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SEJ 日本のエネルギーを考える会

132号 国主導でうまくいくフランスの原子力−日本政府も「もんじゅ」の後押しを−


カテゴリ:  原子力政策    2016-10-10 13:20   閲覧 (2220)
研究開発段階にある「もんじゅ」の安全性は、軽水炉のように一律の基準で規制するのではなく、特別認可という仕組みで規制側の監督のもと、一歩一歩開発を進めることが可能なのです。

高速増殖原型炉の「もんじゅ」について、日本原子力研究開発機構(JAEA)には運転する資格がないと,原子力規制委員会によって烙印が押され、この開発を引受ける適切な機関(あるいは組織)も存在しないと決めつけられてしまいました。
これを受けて、政府は10月7日「高速炉開発会議」を発足させ、高速炉開発は不可欠であるとの前提のもとに、もんじゅの廃炉も含め検討するとのことです.
もんじゅの廃炉が既定路線線であるかのような取り扱をするのなら、余りにも近視眼的な考え方なのではないでしょうか。「もんじゅ」をやめるとなると、これまでに投下された資本が全て無駄になるばかりではなく、せっかく作り上げた一連の原子力計画が根本から崩れてしまい、将来のエネルギー・セキュリティに大きな不安が生じることになります。これからしっかりと議論をして、国益を損なわない最良の方策を考えるべきでしょう。


1.原子力を推進するフランスの実績


この日本の状況を踏まえて、高速増殖炉も視野に入れて開発を進め、安い電気代を享受しているフランスを見てみましょう。フランスは日本同様化石燃料を産出しない無資源国なので、1970年代の石油危機を契機に、エネルギーを自給するためには原子力発電に頼る必要があるとの確たる方針を打ち立て、政府、官僚、国営電力会社、民間企業などが一体となって積極的に原子力発電所の建設を進めました。
現在ではその電力需要の75%、一次エネルギー需要の45%を原子力によって供給しています。
更に、燃料となるウランも軽水炉で使う限り、化石燃料と同様に数百年後には使い尽くしてしまうことが明らかなので、ウランをプルトニウムに変換し燃料として活用できる期間を数十倍に増やすとともに、それを可能とする高速増殖炉や再処理の開発を進めてきました。最近では地球温暖化対策として、原子力を「脱炭素エネルギー源」と位置付けています。これらの方針が着実に実行された結果、フランスは世界でもとりわけ安い電力料金を享受できる国となっています。



日本では電力会社毎に電気料金が微妙に違いますが、平均的な日本の料金は家庭用がKwhあたり約27.5円、産業用がKwhあたり約18.6円 となっています。これがフランスでは家庭用が約20.5 円、産業用が約12.4 円です。家庭用も1.3 倍ほど高いのですが、日本の産業はなんと約1.5 倍の料金を支払っているのです(2015年度第二四半期 IEA統計より)。これでは、国際競争に勝てという方が無理であることは誰の目にも明らかでしょう。また、一部の人がお手本としている再生可能エネルギーを積極的に導入しているドイツでは2014年家庭用は日本より遙かに高く、フランスの2倍近くなっています。資源のない日本が生き残るためには、フランスのような一貫した国の原子力政策が必要です。



2.「もんじゅ」の何が問題だったのでしょうか


もんじゅは原型炉と言って、原子炉の技術開発を進める過程での比較的初期段階の原子炉です。もんじゅの運転の目的は、原子炉でプルトニウムが理論通り増殖できるのか、軽水炉と異なる原子炉に係る安全性を確保できるのか、所定の性能を達成できるか等を確認することなのです。 このような開発の途中段階の原子炉であれば、ナトリウムを使う化学プラントに近い設備の設計や、運転、点検保守等に問題が出てくることは予見されることで、トラブルが起こるのも異常とは言えません。それを脱原発を目指すマスコミがいちいち事故だと感情的に取り上げて、現場の研究者たちを萎縮させてしまったというのが実態なのではないでしょうか。
科学技術の進歩は、失敗とその克服の積み重ねで達成できるものです。原子炉も同様で、研究段階から不具合を克服し続けることにより完成させることができるのです。
もんじゅの場合は、例えばナトリウムが漏えいして燃えた事故のビデオを隠したことで、単なるトラブルがマスコミの餌になり事件となってしまいました。JAEAは、漏えい事故をどのように今後の改善につなげていくかを積極的に国民に公開すべきであったのですが、その様な努力をする間も無く事件となって、国民の不信を招いてしまいました。
原子力安全・保安院が規制を行っていた時代は、上記のようなもんじゅの開発目的を理解しながら規制を進めていたのでしょう。しかし、新しい原子力規制委員会は、もんじゅが開発段階の炉であるにも拘わらず、商用炉となっている軽水炉と同様な規制を適用し厳しく対応しています。その結果、昨年12月には、「JAEAはもんじゅの開発を継続する当事者能力に欠ける」との一方的な理由をつけて、もんじゅに退場命令を出したというようにみえます。
しかし、研究開発段階にある原子炉の安全性は、軽水炉のように一律の基準で規制するのではなく、特別認可という仕組みで規制側の監督のもと、一歩一歩開発を進めることが可能なのです。将来のために、関係者が注意を払いながら新しい原子炉を開発してゆくという、当たり前の対応がどうして取れないのでしょうか。

3.「もんじゅ」に取り組む必然性



我が国のウラン確保という点でみれば、世界各国が原子力発電を手掛けるようになれば、ウランがひっ迫し、価格も上昇すると考えるのが常識的です。これを克服する手段が高速増殖炉の開発です。最近の中国や中東、ヨーロッパの軽水炉建設への取り組みを見れば、その傾向は変わらないと言うことができます。
日本では、フランス同様、濃縮、高速増殖原型炉もんじゅと再処理施設の建設、再処理に伴って出てくる高レベル廃棄物の地層処分の研究などがワンセットで進められてきましたが、濃縮を除き運転開始に至ってはいません。高速増殖炉が順調に仕上がっていれば、プルトニウムの使用も促進されるので問題は起こらなかったのですが、国内の研究施設の操業と海外への再処理委託の結果、プルトニウムが過剰に抽出される一方、燃料としては使えていないために在庫が増えてしまいました。核兵器に転用するのではないかとの海外からの疑念を解消するために、軽水炉でMOX燃料として利用して、急場をしのぐことになっているのは、マスコミの報道でご存知の方も多いと思います。



一方、主要国で進めている第4世代の原子力発電の検討では、ウラン利用効率を大幅に改善に繋がりうること、地下貯蔵施設へ保管する長期間減衰しない放射性廃棄物の量と放射の量を減らせること可能な高速増殖炉が重要な選択肢になっており、日本は主導的な役割を果たしています。現在、高速炉建設に取り組んでいる国はロシア、中国、インド、フランスでありますが、「もんじゅ」が運転可能になれば大いに研究開発に貢献できると考えられます。






4.政府は「もんじゅ」の後押しを


化石燃料の枯渇に対する原子力の位置付けが変わらない限り、高速増殖炉の必要性は変わりません。再生可能エネルギーが化石燃料の枯渇の代替になることはあり得ません。
パリ協定では2080年には化石燃料からの二酸化炭素排出を80%減らさなければなりません。原子力発電の大幅増加は必須です。
原型炉「もんじゅ」は、ウラン供給、再処理、地層処分などの計画を補完するものであり、我が国では将来を見通しながら高速増殖炉を推進すべきなのです。
目先の管理体制の不備やコストがかかり過ぎるなど脱原発派の意見に左右されて、軽々にもんじゅのプロジェクトを中止するならば、エネルギー・セキュリティの全体構想が破綻することを覚悟しなければなりません。福島第一発電所の事故後、軽水炉の再稼働が遅れている結果、化石燃料調達のために毎年3兆円の外貨が外国に流れ出ていますが、そればかりか、温室効果ガスが大量に排出されて地球環境を痛め続けているのです。
もんじゅの費用はこれまでに約9,500億円(会計検査院報告平成23年11月)、今後、設備の新規制基準への適合のために約1300億円、運転保守・維持管理費約200億円/年などを含め2032年までに約5400億円(文科省)を要するとされていますが、これら費用は海外にただ流出するのではなく、我が国の産業の育成や賃金として使われており、国内で消費されることも忘れてはならないのです。
右の写真は今年のもんじゅの入所式です。もんじゅの必要性をきちんと理解しているこの若者たちの将来を、私たちはしっかりと考えなくてはなりません。
政府,官僚,与党も、本当に国のエネルギー・セキュリティの確保を考えるのであれば、フランスの例に倣い自分たちが国を救うのだという気概を持って、もんじゅの開発を後押しして行って貰いたいものです。
以上


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132号 国主導でうまくいくフランスの原子力−日本政府も「もんじゅ」の後押しを−


カテゴリ:  原子力政策    2016-10-10 13:20   閲覧 (2220)
研究開発段階にある「もんじゅ」の安全性は、軽水炉のように一律の基準で規制するのではなく、特別認可という仕組みで規制側の監督のもと、一歩一歩開発を進めることが可能なのです。

高速増殖原型炉の「もんじゅ」について、日本原子力研究開発機構(JAEA)には運転する資格がないと,原子力規制委員会によって烙印が押され、この開発を引受ける適切な機関(あるいは組織)も存在しないと決めつけられてしまいました。
これを受けて、政府は10月7日「高速炉開発会議」を発足させ、高速炉開発は不可欠であるとの前提のもとに、もんじゅの廃炉も含め検討するとのことです.
もんじゅの廃炉が既定路線線であるかのような取り扱をするのなら、余りにも近視眼的な考え方なのではないでしょうか。「もんじゅ」をやめるとなると、これまでに投下された資本が全て無駄になるばかりではなく、せっかく作り上げた一連の原子力計画が根本から崩れてしまい、将来のエネルギー・セキュリティに大きな不安が生じることになります。これからしっかりと議論をして、国益を損なわない最良の方策を考えるべきでしょう。


1.原子力を推進するフランスの実績


この日本の状況を踏まえて、高速増殖炉も視野に入れて開発を進め、安い電気代を享受しているフランスを見てみましょう。フランスは日本同様化石燃料を産出しない無資源国なので、1970年代の石油危機を契機に、エネルギーを自給するためには原子力発電に頼る必要があるとの確たる方針を打ち立て、政府、官僚、国営電力会社、民間企業などが一体となって積極的に原子力発電所の建設を進めました。
現在ではその電力需要の75%、一次エネルギー需要の45%を原子力によって供給しています。
更に、燃料となるウランも軽水炉で使う限り、化石燃料と同様に数百年後には使い尽くしてしまうことが明らかなので、ウランをプルトニウムに変換し燃料として活用できる期間を数十倍に増やすとともに、それを可能とする高速増殖炉や再処理の開発を進めてきました。最近では地球温暖化対策として、原子力を「脱炭素エネルギー源」と位置付けています。これらの方針が着実に実行された結果、フランスは世界でもとりわけ安い電力料金を享受できる国となっています。



日本では電力会社毎に電気料金が微妙に違いますが、平均的な日本の料金は家庭用がKwhあたり約27.5円、産業用がKwhあたり約18.6円 となっています。これがフランスでは家庭用が約20.5 円、産業用が約12.4 円です。家庭用も1.3 倍ほど高いのですが、日本の産業はなんと約1.5 倍の料金を支払っているのです(2015年度第二四半期 IEA統計より)。これでは、国際競争に勝てという方が無理であることは誰の目にも明らかでしょう。また、一部の人がお手本としている再生可能エネルギーを積極的に導入しているドイツでは2014年家庭用は日本より遙かに高く、フランスの2倍近くなっています。資源のない日本が生き残るためには、フランスのような一貫した国の原子力政策が必要です。



2.「もんじゅ」の何が問題だったのでしょうか


もんじゅは原型炉と言って、原子炉の技術開発を進める過程での比較的初期段階の原子炉です。もんじゅの運転の目的は、原子炉でプルトニウムが理論通り増殖できるのか、軽水炉と異なる原子炉に係る安全性を確保できるのか、所定の性能を達成できるか等を確認することなのです。 このような開発の途中段階の原子炉であれば、ナトリウムを使う化学プラントに近い設備の設計や、運転、点検保守等に問題が出てくることは予見されることで、トラブルが起こるのも異常とは言えません。それを脱原発を目指すマスコミがいちいち事故だと感情的に取り上げて、現場の研究者たちを萎縮させてしまったというのが実態なのではないでしょうか。
科学技術の進歩は、失敗とその克服の積み重ねで達成できるものです。原子炉も同様で、研究段階から不具合を克服し続けることにより完成させることができるのです。
もんじゅの場合は、例えばナトリウムが漏えいして燃えた事故のビデオを隠したことで、単なるトラブルがマスコミの餌になり事件となってしまいました。JAEAは、漏えい事故をどのように今後の改善につなげていくかを積極的に国民に公開すべきであったのですが、その様な努力をする間も無く事件となって、国民の不信を招いてしまいました。
原子力安全・保安院が規制を行っていた時代は、上記のようなもんじゅの開発目的を理解しながら規制を進めていたのでしょう。しかし、新しい原子力規制委員会は、もんじゅが開発段階の炉であるにも拘わらず、商用炉となっている軽水炉と同様な規制を適用し厳しく対応しています。その結果、昨年12月には、「JAEAはもんじゅの開発を継続する当事者能力に欠ける」との一方的な理由をつけて、もんじゅに退場命令を出したというようにみえます。
しかし、研究開発段階にある原子炉の安全性は、軽水炉のように一律の基準で規制するのではなく、特別認可という仕組みで規制側の監督のもと、一歩一歩開発を進めることが可能なのです。将来のために、関係者が注意を払いながら新しい原子炉を開発してゆくという、当たり前の対応がどうして取れないのでしょうか。

3.「もんじゅ」に取り組む必然性



我が国のウラン確保という点でみれば、世界各国が原子力発電を手掛けるようになれば、ウランがひっ迫し、価格も上昇すると考えるのが常識的です。これを克服する手段が高速増殖炉の開発です。最近の中国や中東、ヨーロッパの軽水炉建設への取り組みを見れば、その傾向は変わらないと言うことができます。
日本では、フランス同様、濃縮、高速増殖原型炉もんじゅと再処理施設の建設、再処理に伴って出てくる高レベル廃棄物の地層処分の研究などがワンセットで進められてきましたが、濃縮を除き運転開始に至ってはいません。高速増殖炉が順調に仕上がっていれば、プルトニウムの使用も促進されるので問題は起こらなかったのですが、国内の研究施設の操業と海外への再処理委託の結果、プルトニウムが過剰に抽出される一方、燃料としては使えていないために在庫が増えてしまいました。核兵器に転用するのではないかとの海外からの疑念を解消するために、軽水炉でMOX燃料として利用して、急場をしのぐことになっているのは、マスコミの報道でご存知の方も多いと思います。



一方、主要国で進めている第4世代の原子力発電の検討では、ウラン利用効率を大幅に改善に繋がりうること、地下貯蔵施設へ保管する長期間減衰しない放射性廃棄物の量と放射の量を減らせること可能な高速増殖炉が重要な選択肢になっており、日本は主導的な役割を果たしています。現在、高速炉建設に取り組んでいる国はロシア、中国、インド、フランスでありますが、「もんじゅ」が運転可能になれば大いに研究開発に貢献できると考えられます。






4.政府は「もんじゅ」の後押しを


化石燃料の枯渇に対する原子力の位置付けが変わらない限り、高速増殖炉の必要性は変わりません。再生可能エネルギーが化石燃料の枯渇の代替になることはあり得ません。
パリ協定では2080年には化石燃料からの二酸化炭素排出を80%減らさなければなりません。原子力発電の大幅増加は必須です。
原型炉「もんじゅ」は、ウラン供給、再処理、地層処分などの計画を補完するものであり、我が国では将来を見通しながら高速増殖炉を推進すべきなのです。
目先の管理体制の不備やコストがかかり過ぎるなど脱原発派の意見に左右されて、軽々にもんじゅのプロジェクトを中止するならば、エネルギー・セキュリティの全体構想が破綻することを覚悟しなければなりません。福島第一発電所の事故後、軽水炉の再稼働が遅れている結果、化石燃料調達のために毎年3兆円の外貨が外国に流れ出ていますが、そればかりか、温室効果ガスが大量に排出されて地球環境を痛め続けているのです。
もんじゅの費用はこれまでに約9,500億円(会計検査院報告平成23年11月)、今後、設備の新規制基準への適合のために約1300億円、運転保守・維持管理費約200億円/年などを含め2032年までに約5400億円(文科省)を要するとされていますが、これら費用は海外にただ流出するのではなく、我が国の産業の育成や賃金として使われており、国内で消費されることも忘れてはならないのです。
右の写真は今年のもんじゅの入所式です。もんじゅの必要性をきちんと理解しているこの若者たちの将来を、私たちはしっかりと考えなくてはなりません。
政府,官僚,与党も、本当に国のエネルギー・セキュリティの確保を考えるのであれば、フランスの例に倣い自分たちが国を救うのだという気概を持って、もんじゅの開発を後押しして行って貰いたいものです。
以上


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