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SEJ 日本のエネルギーを考える会

150号 会員の声   青森県六ケ所村原子燃料サイクル施設見学記 ー過去と未来のタイムトンネルもある科学空間に感動ー


カテゴリ:  原子力政策  » 地層処分    2017-10-26 22:10   閲覧 (1899)


2050年に向けてエネルギー政策のカギとなるのは、地球温暖化対策とエネルギー自給率の向上である。そのためには、原子力と再生可能エネルギーをいかに共存させるかである。
その実現のための課題を検討した。


「明日から2日間休みますので、よろしくお願いします。」
「了解しました。どちらの山に行くのですか?」
「いや、今回は山でなく六ヶ所村に行ってきます。」
「へぇー六ヶ所村ねえ…、原発見学にいかれるのですか?」
「いえ、原発は六ヶ所村にはありません(多分…)」
 といった自信のない会話しかできずに、次の朝9時過ぎ東京発の東北新幹線に乗り込む。12時過ぎに七戸十和田駅着。ジャンボタクシーで約1時間かけて六ヶ所村に向かう。
 もうそろそろ着くのかなと思った頃に風車群があちらこちらに見えてくる。文字通りの風車「群」で92基あるとのこと。いくつかの風車はぐいぐいと回っている。原子力関係の施設しかないと思っていたのだが、風力発電以外に太陽光発電の施設もあるとのこと。確かにここは石油の備蓄基地からスタートした、様々なエネルギーを研究する総合施設なのだと実感する。
 六ヶ所村の原子燃料サイクル施設は標高55mの山間部にあり、尾駮沼(おぶちぬま)に敷地が隣接している。もしもの時を考えると、やはり高台で水場は近い方がいいだろうと、しろうと的にも納得する。
 林の中を抜け、原燃PRセンターに着く。黒川紀章さん設計のユニークな建物で、上部は 「宇宙からのエネルギーを吸収する双葉」 で、下部は 「原子燃料サイクルの輪」 をイメージしているらしい。ここで原子燃料サイクル施設の概要の説明を受け、PR館の見学を実施する。




恥ずかしながら原子力についての知見が「0」に近い者としては、やはり事前に情報をいただけるのは大変ありがたい。インターネットで少し勉強したレベルの知識に実際の2次元のオリエンが重ねられ、更にPR館で(展示模型だが)3次元の説明を受けることで、自分の直観的文系頭にも全体の工程フロー図が多少は入ってくるのが分かる。「いきなり」ではなく「少しずつ」の情報提供が理解を深めるには重要だと久々に実感する。


C
 予備知識を得て、いよいよ実際の施設に移動する。とにかく林(森?)が敷地内には多い(後で聞いた話だと熊も出没するらしい)。まずは低レベル放射性廃棄物埋設センターを見学する。高台から見降ろせるところに見学施設があり、室内のパネルや展示物を見ながら説明を聴く。現在は30万本のドラム管が埋設されており、1号に加え2号埋設地の一部を使用中とのことである。埋設が終わった後も、目視も含めた監視を長期的に続ける仕組みがあることを伺う。



 続いて通常のコースにはない、「余裕深度調査の試験空洞」(注参照のこと)を見学する。言葉を聞いてもなんのことか文系脳には全くわからないのだが、ここでは比較的放射線の高い放射性廃棄物を保管するための模擬実験を行っていたらしい。その為、この空洞は地下100mの深さにあり(山では4000m近くまで行ったことのある私も、地下100mは初めて。ちなみに日本で最も深いところにある地下鉄は大江戸線六本木駅の42mで地下10階分はある)、なにか近未来のSF映画を見るような感じだ。高さ18m、幅16mのちょっとしたビルなんかは入ってしまうスケールの大きさにただただ圧倒される。



説明によると、ここの地層は1500万年前に堆積したものらしく、1500万年間ほとんど割れ目もできずに、安定した地層だとのことで、ここで10万年後の未来を見据えた保管実験をしていたらしい。


ウィキペディアで10万年前の地球を調べると、ホモサピエンスがアフリカを出て世界中に広がった時代らしい。その後クロマニヨン~ネアンテルダール人と続き、氷河期を経て約1万3000年前に日本列島が今の形になったということだ。10万年先の未来までには文字通り天変地異を含めた色々なことが起きるだろう。川の流れも変わり、隆起(30m位盛り上がる?)も起きる可能性があることから、10万年後も地下70m以下にあることを想定して100mの地下が試験空洞になったらしい。



その後、原子燃料サイクル施設見学としては最後になる再処理工場から放射線が少し強くなった部品等を廃棄物として保管するための貯蔵管理センターへ移動する。ビジターがガラス越しに見ることができる再処理工場の制御室はパーテーションもほとんどなく、各工程の制御が集中的に管理されている。各工程の建物内はやはり放射能が高く、近くで運転しようとしても結局遠隔操作しかできないので、制御室の中は全体の状況もわかりコミュニケーションも取りやすいオープンスペースになっているみたいだ。過去多くいたフランス人は数名しか駐在せず、現在はほとんど日本人だけで運転をしているらしい。



海外からの返還廃棄物用の廃棄物貯蔵管理センターは自然冷却方式(日本初)を使用しており、30~50年程度かけて放射線レベルを下げていくための中間貯蔵場所とのこと。現在フランスに委託した再処理により発生した廃棄物の返還は2007年にすべて終わり、返還終了の色紙がぽんと飾られてあった。イギリスからの返還は今後もう少し続くらしい。
原子燃料サイクル施設を後にして、六ヶ所村商工会の方との意見交換会に参加する。場所は日帰り温泉施設のある「ろっかぽっか」(原燃PRセンターと同じく、六ケ所げんねん企画株式会社が運営している)にて開催された。3名の方から色々なお話を伺ったが、皆さんから最も関心の高い課題は、「理解不足をなくすための振興活動や情報交換の場の必要性」だと感じた。やはり六ヶ所村で観た・聴いた事実をどう正確に伝えていくか、その結果六ヶ所村にもっと興味・関心を持つ方を増やすことが、六ヶ所村の原子燃料サイクル施設の来訪者のミッションだろう。一人の方がおっしゃっていた、「自分の父親の代で六ヶ所村への誘致を決めた。自分の世代というよりは、この環境への理解を今後の世代にどう正しく伝えていくかが大事です」というお言葉が耳に残った。やはり現在だけでなく未来を見据えて考えている方がこちらにもいらっしゃった。


実質8時間足らずという短い訪問ではあったが、しろうとなりにもエネルギーについての理解が深まった1日であったと思う。やはり、仕事と同じで「現場に近しい事実」を「色々な角度から観察」して、「(うわべではない)本質的な把握」をすることで、初めて物事の是非や判断が可能な域になるんだなぁとつくづく実感する。でないといきなり好き嫌いの論になり、自分自身の中でも冷静さを失い収拾がつかなくなりそうだ。今の自分では、まだそれらの域に達してないのが残念なのだが、少なくとも冷静さは失わずにすみそうだ。
訪問時に特に私の心をゆさぶったのは、巨大な「余裕深度調査の試験空洞」であった。なぜ、あの空間が気になったのか東京に帰って色々考えたが、数日間たって、先に述べた「近未来のSF映画」がキーワードになって理由が判明した。確か自分が小学校くらいの頃にアメリカのドラマで「タイムトンネル」というテレビドラマがあった。そうだ…、確かにあの空洞はその「タイムトンネル」に似ている。あの「地下空洞」はまぎれもなく、1500万年前の過去と10万年先の未来を見据える、日本の「タイムトンネル」だ。この施設の良し悪しを判断するレベルには自分はないが、少なくともこの地球上で10万年先の未来を考えている人達がいることを知り、ただ感動したのだろう。そんなことを考え、自分自身で得心して大変満足した訪問であった。
                         (見学記・イラスト   会員 白木氏)


注 余裕深度と試験の目的
 原子力発電所から出る放射化した廃棄物は低レベル廃棄物といわれ、保管貯蔵するとやがてバックグランドレベルになります。しかし、炉内構造物などは、低レベル放射性廃棄物埋設センターに保管される廃棄物より1~2ケタ高い放射線レベルのものがあり、バックグランドになるまでに数百年かかる場合があります。
そのため、その間に保管場所の上に誤って、一般の建物や構築物ができても、健康に影響を及ぼさないように十分な余裕を持った深さ「余裕深度」が求められていまする。
このため地下100m程度のトンネル内の狭い空洞に遮蔽などの処置を施し収納することが考えられており、作業性など試験によって確認しています。なお、規制委員会では、余裕深度に埋設される放射性廃棄物を中レベル放射性廃棄物と呼ぶことが検討されているとのことです。


なお、この見学会は(財)日本原子力文化財団の後援により実現したものです。

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150号 会員の声   青森県六ケ所村原子燃料サイクル施設見学記 ー過去と未来のタイムトンネルもある科学空間に感動ー


カテゴリ:  原子力政策 » 地層処分    2017-10-26 22:10   閲覧 (1899)


2050年に向けてエネルギー政策のカギとなるのは、地球温暖化対策とエネルギー自給率の向上である。そのためには、原子力と再生可能エネルギーをいかに共存させるかである。
その実現のための課題を検討した。


「明日から2日間休みますので、よろしくお願いします。」
「了解しました。どちらの山に行くのですか?」
「いや、今回は山でなく六ヶ所村に行ってきます。」
「へぇー六ヶ所村ねえ…、原発見学にいかれるのですか?」
「いえ、原発は六ヶ所村にはありません(多分…)」
 といった自信のない会話しかできずに、次の朝9時過ぎ東京発の東北新幹線に乗り込む。12時過ぎに七戸十和田駅着。ジャンボタクシーで約1時間かけて六ヶ所村に向かう。
 もうそろそろ着くのかなと思った頃に風車群があちらこちらに見えてくる。文字通りの風車「群」で92基あるとのこと。いくつかの風車はぐいぐいと回っている。原子力関係の施設しかないと思っていたのだが、風力発電以外に太陽光発電の施設もあるとのこと。確かにここは石油の備蓄基地からスタートした、様々なエネルギーを研究する総合施設なのだと実感する。
 六ヶ所村の原子燃料サイクル施設は標高55mの山間部にあり、尾駮沼(おぶちぬま)に敷地が隣接している。もしもの時を考えると、やはり高台で水場は近い方がいいだろうと、しろうと的にも納得する。
 林の中を抜け、原燃PRセンターに着く。黒川紀章さん設計のユニークな建物で、上部は 「宇宙からのエネルギーを吸収する双葉」 で、下部は 「原子燃料サイクルの輪」 をイメージしているらしい。ここで原子燃料サイクル施設の概要の説明を受け、PR館の見学を実施する。




恥ずかしながら原子力についての知見が「0」に近い者としては、やはり事前に情報をいただけるのは大変ありがたい。インターネットで少し勉強したレベルの知識に実際の2次元のオリエンが重ねられ、更にPR館で(展示模型だが)3次元の説明を受けることで、自分の直観的文系頭にも全体の工程フロー図が多少は入ってくるのが分かる。「いきなり」ではなく「少しずつ」の情報提供が理解を深めるには重要だと久々に実感する。


C
 予備知識を得て、いよいよ実際の施設に移動する。とにかく林(森?)が敷地内には多い(後で聞いた話だと熊も出没するらしい)。まずは低レベル放射性廃棄物埋設センターを見学する。高台から見降ろせるところに見学施設があり、室内のパネルや展示物を見ながら説明を聴く。現在は30万本のドラム管が埋設されており、1号に加え2号埋設地の一部を使用中とのことである。埋設が終わった後も、目視も含めた監視を長期的に続ける仕組みがあることを伺う。



 続いて通常のコースにはない、「余裕深度調査の試験空洞」(注参照のこと)を見学する。言葉を聞いてもなんのことか文系脳には全くわからないのだが、ここでは比較的放射線の高い放射性廃棄物を保管するための模擬実験を行っていたらしい。その為、この空洞は地下100mの深さにあり(山では4000m近くまで行ったことのある私も、地下100mは初めて。ちなみに日本で最も深いところにある地下鉄は大江戸線六本木駅の42mで地下10階分はある)、なにか近未来のSF映画を見るような感じだ。高さ18m、幅16mのちょっとしたビルなんかは入ってしまうスケールの大きさにただただ圧倒される。



説明によると、ここの地層は1500万年前に堆積したものらしく、1500万年間ほとんど割れ目もできずに、安定した地層だとのことで、ここで10万年後の未来を見据えた保管実験をしていたらしい。


ウィキペディアで10万年前の地球を調べると、ホモサピエンスがアフリカを出て世界中に広がった時代らしい。その後クロマニヨン~ネアンテルダール人と続き、氷河期を経て約1万3000年前に日本列島が今の形になったということだ。10万年先の未来までには文字通り天変地異を含めた色々なことが起きるだろう。川の流れも変わり、隆起(30m位盛り上がる?)も起きる可能性があることから、10万年後も地下70m以下にあることを想定して100mの地下が試験空洞になったらしい。



その後、原子燃料サイクル施設見学としては最後になる再処理工場から放射線が少し強くなった部品等を廃棄物として保管するための貯蔵管理センターへ移動する。ビジターがガラス越しに見ることができる再処理工場の制御室はパーテーションもほとんどなく、各工程の制御が集中的に管理されている。各工程の建物内はやはり放射能が高く、近くで運転しようとしても結局遠隔操作しかできないので、制御室の中は全体の状況もわかりコミュニケーションも取りやすいオープンスペースになっているみたいだ。過去多くいたフランス人は数名しか駐在せず、現在はほとんど日本人だけで運転をしているらしい。



海外からの返還廃棄物用の廃棄物貯蔵管理センターは自然冷却方式(日本初)を使用しており、30~50年程度かけて放射線レベルを下げていくための中間貯蔵場所とのこと。現在フランスに委託した再処理により発生した廃棄物の返還は2007年にすべて終わり、返還終了の色紙がぽんと飾られてあった。イギリスからの返還は今後もう少し続くらしい。
原子燃料サイクル施設を後にして、六ヶ所村商工会の方との意見交換会に参加する。場所は日帰り温泉施設のある「ろっかぽっか」(原燃PRセンターと同じく、六ケ所げんねん企画株式会社が運営している)にて開催された。3名の方から色々なお話を伺ったが、皆さんから最も関心の高い課題は、「理解不足をなくすための振興活動や情報交換の場の必要性」だと感じた。やはり六ヶ所村で観た・聴いた事実をどう正確に伝えていくか、その結果六ヶ所村にもっと興味・関心を持つ方を増やすことが、六ヶ所村の原子燃料サイクル施設の来訪者のミッションだろう。一人の方がおっしゃっていた、「自分の父親の代で六ヶ所村への誘致を決めた。自分の世代というよりは、この環境への理解を今後の世代にどう正しく伝えていくかが大事です」というお言葉が耳に残った。やはり現在だけでなく未来を見据えて考えている方がこちらにもいらっしゃった。


実質8時間足らずという短い訪問ではあったが、しろうとなりにもエネルギーについての理解が深まった1日であったと思う。やはり、仕事と同じで「現場に近しい事実」を「色々な角度から観察」して、「(うわべではない)本質的な把握」をすることで、初めて物事の是非や判断が可能な域になるんだなぁとつくづく実感する。でないといきなり好き嫌いの論になり、自分自身の中でも冷静さを失い収拾がつかなくなりそうだ。今の自分では、まだそれらの域に達してないのが残念なのだが、少なくとも冷静さは失わずにすみそうだ。
訪問時に特に私の心をゆさぶったのは、巨大な「余裕深度調査の試験空洞」であった。なぜ、あの空間が気になったのか東京に帰って色々考えたが、数日間たって、先に述べた「近未来のSF映画」がキーワードになって理由が判明した。確か自分が小学校くらいの頃にアメリカのドラマで「タイムトンネル」というテレビドラマがあった。そうだ…、確かにあの空洞はその「タイムトンネル」に似ている。あの「地下空洞」はまぎれもなく、1500万年前の過去と10万年先の未来を見据える、日本の「タイムトンネル」だ。この施設の良し悪しを判断するレベルには自分はないが、少なくともこの地球上で10万年先の未来を考えている人達がいることを知り、ただ感動したのだろう。そんなことを考え、自分自身で得心して大変満足した訪問であった。
                         (見学記・イラスト   会員 白木氏)


注 余裕深度と試験の目的
 原子力発電所から出る放射化した廃棄物は低レベル廃棄物といわれ、保管貯蔵するとやがてバックグランドレベルになります。しかし、炉内構造物などは、低レベル放射性廃棄物埋設センターに保管される廃棄物より1~2ケタ高い放射線レベルのものがあり、バックグランドになるまでに数百年かかる場合があります。
そのため、その間に保管場所の上に誤って、一般の建物や構築物ができても、健康に影響を及ぼさないように十分な余裕を持った深さ「余裕深度」が求められていまする。
このため地下100m程度のトンネル内の狭い空洞に遮蔽などの処置を施し収納することが考えられており、作業性など試験によって確認しています。なお、規制委員会では、余裕深度に埋設される放射性廃棄物を中レベル放射性廃棄物と呼ぶことが検討されているとのことです。


なお、この見学会は(財)日本原子力文化財団の後援により実現したものです。

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