IOJだより 原子力関連 編集局将来は核分裂が生み出すエネルギーを利用した原子力ロケットが必要になると考えられています。そうすれば、より遠い惑星系への有人飛行も夢ではない、と研究が進められています。
宇宙への道の始まり
宇宙航空研究開発機構(JAXAジャクサ)は9月17日に新型ロケット「イプシロン」の打ち上げに成功しました。 このロケットは、 人工知能による点検の自動化やパソコン2台で管制を可能としたなど、革新的な試みで、省力化を徹底し、エンジンは従来の設計を生かすなど経済性については徹底的に配慮されているとのことです。ミッションとしては、惑星探査を目的とした天文観測衛星「スプリントA」を軌道に投入することに成功しました。発射にあたっては、鹿児島、東京、横浜、つくば等日本中で、一般の大人や子供たちが見守って成功を祝ったと報道されています。そう、宇宙や宇宙に近づくロケットは、子供たちの夢を掻き立てるのです。
日経新聞によれば、2010年4月15日にオバマ米大統領は、2030年代半ばまでに宇宙飛行士を火星の軌道に送り込む目標を掲げた宇宙政策を発表しました。人類初となる火星への着陸を目指すというのです。宇宙への旅は決して、小説の中だけではないのです。米国のハイテクベンチャーの社長、J.R.パウエル氏は、「土星や天王星など太陽系の外惑星はこれまで小型の探索機が高速で近くを通り過ぎただけで、詳しい調査は行われていない。しかし、いつの日か人類は、こうしたガス状の巨大惑星を回る軌道に宇宙船を送り込み、衛星にロボットを着陸させて本格的な探査を始めることになるだろう。巨大惑星の衛星の中には液体の水が豊富に存在すると考えられる衛星が少なくとも2つあり、有力な有人探査のターゲットだ。有人探査船では、燃料を燃やして(化学反応をさせて)推進力を得る化学ロケットよりも、核分裂が生み出すエネルギーを利用する原子力ロケットが必要になる」と語っています(日経サイエンス、2010年)。
宇宙探査には宇宙船が使われますが、宇宙船を動かすのはロケットエンジンです。考えられているロケット・エンジンには化学ロケット、原子力ロケット、レーザー推進、プラズマエンジン、イオンエンジンなど各種あります。現在実用化されているのは、化学ロケットエンジンとイオンエンジンですが、その他のエンジンもいずれは重要な役割を果たすと考えられます。実際に米国やロシアで、将来のロケットエンジンとして「原子力ロケットエンジン」が構想され、研究開発中です。原子力ロケットエンジンについて少しまとめてみましょう。
宇宙ミッション
ロケットエンジンには、多種多様なものがありますが、どのエンジンを使うのが適切かを決めるのは、大きな視点で言えば宇宙輸送の使命(宇宙旅行の目的、行き先や出発地の状況・環境)で、ミッションと呼んでいます。宇宙輸送の使命は次の表にまとめて示します。
人工衛星の打ち上げ、月面の無人・有人探査、宇宙ステーションへの人や物資の輸送には、地球の重力に逆らって打ち上げるため大きな推力が必要です。始動してすぐに大きな推力が必要なため化学ロケットが有利です。無人の外惑星探査(ボイジャー1、2号やはやぶさ号)には、イオンエンジンが使われ成功しました。しかし、上表の後ろのミッションでは、ほかのエンジンが求められています。
ロケットエンジン
ロケットエンジンの性能は、推力と比推力で表されます。推力とは、ロケットがどれくらいの重さの物を持ち上げることができるか、すなわち、ロケットの力の強さを示すもので、毎秒噴射される燃焼ガスの質量と燃焼ガスの噴射速度の積に比例します。毎秒噴射される燃焼ガスの質量が多いほど、また、その燃焼ガスの噴射速度が速いほど推力は大きく、力が強いことになります。比推力(インパルス)は、推力を単位時間あたりに消費する推進剤で割った値を言います。比推力は、ある重さの推進剤で一定の推力が何秒間継続するかを表し、推進剤の性能を評価する指標になります。この推力と比推力を縦軸と横軸にとると各種エンジンの特性は図1のように示されます。化学ロケットや原子力エンジンは推力は大きいが比推力が化学ロケットが300秒、原子力ロケットが1000秒程度であることがわかります。イオンエンジンは推力は極めて小さいが推力比が極めて大きく、衛星の姿勢制御に活躍するほか、惑星探査にも適していることが言えると思います。イオンエンジンへの動力供給の惑割も原子力に期待されています。以上が原子力ロケットを考えるための基礎となる背景です。
図1 各種エンジンの推力と比推力の関係(出展:栗木恭一、“電気推進ロケット入門”)
ここで、火星への有人飛行を見てみましょう。
火星までの有人飛行をミッションとすると、以下のことが課題となります。
火星までの距離:5500万キロメートル(月までの距離は38万キロメートル)
宇宙船の被曝 :約940ミリシーベルト
往復までの期間:3年
食料の賞味期限:1年半くらい(通常)
飛行士の体調 :筋力の低下、骨粗しょう症
水・空気 :浄化・再生が必要
原子力ロケット
原子力ロケットには、原子炉で推進剤を加熱する「原子力熱推進」、ロケットの後方で核爆弾を爆発させて推力を得る「核パルス推進」、原子炉で発電し、電気により推進剤を噴出させる「原子力電気推進」の3つがあります。現実的で過去に検討が進められてきたのは、「原子力熱推進」と「原子力電気推進」です。原子力熱推進は、化学ロケットエンジンに比べて推力は2倍程度まで、比推力も大きくできます。原子力推進を使うことによって、火星までのミッション期間を短くして、放射線被ば
く量を減らし、長期間のミッションによるストレスを緩和できます。また、運搬できる貨物量を増やし、火星より遠い惑星系(深宇宙)への有人飛行も視野に入れることができます。オバマ大統領が宣言した2030年の火星への旅行は、化学ロケットを使う前提で進められていますが、信頼性とコストさえ解決できれば原子力推進システムが有利であることは間違いないとされています。実際NASAは原子力ロケットを先進推進システムと位置づけ、研究開発を進めています。
米国航空宇宙局NASAではNERVAエンジンの研究開発は終了しましたが、現在信頼性とコストの向上を目指した基礎研究が進められています。ロシア宇宙庁でも原子力ロケットエンジンの研究開発がすすめられています(図4参照)。2010年度は16億円で事前研究を行い、2012年から総額525億円の研究
開発を進めるとのことです。
以後の話はSFに近いのですが、恒星間旅行なども検討されています。英国惑星間協会は、恒星間を航行する原子力推進宇宙船の検討を1973年から1978年に行ったことがあり、ダイダロス計画と呼ばれています。この計画では、核融合ロケットエンジンの採用が検討されました。ダイダロス計画から離れますが、核融合ロケットだと星間物質の水素を集めて燃料として航行を続けることも可能なため遠い恒星間旅行も可能となります。
恒星間旅行では、光子ロケットエンジンの採用も考えられています。光子ロケットでは、物質と反物質を衝突させてエネルギーに変えます。ご承知のアインシュタインのエネルギと質量の関係式から質量の全てがエネルギー(光子)に変換されるので、
その時できる光子を放出することにより、効率よく高速に近い速度が得られると考えられています。燃料の反物質には陽電子を使うことが考えられています。反物質の貯蔵方法や強力な光を反射するミラーの開発など現状では極めて大きな困難が待ち受けていますが、実現すれば恒星間旅行も単なるSF世界の話ではなくなるでしょう。
子供たちへのメッセージ
宇宙旅行の話は、私たちの想像を掻き立ててくれます。フランスのSF作家であるジュール・ベルヌ氏は、「海底2万哩」や「八十日間世界一周」などの冒険小説を書いた人ですが、「人が想像できることは実現する」といっています。日本の漫画家、松本零士氏は「銀河鉄道999」などの作品で日本中で知られている方ですが、朝日新聞のインタビュー記事(2013.12.7)で「宇宙は決して遠い存在ではありません。今の子供たちが大きくなるころ、当たり前に宇宙へ行ける時代が訪れていると思います。・・・若い時から目的意識をもって、自分の夢を追い続けてほしい。」と述べています。子供たちが関心を持って夢を追い続けるならば火星や木星、土星など太陽系内の宇宙旅行の実現はもちろん、太陽系を飛び出す宇宙旅行も視野に入ってくることでしょう。
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宇宙航空研究開発機構(JAXAジャクサ)は9月17日に新型ロケット「イプシロン」の打ち上げに成功しました。 このロケットは、 人工知能による点検の自動化やパソコン2台で管制を可能としたなど、革新的な試みで、省力化を徹底し、エンジンは従来の設計を生かすなど経済性については徹底的に配慮されているとのことです。ミッションとしては、惑星探査を目的とした天文観測衛星「スプリントA」を軌道に投入することに成功しました。発射にあたっては、鹿児島、東京、横浜、つくば等日本中で、一般の大人や子供たちが見守って成功を祝ったと報道されています。そう、宇宙や宇宙に近づくロケットは、子供たちの夢を掻き立てるのです。
日経新聞によれば、2010年4月15日にオバマ米大統領は、2030年代半ばまでに宇宙飛行士を火星の軌道に送り込む目標を掲げた宇宙政策を発表しました。人類初となる火星への着陸を目指すというのです。宇宙への旅は決して、小説の中だけではないのです。米国のハイテクベンチャーの社長、J.R.パウエル氏は、「土星や天王星など太陽系の外惑星はこれまで小型の探索機が高速で近くを通り過ぎただけで、詳しい調査は行われていない。しかし、いつの日か人類は、こうしたガス状の巨大惑星を回る軌道に宇宙船を送り込み、衛星にロボットを着陸させて本格的な探査を始めることになるだろう。巨大惑星の衛星の中には液体の水が豊富に存在すると考えられる衛星が少なくとも2つあり、有力な有人探査のターゲットだ。有人探査船では、燃料を燃やして(化学反応をさせて)推進力を得る化学ロケットよりも、核分裂が生み出すエネルギーを利用する原子力ロケットが必要になる」と語っています(日経サイエンス、2010年)。
宇宙探査には宇宙船が使われますが、宇宙船を動かすのはロケットエンジンです。考えられているロケット・エンジンには化学ロケット、原子力ロケット、レーザー推進、プラズマエンジン、イオンエンジンなど各種あります。現在実用化されているのは、化学ロケットエンジンとイオンエンジンですが、その他のエンジンもいずれは重要な役割を果たすと考えられます。実際に米国やロシアで、将来のロケットエンジンとして「原子力ロケットエンジン」が構想され、研究開発中です。原子力ロケットエンジンについて少しまとめてみましょう。
宇宙ミッション
ロケットエンジンには、多種多様なものがありますが、どのエンジンを使うのが適切かを決めるのは、大きな視点で言えば宇宙輸送の使命(宇宙旅行の目的、行き先や出発地の状況・環境)で、ミッションと呼んでいます。宇宙輸送の使命は次の表にまとめて示します。
人工衛星の打ち上げ、月面の無人・有人探査、宇宙ステーションへの人や物資の輸送には、地球の重力に逆らって打ち上げるため大きな推力が必要です。始動してすぐに大きな推力が必要なため化学ロケットが有利です。無人の外惑星探査(ボイジャー1、2号やはやぶさ号)には、イオンエンジンが使われ成功しました。しかし、上表の後ろのミッションでは、ほかのエンジンが求められています。
ロケットエンジン
ロケットエンジンの性能は、推力と比推力で表されます。推力とは、ロケットがどれくらいの重さの物を持ち上げることができるか、すなわち、ロケットの力の強さを示すもので、毎秒噴射される燃焼ガスの質量と燃焼ガスの噴射速度の積に比例します。毎秒噴射される燃焼ガスの質量が多いほど、また、その燃焼ガスの噴射速度が速いほど推力は大きく、力が強いことになります。比推力(インパルス)は、推力を単位時間あたりに消費する推進剤で割った値を言います。比推力は、ある重さの推進剤で一定の推力が何秒間継続するかを表し、推進剤の性能を評価する指標になります。この推力と比推力を縦軸と横軸にとると各種エンジンの特性は図1のように示されます。化学ロケットや原子力エンジンは推力は大きいが比推力が化学ロケットが300秒、原子力ロケットが1000秒程度であることがわかります。イオンエンジンは推力は極めて小さいが推力比が極めて大きく、衛星の姿勢制御に活躍するほか、惑星探査にも適していることが言えると思います。イオンエンジンへの動力供給の惑割も原子力に期待されています。以上が原子力ロケットを考えるための基礎となる背景です。
図1 各種エンジンの推力と比推力の関係(出展:栗木恭一、“電気推進ロケット入門”)
ここで、火星への有人飛行を見てみましょう。
火星までの有人飛行をミッションとすると、以下のことが課題となります。
火星までの距離:5500万キロメートル(月までの距離は38万キロメートル)
宇宙船の被曝 :約940ミリシーベルト
往復までの期間:3年
食料の賞味期限:1年半くらい(通常)
飛行士の体調 :筋力の低下、骨粗しょう症
水・空気 :浄化・再生が必要
原子力ロケット
原子力ロケットには、原子炉で推進剤を加熱する「原子力熱推進」、ロケットの後方で核爆弾を爆発させて推力を得る「核パルス推進」、原子炉で発電し、電気により推進剤を噴出させる「原子力電気推進」の3つがあります。現実的で過去に検討が進められてきたのは、「原子力熱推進」と「原子力電気推進」です。原子力熱推進は、化学ロケットエンジンに比べて推力は2倍程度まで、比推力も大きくできます。原子力推進を使うことによって、火星までのミッション期間を短くして、放射線被ば
く量を減らし、長期間のミッションによるストレスを緩和できます。また、運搬できる貨物量を増やし、火星より遠い惑星系(深宇宙)への有人飛行も視野に入れることができます。オバマ大統領が宣言した2030年の火星への旅行は、化学ロケットを使う前提で進められていますが、信頼性とコストさえ解決できれば原子力推進システムが有利であることは間違いないとされています。実際NASAは原子力ロケットを先進推進システムと位置づけ、研究開発を進めています。
米国航空宇宙局NASAではNERVAエンジンの研究開発は終了しましたが、現在信頼性とコストの向上を目指した基礎研究が進められています。ロシア宇宙庁でも原子力ロケットエンジンの研究開発がすすめられています(図4参照)。2010年度は16億円で事前研究を行い、2012年から総額525億円の研究
開発を進めるとのことです。
以後の話はSFに近いのですが、恒星間旅行なども検討されています。英国惑星間協会は、恒星間を航行する原子力推進宇宙船の検討を1973年から1978年に行ったことがあり、ダイダロス計画と呼ばれています。この計画では、核融合ロケットエンジンの採用が検討されました。ダイダロス計画から離れますが、核融合ロケットだと星間物質の水素を集めて燃料として航行を続けることも可能なため遠い恒星間旅行も可能となります。
恒星間旅行では、光子ロケットエンジンの採用も考えられています。光子ロケットでは、物質と反物質を衝突させてエネルギーに変えます。ご承知のアインシュタインのエネルギと質量の関係式から質量の全てがエネルギー(光子)に変換されるので、
その時できる光子を放出することにより、効率よく高速に近い速度が得られると考えられています。燃料の反物質には陽電子を使うことが考えられています。反物質の貯蔵方法や強力な光を反射するミラーの開発など現状では極めて大きな困難が待ち受けていますが、実現すれば恒星間旅行も単なるSF世界の話ではなくなるでしょう。
子供たちへのメッセージ
宇宙旅行の話は、私たちの想像を掻き立ててくれます。フランスのSF作家であるジュール・ベルヌ氏は、「海底2万哩」や「八十日間世界一周」などの冒険小説を書いた人ですが、「人が想像できることは実現する」といっています。日本の漫画家、松本零士氏は「銀河鉄道999」などの作品で日本中で知られている方ですが、朝日新聞のインタビュー記事(2013.12.7)で「宇宙は決して遠い存在ではありません。今の子供たちが大きくなるころ、当たり前に宇宙へ行ける時代が訪れていると思います。・・・若い時から目的意識をもって、自分の夢を追い続けてほしい。」と述べています。子供たちが関心を持って夢を追い続けるならば火星や木星、土星など太陽系内の宇宙旅行の実現はもちろん、太陽系を飛び出す宇宙旅行も視野に入ってくることでしょう。
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