが、今や中国から資金的および技術的支援を受けなければならない状況に追い込まれています。

日本の財政事情は厳しく、これまで通りの「もんじゅ」の運転は許されるものではなく、これまでの反省の上に立って、新運営主体のもとで、経営・施設運営の刷新、社会の理解促進、再稼働までの期間の最短化、経費節減、売電収入の確保を図りつつ、早期に原型炉としての役割を果たすことが求められると考えます。         (今津 彰 記)

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133 号  「もんじゅ」を活用して高速炉技術開発の継続を -自主技術開発の経験を絶やさず前へ-


カテゴリ:  原子力政策    2016-11-10 13:00   閲覧 (1726)

「もんじゅ」開発の進め方、得られている成果、生じている問題、自主開発の重要性等について、これまで開発の一端を担ってきた技術者の経験から述べてみます。

1.はじめに

9月21日に原子力関係閣僚会議が開かれ、「もんじゅ」について廃炉を含めて抜本的な見直しを行うこと、「高速炉開発会議」で今後の高速炉開発方針を検討することとされました。これらの中では、仏国が進めている高速炉の実証炉ASTRIDへの参画が大きく強調されており、全体の雰囲気としては「もんじゅ」に替わるものと位置づけられているようにも受け止められます。もしそうならば、自主開発という重要な方針からはずれていくことになります。
他の分野もそうですが、新しい巨大システム開発は、研究開発、設計、製作、運転(使用)・保守を通じて、絶えざる相互フィードバックをかけることによって確かな技術として築かれていきます。この間最大の注意を払っても失敗、トラブルは起こるかもしれませんが、その原因を追究・反省し、対策を施すことによって課題を克服しながら開発は進められるものです。
以下に、「もんじゅ」開発の進め方、得られている成果、生じている問題、自主開発の重要性等について、これまで開発の一端を担ってきた技術者の経験から述べてみます。

2.「もんじゅ」とはどのようなものなのでしょうか


高速増殖炉は発電することにより消費される燃料より多くの新しい燃料を生み出せる炉です。「もんじゅ」は高速増殖原型炉で発電プラントとしての成立性を実証することを目的とした炉です。燃料としてはプルトニウムとウランの混合酸化物を、冷却材としてはナトリウムを使っています。発電炉の経済性を実証するためのより大型の実証炉を経て、商用炉へと繋げる役割を担っています。「もんじゅ」に先立ち実験炉「常陽」は順調に運転を続けてきました。



3.「もんじゅ」の開発はどのように進められてきたのでしょうか


先行する米国、英国、仏国等から必要な技術情報を得ることは当然ながら行われました。この中には多額の対価を払って購入したケースもありますが、日本側の開発成果に立ち対等な情報交換を行ったケースもありました。設計の違いや日本の許認可を取得するためには自ら研究開発を行う必要がありました。

3.1 ナトリウムを扱う機器

ナトリウムは化学的に活性なので、材料に悪影響を与えないかという最も基礎的な試験が長期間にわたって行われました。この結果ナトリウムの純度が管理されていれば、材料への影響はないことが分かりました。
並行して早い時期からポンプ、弁、計測器等の汎用的な機器がナトリウム環境のもとで問題なく使用できるか試験を行い、問題があれば改良するという努力が続けられました。例えばポンプについては、ナトリウムとその上部にあるカバーガス(アルゴンガス)とを貫く駆動軸で変形が見られ、ポンプがうまく回らなくなるというトラブルに直面しました。この原因はカバーガス中の自然対流により、ポンプの胴体に温度差を生じたため過大な変形量を起こしたことによるものでした。対流防止板を設置することにより解決しました。このことは試験施設の試験で発見されたから良かったものの、原子炉で起こったら重大な問題になりかねない事象でした。
その他特有な大型機器について実物に近いものを試作して、大型ナトリウム施設で機能試験、耐久試験等を行いました。この結果ナトリウム液面より上に存在するアルゴンガスを通じて蒸着したナトリウムが思わぬ悪さをして駆動の障害になるおそれがあること等、実機条件に近い状態で使用してみて初めて分かる現象も経験して、機器の改良に反映されることになりました。


 
3.2 ナトリウム中で高温で使用する構造物の設計を可能とする評価法

「もんじゅ」では、ナトリウムの温度変化によって構造材に生じる熱応力が支配的であり、高温での長期間の健全性を保証する設計評価法の開発が必要でした。熱応力に関して十分には認識していなかった事態も発生しました。それは米国との情報交換により入手した情報ですが、原子炉容器の液面近傍で定常状態でもかなり高い熱応力が発生するということでした。これを受けてこのような現象を合理的に評価する方法を開発するとともに、設計の変更を行いました。同じ熱応力といっても、例えば原子炉内の過渡的な冷却材の流動・伝熱に伴う構造材温度変化によって生じる熱応力が非常に大きいということが分かり、原子炉内の構造設計に配慮しました。この現象は後述するタンク型の高速炉では重要な問題と思われます。
別の課題は耐震設計です。熱応力を軽減するためには一般に薄肉構造とすることが必要になりますが、このことは耐震性を困難にします。そのため適切な支持方法を工夫する等対応に苦心しました。

3.3 安全性に関する研究

「もんじゅ」の炉心は、燃料集合体が稠密に配置された構成であり、冷却材として高温ナトリウムが使用されるためプラントの過渡的状態、あるいはそれを超える状態での安全性に関する試験、解析、評価法の開発が行われました。蒸気発生器の伝熱管が万一破損した場合には、高温の水・蒸気がナトリウム中に漏洩するので、ナトリウム水反応が起こります。そのため現象の解明、検出系の開発、事故時の生成物を処理する設備等様々な試験・解析・評価が行われ安全設計や安全評価に反映されました。海外炉で発生した事故の経験は貴重な情報でした。

3.4 機器製作経験

原子炉容器は直径7m余り、厚さ50mmのステンレス鋼製ですが、溶接箇所を最小限にするために、リング状の一体鍛造で製作され、薄肉であるため熱処理後のゆがみを最小限にするのに極めて厳重な管理が図られました。また中間熱交換器は長大な容器に多数の伝熱管が挿入された構造ですが、容器と伝熱管の集合体の隙間は極めてわずかで、クレーンで伝熱管の束を挿入する工事では、運転員は斎戒沐浴したとかの噂があるほど高度のスキルを要する作業でした。

4.運転保守と成果


「もんじゅ」は平成6年4月に初臨界到達後40%の電気出力まで運転し、各種の試験を順調に行いました。しかし平成7年12月に、2次主冷却系配管からのナトリウム漏洩事故を起こし停止しました。その後事故原因の究明、安全総点検、対策工事を行ったうえで平成22年5月に運転再開後、同年8月に炉内中継装置の落下トラブルを起こしました。装置は復旧工事を完了しましたが現在停止中です。「もんじゅ」は合計250日間運転を行いました。この間に得られた主な成果、教訓を述べます。

4.1 運転・保守から得られた成果

試運転中の初期段階で予熱昇温を始めたところ、2次主冷却系配管の熱変位が予想と少し違っていることが認められました。このような複雑なシステムではなかなか設計通りの結果は得られないものだと改めて認識しました。その後原因を究明し、ナトリウムを系内に充填して原子炉を起動し、蒸気発生器に通水して蒸気を発生させ発電を開始し、40%電気出力まで合計205日間運転をしました。出力は低いですが発電システムとしての成立性は実証できたことになります。その間に炉物理データを取得して、炉心の設計手法の妥当性を確認できました。またこの段階で増殖比が設計値1.2に対して実測値は1.18と予測通りであることが分かりました。40%性能試験時の原子炉を急停止した時の冷却材の過渡的温度変化データから設計で使用していた仮定が保守的であることが判明しました。その他この段階でもいくつかの基本的なデータを取得できました。
このような運転・保守、試験を通じてナトリウム機器の取扱い、純度管理、ナトリウム洗浄、補修、保守管理等に関する貴重な経験を得ることができました。
4.2 事故・トラブルの原因と教訓

ナトリウム漏洩の原因は温度計を取り付けたさや管の流力振動による金属疲労でした。原因は事故につながったタイプの振動モードのことを十分考慮していなかったことと、さや管の形状が適切ではなかったことでした。漏洩した時、近傍の材料にナトリウムによる腐食が認められました。その現象解明のために研究を行って、周辺の雰囲気温度や湿度等による腐食のメカニズムの違いを究明し、実機での雰囲気管理を適切に行うことを徹底することにしました。漏洩を止めるための措置に時間を要し漏洩量が多かったため、住民の方々や国民に不安を抱かせてしまいました。そのため迅速に漏洩を検知し、漏洩量を減らし、燃焼を抑制するための設備を改良しました。事故時のビデオ隠し等情報開示が不適切であったことは極めて重大な問題で深く反省しております。
炉内中継装置の落下は設計上の配慮が不十分であったために生じた問題です。設備復旧のためにナトリウムが付着する状況での大型機器の補修を安全に行うことができましたが、この背景には大型試験施設での類似の経験が活かされました。

4.3 保守管理上の問題

平成20年12月から当時の原子力・安全保安院の指示を受けて、軽水炉並みの「保全プログラム」を急遽導入することになりました。本来は運転保守経験に基づいて炉型に適応したものであるべきでしたが、「もんじゅ」の場合は経験が浅いうえに、急いで導入せざるを得なかったという事情があって軽水炉ベースのものを策定し、その後「もんじゅ」の保守経験に基づき改定するつもりであったようです。しかし、福島の事故を受けて新たに設置された原子力規制委員会からは細かい箇所までも含め厳密な適合性を要求されたという事情があったようです。とはいえ様々な不備があったことは確かなので改善しなければなりません。

5.訴えたいこと


 これまでに40%出力状態までの運転から幅広い成果を挙げることができました。しかし全出力状態でのシステム、機器の信頼性、耐久性、安全性の実証はこれからです。また種々のニーズに応じて必要となる増殖性能、国内に蓄積されているプルトニウムの効率的利用(燃焼)、高次化プルトニウム及びアメリシウム等含有燃料の照射挙動の把握等重要な成果が期待されます。この結果は高レベル放射性廃棄物の減容・有害度の低減に資することになります。高速炉はこのような優れた特性を持つものですが、それらの燃料を製造し、「もんじゅ」で燃やし、照射後の検査で結果を確認するという手順を踏まない限り成立性は言えません。このような要求を満たすことができ、現実的に使用できる施設は世界で「もんじゅ」以外にはありません。


 前に述べたように「もんじゅ」は、独自の研究開発に支えられ、設計、許認可、建設、運転、試験が行われたものです。すなわち自主開発だからこそ日本に合った設計、付随する課題の研究開発による解決、製作技術の確立を図ってこられたわけです。
 
仏国のASTRID計画に何らかの形で参加協力することは、日本の高速炉開発にとって有意義と思われますが、それでもって「もんじゅ」の代替とすることは適切でないと考えます。ASTRIDはタンク型の炉型であり、大きな原子炉容器内に中間熱交換器やポンプを設置し、薄肉の複雑な形状の隔壁によって流路を形成します。そのため耐震性、原子炉容器内部の複雑な熱流動による熱応力、流体振動等克服すべき技術上の課題が多いように思われます。また内部の構造や機器でトラブルが生じた場合の保守補修が容易ではありません。日本が計画に参画したとして枢要な技術にどこまでアクセスできるか、自らの手による開発とは異なる大きな弱点を抱えることになるかもしれません。技術開発を担う人材も施設の運転・保守を通じて育成されます。このことはメーカーが担う設計、製作技術においても当てはまります。

世界的かつ長期的視野に立てば、開発途上国を中心とする人口増加、経済成長、CO2排出の厳しい制限等から原子力利用の拡大と増殖炉の必要性が顕在化することは十分予想されます。また、その実用化には長期間を要することからフランス、ロシア、中国、インド等では長期的戦略のもとで、数々の困難を乗り越えて開発を進めています。とくにロシアは古くから多くの深刻な事故を克服して、近年では発電炉として軽水炉に比肩できる高い設備利用率を達成しており、実証炉段階の発電炉の運転を開始しています。かれらは当然ながら将来の高速増殖炉時代の到来をにらんでその市場を独占するという意図のもとで、自主開発に伴う困難を克服して商用化しようとしているのでしょう。中国も同様の戦略から取り組んでいると考えられます。商用原子力発電の宗家であった英国が原子力発電から身を引いた一時期を経て、現在新型の原子力発電所を設置しようとしていますが、今や中国から資金的および技術的支援を受けなければならない状況に追い込まれています。

日本の財政事情は厳しく、これまで通りの「もんじゅ」の運転は許されるものではなく、これまでの反省の上に立って、新運営主体のもとで、経営・施設運営の刷新、社会の理解促進、再稼働までの期間の最短化、経費節減、売電収入の確保を図りつつ、早期に原型炉としての役割を果たすことが求められると考えます。         (今津 彰 記)

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