両講師の話は地層処分の正しい理解に役立つと思いますので紹介いたします。
第一部 「解決できるトイレなきマンション」（河田東海夫氏の講演資料から）
地層処分場がない現状では、原子力発電所はトイレなきマンションと揶揄されています。これは、原子力発電所の運転に伴って発生する高レベル放射性廃棄物の最終的な処分場がまだ決まっていないことを指しています。なぜ決まらないかというと、一般の国民の方は図に代表されるような疑問を持っていて簡単には納得してくれないからでしょう。この疑問はいささか情緒的ではありますが、大事な論点であることも確かです。
今回は河田講師のお話しに沿ってこの疑問はどう解決できるのかみていきたいと思います。
地層処分の考え方は、��1万年以上という時間はかかるが放射能は減衰していく、➁人間の管理はあてにならない、そして��深部地下環境には物質を閉じ込める性質があるということを利用することです。ここで言いたいことは、自然の原理が超長期の閉じ込めを保証してくれるということです。
地層処分がどのように自然の原理を利用しているか順にみていきましょう。
自然の原理１は3000年前のエジプトのガラスが色鮮やかな状態で保存されている事実です。これは色を付ける元素がガラスに閉じ込められていて、抜け出られないことを示しています。同様に高レベル放射性廃棄物の各成分も様々な元素ですのでガラスと混ぜ合わせて固めると抜け出られません。
自然の原理２は、地下は還元環境（酸欠の環境）にあり物質は容易に錆びない、腐らない、溶けにくいということです。鳥取県の青谷上寺地遺跡で1800年前の人間の脳が発見されました。還元環境の中で腐食が抑えられたのです。このような環境であればガラスが腐食し、溶ける可能性は限りなく低いことを意味します。
自然の原理３は、地下深いところでは地下水はほとんど動かないということです。そのため地下深部の地下水は、周りの岩石の主成分であるシリコンで飽和しています。シリコンで飽和した地下水に主成分がシリコンであるガラスは溶けないことは明らかです。
自然の原理４は地下深部では水の動きは極めて遅いということです。
例えば、幌延深地層研究所の地下350メートルの地下水の年代を測定すると百万年以上になります。こういう場所であれば仮に放射能が溶け出たとしても100万年経っても地表に出てこないことを意味します。こうした場所が現実にあるということは、日本にも地層処分の適地があるという端的な証拠です。
自然の原理５は、地下深部は地表に比べて地震の揺れが小さいということです。左図に示した中国唐山地震の例では、死者数を比べると明らかに地下の方が少なくなっています。
宮城県栗駒市にある細倉マインパーク（旧細倉鉱山）では、東日本大震災の際、見学者が地下坑道内を見学していましたが、大地震が起きたことに気が付かなかったか分からなかったそうです。そのくらい地下では地表より揺れが小さいということでしょう。このことから、操業中でも地下施設は揺れが小さいので地表施設よりも安全といえます。埋設後の廃棄物は周囲の岩盤と一体として揺れるので、揺れで破壊されることはないと考えられます。
図は諸外国の地層処分場の進捗状況を示しています。
フィンランドは処分場建設の許可がおり、処分坑道の掘削工事が開始されました。スウェーデンは、場所が決まり、処分場の安全審査が行われています。
フランスは広域の候補地が決まり、建設地絞り込みと安全審査開始に向けた諸準備が行われています。図には示されていませんが、米国ではユッカマウンテンのプロジェクトを再開するための予算がトランプ政権でついています。米国が今後どのように取り組んでいくのか注目されます。
地層処分をする場合、原子力発電所からの使用済み燃料をそのまま処分する方法（直接処分）と再処理してウランとプルトニウムを回収して残りを処分する方法（再処理方式）があります。直接処分を選択すると処分場の必要面積は再処理の場合の3倍にもなります。その他に、放射能が十分に減衰するまでの期間も10倍くらい長くなります。国土の狭い日本では再処理方式を堅持することが望まれます。
第１部 まとめ
地下水年代が非常に古い場所があるということは、日本にも地層処分の適地があることを示しています。地層処分場は、自然の原理を巧みに利用することで、放射性廃棄物の超長期の閉じ込めを実現します。また、使用済み燃料を再処理して地層処分する方法には処分場の面積が少なくて済む、放射能の減衰する期間が短くなるという大きなメリットがあります。
第二部「高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全確保の考え方」 （石川博久氏の講演資料から）
第二部で、地層処分システムの重要な要素である人工バリアについて、それがどのような構造になっているのか、各部の働きはどのようなものか、地層処分システムの安全評価はどうなっているのかを見てみましょう。
図は、地表と地下について、自然現象、人の行為、モノの動き、遺跡等について比較してみたものです。地下の方が、処分場として適していることは明らかです。
日本には100万年以上の古い海水（化石水）が存在していることが確認されています。
このような個所に地層処分場を設置すると、たとえ地下水に放射能が漏えいしてもほとんどその場所で動かないことを意味しています。
火山の活動地域（火山中心）はほぼ決まっています。また、火山の中心から15kmの範囲にその影響がとどまっています。これは火山の影響を避けて処分場を建設することが可能であることを意味します。
多重のバリアで放射性物質を長期間閉じ込めます。多重バリアはガラス固化体等の人工バリアと天然バリアで構成されています。天然バリアは地下300メートル以深の岩盤です。各バリアの働きが図に示されています。
人工バリアの模型図を示します。横に立つ人間との比較で、大きさなどのイメージが掴めると思います。ガラス固化体の分子構造の中心に放射性物質が閉じ込められており、外に出ることができません。
この外側は厚さ20cm、重さ6トンの金属容器（オーバパック）に収納され、地下水との接触を遮断します。
そしてその外側はベントナイトといわれる粘土の緩衝材内に収納し、地下水の浸透や万一漏れた場合の放射性物質の移動を遅らせます。
地層処分場の安全性とは、放射性物質が地下水に漏えいし、その地下水が長時間後に地表に出てきたとしても人間に基準値を超える放射線被ばくをもたらさないことでしょう。それを確かめるため、予想されるシナリオを描き、解析するための数学モデルを作りコンピュータ解析を行います。
安全性を確認するために、例として図に地下水シナリオを示します。処分場の100メートル先に断層があると仮定し、そこを地下水とともに放射性物質が移動し人間の生活圏に出てくるものと仮定します。このように地表まで地下水が動きやすい条件でも、生活圏へ地下水が出てきたときに、放射能の人間への影響ほとんどありません。
第２部 まとめ
人工バリアと天然バリアを組み合わせた地層処分システムについて安全評価を行った結果、地下300メートル以深の岩盤に埋設すれば地下水に放射性物質が溶け出しても、基準値よりはるかに低い放射線被ばくしか生じないことが分かっています。
結び
高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定は、古くから取り組まれてきてはいましたが、長く進展してきませんでした。最近になって、国が前面に立つことになり、処分地選定のための科学的特性マップを発表する段階まできました。
このように状況になったのは、最終処分場とはどんなものか、その安全性について分かりやすい説明が行われていないことも一因に挙げられると思います。
今回の草の根セミナーは、そのことを念頭に置いて開催されました。両講師の話から地層処分は、自然の特性（原理）を活かした無理をしない処分システムであり、安全性も高いことが分かったと思います。
講演後の意見交換会で参加者から、専門家と普通の方の橋渡しができるような物差しの必要性、最終処分場の解決は今後の原子力推進にとって避けることのできない重要な問題であるとの意見が出されました。
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