新型コロナウイルスの感染拡大が進む中、ワクチン接種はOECD先進国の中でも最下位である。「医療先進国と自負する日本は、なぜ国産ワクチンの開発が遅れているのか、それは原子力先進国の再稼働や新規導入の大幅な遅れと共通ではないか」。欧米など海外の開発に大きく後れをとった背景と課題を検証し、わが国がこれから取り組むべき方策を考えてみたい。
2021年5月時点で世界中で感染者が1億5千万人を突破した新型コロナウイルス、COVID-19に対して、特効薬などは見つかっておらず、唯一の対抗手段がワクチン接種と考えられている。事実、英国やイスラエルなどのワクチン接種割合が高い地域では感染者が急速に減少する傾向にあると報告されている。世界のワクチン接種率は、2021年５7月中旬時点で、英国50 %弱、米国45%強、カナダ40%強で世界平均では6.3%であったが、日本は世界平均と比べても極端に低く2.4%であった。これは、世界196カ国中129位、先進国の集まりであるOECD)加盟37力国の中では最下位である。その後、政府はなりふり構わぬ政策でワクチン接種率を押し上げ、世界平均レベルまで上昇した。しかしワクチン問題で何故にこのような状況になったのであろうか。
１. 日本でのコロナワクチン開発
元々、日本のウイルス研究のレベルは高く、ワクチン研究についてもそれなりに進展していると言われていた。実際、SARSウイルスやMERS(中東呼吸器症候群)などによる感染症の教訓として、日本でもウイルスワクチンの研究が立ち上げられ、日本政府も多額の予算を充当して研究が展開され、いくつかの大学や製薬会社などでの共同研究などで大きな成果を収めてきた。
欧米で開発されて現在、世界中で接種が進められているのは、病原体に合わせて素早く設計できる新タイプの「RNAワクチン」(RNAなどの遺伝子物質を利用するワクチン)である。実は国内でもこのRNAワクチンの開発が治験直前まで進んでいたが、2018年に国のワクチン開発予算打ち切りで頓挫していたのである。
RNAワクチン研究の第一人者である、石井健・東京大学教授は、2016年から現在のようなパンデミック状況を想定し、未知の感染症に合わせてRNAワクチンを緊急に作る研究を進め、当時、中東で流行していたMARSのワクチン開発を目指した。MERSウイルスもコロナウイルスの一種であり、2018年にはサルに投与して有効な抗体を作ることが確認された。次は人での治験という段階で、国から予算打ち切りを通告された。多額な税金を使って感染症から国民の命を守るために開発されてきたワクチン開発を、無駄だとして打ち切ったのである。
2.日本でコロナワクチン開発が頓挫した理由
厚労省がワクチン予算を削減した理由はなにか。それより少し前、日本のマスコミ各社は幼児用の三種混合ワクチンの副反応問題を大々的に取り上げ、更にHPV予防ワクチン(子宮頚がんワクチン)の副反応についても大きく取り上げて国や製薬会社の悪者論を展開した。その結果、一部は集団訴訟問題に発展して、国の敗訴が決まっているものもある。事実、ここ20年の問、国内での新しいワクチン承認はほとんどなかった。このようなことが背景にあって、厚労省もワクチン開発に積極的でなかったことは推察されるが、このコロナワクチン開発を実質的に停止させたのは、当時、安倍政権下の首相官邸で辣腕を振るっていたI特別補佐官と厚労省から官邸に出向していたT審議官と言われており、彼らの先見の明のない決定によって多くの国民がCOVID-19の犠牲になっている事実に対して責任を追及すべきではないか。
ここまで書いてきて、この状況は何かに似ているな、と感じた。そう、ワクチンの問題は原子力の状況と同じではないかと。
3.新型コロナワクチンと原子力のおかれている状況の類似性
日本では世界トップレベルのワクチン開発技術を使って、コロナワクチンに即時転用可能なワクチンが実用の一歩手前まで進んでいたのに、国の政策変更でこのワクチン開発は頓挫した。
原子力についても上記のワクチン開発と同様に多くのマスコミから叩かれ、国民の多くがマスコミの偏った原子力報道を盲信して、原子力に反対する立場を表明している。この結果、日本の各地において原発の再稼働が大変な状況にあり、また原発の新増設計画は停滞したままである。
ここで、ワクチン開発と原子力の類似点について考えてみる，
�．錺�チン開発は、マスコミによるワクチン悪者論の扇動の後、最終的には首相官邸の近視眼的な采配で中止に追い込まれた。原子力も同様であり、日本の存続のためには原子力は不可欠であるにもかかわらず、マスコミによる反原発の扇動、それに呼応した政治家の再エネに対する賛歌と首相官邸の衆愚政治により原子力も瀕死の状況に追い込まれた。
�▲螢好�の観点，ワクチンは多少の副反応リスクを許容することで感染症や大病のリスクを下げる。原子力も同様にリスク管理をしながら多くの国民に受益をもたらす。しかし両方共、平常時にはマスコミによってリスクのみが強調され、受益が矮小化される傾向がある。
�� ワクチンは必ず一部の人に副反応が出る可能性が高い。マスコミは一部で副反応が出るとワクチンを推進した国や製薬会社を叩いて、受益の本質的な点を見失っている。原子力も同じで、放射線被害を過剰に恐れる一部の国民を擁護するとして弱者の見方を自認するマスコミは国や原子力事業者を叩いて、エネルギー問題の本質を隠蔽している。
�ぅ錺�チンや原子力の問題に対して、マスコミは、平時には便益ではなくリスクのみを誇張した報道をしているが、このマスコミ報道に影響された一部の人たちが裁判訴訟を起こし、それをまたマスコミが取り上げて、ワクチンや原子力の危険性を誇張した報道が益々エスカレートする。
�セ�実、現在進行中の副反応訴訟のために、日本ではこの20年間、新たなワクチンは開発されてない。原子力も同様で、マスコミによる反原子力の偏向報道により、ここ10年以上、原子炉の新設がない。
�� ワクチンについては、リスク管理が欠如している国は平時には開発予算を付けないが、一旦、パンデミツクが始まると大慌てでワクチン開発や処方薬開発に膨大な予算をつけるが、パンデミツクが収まると予算は立ち消えになる。原子力も中東での紛争などにより石油輸入が途絶えると、そら原子力だと原子力推進に舵を切る。しかし紛争などが収まって石油の余剰感が出ると、今度はマスコミはの偏向した反原発報道を行いに乗じて原子力はいらないといい、国は抵抗できず、原子力から撤退する。
�Д僖鵐妊潺張�やエネルギー危機は10年から数十年ごとに必ず繰り返しやってくる。国家百年の大計がないとその都度、国民を狼狽させ、不幸にすることが繰り返されることになる。一方、リスク管理が徹底した国々においては、パンデミックやエネルギー危機が発生した際の対応について、米国には疾病対策センターという組織があるように、常に準備しており、緊急事態が発生した際にはすぐに対応できる。
上記のように両者の共通点は、いずれもマスコミの近視眼的、かつ重箱の隅をつつく扇動的な報道によって国民をミスリードし、それを衆愚政治に陥った政治家が追随していることにある。
いずれにしてもワクチン開発、原子力開発には人材確保、技術的ノウハウの継承が不可欠であり、百年の計を持って進める必要がある。例えば、原子力ではすぐにでも原子力発電所の増設が必要であるが、現在の勉強不足で肝っ玉の小さい政治家にこれを期待するのが無理である。
せめて、新型原子炉や革新型原子炉の研究開発に多額の予算を投じて研究を活発化させ、原子力人材を確保するとともに、産業界の原子力製造インフラを整備しておく。そしていざ、原子力発電所が必要になったら、直ちに建設に入れるような体制を整いて置くことが最低限必要であろう。研究開発だけであれば、マスコミも反対するトーンが和らぎ、国民もリスク回避の観点から納得するのではない
４．最後に
・2020年初頭からのコロナ禍で日本のリスク管理が如何に脆弱であるかが露呈した。最初はマスクや医療現場の防護衣服の不足や医療機器の不足、その後、感染者の集計システムがファックスと電話という時代遅れのシステムで保健所などの大混乱、PCR検査対応の大幅な遅れで感染者の明確な把握が出来なかったこと、等々、世界の医療現場と比べても最低レベルの状況であった。
・それに加えてワクチン開発での国の近視眼的な政策で、5月中旬時点でワクチン接種率はOECD加盟国では断トツの最下位であった。このリスク管理の脆弱さは、日本のエネルギー政策にもそのまま当てはまり、もし、世界的なエネルギー不足が来たら、コロナ同様に日本はエネルギー不足で大混乱に陥るであろう。
・日本がこのような事態に至った理由は2つあると思う。一つは日本の官僚システムというのは思考が不要なルーチンワークにはめっぽう強いが、マニュアルにない事態が発生すると、途端に官僚システムが機能障害をおこし、何もできなくなること。2つ目は日本人の思考は喉元過ぎれば熱さを忘れる、のたとえ通り、何か問題が起こっても過ぎ去ってしまえばすぐに事態の深刻さを忘れて、次に緊急事態に備えての対策がおざなりになる傾向があると思う。
しかしパンデミックは数十年単位で世界で猛威を振るっており、同様にエネルギー危機も数十年単位でやってくる。これに備えるには、国家百年の計をもってワクチン開発、原子力開発を推進しなければならない。(M.K記)
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新型コロナウイルスの感染拡大が進む中、ワクチン接種はOECD先進国の中でも最下位である。「医療先進国と自負する日本は、なぜ国産ワクチンの開発が遅れているのか、それは原子力先進国の再稼働や新規導入の大幅な遅れと共通ではないか」。欧米など海外の開発に大きく後れをとった背景と課題を検証し、わが国がこれから取り組むべき方策を考えてみたい。
2021年5月時点で世界中で感染者が1億5千万人を突破した新型コロナウイルス、COVID-19に対して、特効薬などは見つかっておらず、唯一の対抗手段がワクチン接種と考えられている。事実、英国やイスラエルなどのワクチン接種割合が高い地域では感染者が急速に減少する傾向にあると報告されている。世界のワクチン接種率は、2021年５7月中旬時点で、英国50 %弱、米国45%強、カナダ40%強で世界平均では6.3%であったが、日本は世界平均と比べても極端に低く2.4%であった。これは、世界196カ国中129位、先進国の集まりであるOECD)加盟37力国の中では最下位である。その後、政府はなりふり構わぬ政策でワクチン接種率を押し上げ、世界平均レベルまで上昇した。しかしワクチン問題で何故にこのような状況になったのであろうか。
１. 日本でのコロナワクチン開発
元々、日本のウイルス研究のレベルは高く、ワクチン研究についてもそれなりに進展していると言われていた。実際、SARSウイルスやMERS(中東呼吸器症候群)などによる感染症の教訓として、日本でもウイルスワクチンの研究が立ち上げられ、日本政府も多額の予算を充当して研究が展開され、いくつかの大学や製薬会社などでの共同研究などで大きな成果を収めてきた。
欧米で開発されて現在、世界中で接種が進められているのは、病原体に合わせて素早く設計できる新タイプの「RNAワクチン」(RNAなどの遺伝子物質を利用するワクチン)である。実は国内でもこのRNAワクチンの開発が治験直前まで進んでいたが、2018年に国のワクチン開発予算打ち切りで頓挫していたのである。
RNAワクチン研究の第一人者である、石井健・東京大学教授は、2016年から現在のようなパンデミック状況を想定し、未知の感染症に合わせてRNAワクチンを緊急に作る研究を進め、当時、中東で流行していたMARSのワクチン開発を目指した。MERSウイルスもコロナウイルスの一種であり、2018年にはサルに投与して有効な抗体を作ることが確認された。次は人での治験という段階で、国から予算打ち切りを通告された。多額な税金を使って感染症から国民の命を守るために開発されてきたワクチン開発を、無駄だとして打ち切ったのである。
2.日本でコロナワクチン開発が頓挫した理由
厚労省がワクチン予算を削減した理由はなにか。それより少し前、日本のマスコミ各社は幼児用の三種混合ワクチンの副反応問題を大々的に取り上げ、更にHPV予防ワクチン(子宮頚がんワクチン)の副反応についても大きく取り上げて国や製薬会社の悪者論を展開した。その結果、一部は集団訴訟問題に発展して、国の敗訴が決まっているものもある。事実、ここ20年の問、国内での新しいワクチン承認はほとんどなかった。このようなことが背景にあって、厚労省もワクチン開発に積極的でなかったことは推察されるが、このコロナワクチン開発を実質的に停止させたのは、当時、安倍政権下の首相官邸で辣腕を振るっていたI特別補佐官と厚労省から官邸に出向していたT審議官と言われており、彼らの先見の明のない決定によって多くの国民がCOVID-19の犠牲になっている事実に対して責任を追及すべきではないか。
ここまで書いてきて、この状況は何かに似ているな、と感じた。そう、ワクチンの問題は原子力の状況と同じではないかと。
3.新型コロナワクチンと原子力のおかれている状況の類似性
日本では世界トップレベルのワクチン開発技術を使って、コロナワクチンに即時転用可能なワクチンが実用の一歩手前まで進んでいたのに、国の政策変更でこのワクチン開発は頓挫した。
原子力についても上記のワクチン開発と同様に多くのマスコミから叩かれ、国民の多くがマスコミの偏った原子力報道を盲信して、原子力に反対する立場を表明している。この結果、日本の各地において原発の再稼働が大変な状況にあり、また原発の新増設計画は停滞したままである。
ここで、ワクチン開発と原子力の類似点について考えてみる，
�．錺�チン開発は、マスコミによるワクチン悪者論の扇動の後、最終的には首相官邸の近視眼的な采配で中止に追い込まれた。原子力も同様であり、日本の存続のためには原子力は不可欠であるにもかかわらず、マスコミによる反原発の扇動、それに呼応した政治家の再エネに対する賛歌と首相官邸の衆愚政治により原子力も瀕死の状況に追い込まれた。
�▲螢好�の観点，ワクチンは多少の副反応リスクを許容することで感染症や大病のリスクを下げる。原子力も同様にリスク管理をしながら多くの国民に受益をもたらす。しかし両方共、平常時にはマスコミによってリスクのみが強調され、受益が矮小化される傾向がある。
�� ワクチンは必ず一部の人に副反応が出る可能性が高い。マスコミは一部で副反応が出るとワクチンを推進した国や製薬会社を叩いて、受益の本質的な点を見失っている。原子力も同じで、放射線被害を過剰に恐れる一部の国民を擁護するとして弱者の見方を自認するマスコミは国や原子力事業者を叩いて、エネルギー問題の本質を隠蔽している。
�ぅ錺�チンや原子力の問題に対して、マスコミは、平時には便益ではなくリスクのみを誇張した報道をしているが、このマスコミ報道に影響された一部の人たちが裁判訴訟を起こし、それをまたマスコミが取り上げて、ワクチンや原子力の危険性を誇張した報道が益々エスカレートする。
�セ�実、現在進行中の副反応訴訟のために、日本ではこの20年間、新たなワクチンは開発されてない。原子力も同様で、マスコミによる反原子力の偏向報道により、ここ10年以上、原子炉の新設がない。
�� ワクチンについては、リスク管理が欠如している国は平時には開発予算を付けないが、一旦、パンデミツクが始まると大慌てでワクチン開発や処方薬開発に膨大な予算をつけるが、パンデミツクが収まると予算は立ち消えになる。原子力も中東での紛争などにより石油輸入が途絶えると、そら原子力だと原子力推進に舵を切る。しかし紛争などが収まって石油の余剰感が出ると、今度はマスコミはの偏向した反原発報道を行いに乗じて原子力はいらないといい、国は抵抗できず、原子力から撤退する。
�Д僖鵐妊潺張�やエネルギー危機は10年から数十年ごとに必ず繰り返しやってくる。国家百年の大計がないとその都度、国民を狼狽させ、不幸にすることが繰り返されることになる。一方、リスク管理が徹底した国々においては、パンデミックやエネルギー危機が発生した際の対応について、米国には疾病対策センターという組織があるように、常に準備しており、緊急事態が発生した際にはすぐに対応できる。
上記のように両者の共通点は、いずれもマスコミの近視眼的、かつ重箱の隅をつつく扇動的な報道によって国民をミスリードし、それを衆愚政治に陥った政治家が追随していることにある。
いずれにしてもワクチン開発、原子力開発には人材確保、技術的ノウハウの継承が不可欠であり、百年の計を持って進める必要がある。例えば、原子力ではすぐにでも原子力発電所の増設が必要であるが、現在の勉強不足で肝っ玉の小さい政治家にこれを期待するのが無理である。
せめて、新型原子炉や革新型原子炉の研究開発に多額の予算を投じて研究を活発化させ、原子力人材を確保するとともに、産業界の原子力製造インフラを整備しておく。そしていざ、原子力発電所が必要になったら、直ちに建設に入れるような体制を整いて置くことが最低限必要であろう。研究開発だけであれば、マスコミも反対するトーンが和らぎ、国民もリスク回避の観点から納得するのではない
４．最後に
・2020年初頭からのコロナ禍で日本のリスク管理が如何に脆弱であるかが露呈した。最初はマスクや医療現場の防護衣服の不足や医療機器の不足、その後、感染者の集計システムがファックスと電話という時代遅れのシステムで保健所などの大混乱、PCR検査対応の大幅な遅れで感染者の明確な把握が出来なかったこと、等々、世界の医療現場と比べても最低レベルの状況であった。
・それに加えてワクチン開発での国の近視眼的な政策で、5月中旬時点でワクチン接種率はOECD加盟国では断トツの最下位であった。このリスク管理の脆弱さは、日本のエネルギー政策にもそのまま当てはまり、もし、世界的なエネルギー不足が来たら、コロナ同様に日本はエネルギー不足で大混乱に陥るであろう。
・日本がこのような事態に至った理由は2つあると思う。一つは日本の官僚システムというのは思考が不要なルーチンワークにはめっぽう強いが、マニュアルにない事態が発生すると、途端に官僚システムが機能障害をおこし、何もできなくなること。2つ目は日本人の思考は喉元過ぎれば熱さを忘れる、のたとえ通り、何か問題が起こっても過ぎ去ってしまえばすぐに事態の深刻さを忘れて、次に緊急事態に備えての対策がおざなりになる傾向があると思う。
しかしパンデミックは数十年単位で世界で猛威を振るっており、同様にエネルギー危機も数十年単位でやってくる。これに備えるには、国家百年の計をもってワクチン開発、原子力開発を推進しなければならない。(M.K記)
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