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SEJ 日本のエネルギーを考える会

139号 ここまで高まっている原子力発電所の安全性 −再稼働はいつでも可能−


カテゴリ:  原子力規制    2017-3-7 19:00   閲覧 (1975)



原子力発電所を運転するためには、安全性に最も留意しなければならないのは当然です。しかし、再稼働の遅れは余るものがあります。
 
原子力発電所を運転するためには、安全性に最も留意しなければならないのは当然です。原子力発電所の再稼働がなかなか進まないのも一つには福島の事故が起こったことで安全性への理解が得られていないことがあるでしょう。
IOJだより139号ではこの問題を取り上げますので原子力発電所の安全性についてぜひ理解を深めていただき、原発の再稼働を応援していただきたいと考えています。再稼働の遅れによる我が国の原子力産業界の荒廃は東芝の報道に見られるように目に余るものがあります。

2.福島の事故の原因について


福島第一発電所1〜3号機が炉心損傷を起こした直接の原因は東日本大震災時の地震かその後に襲った津波か論争が起こりましたが、調査検討の結果津波が原因であることが判明しました。地震直後に緊急冷却系の発電機が起動しましたが、発電所の地下に設置していたため、津波による海水の侵入により水没して電力供給ができなくなり、冷却水供給用ポンプが止まってしまったために冷却水が原子炉内に供給されず、燃料溶融がおこりました。津波が直接の原因であったことは、緊急電源が生き残った福島第二発電所や東海第二発電所が安全に停止したことよりそれが正しいことを裏付けています。津波については、津波の大きさの評価方法が改善され、各発電所で津波対策用の防潮堤やさらに原子炉建屋の水密扉などが設けられ津波の侵入を防止します。また、緊急電源も従来以上に強化し、恒設の電源を用意するとともに移動型の電源車を、津波が襲わない高台に用意しています(図1参照)。緊急用の給水車も用意されました。


このような自然現象に対する対策強化を含め、安全基準を強化した新規制基準が原子力規制委員会によって制定され、再稼働の適合審査(安全審査)が行われています。
 再稼働時の適合審査の遅れは深刻です。運転差し止めの仮処分の裁判の影響もありますが、現在まで3基しか再稼働できていません。欧州を見てみますと、福島の事故後、ストレステストを実施して安全性を確認しましたが、原子力発電所を停止していません。追加対策があれば、運転をしながら対策を行っています。日本は福島事故の当事者なのでやむを得ない面はあったのですが、電源と給水源など緊急に必要なことはわかっているので審査を早め、再稼働を迅速にすることはできるのはないでしょうか。日本、米国、フランスが福島の事故を教訓にとった対策を表1にまとめてみました。


3.新規制基準とはなんでしょうか


 新規制基準では、上記の津波対策のほか、竜巻、火山などの自然現象に対する対策について大幅に強化されました。テロ対策も考えられています。特に大事なことは、福島事故前には規制されていなかった炉心損傷事故が規制対象になったということです。この辺は図2を見ればどこが強化されたか理解できるでしょう。


 以上のような規制強化に加えて、日本の原子力発電所に放射能を外部に放出せざるを得なかった場合に備えてフィルタ付きベントの装置をつけることになりました。これにより万一の場合に外部に放出される放射能は千分の一に減少します。
 安倍首相は世界一の安全基準といっていますが、以上のことを総合して言っておられるのであり、一番かどうかは別として世界一級のレベルであるといってもよいでしょう。


4.絶対安全とリスク


どれだけ安全であれば十分安全といえるのでしょうか。装置の仕様を指定するこれまでの規範的なやり方では、この問いに答えることはできません。福島の事故を教訓として実施した安全対策に実際どれくらいの効果があるのか判断する基準はないのでしょうか。その基準が安全目標です。安全目標とは受け入れることのできるリスクのことです。私たちが絶対安全を保証された社会生活を送っていくことはできません。例えば平成27年には自動車事故で年間5000人弱の方が亡くなっている事実があります。自動車1台当たりの死亡確率は2012年1年間で百万人の人口当たり50人になっています(都道府県格付け研究所)。自動車の事故死をゼロにすることは理想であっても達成することはできません。それでも、自動車を廃止すべきだという人はいません。それは自動車の便益があまりにも大きくこの程度のリスクだと受け入れることができるからでしょう。原子力についても同様に考えてもよいはずです。原子力の便益は実は大変に大きいのですが大きなテーマなのでここでは扱いません。一方、原子力ではどのくらいのリスクまでは許されるのでしょうか。米国や日本で議論が行われましたが、ほぼ共通する結論は原子力発電所があることによって追加されるリスクを社会生活で出会うリスクと比べて極めて小さくするというものです。


原子力発電所の場合、リスクとは放射線の被ばくに基づく急性の死亡とがんによる死亡、および土地汚染とその他の要因による経済的損失のことです。具体的には、原子力発電所があることによって、放射線によって死亡するリスクを社会生活で出会う様々なリスクの100分の1以下(米国では1000分の1以下)に抑えることが安全目標(一つの原子炉の運転一年で事故による死亡率が100万分の1)として採用されています。先ほど述べた自動車1台当たり年間の死亡率は、安全目標の50倍になっていることが分かります。日本の原子力規制委員会は、死亡率の代わりに放射性物質の放出量(100テラベクレルのセシウムを放出する事故(福島の事故時の放出量の100分の1と厳しくしています)の発生頻度を一つの原子炉の運転1年で百万分の一以下にすることとしています。この安全目標を達成するためには、原子力発電所の事故の確率(頻度)を一定の値以下にしなければなりません。この一定の値を性能目標と呼んでいます。原子炉発電所の安全システムはこの性能目標を目指して設計し、運転開始後はシステムの性能を目標値以下に維持するように施設の保全を行います。性能目標の1つに原子炉の燃料が溶ける事故(炉心損傷事故)の発生頻度がありますが、原子力規制委員会は一年で一つの原子炉あたりの炉心損傷の発生確率が100万分の1と決めています。完全に完成された手法とは言えないのですが、各原子力発電所でどの程度の性能の値になっているのかは再稼働の適合審査で調べられ報告されています。


5.原子力緊急避難計画について


 原子炉発電所の安全は、5層からなる多重の防御の壁を用意するという考え方で守っています。5層目は万一緊急事態が生じたときの対応策であり、防災対策を意味します。対策を行う範囲は、原子力発電所から概ね30kmの範囲です。その一環として原子力緊急時避難計画があります。日本では、原子力緊急避難計画は規制審査の対象ではなく、災害対策基本法と原子力災害対策特別措置法に基づき、都道府県、市町村等が策定することになっています。策定後は、訓練が行われ不備な点の改善が行われます。

6.原子力発電所の安全・安心


 原子力発電所の安全・安心を支える3つ目の備えとして、原子力事業者が財産の補償を行う義務を定めた原賠法(原子力損害の賠償に関する法律)があります。原子力事故により放射能が発電所の敷地外に拡散し、土地汚染などの財産被害が出た場合の補償を規定しています。福島の事故を教訓とした炉規法に基づく新規制基準、強化された原子力緊急避難計画、原賠法の3セットで安全・安心が事故以前に比べ大幅に強化されたことは間違いなく、再稼働しても差し支えないと考えます。

参考


福島事故に対する各国の対応策 表1
出典 (原子力発電所の継続的な安全性向上のための動向調査 エネルギー総合工学研究所  経産省資料)より抜粋



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139号 ここまで高まっている原子力発電所の安全性 −再稼働はいつでも可能−


カテゴリ:  原子力規制    2017-3-7 19:00   閲覧 (1975)



原子力発電所を運転するためには、安全性に最も留意しなければならないのは当然です。しかし、再稼働の遅れは余るものがあります。
 
原子力発電所を運転するためには、安全性に最も留意しなければならないのは当然です。原子力発電所の再稼働がなかなか進まないのも一つには福島の事故が起こったことで安全性への理解が得られていないことがあるでしょう。
IOJだより139号ではこの問題を取り上げますので原子力発電所の安全性についてぜひ理解を深めていただき、原発の再稼働を応援していただきたいと考えています。再稼働の遅れによる我が国の原子力産業界の荒廃は東芝の報道に見られるように目に余るものがあります。

2.福島の事故の原因について


福島第一発電所1〜3号機が炉心損傷を起こした直接の原因は東日本大震災時の地震かその後に襲った津波か論争が起こりましたが、調査検討の結果津波が原因であることが判明しました。地震直後に緊急冷却系の発電機が起動しましたが、発電所の地下に設置していたため、津波による海水の侵入により水没して電力供給ができなくなり、冷却水供給用ポンプが止まってしまったために冷却水が原子炉内に供給されず、燃料溶融がおこりました。津波が直接の原因であったことは、緊急電源が生き残った福島第二発電所や東海第二発電所が安全に停止したことよりそれが正しいことを裏付けています。津波については、津波の大きさの評価方法が改善され、各発電所で津波対策用の防潮堤やさらに原子炉建屋の水密扉などが設けられ津波の侵入を防止します。また、緊急電源も従来以上に強化し、恒設の電源を用意するとともに移動型の電源車を、津波が襲わない高台に用意しています(図1参照)。緊急用の給水車も用意されました。


このような自然現象に対する対策強化を含め、安全基準を強化した新規制基準が原子力規制委員会によって制定され、再稼働の適合審査(安全審査)が行われています。
 再稼働時の適合審査の遅れは深刻です。運転差し止めの仮処分の裁判の影響もありますが、現在まで3基しか再稼働できていません。欧州を見てみますと、福島の事故後、ストレステストを実施して安全性を確認しましたが、原子力発電所を停止していません。追加対策があれば、運転をしながら対策を行っています。日本は福島事故の当事者なのでやむを得ない面はあったのですが、電源と給水源など緊急に必要なことはわかっているので審査を早め、再稼働を迅速にすることはできるのはないでしょうか。日本、米国、フランスが福島の事故を教訓にとった対策を表1にまとめてみました。


3.新規制基準とはなんでしょうか


 新規制基準では、上記の津波対策のほか、竜巻、火山などの自然現象に対する対策について大幅に強化されました。テロ対策も考えられています。特に大事なことは、福島事故前には規制されていなかった炉心損傷事故が規制対象になったということです。この辺は図2を見ればどこが強化されたか理解できるでしょう。


 以上のような規制強化に加えて、日本の原子力発電所に放射能を外部に放出せざるを得なかった場合に備えてフィルタ付きベントの装置をつけることになりました。これにより万一の場合に外部に放出される放射能は千分の一に減少します。
 安倍首相は世界一の安全基準といっていますが、以上のことを総合して言っておられるのであり、一番かどうかは別として世界一級のレベルであるといってもよいでしょう。


4.絶対安全とリスク


どれだけ安全であれば十分安全といえるのでしょうか。装置の仕様を指定するこれまでの規範的なやり方では、この問いに答えることはできません。福島の事故を教訓として実施した安全対策に実際どれくらいの効果があるのか判断する基準はないのでしょうか。その基準が安全目標です。安全目標とは受け入れることのできるリスクのことです。私たちが絶対安全を保証された社会生活を送っていくことはできません。例えば平成27年には自動車事故で年間5000人弱の方が亡くなっている事実があります。自動車1台当たりの死亡確率は2012年1年間で百万人の人口当たり50人になっています(都道府県格付け研究所)。自動車の事故死をゼロにすることは理想であっても達成することはできません。それでも、自動車を廃止すべきだという人はいません。それは自動車の便益があまりにも大きくこの程度のリスクだと受け入れることができるからでしょう。原子力についても同様に考えてもよいはずです。原子力の便益は実は大変に大きいのですが大きなテーマなのでここでは扱いません。一方、原子力ではどのくらいのリスクまでは許されるのでしょうか。米国や日本で議論が行われましたが、ほぼ共通する結論は原子力発電所があることによって追加されるリスクを社会生活で出会うリスクと比べて極めて小さくするというものです。


原子力発電所の場合、リスクとは放射線の被ばくに基づく急性の死亡とがんによる死亡、および土地汚染とその他の要因による経済的損失のことです。具体的には、原子力発電所があることによって、放射線によって死亡するリスクを社会生活で出会う様々なリスクの100分の1以下(米国では1000分の1以下)に抑えることが安全目標(一つの原子炉の運転一年で事故による死亡率が100万分の1)として採用されています。先ほど述べた自動車1台当たり年間の死亡率は、安全目標の50倍になっていることが分かります。日本の原子力規制委員会は、死亡率の代わりに放射性物質の放出量(100テラベクレルのセシウムを放出する事故(福島の事故時の放出量の100分の1と厳しくしています)の発生頻度を一つの原子炉の運転1年で百万分の一以下にすることとしています。この安全目標を達成するためには、原子力発電所の事故の確率(頻度)を一定の値以下にしなければなりません。この一定の値を性能目標と呼んでいます。原子炉発電所の安全システムはこの性能目標を目指して設計し、運転開始後はシステムの性能を目標値以下に維持するように施設の保全を行います。性能目標の1つに原子炉の燃料が溶ける事故(炉心損傷事故)の発生頻度がありますが、原子力規制委員会は一年で一つの原子炉あたりの炉心損傷の発生確率が100万分の1と決めています。完全に完成された手法とは言えないのですが、各原子力発電所でどの程度の性能の値になっているのかは再稼働の適合審査で調べられ報告されています。


5.原子力緊急避難計画について


 原子炉発電所の安全は、5層からなる多重の防御の壁を用意するという考え方で守っています。5層目は万一緊急事態が生じたときの対応策であり、防災対策を意味します。対策を行う範囲は、原子力発電所から概ね30kmの範囲です。その一環として原子力緊急時避難計画があります。日本では、原子力緊急避難計画は規制審査の対象ではなく、災害対策基本法と原子力災害対策特別措置法に基づき、都道府県、市町村等が策定することになっています。策定後は、訓練が行われ不備な点の改善が行われます。

6.原子力発電所の安全・安心


 原子力発電所の安全・安心を支える3つ目の備えとして、原子力事業者が財産の補償を行う義務を定めた原賠法(原子力損害の賠償に関する法律)があります。原子力事故により放射能が発電所の敷地外に拡散し、土地汚染などの財産被害が出た場合の補償を規定しています。福島の事故を教訓とした炉規法に基づく新規制基準、強化された原子力緊急避難計画、原賠法の3セットで安全・安心が事故以前に比べ大幅に強化されたことは間違いなく、再稼働しても差し支えないと考えます。

参考


福島事故に対する各国の対応策 表1
出典 (原子力発電所の継続的な安全性向上のための動向調査 エネルギー総合工学研究所  経産省資料)より抜粋



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