Welcome Guest! ID PASS
SEJ 日本のエネルギーを考える会

148号 2050年に向けての考慮すべき課題(4) ―フランスから学ぼうー


カテゴリ:  原子力政策    2017-9-14 20:50   閲覧 (1464)


2050年に向けてのエネルギー政策はどのように舵を切るのか。ドイツを参考にすべきとの声もあるようですが、本当によいでしょうか?資源のないが技術のある日本はフランスに学ぶべきでしょう。2017年版の国際エネルギー機関(IEA)発行の報告書「IEA諸国のエネルギー政策 フランス2016年レビュー」を紹介します。


はじめに
日本のマスコミも反原発の団体も何故かドイツの例をしばしば引用します。多分、ドイツでは3,11直後にメルケル首相が原発を廃止すると宣言したことや、再生可能エネルギーの導入に積極的であるなどの理由で、彼らにとっては引き合いに出すのに好都合なのでしょう。しかし彼らは、ドイツの再生可能エネルギー導入に伴う賦課金によって電気料金が高騰しドイツの家計を圧迫していること、天候の変化に伴う急激な出力変動に対応する火力発電所の運転によって炭酸ガスの排出量が導入前よりも増加していることや、未だに8基の原発を稼働していることなどは無視しています。一方、フランスは原子力大国であり、米国に次いで多くの原発を運転していますので、反原発派には不都合なのでしょう。しかし、置かれている環境などを考えると、日本はドイツに倣うよりはむしろフランスから学ぶことの方が多いのではないかと思われます。フランスは日本同様化石燃料に関しては無資源と言えるため、1970年代のオイル・ショックを契機に原子力発電確立に大きく舵を切りました。日本も、石油禁輸などの措置を講じられても困らないように、1950年代から原子力開発に取り組んできたという歴史があります。

ドイツの周辺国は民主主義国家であり、これらの国々との間の電力融通は既に確立されています。また、国内には豊富な褐炭資源があり、外国からの電力供給が途絶えたとしても自力で電力を確保することができます。一方、日本の場合は無資源ですので、全ての化石燃料は海外に依存せざるを得ません。また、周辺国は友好的な国ばかりではないので、これらの国と送電線を結び電力を融通するなどは危険すぎて想像することもできません。


このような環境の違いを勘案すると、日本はドイツよりはフランスに似た環境にありますので、フランスがどのようなエネルギー政策を取っているのか、2017年版の国際エネルギー機関(IEA)発行の報告書「IEA諸国のエネルギー政策 フランス2016年レビュー」を見てみましょう。



****************************************

1.目標の立法化
フランスでは、エネルギーの変革について2013年1月から7月にかけて関係者による徹底的かつ国家的な議論を実施し、その成果を2015年8月に「緑の成長のためのエネルギー改革法」として立法化しました。これによって、2030年と2050年までのエネルギー改革の長期的な目標を設定したのです。立法化したことにより、2030年までの炭素税の推移も拘束力のある目標となりました。この目標設定にあたっては、エネルギー生産、エネルギー効率、供給保障及び全エネルギー源の需給バランスが勘案されています。そして、これらの立法化された設定目標は、時間経過に伴う目標達成の進捗状況に合わせて適宜政策を修正できるようになっています。
2.意欲的な目標設定
フランスのこの法律では大変意欲的な目標設定がなされています。
● 2030年までに温室効果ガスの排出を40%削減するために、炭酸ガスを排出しない電源(原子力、再生可能エネルギーなど)を維持しながら、輸送部門、産業部門、建設部門での対策を加速する。
● 輸送部門では電気自動車の普及を後押しするために、2030年までに7百万ヶ所に充電設備を設ける。
● 建設部門では、低所得者層の住居を年間50万戸ずつ、2012年の新断熱規制に合わせて改修してゆく。
● 発電部門では、2030年までに再生可能エネルギーの比率を現在の16.5%から40%に増やす。
● 原発の老朽化もあるので、エネルギーの節約を加速することによって2015年の原発比率78%を2025年には50%にまで削減する。但し、現在規制当局が原発を当初設計時の寿命である40年で稼働を停止するか、必要な保全を行って長期運転を許容するか検討中であるので、その結論次第では方針が変わることもありうる。
● 原子力発電の設備容量を現行の6320万kwを上限とする(原発を1基新設するためには既設の原発1基を廃止しなくてはならない)。
● 最終エネルギー消費量は、2012年比で2030年までに20%、2050年までに50%削減する。また、化石燃料の消費量も2030年までに30%削減する。
● 2030年までに、再生可能エネルギーをエネルギー全体の消費量の32%に、発電量の40%にする。
● 2012年比で、最終エネルギー使用量を2030年までに20%、2050年までに50%削減する及び2030年までに化石燃料の消費を30%削減する。


3.フランスが抱える課題
上記のような意欲的な目標設定があるものの、必ずしも順調にこのような意欲的な目標が達成できるわけではありません。
1)全発電量のうち原子力発電が78%、水力発電が10%を占めていますが、次の事由により再生可能エネルギーでその一部が賄われているものの供給量が減少しています。原子力発電の経年化に対する保守や安全性強化などによる停止や少雨による水力発電の減少、火力発電の閉鎖などです。一方、需要量は年間1%増加しています。その結果、何らかのトラブルによって発電所が長期停止すると、冬季には火力発電次第では余裕がなくなる可能性があり、隣国からの供給が必要になります。



2)2014年には再生可能エネルギーの全エネルギー消費量に対する比率は15%に達したのですが、2020年までに23%にまで増やすという目標を達成するには、まだまだ不十分です。この目標を達成するには、2005年から2014年の間に達成された導入速度の倍のスピードで2015年から2020年に導入を進めなくてはなりません。
太陽光発電とバイオマスでは目標が達成されており、2005年からの再生可能エネルギーの増加の36%はこの二つが賄っています。しかし、水力と風力発電及び熱源では、目標には大きく及ばない状況です。陸上風力では1千万kwを達成していますが、洋上風力はまだ始まってもいません。風力発電の導入の遅れは経済性の問題ではなく、許認可手続きや法的問題による遅れ(平均7年掛かる)によるものが大きく、これに加えて大衆による容認が滞っていることによります。


我が国はどうしたらよいか


日本では、エネルギー自給率は7%程度しかありませんので、フランスの例に倣ってエネルギー自給率の積極的向上を達成できるよう、具体的な目標設定を行うべき時が来たと思われます。
ドイツでは図の折れ線グラフに示すように国産の褐炭の火力発電により自給率は電力で90%、総エネルギーで40%を賄っています。
しかし、化石燃料資源がない日本はドイツをお手本にすることは考えられません。
現在、福島事故に影響されて原発の再稼働すら遅れに遅れてしまっていますが、電力が不足し、化石燃料が不足し始めてから対策を施そうとしても、3.で述べたフランスの例を見れば分かるように簡単には対策の効果は出てきません。早く頭の切り替えをして、国会での徹底的な議論を行った上でフランスのように長期的な設定目標を明示した法律を作るべきと考えます。



ページのトップへ戻る

印刷(pdf)はこちらから
IOJだより pdfrl]

148号 2050年に向けての考慮すべき課題(4) ―フランスから学ぼうー


カテゴリ:  原子力政策    2017-9-14 20:50   閲覧 (1464)


2050年に向けてのエネルギー政策はどのように舵を切るのか。ドイツを参考にすべきとの声もあるようですが、本当によいでしょうか?資源のないが技術のある日本はフランスに学ぶべきでしょう。2017年版の国際エネルギー機関(IEA)発行の報告書「IEA諸国のエネルギー政策 フランス2016年レビュー」を紹介します。


はじめに
日本のマスコミも反原発の団体も何故かドイツの例をしばしば引用します。多分、ドイツでは3,11直後にメルケル首相が原発を廃止すると宣言したことや、再生可能エネルギーの導入に積極的であるなどの理由で、彼らにとっては引き合いに出すのに好都合なのでしょう。しかし彼らは、ドイツの再生可能エネルギー導入に伴う賦課金によって電気料金が高騰しドイツの家計を圧迫していること、天候の変化に伴う急激な出力変動に対応する火力発電所の運転によって炭酸ガスの排出量が導入前よりも増加していることや、未だに8基の原発を稼働していることなどは無視しています。一方、フランスは原子力大国であり、米国に次いで多くの原発を運転していますので、反原発派には不都合なのでしょう。しかし、置かれている環境などを考えると、日本はドイツに倣うよりはむしろフランスから学ぶことの方が多いのではないかと思われます。フランスは日本同様化石燃料に関しては無資源と言えるため、1970年代のオイル・ショックを契機に原子力発電確立に大きく舵を切りました。日本も、石油禁輸などの措置を講じられても困らないように、1950年代から原子力開発に取り組んできたという歴史があります。

ドイツの周辺国は民主主義国家であり、これらの国々との間の電力融通は既に確立されています。また、国内には豊富な褐炭資源があり、外国からの電力供給が途絶えたとしても自力で電力を確保することができます。一方、日本の場合は無資源ですので、全ての化石燃料は海外に依存せざるを得ません。また、周辺国は友好的な国ばかりではないので、これらの国と送電線を結び電力を融通するなどは危険すぎて想像することもできません。


このような環境の違いを勘案すると、日本はドイツよりはフランスに似た環境にありますので、フランスがどのようなエネルギー政策を取っているのか、2017年版の国際エネルギー機関(IEA)発行の報告書「IEA諸国のエネルギー政策 フランス2016年レビュー」を見てみましょう。



****************************************

1.目標の立法化
フランスでは、エネルギーの変革について2013年1月から7月にかけて関係者による徹底的かつ国家的な議論を実施し、その成果を2015年8月に「緑の成長のためのエネルギー改革法」として立法化しました。これによって、2030年と2050年までのエネルギー改革の長期的な目標を設定したのです。立法化したことにより、2030年までの炭素税の推移も拘束力のある目標となりました。この目標設定にあたっては、エネルギー生産、エネルギー効率、供給保障及び全エネルギー源の需給バランスが勘案されています。そして、これらの立法化された設定目標は、時間経過に伴う目標達成の進捗状況に合わせて適宜政策を修正できるようになっています。
2.意欲的な目標設定
フランスのこの法律では大変意欲的な目標設定がなされています。
● 2030年までに温室効果ガスの排出を40%削減するために、炭酸ガスを排出しない電源(原子力、再生可能エネルギーなど)を維持しながら、輸送部門、産業部門、建設部門での対策を加速する。
● 輸送部門では電気自動車の普及を後押しするために、2030年までに7百万ヶ所に充電設備を設ける。
● 建設部門では、低所得者層の住居を年間50万戸ずつ、2012年の新断熱規制に合わせて改修してゆく。
● 発電部門では、2030年までに再生可能エネルギーの比率を現在の16.5%から40%に増やす。
● 原発の老朽化もあるので、エネルギーの節約を加速することによって2015年の原発比率78%を2025年には50%にまで削減する。但し、現在規制当局が原発を当初設計時の寿命である40年で稼働を停止するか、必要な保全を行って長期運転を許容するか検討中であるので、その結論次第では方針が変わることもありうる。
● 原子力発電の設備容量を現行の6320万kwを上限とする(原発を1基新設するためには既設の原発1基を廃止しなくてはならない)。
● 最終エネルギー消費量は、2012年比で2030年までに20%、2050年までに50%削減する。また、化石燃料の消費量も2030年までに30%削減する。
● 2030年までに、再生可能エネルギーをエネルギー全体の消費量の32%に、発電量の40%にする。
● 2012年比で、最終エネルギー使用量を2030年までに20%、2050年までに50%削減する及び2030年までに化石燃料の消費を30%削減する。


3.フランスが抱える課題
上記のような意欲的な目標設定があるものの、必ずしも順調にこのような意欲的な目標が達成できるわけではありません。
1)全発電量のうち原子力発電が78%、水力発電が10%を占めていますが、次の事由により再生可能エネルギーでその一部が賄われているものの供給量が減少しています。原子力発電の経年化に対する保守や安全性強化などによる停止や少雨による水力発電の減少、火力発電の閉鎖などです。一方、需要量は年間1%増加しています。その結果、何らかのトラブルによって発電所が長期停止すると、冬季には火力発電次第では余裕がなくなる可能性があり、隣国からの供給が必要になります。



2)2014年には再生可能エネルギーの全エネルギー消費量に対する比率は15%に達したのですが、2020年までに23%にまで増やすという目標を達成するには、まだまだ不十分です。この目標を達成するには、2005年から2014年の間に達成された導入速度の倍のスピードで2015年から2020年に導入を進めなくてはなりません。
太陽光発電とバイオマスでは目標が達成されており、2005年からの再生可能エネルギーの増加の36%はこの二つが賄っています。しかし、水力と風力発電及び熱源では、目標には大きく及ばない状況です。陸上風力では1千万kwを達成していますが、洋上風力はまだ始まってもいません。風力発電の導入の遅れは経済性の問題ではなく、許認可手続きや法的問題による遅れ(平均7年掛かる)によるものが大きく、これに加えて大衆による容認が滞っていることによります。


我が国はどうしたらよいか


日本では、エネルギー自給率は7%程度しかありませんので、フランスの例に倣ってエネルギー自給率の積極的向上を達成できるよう、具体的な目標設定を行うべき時が来たと思われます。
ドイツでは図の折れ線グラフに示すように国産の褐炭の火力発電により自給率は電力で90%、総エネルギーで40%を賄っています。
しかし、化石燃料資源がない日本はドイツをお手本にすることは考えられません。
現在、福島事故に影響されて原発の再稼働すら遅れに遅れてしまっていますが、電力が不足し、化石燃料が不足し始めてから対策を施そうとしても、3.で述べたフランスの例を見れば分かるように簡単には対策の効果は出てきません。早く頭の切り替えをして、国会での徹底的な議論を行った上でフランスのように長期的な設定目標を明示した法律を作るべきと考えます。



ページのトップへ戻る

印刷(pdf)はこちらから
IOJだより pdfrl]

トラックバック

トラックバックpingアドレス https://ioj-japan.com/xoops/modules/k3blog/tb.php/467