北海道でブラックアウトが発生して大騒ぎになった。首都直下地震は30年以内に70%の確率で起こるという。
東京湾内の火力発電は全滅し夏場や冬場のピークには電気供給は半分ほどになり復旧に一月もかかるという。柏崎刈羽や東海第二が再稼働しても不足分の半分にも満たない。どうしますか?
1.胆振東部地震の際のブラックアウト
電気の需要と供給は同時・同量でなくてはならないという大原則が地震によって損なわれた結果、全道でブラックアウトが発生しました。
首都圏の場合は火力発電、水力発電、原子力、融通と分散し、また供給電力網も多重化しておりブラックアウトは起こりにくい。しかし、東京湾岸に火力発電が集中しているため同時に発電できなくなる可能性がある。火力発電の復旧には時間を要することから長期の停電が予想されている。いまのところ、その代替案は示されていない。
2.首都直下地震分析についての前提
政府は、内閣総理大臣を会長とする中央防災会議が2013年12月19日に「首都直下地震の被害想定と対策について」を発表しています。これによると、首都圏ではこの70年間に30%の確率でマグニチュード7クラスの直下地震が起こると予想しており、図に示すように火力発電所が集中する東京湾地域では震度6強から6弱、太平洋側の茨城以北は震度5弱以下の地震に襲われるとしています。
火力発電所の被害は東日本大地震の被害実績を参考にすると、以下(5項を参照)のように供給能力が50%まで低下すると推定しています。
3.電力供給体制
首都圏の火力、原子力、水力、連系線は図のように配置されています。この内訳を見ると、東京電力管内の火力発電所は自社火力、共同火力など東京湾内に2910万KW、茨城、福島の太平洋側に1270万KWがあります。すなわち、火力発電所の70%が東京湾内、30%が太平洋岸に立地しているのです。水力発電所は内陸部に986万KW、そして原子力は柏崎刈羽821万KW、東海第二110万KWがあります。そして、東北−東京の連系線570万KW(2021年に1120万KWに拡大)、中部からの連系線(60Hzから50Hzに変換)120万KW(2020年に210万KWに拡大)が融通時に利用できます。なお、太陽光発電は増加しつつあるものの十分ではなく、風力発電も供給量はわずかです。また、供給力を計算するうえでは、原子力発電所の稼働率が重要な要素となりますが、過去の実績からここでは低めの75%の稼働率を採用して検討します。
4.平時の電力需給量
電力供給量は冬季と夏季とでは大きく変化します。2018年の1月から8月までの半年間の電力供給の内訳が東京電力から発表されていますので、ここから需要が大きい各月の第3金曜日を例に内訳を図に示します。なお、休日の土日は需要が大きく下がります。現在は原子力がないため、水力、太陽光、連系線で融通される電力以外は火力で賄われます。需要が少ない春の間はピークでも3000万KW程度ですが、冬や夏の昼間の企業の需要が多い時間帯には4900万KW程度まで必要とされます。
5.首都圏直下型地震が発生した場合には
中央防災会議によれば、夏場のピーク需要は5,100万KWとしていますが、ここでは新しいデータのピーク需要(図の7月)4,900万KWを採用します。この需要に対して、発災後の供給力は2,700万KWまで減少します。この減少分は東京湾岸の火力発電所の停止に相当します。
春や秋の需要の少ない時期であれば何とか凌げるのかもしれませんが、夏や冬のピーク時には、電力供給が2,200万KW不足し、バランスが崩れて5割の地域で停電が発生することになります。
この状況下で柏崎刈羽、東海第二(合計931万KWの75%)から700万KWが得られても、不足分は1,500万KWとなり、需要が多い時期に地震が発生した場合では火力が復旧するまでおよそ一ヶ月の停電と需要抑制が避けられません。
計画、建設中の東京電力東通、電源開発の大間原子力発電所の合計415万KWを更なる応援に加え、東北−東京連系線を最大限に利用しても停電解消が不可能なのです。
要するに、原子力発電所を稼働できてもまだ東京電力単独では停電を解消することはできず、東日本3社や東京中部連系線による融通強化を前提とした対策が必要なのです。
6.原発の重要性を再認識すべき
元々、1970年代に日本が原子力開発を進めることとしたのは、オイル・ショックとOPECによる原油の大幅な値上げを経験して、一つの電源に依存するとその電源を失った時の影響が多大になるので、ひとつの電源に過剰に依存してはならないことを学び、原子力にも供給の大きな部分を任せることによってエネルギー安全保障を確立することを目的としていました。今はこの重要な目的が忘れ去られ、原子力発電排除を目的とする朝日、毎日、東京などの新聞や、NHKまでもがばら蒔いている幻想により多くの国民が騙されて、太陽光などの再生可能エネルギーがあるので原子力発電は不要であると思い込むようになり、原子力発電所の再稼働や新設が遅れてしまっています。そのつけが現実化しようとしているのです。
以上の検討から、首都圏においても電源の分散を図り、直下型地震が発生しても最悪の事態を免れるように、東京湾岸以外に立地している原子力発電所の重要性を再認識するべき時が来たと考えられます。それにも拘わらず、原子力規制委員会の再稼働に向けての動きは緩慢を極めていますし、政府も「触らぬ神に祟りなし」と原子力推進に舵を切ろうとしていません。大きな災害に見舞われる前に原子力発電の有効利用が実現するように、原子力発電所の再稼働を急ぐべきです。
このように、首都圏にとって、茨城、新潟各県の原子力発電所はなくてはならないものですが、これまで福島、茨城、新潟の各県には首都圏に電力を送る原発の立地を受け入れてもらい、大きな貢献をして貰ってきました。そろそろ、原子力発電所の再稼働によって生み出される安価な電力を地元に還元し、東京湾中心の産業構造からこれ等の地域にも産業が大きく育つように政策転換を図るべきではないでしょうか。
参考とした資料
1.電力系統図
広域系統長期方針中間報告<参考資料>平成28年3月電力広域的運営推進機関
2.火力発電出力 東京湾内外の内訳
数表で見る東京電力 電力設備 火力発電より、共同火力はウェキペディアより
3.平成18年の第3金曜日の電力供給の図、首都圏直下地震による火力発電所の被害想定等
都区直下地震の被害想定ポイント 中央防災会議 首都直下対策検討ワーキンググループ 内閣府
4.首都直下地震の被害想定 対策のグラフ
東京電力パワーグリット エリア需要実績公表についてより作成
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北海道でブラックアウトが発生して大騒ぎになった。首都直下地震は30年以内に70%の確率で起こるという。
東京湾内の火力発電は全滅し夏場や冬場のピークには電気供給は半分ほどになり復旧に一月もかかるという。柏崎刈羽や東海第二が再稼働しても不足分の半分にも満たない。どうしますか?
1.胆振東部地震の際のブラックアウト
電気の需要と供給は同時・同量でなくてはならないという大原則が地震によって損なわれた結果、全道でブラックアウトが発生しました。
首都圏の場合は火力発電、水力発電、原子力、融通と分散し、また供給電力網も多重化しておりブラックアウトは起こりにくい。しかし、東京湾岸に火力発電が集中しているため同時に発電できなくなる可能性がある。火力発電の復旧には時間を要することから長期の停電が予想されている。いまのところ、その代替案は示されていない。
2.首都直下地震分析についての前提
政府は、内閣総理大臣を会長とする中央防災会議が2013年12月19日に「首都直下地震の被害想定と対策について」を発表しています。これによると、首都圏ではこの70年間に30%の確率でマグニチュード7クラスの直下地震が起こると予想しており、図に示すように火力発電所が集中する東京湾地域では震度6強から6弱、太平洋側の茨城以北は震度5弱以下の地震に襲われるとしています。
火力発電所の被害は東日本大地震の被害実績を参考にすると、以下(5項を参照)のように供給能力が50%まで低下すると推定しています。
3.電力供給体制
首都圏の火力、原子力、水力、連系線は図のように配置されています。この内訳を見ると、東京電力管内の火力発電所は自社火力、共同火力など東京湾内に2910万KW、茨城、福島の太平洋側に1270万KWがあります。すなわち、火力発電所の70%が東京湾内、30%が太平洋岸に立地しているのです。水力発電所は内陸部に986万KW、そして原子力は柏崎刈羽821万KW、東海第二110万KWがあります。そして、東北−東京の連系線570万KW(2021年に1120万KWに拡大)、中部からの連系線(60Hzから50Hzに変換)120万KW(2020年に210万KWに拡大)が融通時に利用できます。なお、太陽光発電は増加しつつあるものの十分ではなく、風力発電も供給量はわずかです。また、供給力を計算するうえでは、原子力発電所の稼働率が重要な要素となりますが、過去の実績からここでは低めの75%の稼働率を採用して検討します。
4.平時の電力需給量
電力供給量は冬季と夏季とでは大きく変化します。2018年の1月から8月までの半年間の電力供給の内訳が東京電力から発表されていますので、ここから需要が大きい各月の第3金曜日を例に内訳を図に示します。なお、休日の土日は需要が大きく下がります。現在は原子力がないため、水力、太陽光、連系線で融通される電力以外は火力で賄われます。需要が少ない春の間はピークでも3000万KW程度ですが、冬や夏の昼間の企業の需要が多い時間帯には4900万KW程度まで必要とされます。
5.首都圏直下型地震が発生した場合には
中央防災会議によれば、夏場のピーク需要は5,100万KWとしていますが、ここでは新しいデータのピーク需要(図の7月)4,900万KWを採用します。この需要に対して、発災後の供給力は2,700万KWまで減少します。この減少分は東京湾岸の火力発電所の停止に相当します。
春や秋の需要の少ない時期であれば何とか凌げるのかもしれませんが、夏や冬のピーク時には、電力供給が2,200万KW不足し、バランスが崩れて5割の地域で停電が発生することになります。
この状況下で柏崎刈羽、東海第二(合計931万KWの75%)から700万KWが得られても、不足分は1,500万KWとなり、需要が多い時期に地震が発生した場合では火力が復旧するまでおよそ一ヶ月の停電と需要抑制が避けられません。
計画、建設中の東京電力東通、電源開発の大間原子力発電所の合計415万KWを更なる応援に加え、東北−東京連系線を最大限に利用しても停電解消が不可能なのです。
要するに、原子力発電所を稼働できてもまだ東京電力単独では停電を解消することはできず、東日本3社や東京中部連系線による融通強化を前提とした対策が必要なのです。
6.原発の重要性を再認識すべき
元々、1970年代に日本が原子力開発を進めることとしたのは、オイル・ショックとOPECによる原油の大幅な値上げを経験して、一つの電源に依存するとその電源を失った時の影響が多大になるので、ひとつの電源に過剰に依存してはならないことを学び、原子力にも供給の大きな部分を任せることによってエネルギー安全保障を確立することを目的としていました。今はこの重要な目的が忘れ去られ、原子力発電排除を目的とする朝日、毎日、東京などの新聞や、NHKまでもがばら蒔いている幻想により多くの国民が騙されて、太陽光などの再生可能エネルギーがあるので原子力発電は不要であると思い込むようになり、原子力発電所の再稼働や新設が遅れてしまっています。そのつけが現実化しようとしているのです。
以上の検討から、首都圏においても電源の分散を図り、直下型地震が発生しても最悪の事態を免れるように、東京湾岸以外に立地している原子力発電所の重要性を再認識するべき時が来たと考えられます。それにも拘わらず、原子力規制委員会の再稼働に向けての動きは緩慢を極めていますし、政府も「触らぬ神に祟りなし」と原子力推進に舵を切ろうとしていません。大きな災害に見舞われる前に原子力発電の有効利用が実現するように、原子力発電所の再稼働を急ぐべきです。
このように、首都圏にとって、茨城、新潟各県の原子力発電所はなくてはならないものですが、これまで福島、茨城、新潟の各県には首都圏に電力を送る原発の立地を受け入れてもらい、大きな貢献をして貰ってきました。そろそろ、原子力発電所の再稼働によって生み出される安価な電力を地元に還元し、東京湾中心の産業構造からこれ等の地域にも産業が大きく育つように政策転換を図るべきではないでしょうか。
参考とした資料
1.電力系統図
広域系統長期方針中間報告<参考資料>平成28年3月電力広域的運営推進機関
2.火力発電出力 東京湾内外の内訳
数表で見る東京電力 電力設備 火力発電より、共同火力はウェキペディアより
3.平成18年の第3金曜日の電力供給の図、首都圏直下地震による火力発電所の被害想定等
都区直下地震の被害想定ポイント 中央防災会議 首都直下対策検討ワーキンググループ 内閣府
4.首都直下地震の被害想定 対策のグラフ
東京電力パワーグリット エリア需要実績公表についてより作成
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