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SEJ 日本のエネルギーを考える会

第64号 会員の声 テロとミサイル攻撃 脱原発こそ最良の防御か? ―2013年3月8日付朝日新聞社説を読んで―


カテゴリ:  原子力政策    2013-3-18 21:00   閲覧 (1184)
の記事のポイントは「最良」という言葉です。この言葉をきっかけに脱原発こそ「最良」の防御か?の意味を考えてみたいと思います。 この表現は、「よく考えたうえでの結論」という印象をあたえます。 しかし以下の点で問題があります。

1.一見あるようで、実は存在しえない「最良」があること


自分でしっかり理解できないうちに使ってはいけない、という一見もっともな考えがあります。そこで、もし理解できない限りは使わないのが最良だとしてしまうとどうなるでしょうか。


「脳の機能」はまだ研究最中で、勿論個人レベルではまだ理解できず、従って脳は使ってはいけないことになります。「睡眠」もまだ未解明の部分が多く、従って睡眠もしてはいけないことになります。このため、我々は起きていても頭を使うのはいけなく、また寝てもいけない、という妙な結論になります。>/p>

同様に、危険は徹底的に排除しないといけない、という誰も否定できない捉えかたがあります。この「危険の徹底的排除こそが最良だ」とするとどうなるでしょうか。
「食物」は安全な成分だけでは構成されていません。また、「酸素」は体内でどうしても一部は生体に非常に危険なフリーラジカルになります。従って、危険排除を徹底的にやると、食事をせず呼吸もしないのが最良、というこれも奇妙なことになります。
自分でちゃんと理解できないうちは使わないようにし、危険は徹底的に排除しないといけないとして最良を求めていくと、結局は「死んでいる状態」が一番適合し最良である、ということになります。これは誰が見てもおかしいわけです。


2.理想主義的に「最良」と言っていては全く見えないことが、バランス主義で見てやっとわかることがあること


日本では、2度にわたる石油危機を大いに反省し、国家としての危機と考えて、エネルギーセキュリティ上から原子力を一定比率導入しました。また地球温暖化対策としての原子力の寄与もわかってきました。これらの原子力の持つ優位性は、今後再生可能エネルギーがシェアを上げたり、国民に大いに迷惑をかけた福島事故を加味しても、依然として存在す
るのです。
こういう見方は「バランス感覚」に基づくものです。わざとこういったバランスには触れずに、理想主義的に小奇麗に攻めようとしても、いずれは露見することです

3.いちずな「最良」でなく、実用主義的な見方でしか把握できないことを知るべき


最良という言葉の持つ一見『完全さ』に不用意にもて遊ばされてはいけません。最良を狙うのは勿論決して悪くはありませんが、あくまで時と場合によります。
言葉遊びは旧政権の得意技でした。内容を全く知らなくても、もっともらしく言える政治家がいるものだと「2番じゃだめですか」の一言でよくわかりました。
最良ということは、実は現実社会では虚無的な言葉遊びである場合も多いのです。
変に潔癖に「最良」を追わず、現実的で実際的な幅広い見通しからの総合判断を重視すべきでしょう。
これらの観点からみると、「脱原発こそ最良の防御」の奇妙さがわかります。
? まず、そもそも最良という方策は実社会では、非現実的であるか、存在すらしないか、かもしれないのです。実世界では得てして「次善の策」が現実的なことが多いものです。
? また、テロ対策が必要なのは何も原発だけに留まりません。テロ対象として想定されうる分野の物、装置、設備をその都度なくしていくわけにはいかないでしょう。およそどんな設備もテロ対象になりうるのですから日本にあるほとんどすべてのものをなくしてしまって「これでテロ対策ができた」というのは本末転倒でしょう。
? それよりも、テロを画策する人物をどうするか、それを支援している勢力をどうするか、が核心でしょう。どう見つけ、どう泳がせ、どういう時点で捕縛するかがポイントでしょう。このように、「やられる側」でなく、「やる側」にもっと注目すべきです。
「やられる側」にも勿論対応策は講じるのですが、それ以上に「やる側」をどうするか考えるべき、という主張が核心的でしょう。
そのためにも、スパイ防止法など必要な法整備を急ぐべきでしょう。
? この社説の論調の底流にあるのは、「脱原発を何としても達成したい」ということだけでしょう。
詭弁を弄するなら、もっとうなるような展開をしてみて欲しいところです。

4. 社説で指摘された5つの問題点


社説では5つの問題点を指摘しています。武装テロ部隊、航空機激突、サイバー攻撃、ミサイル攻撃、格納容器外の使用済み燃料です。
「武装テロ部隊」が炉心冷却のバックアップ機能までも破壊し、水と電気を遮断すれば福島事故を再現できる。
「航空機激突」で全電源が喪失する。米原子力エネルギー協会(NEI)は「世界貿易センター(WTC)に比べ核施設は小さく、飛行機によるテロ攻撃は困難」とする。しかし、2007年イスラエル戦闘爆撃機がシリア核施設を空爆したとされる。原発攻撃はあり得ない話と切り
捨てられない。
「サイバー攻撃」で電源系統の遠隔操作によって冷却機能がまひする恐れもある。NEIは「サイバー対策はネットを外部から孤立させれば心配ない」と説明する。しかし「USBメモリーを持ち込めば可能。相手は表も裏もある人間だから」と警鐘を鳴らす向きもある。3月4日の規制委核セキュリティー検討会で、原発作業員の身元も精査されていない実態が報告された。
日本の多くの原発が北朝鮮の中距離弾道「ミサイル」の射程内に入る。100%の迎撃率を望めないミサイル防衛に命運はあずけられない。
「使用済み燃料プール」が原子炉格納容器の外にある原発は使用済み燃料を空冷式の頑丈な容器に移し変えていくことも必要だ。
と主張し、そのため、以下の懸念を示しています。
1.高まる脅威にどこまで対策を打つか。国際テロの再発防止に大国の威信をかける米国ですら、見えない敵への対処法は暗中模索である。どうすべきなのか。
2.日本は他国から核セキュリティー後進国とも指摘される現状を、まず認識する必要がある。
3.どんな危機対応が最適なのか。ジレンマの中にある。テロ対策を無限に拡大するわけにもいかない。 したがって、「リスクを減らすには、やはり、原発をできるだけ早く減らしていくしかない。」と結論づけています。

5.ここで再確認しておかなくてはいけないのは、


1.まず日本のエネルギーセキュリティです。これは重要な点ですので再度申しますが、過去2度にわたる石油危機に会い、エネルギー供給の分散を模索して一定比率は原子力に任せよう、としてきたわけです。それは、福島事故で国民に迷惑をかけてしまった今であっても変わりえません。依然として日本はエネルギーは弱点なのですから。
それは、今後再生可能エネルギーが増え、二酸化炭素の排出のごく少ない化石燃料プラントが、たとえできたとしても変わらないでしょう。
2.テロやミサイルの標的は何も原発に限らない、ということです。これもすでに言いましたが、標的をなくしてしまうのが最良の防御だとして、工場やビル、高速道路や鉄道など標的になりそうなものを皆無くすのがいい、とは本末転倒な主張でしょう。

以上の2つの基本的な前提からは以下のことが導出されるでしょう。
3.この朝日の社説を発展させると、テロやミサイル攻撃に対しては、工学的な深層防護対応だけでなく、その後ろに、まったく別の次元での深層防護をする対応も必要だということを意味しています。ミサイルのような個人では扱えないものに国家がからんでいるは勿論ですが、一見小集団の活動に思えるテロにも後ろ盾に特定の国家がからんでいる訳です。そういう国家に対して、「明確な抑止力」の表示が必要な時代になったのでしょう。
具体的には、そういう行為を逡巡させるに足る「迫力ある説得力」が必要なのです。

6.結論


以上のことから、
? 工学的対応の奥に、軍事的対応が控え、それが仄見え、相手に威嚇効果があるような構図が必要であり、
? 更には、先制攻撃の可能性すらも相手に感じさせ、行動を抑制させるような高度な諜報能力の用意と、そのごく一部の誇示も必要になるということでしょう。
したがって、脱原発は最良の防御にはなり得ないといわざるをえません。 (T.M.記)


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第64号 会員の声 テロとミサイル攻撃 脱原発こそ最良の防御か? ―2013年3月8日付朝日新聞社説を読んで―


カテゴリ:  原子力政策    2013-3-18 21:00   閲覧 (1184)
の記事のポイントは「最良」という言葉です。この言葉をきっかけに脱原発こそ「最良」の防御か?の意味を考えてみたいと思います。 この表現は、「よく考えたうえでの結論」という印象をあたえます。 しかし以下の点で問題があります。

1.一見あるようで、実は存在しえない「最良」があること


自分でしっかり理解できないうちに使ってはいけない、という一見もっともな考えがあります。そこで、もし理解できない限りは使わないのが最良だとしてしまうとどうなるでしょうか。


「脳の機能」はまだ研究最中で、勿論個人レベルではまだ理解できず、従って脳は使ってはいけないことになります。「睡眠」もまだ未解明の部分が多く、従って睡眠もしてはいけないことになります。このため、我々は起きていても頭を使うのはいけなく、また寝てもいけない、という妙な結論になります。>/p>

同様に、危険は徹底的に排除しないといけない、という誰も否定できない捉えかたがあります。この「危険の徹底的排除こそが最良だ」とするとどうなるでしょうか。
「食物」は安全な成分だけでは構成されていません。また、「酸素」は体内でどうしても一部は生体に非常に危険なフリーラジカルになります。従って、危険排除を徹底的にやると、食事をせず呼吸もしないのが最良、というこれも奇妙なことになります。
自分でちゃんと理解できないうちは使わないようにし、危険は徹底的に排除しないといけないとして最良を求めていくと、結局は「死んでいる状態」が一番適合し最良である、ということになります。これは誰が見てもおかしいわけです。


2.理想主義的に「最良」と言っていては全く見えないことが、バランス主義で見てやっとわかることがあること


日本では、2度にわたる石油危機を大いに反省し、国家としての危機と考えて、エネルギーセキュリティ上から原子力を一定比率導入しました。また地球温暖化対策としての原子力の寄与もわかってきました。これらの原子力の持つ優位性は、今後再生可能エネルギーがシェアを上げたり、国民に大いに迷惑をかけた福島事故を加味しても、依然として存在す
るのです。
こういう見方は「バランス感覚」に基づくものです。わざとこういったバランスには触れずに、理想主義的に小奇麗に攻めようとしても、いずれは露見することです

3.いちずな「最良」でなく、実用主義的な見方でしか把握できないことを知るべき


最良という言葉の持つ一見『完全さ』に不用意にもて遊ばされてはいけません。最良を狙うのは勿論決して悪くはありませんが、あくまで時と場合によります。
言葉遊びは旧政権の得意技でした。内容を全く知らなくても、もっともらしく言える政治家がいるものだと「2番じゃだめですか」の一言でよくわかりました。
最良ということは、実は現実社会では虚無的な言葉遊びである場合も多いのです。
変に潔癖に「最良」を追わず、現実的で実際的な幅広い見通しからの総合判断を重視すべきでしょう。
これらの観点からみると、「脱原発こそ最良の防御」の奇妙さがわかります。
? まず、そもそも最良という方策は実社会では、非現実的であるか、存在すらしないか、かもしれないのです。実世界では得てして「次善の策」が現実的なことが多いものです。
? また、テロ対策が必要なのは何も原発だけに留まりません。テロ対象として想定されうる分野の物、装置、設備をその都度なくしていくわけにはいかないでしょう。およそどんな設備もテロ対象になりうるのですから日本にあるほとんどすべてのものをなくしてしまって「これでテロ対策ができた」というのは本末転倒でしょう。
? それよりも、テロを画策する人物をどうするか、それを支援している勢力をどうするか、が核心でしょう。どう見つけ、どう泳がせ、どういう時点で捕縛するかがポイントでしょう。このように、「やられる側」でなく、「やる側」にもっと注目すべきです。
「やられる側」にも勿論対応策は講じるのですが、それ以上に「やる側」をどうするか考えるべき、という主張が核心的でしょう。
そのためにも、スパイ防止法など必要な法整備を急ぐべきでしょう。
? この社説の論調の底流にあるのは、「脱原発を何としても達成したい」ということだけでしょう。
詭弁を弄するなら、もっとうなるような展開をしてみて欲しいところです。

4. 社説で指摘された5つの問題点


社説では5つの問題点を指摘しています。武装テロ部隊、航空機激突、サイバー攻撃、ミサイル攻撃、格納容器外の使用済み燃料です。
「武装テロ部隊」が炉心冷却のバックアップ機能までも破壊し、水と電気を遮断すれば福島事故を再現できる。
「航空機激突」で全電源が喪失する。米原子力エネルギー協会(NEI)は「世界貿易センター(WTC)に比べ核施設は小さく、飛行機によるテロ攻撃は困難」とする。しかし、2007年イスラエル戦闘爆撃機がシリア核施設を空爆したとされる。原発攻撃はあり得ない話と切り
捨てられない。
「サイバー攻撃」で電源系統の遠隔操作によって冷却機能がまひする恐れもある。NEIは「サイバー対策はネットを外部から孤立させれば心配ない」と説明する。しかし「USBメモリーを持ち込めば可能。相手は表も裏もある人間だから」と警鐘を鳴らす向きもある。3月4日の規制委核セキュリティー検討会で、原発作業員の身元も精査されていない実態が報告された。
日本の多くの原発が北朝鮮の中距離弾道「ミサイル」の射程内に入る。100%の迎撃率を望めないミサイル防衛に命運はあずけられない。
「使用済み燃料プール」が原子炉格納容器の外にある原発は使用済み燃料を空冷式の頑丈な容器に移し変えていくことも必要だ。
と主張し、そのため、以下の懸念を示しています。
1.高まる脅威にどこまで対策を打つか。国際テロの再発防止に大国の威信をかける米国ですら、見えない敵への対処法は暗中模索である。どうすべきなのか。
2.日本は他国から核セキュリティー後進国とも指摘される現状を、まず認識する必要がある。
3.どんな危機対応が最適なのか。ジレンマの中にある。テロ対策を無限に拡大するわけにもいかない。 したがって、「リスクを減らすには、やはり、原発をできるだけ早く減らしていくしかない。」と結論づけています。

5.ここで再確認しておかなくてはいけないのは、


1.まず日本のエネルギーセキュリティです。これは重要な点ですので再度申しますが、過去2度にわたる石油危機に会い、エネルギー供給の分散を模索して一定比率は原子力に任せよう、としてきたわけです。それは、福島事故で国民に迷惑をかけてしまった今であっても変わりえません。依然として日本はエネルギーは弱点なのですから。
それは、今後再生可能エネルギーが増え、二酸化炭素の排出のごく少ない化石燃料プラントが、たとえできたとしても変わらないでしょう。
2.テロやミサイルの標的は何も原発に限らない、ということです。これもすでに言いましたが、標的をなくしてしまうのが最良の防御だとして、工場やビル、高速道路や鉄道など標的になりそうなものを皆無くすのがいい、とは本末転倒な主張でしょう。

以上の2つの基本的な前提からは以下のことが導出されるでしょう。
3.この朝日の社説を発展させると、テロやミサイル攻撃に対しては、工学的な深層防護対応だけでなく、その後ろに、まったく別の次元での深層防護をする対応も必要だということを意味しています。ミサイルのような個人では扱えないものに国家がからんでいるは勿論ですが、一見小集団の活動に思えるテロにも後ろ盾に特定の国家がからんでいる訳です。そういう国家に対して、「明確な抑止力」の表示が必要な時代になったのでしょう。
具体的には、そういう行為を逡巡させるに足る「迫力ある説得力」が必要なのです。

6.結論


以上のことから、
? 工学的対応の奥に、軍事的対応が控え、それが仄見え、相手に威嚇効果があるような構図が必要であり、
? 更には、先制攻撃の可能性すらも相手に感じさせ、行動を抑制させるような高度な諜報能力の用意と、そのごく一部の誇示も必要になるということでしょう。
したがって、脱原発は最良の防御にはなり得ないといわざるをえません。 (T.M.記)


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