一部マスコミは「トイレなきマンション」という短絡的な表現で、いたずらに地域の人や一般の人々の不安を煽っています。高レベル廃棄物の処分をどのようにすればよいかを考えてみたいと思います
人間が活動をすれば、どうしてもゴミが出てきてしまいます。それは家庭の台所でも同じことです。
原子力発電所のゴミは、放射線のレベルは高いのですが、遮蔽して貯蔵すれば人体や地球環境に影響を与えないように安全に管理あるいは処分することが可能です。
原発反対派や一部マスコミは、「トイレなきマンション」という短絡的な表現で、いたずらに地域の人や一般の人々の不安を煽っています。今の世代が作り出してしまったゴミは、今の世代で処理してしまうという大原則を全うするために、ぜひ合理的な考えをもって高レベル廃棄物の処分をどのようにすればよいかを考えてみたいと思います。
国は2050年までに炭酸ガスの排出を80%減らすと言っています。炭酸ガスは発電だけで出てくるものではなくて熱源や燃料などでもかなり出てくるのですが、発電だけを取り上げてみてもこれを実現するためには、省エネや再生可能エネルギーで対応するのはとても無理です。原子力発電を大幅に拡大しなければなりません。
その理由は明らかなのです。電気を使おうとすると、廃棄物が出ます。100万KWの原子力発電所から出る廃棄物(ガラス固化体)とLNG火力発電から出る二酸化炭素の年間の重量を比較すると、
原子力発電所からは約15トン(0.5トンのガラス固化体が30本)、
LNG火力発電所からは約4200トン(0.476g/KWh×100万KW×8760)
となり、単純比較にはなりませんが、LNG火力発電所は原子力発電所の280倍のゴミを出すのです。二酸化炭素は空に捨てていますから実感に乏しいかもしれませんが、地球温暖化の元凶であり、世界中が排出を減らそうとしているのです。そして、数10年後には二酸化炭素の大気への排出をゼロにする必要があるとされており、化石燃料を使わないか、排出する炭酸ガスを地下や海底に貯留しなければなりません。炭酸ガスを地中に貯留する技術を採用した場合には、それこそ大地震で大気中に一気に炭酸ガスが噴出する可能性を否定することのほうが難しいでしょう。
原子力発電所からのゴミはあとから説明するように放射線のレベルは高いのですが、まずその量が他の発電方式よりは極端に少なく、遮蔽して貯蔵すれば人体や地球環境にも影響を与えないように安全に管理あるいは処分することが可能です。
資源に乏しい日本の原子力利用の基本方針は、原子力発電を実施し、そこから出てくる使用済み燃料を再処理して有用な資源であるプルトニウムなどを取り出し、残りの高レベル放射性廃棄物は最終処分しやすいようにガラス固化体に溶融させて、処分に適する状態になるまで保管することとしています。
ガラス固化体とはどんなものかと云うと、図に示すような大きさで、10万世帯が一年間に消費する原子力発電による電力から発生する高レベル廃棄物は、このガラス固化体1本(500kg)に収まります。とてもわずかな量であることがお分かりになると思います。ただし、高レベル廃棄物を固化した物ですから、放射線レベルは高いですが、50年程度地上で安全に管理しながら冷却すると大幅に下がり、その後に地層中に処分することとしています。
その時の線量は容器表面で2.7mSv/hで緩衝材の表面では2.7μSV/h、そして80cmのコンクリートで囲えば、0.6μSV/hとなり、法律で管理を必要としないレベルに過ぎません。
このように50年も冷却し遮蔽すれば地上でも十分に放射能レベルは下がるのになぜ地層処分を考えるのでしょうか。
それは、廃棄物が管理する必要のないレベルに下がるのが数千年〜数万年もかかるので、その間に、例えば、世の中が移り変わり、当初予想も出来なかったような状況が生まれる可能性が否定できません。例えば、社会的/経済的な事情の悪化に伴い管理が難しくなったり、極端な自然事象やテロ等のリスクや不確実性も増大するかもしれません。廃棄物をこのような将来世代の負担になるような形で残すべきではないという考え方が国際的にも共通の考え方となっているのです。
そこで、高レベル廃棄物については、このような考え方から、日本や諸外国では、人による管理を将来の世代の人に託することなく、人的管理行わなくても安全に保管できる地層処分が検討されているのです。中でもフィンランド、スウェーデンでは最終処分地は選定され、建設、許認可の段階であり、フランスが精密調査、スイス、カナダが概要調査と先行し、英国、ドイツ、米国、日本等がこれに続いています。
製造直後にはかなり放射線の線量も温度も高く危険なので、十分遮蔽した施設で冷却します。その後出来るだけ人が近づかないように深い地層に処分しようとしています。
しかし、ガラス固化体本体の放射線レベルは高いですが、時間の経過と共にその危険性は薄れてゆきます。原子力発電所のように核反応が起こっている設備ではありませんし、溶融によって中身が放出されるような心配もありません。
そこで、考えなければならないのは固化体に融け込んでいる放射性物質が深い地下で地下水や地震などで浸み出し地上に出てこないかを確認すればよいわけです。 そこで、実際には有りえないような想定をして安全性の評価をし、安全な処分方法、場所を検討しているのです。
特に、日本は地震国、火山国ですので地層処分をするにしてもどこでも良いと云う訳にはいきません。そのため、活断層や火山活動を調査し、適地を探しているのです。
地層処分とはゴミを処分するわけですから、人情として自分の地域に置きたくないという反応が出てくるのは当然かもしれません。しかし、人間が活動をすればゴミはどうしても出て来てしまうのです。これを、安全に、人の生活に影響が出ないような形で処分するのが、人間の知恵というものでしょう。そのようにして考えられた合理的な処分方法が地層処分ということになります。
原子力発電利用をしている他の多くの国でも同じ状況です。
感覚的な「嫌な施設」という問題に加えて、反原子力の人々の合理的とはいえない反対の理屈によって、多くの人達が影響を受けています。彼等の主張はとても単純なのです。例えば「トイレ無きマンション用にトイレを作ろうとしている」と地域の人たちを煽って、処分場の立地を阻止しようとするのです。トイレが無ければいずれは原子力発電所を止めさせることができると信じているらしいのです。
あるいは、「放射性廃棄物は数万年も危険な状態が続くのであり、そのような危険な廃棄物を受け入れることは子孫に申し訳ない。絶対反対である」と情に訴えて反対してくるのです。
ほぼ永久に保管することが前提となる地層処分は、立地しようとする地域の選別作業をしようとしても、フィンランドの例を除いて、国民からの理解を得ることが難しく、難航しているのが現状なのです。
このような反原子力派の人々の活動が功を奏して、朝日新聞の調査によれば、図に示すように都道府県の4割が受け入れを拒否しているという残念な結果が得られています。
地層処分により将来の世代に負担を強いることなく、人間界から隔離できることがお分かり頂けたと思います。一方、地層処分と云いながら、数10年から100年は人的管理を併用する必要がありますので、この期間を有効利用して新技術の開発や適用をすることも考えられています。例えば、高速炉や加速器を使って廃棄物に含まれる高レベルの放射線を出す核種を消滅させる(「消滅処理」と言います)技術が開発されつつあります。この処理方法が実現した時には地層から取り出して処理をし直すことも現実的な方法として考えられます。
技術は日進月歩ですから、地層処分に関しても、より安全性の高い処分方法が出てきた際にはそれが採用され易いような取り組みも続けておくことが肝要でしょう。
また、技術開発を行う際には、地層処分を受け入れようとする地域の発展に繋がるような取り組みが必要でしょう。廃棄物を受け入れる地域の地上設備の周辺に、このような新技術を開発する研究機関を残しながら実施すること等が現実的な地域振興策として考えることが出来ます。地域の発展に繋がるように、立地地域への産業立地を促すような政策誘導も必要でしょう。これらは、政府や原子力業界のみにまかせるのではなく、政治家の役割も期待されるところです
原子力反対派の脅しに惑わされること無く、今の世代が作り出してしまったゴミは今の世代で処理してしまうという大原則を全うするために、是非合理的な考えをもって、高レベル廃棄物の処分をどのようにすれば良いか、考えて頂きたいと思います。 (記 吉村元孝 伊藤英二)
参考までに、現在諸外国で進められている廃棄物処分の方針を表に示します。多くの国では処分のし直し(可逆性、回収可能性)も視野に入れているようです。
原子力発電所のゴミは、放射線のレベルは高いのですが、遮蔽して貯蔵すれば人体や地球環境に影響を与えないように安全に管理あるいは処分することが可能です。
原発反対派や一部マスコミは、「トイレなきマンション」という短絡的な表現で、いたずらに地域の人や一般の人々の不安を煽っています。今の世代が作り出してしまったゴミは、今の世代で処理してしまうという大原則を全うするために、ぜひ合理的な考えをもって高レベル廃棄物の処分をどのようにすればよいかを考えてみたいと思います。
1.原子力発電所からのゴミの量と質
国は2050年までに炭酸ガスの排出を80%減らすと言っています。炭酸ガスは発電だけで出てくるものではなくて熱源や燃料などでもかなり出てくるのですが、発電だけを取り上げてみてもこれを実現するためには、省エネや再生可能エネルギーで対応するのはとても無理です。原子力発電を大幅に拡大しなければなりません。
その理由は明らかなのです。電気を使おうとすると、廃棄物が出ます。100万KWの原子力発電所から出る廃棄物(ガラス固化体)とLNG火力発電から出る二酸化炭素の年間の重量を比較すると、
原子力発電所からは約15トン(0.5トンのガラス固化体が30本)、
LNG火力発電所からは約4200トン(0.476g/KWh×100万KW×8760)
となり、単純比較にはなりませんが、LNG火力発電所は原子力発電所の280倍のゴミを出すのです。二酸化炭素は空に捨てていますから実感に乏しいかもしれませんが、地球温暖化の元凶であり、世界中が排出を減らそうとしているのです。そして、数10年後には二酸化炭素の大気への排出をゼロにする必要があるとされており、化石燃料を使わないか、排出する炭酸ガスを地下や海底に貯留しなければなりません。炭酸ガスを地中に貯留する技術を採用した場合には、それこそ大地震で大気中に一気に炭酸ガスが噴出する可能性を否定することのほうが難しいでしょう。
原子力発電所からのゴミはあとから説明するように放射線のレベルは高いのですが、まずその量が他の発電方式よりは極端に少なく、遮蔽して貯蔵すれば人体や地球環境にも影響を与えないように安全に管理あるいは処分することが可能です。
2.原子力発電所のゴミはどのようなものなのでしょうか
資源に乏しい日本の原子力利用の基本方針は、原子力発電を実施し、そこから出てくる使用済み燃料を再処理して有用な資源であるプルトニウムなどを取り出し、残りの高レベル放射性廃棄物は最終処分しやすいようにガラス固化体に溶融させて、処分に適する状態になるまで保管することとしています。
ガラス固化体とはどんなものかと云うと、図に示すような大きさで、10万世帯が一年間に消費する原子力発電による電力から発生する高レベル廃棄物は、このガラス固化体1本(500kg)に収まります。とてもわずかな量であることがお分かりになると思います。ただし、高レベル廃棄物を固化した物ですから、放射線レベルは高いですが、50年程度地上で安全に管理しながら冷却すると大幅に下がり、その後に地層中に処分することとしています。
その時の線量は容器表面で2.7mSv/hで緩衝材の表面では2.7μSV/h、そして80cmのコンクリートで囲えば、0.6μSV/hとなり、法律で管理を必要としないレベルに過ぎません。
3.そもそも、なぜ地層処分しなければならないのか
このように50年も冷却し遮蔽すれば地上でも十分に放射能レベルは下がるのになぜ地層処分を考えるのでしょうか。
それは、廃棄物が管理する必要のないレベルに下がるのが数千年〜数万年もかかるので、その間に、例えば、世の中が移り変わり、当初予想も出来なかったような状況が生まれる可能性が否定できません。例えば、社会的/経済的な事情の悪化に伴い管理が難しくなったり、極端な自然事象やテロ等のリスクや不確実性も増大するかもしれません。廃棄物をこのような将来世代の負担になるような形で残すべきではないという考え方が国際的にも共通の考え方となっているのです。
そこで、高レベル廃棄物については、このような考え方から、日本や諸外国では、人による管理を将来の世代の人に託することなく、人的管理行わなくても安全に保管できる地層処分が検討されているのです。中でもフィンランド、スウェーデンでは最終処分地は選定され、建設、許認可の段階であり、フランスが精密調査、スイス、カナダが概要調査と先行し、英国、ドイツ、米国、日本等がこれに続いています。
4.地層処分をするにはどんな安全対策が必要なのか
製造直後にはかなり放射線の線量も温度も高く危険なので、十分遮蔽した施設で冷却します。その後出来るだけ人が近づかないように深い地層に処分しようとしています。
しかし、ガラス固化体本体の放射線レベルは高いですが、時間の経過と共にその危険性は薄れてゆきます。原子力発電所のように核反応が起こっている設備ではありませんし、溶融によって中身が放出されるような心配もありません。
そこで、考えなければならないのは固化体に融け込んでいる放射性物質が深い地下で地下水や地震などで浸み出し地上に出てこないかを確認すればよいわけです。 そこで、実際には有りえないような想定をして安全性の評価をし、安全な処分方法、場所を検討しているのです。
特に、日本は地震国、火山国ですので地層処分をするにしてもどこでも良いと云う訳にはいきません。そのため、活断層や火山活動を調査し、適地を探しているのです。
5.それでも地層処分は地域の人に理解が得られないのは何故でしょうか
地層処分とはゴミを処分するわけですから、人情として自分の地域に置きたくないという反応が出てくるのは当然かもしれません。しかし、人間が活動をすればゴミはどうしても出て来てしまうのです。これを、安全に、人の生活に影響が出ないような形で処分するのが、人間の知恵というものでしょう。そのようにして考えられた合理的な処分方法が地層処分ということになります。
原子力発電利用をしている他の多くの国でも同じ状況です。
感覚的な「嫌な施設」という問題に加えて、反原子力の人々の合理的とはいえない反対の理屈によって、多くの人達が影響を受けています。彼等の主張はとても単純なのです。例えば「トイレ無きマンション用にトイレを作ろうとしている」と地域の人たちを煽って、処分場の立地を阻止しようとするのです。トイレが無ければいずれは原子力発電所を止めさせることができると信じているらしいのです。
あるいは、「放射性廃棄物は数万年も危険な状態が続くのであり、そのような危険な廃棄物を受け入れることは子孫に申し訳ない。絶対反対である」と情に訴えて反対してくるのです。
ほぼ永久に保管することが前提となる地層処分は、立地しようとする地域の選別作業をしようとしても、フィンランドの例を除いて、国民からの理解を得ることが難しく、難航しているのが現状なのです。
このような反原子力派の人々の活動が功を奏して、朝日新聞の調査によれば、図に示すように都道府県の4割が受け入れを拒否しているという残念な結果が得られています。
6.むすび
地層処分により将来の世代に負担を強いることなく、人間界から隔離できることがお分かり頂けたと思います。一方、地層処分と云いながら、数10年から100年は人的管理を併用する必要がありますので、この期間を有効利用して新技術の開発や適用をすることも考えられています。例えば、高速炉や加速器を使って廃棄物に含まれる高レベルの放射線を出す核種を消滅させる(「消滅処理」と言います)技術が開発されつつあります。この処理方法が実現した時には地層から取り出して処理をし直すことも現実的な方法として考えられます。
技術は日進月歩ですから、地層処分に関しても、より安全性の高い処分方法が出てきた際にはそれが採用され易いような取り組みも続けておくことが肝要でしょう。
また、技術開発を行う際には、地層処分を受け入れようとする地域の発展に繋がるような取り組みが必要でしょう。廃棄物を受け入れる地域の地上設備の周辺に、このような新技術を開発する研究機関を残しながら実施すること等が現実的な地域振興策として考えることが出来ます。地域の発展に繋がるように、立地地域への産業立地を促すような政策誘導も必要でしょう。これらは、政府や原子力業界のみにまかせるのではなく、政治家の役割も期待されるところです
原子力反対派の脅しに惑わされること無く、今の世代が作り出してしまったゴミは今の世代で処理してしまうという大原則を全うするために、是非合理的な考えをもって、高レベル廃棄物の処分をどのようにすれば良いか、考えて頂きたいと思います。 (記 吉村元孝 伊藤英二)
参考までに、現在諸外国で進められている廃棄物処分の方針を表に示します。多くの国では処分のし直し(可逆性、回収可能性)も視野に入れているようです。
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印刷(pdf)はこちらから IOJだより pdf一部マスコミは「トイレなきマンション」という短絡的な表現で、いたずらに地域の人や一般の人々の不安を煽っています。高レベル廃棄物の処分をどのようにすればよいかを考えてみたいと思います
人間が活動をすれば、どうしてもゴミが出てきてしまいます。それは家庭の台所でも同じことです。
原子力発電所のゴミは、放射線のレベルは高いのですが、遮蔽して貯蔵すれば人体や地球環境に影響を与えないように安全に管理あるいは処分することが可能です。
原発反対派や一部マスコミは、「トイレなきマンション」という短絡的な表現で、いたずらに地域の人や一般の人々の不安を煽っています。今の世代が作り出してしまったゴミは、今の世代で処理してしまうという大原則を全うするために、ぜひ合理的な考えをもって高レベル廃棄物の処分をどのようにすればよいかを考えてみたいと思います。
国は2050年までに炭酸ガスの排出を80%減らすと言っています。炭酸ガスは発電だけで出てくるものではなくて熱源や燃料などでもかなり出てくるのですが、発電だけを取り上げてみてもこれを実現するためには、省エネや再生可能エネルギーで対応するのはとても無理です。原子力発電を大幅に拡大しなければなりません。
その理由は明らかなのです。電気を使おうとすると、廃棄物が出ます。100万KWの原子力発電所から出る廃棄物(ガラス固化体)とLNG火力発電から出る二酸化炭素の年間の重量を比較すると、
原子力発電所からは約15トン(0.5トンのガラス固化体が30本)、
LNG火力発電所からは約4200トン(0.476g/KWh×100万KW×8760)
となり、単純比較にはなりませんが、LNG火力発電所は原子力発電所の280倍のゴミを出すのです。二酸化炭素は空に捨てていますから実感に乏しいかもしれませんが、地球温暖化の元凶であり、世界中が排出を減らそうとしているのです。そして、数10年後には二酸化炭素の大気への排出をゼロにする必要があるとされており、化石燃料を使わないか、排出する炭酸ガスを地下や海底に貯留しなければなりません。炭酸ガスを地中に貯留する技術を採用した場合には、それこそ大地震で大気中に一気に炭酸ガスが噴出する可能性を否定することのほうが難しいでしょう。
原子力発電所からのゴミはあとから説明するように放射線のレベルは高いのですが、まずその量が他の発電方式よりは極端に少なく、遮蔽して貯蔵すれば人体や地球環境にも影響を与えないように安全に管理あるいは処分することが可能です。
資源に乏しい日本の原子力利用の基本方針は、原子力発電を実施し、そこから出てくる使用済み燃料を再処理して有用な資源であるプルトニウムなどを取り出し、残りの高レベル放射性廃棄物は最終処分しやすいようにガラス固化体に溶融させて、処分に適する状態になるまで保管することとしています。
ガラス固化体とはどんなものかと云うと、図に示すような大きさで、10万世帯が一年間に消費する原子力発電による電力から発生する高レベル廃棄物は、このガラス固化体1本(500kg)に収まります。とてもわずかな量であることがお分かりになると思います。ただし、高レベル廃棄物を固化した物ですから、放射線レベルは高いですが、50年程度地上で安全に管理しながら冷却すると大幅に下がり、その後に地層中に処分することとしています。
その時の線量は容器表面で2.7mSv/hで緩衝材の表面では2.7μSV/h、そして80cmのコンクリートで囲えば、0.6μSV/hとなり、法律で管理を必要としないレベルに過ぎません。
このように50年も冷却し遮蔽すれば地上でも十分に放射能レベルは下がるのになぜ地層処分を考えるのでしょうか。
それは、廃棄物が管理する必要のないレベルに下がるのが数千年〜数万年もかかるので、その間に、例えば、世の中が移り変わり、当初予想も出来なかったような状況が生まれる可能性が否定できません。例えば、社会的/経済的な事情の悪化に伴い管理が難しくなったり、極端な自然事象やテロ等のリスクや不確実性も増大するかもしれません。廃棄物をこのような将来世代の負担になるような形で残すべきではないという考え方が国際的にも共通の考え方となっているのです。
そこで、高レベル廃棄物については、このような考え方から、日本や諸外国では、人による管理を将来の世代の人に託することなく、人的管理行わなくても安全に保管できる地層処分が検討されているのです。中でもフィンランド、スウェーデンでは最終処分地は選定され、建設、許認可の段階であり、フランスが精密調査、スイス、カナダが概要調査と先行し、英国、ドイツ、米国、日本等がこれに続いています。
製造直後にはかなり放射線の線量も温度も高く危険なので、十分遮蔽した施設で冷却します。その後出来るだけ人が近づかないように深い地層に処分しようとしています。
しかし、ガラス固化体本体の放射線レベルは高いですが、時間の経過と共にその危険性は薄れてゆきます。原子力発電所のように核反応が起こっている設備ではありませんし、溶融によって中身が放出されるような心配もありません。
そこで、考えなければならないのは固化体に融け込んでいる放射性物質が深い地下で地下水や地震などで浸み出し地上に出てこないかを確認すればよいわけです。 そこで、実際には有りえないような想定をして安全性の評価をし、安全な処分方法、場所を検討しているのです。
特に、日本は地震国、火山国ですので地層処分をするにしてもどこでも良いと云う訳にはいきません。そのため、活断層や火山活動を調査し、適地を探しているのです。
地層処分とはゴミを処分するわけですから、人情として自分の地域に置きたくないという反応が出てくるのは当然かもしれません。しかし、人間が活動をすればゴミはどうしても出て来てしまうのです。これを、安全に、人の生活に影響が出ないような形で処分するのが、人間の知恵というものでしょう。そのようにして考えられた合理的な処分方法が地層処分ということになります。
原子力発電利用をしている他の多くの国でも同じ状況です。
感覚的な「嫌な施設」という問題に加えて、反原子力の人々の合理的とはいえない反対の理屈によって、多くの人達が影響を受けています。彼等の主張はとても単純なのです。例えば「トイレ無きマンション用にトイレを作ろうとしている」と地域の人たちを煽って、処分場の立地を阻止しようとするのです。トイレが無ければいずれは原子力発電所を止めさせることができると信じているらしいのです。
あるいは、「放射性廃棄物は数万年も危険な状態が続くのであり、そのような危険な廃棄物を受け入れることは子孫に申し訳ない。絶対反対である」と情に訴えて反対してくるのです。
ほぼ永久に保管することが前提となる地層処分は、立地しようとする地域の選別作業をしようとしても、フィンランドの例を除いて、国民からの理解を得ることが難しく、難航しているのが現状なのです。
このような反原子力派の人々の活動が功を奏して、朝日新聞の調査によれば、図に示すように都道府県の4割が受け入れを拒否しているという残念な結果が得られています。
地層処分により将来の世代に負担を強いることなく、人間界から隔離できることがお分かり頂けたと思います。一方、地層処分と云いながら、数10年から100年は人的管理を併用する必要がありますので、この期間を有効利用して新技術の開発や適用をすることも考えられています。例えば、高速炉や加速器を使って廃棄物に含まれる高レベルの放射線を出す核種を消滅させる(「消滅処理」と言います)技術が開発されつつあります。この処理方法が実現した時には地層から取り出して処理をし直すことも現実的な方法として考えられます。
技術は日進月歩ですから、地層処分に関しても、より安全性の高い処分方法が出てきた際にはそれが採用され易いような取り組みも続けておくことが肝要でしょう。
また、技術開発を行う際には、地層処分を受け入れようとする地域の発展に繋がるような取り組みが必要でしょう。廃棄物を受け入れる地域の地上設備の周辺に、このような新技術を開発する研究機関を残しながら実施すること等が現実的な地域振興策として考えることが出来ます。地域の発展に繋がるように、立地地域への産業立地を促すような政策誘導も必要でしょう。これらは、政府や原子力業界のみにまかせるのではなく、政治家の役割も期待されるところです
原子力反対派の脅しに惑わされること無く、今の世代が作り出してしまったゴミは今の世代で処理してしまうという大原則を全うするために、是非合理的な考えをもって、高レベル廃棄物の処分をどのようにすれば良いか、考えて頂きたいと思います。 (記 吉村元孝 伊藤英二)
参考までに、現在諸外国で進められている廃棄物処分の方針を表に示します。多くの国では処分のし直し(可逆性、回収可能性)も視野に入れているようです。
原子力発電所のゴミは、放射線のレベルは高いのですが、遮蔽して貯蔵すれば人体や地球環境に影響を与えないように安全に管理あるいは処分することが可能です。
原発反対派や一部マスコミは、「トイレなきマンション」という短絡的な表現で、いたずらに地域の人や一般の人々の不安を煽っています。今の世代が作り出してしまったゴミは、今の世代で処理してしまうという大原則を全うするために、ぜひ合理的な考えをもって高レベル廃棄物の処分をどのようにすればよいかを考えてみたいと思います。
1.原子力発電所からのゴミの量と質
国は2050年までに炭酸ガスの排出を80%減らすと言っています。炭酸ガスは発電だけで出てくるものではなくて熱源や燃料などでもかなり出てくるのですが、発電だけを取り上げてみてもこれを実現するためには、省エネや再生可能エネルギーで対応するのはとても無理です。原子力発電を大幅に拡大しなければなりません。
その理由は明らかなのです。電気を使おうとすると、廃棄物が出ます。100万KWの原子力発電所から出る廃棄物(ガラス固化体)とLNG火力発電から出る二酸化炭素の年間の重量を比較すると、
原子力発電所からは約15トン(0.5トンのガラス固化体が30本)、
LNG火力発電所からは約4200トン(0.476g/KWh×100万KW×8760)
となり、単純比較にはなりませんが、LNG火力発電所は原子力発電所の280倍のゴミを出すのです。二酸化炭素は空に捨てていますから実感に乏しいかもしれませんが、地球温暖化の元凶であり、世界中が排出を減らそうとしているのです。そして、数10年後には二酸化炭素の大気への排出をゼロにする必要があるとされており、化石燃料を使わないか、排出する炭酸ガスを地下や海底に貯留しなければなりません。炭酸ガスを地中に貯留する技術を採用した場合には、それこそ大地震で大気中に一気に炭酸ガスが噴出する可能性を否定することのほうが難しいでしょう。
原子力発電所からのゴミはあとから説明するように放射線のレベルは高いのですが、まずその量が他の発電方式よりは極端に少なく、遮蔽して貯蔵すれば人体や地球環境にも影響を与えないように安全に管理あるいは処分することが可能です。
2.原子力発電所のゴミはどのようなものなのでしょうか
資源に乏しい日本の原子力利用の基本方針は、原子力発電を実施し、そこから出てくる使用済み燃料を再処理して有用な資源であるプルトニウムなどを取り出し、残りの高レベル放射性廃棄物は最終処分しやすいようにガラス固化体に溶融させて、処分に適する状態になるまで保管することとしています。
ガラス固化体とはどんなものかと云うと、図に示すような大きさで、10万世帯が一年間に消費する原子力発電による電力から発生する高レベル廃棄物は、このガラス固化体1本(500kg)に収まります。とてもわずかな量であることがお分かりになると思います。ただし、高レベル廃棄物を固化した物ですから、放射線レベルは高いですが、50年程度地上で安全に管理しながら冷却すると大幅に下がり、その後に地層中に処分することとしています。
その時の線量は容器表面で2.7mSv/hで緩衝材の表面では2.7μSV/h、そして80cmのコンクリートで囲えば、0.6μSV/hとなり、法律で管理を必要としないレベルに過ぎません。
3.そもそも、なぜ地層処分しなければならないのか
このように50年も冷却し遮蔽すれば地上でも十分に放射能レベルは下がるのになぜ地層処分を考えるのでしょうか。
それは、廃棄物が管理する必要のないレベルに下がるのが数千年〜数万年もかかるので、その間に、例えば、世の中が移り変わり、当初予想も出来なかったような状況が生まれる可能性が否定できません。例えば、社会的/経済的な事情の悪化に伴い管理が難しくなったり、極端な自然事象やテロ等のリスクや不確実性も増大するかもしれません。廃棄物をこのような将来世代の負担になるような形で残すべきではないという考え方が国際的にも共通の考え方となっているのです。
そこで、高レベル廃棄物については、このような考え方から、日本や諸外国では、人による管理を将来の世代の人に託することなく、人的管理行わなくても安全に保管できる地層処分が検討されているのです。中でもフィンランド、スウェーデンでは最終処分地は選定され、建設、許認可の段階であり、フランスが精密調査、スイス、カナダが概要調査と先行し、英国、ドイツ、米国、日本等がこれに続いています。
4.地層処分をするにはどんな安全対策が必要なのか
製造直後にはかなり放射線の線量も温度も高く危険なので、十分遮蔽した施設で冷却します。その後出来るだけ人が近づかないように深い地層に処分しようとしています。
しかし、ガラス固化体本体の放射線レベルは高いですが、時間の経過と共にその危険性は薄れてゆきます。原子力発電所のように核反応が起こっている設備ではありませんし、溶融によって中身が放出されるような心配もありません。
そこで、考えなければならないのは固化体に融け込んでいる放射性物質が深い地下で地下水や地震などで浸み出し地上に出てこないかを確認すればよいわけです。 そこで、実際には有りえないような想定をして安全性の評価をし、安全な処分方法、場所を検討しているのです。
特に、日本は地震国、火山国ですので地層処分をするにしてもどこでも良いと云う訳にはいきません。そのため、活断層や火山活動を調査し、適地を探しているのです。
5.それでも地層処分は地域の人に理解が得られないのは何故でしょうか
地層処分とはゴミを処分するわけですから、人情として自分の地域に置きたくないという反応が出てくるのは当然かもしれません。しかし、人間が活動をすればゴミはどうしても出て来てしまうのです。これを、安全に、人の生活に影響が出ないような形で処分するのが、人間の知恵というものでしょう。そのようにして考えられた合理的な処分方法が地層処分ということになります。
原子力発電利用をしている他の多くの国でも同じ状況です。
感覚的な「嫌な施設」という問題に加えて、反原子力の人々の合理的とはいえない反対の理屈によって、多くの人達が影響を受けています。彼等の主張はとても単純なのです。例えば「トイレ無きマンション用にトイレを作ろうとしている」と地域の人たちを煽って、処分場の立地を阻止しようとするのです。トイレが無ければいずれは原子力発電所を止めさせることができると信じているらしいのです。
あるいは、「放射性廃棄物は数万年も危険な状態が続くのであり、そのような危険な廃棄物を受け入れることは子孫に申し訳ない。絶対反対である」と情に訴えて反対してくるのです。
ほぼ永久に保管することが前提となる地層処分は、立地しようとする地域の選別作業をしようとしても、フィンランドの例を除いて、国民からの理解を得ることが難しく、難航しているのが現状なのです。
このような反原子力派の人々の活動が功を奏して、朝日新聞の調査によれば、図に示すように都道府県の4割が受け入れを拒否しているという残念な結果が得られています。
6.むすび
地層処分により将来の世代に負担を強いることなく、人間界から隔離できることがお分かり頂けたと思います。一方、地層処分と云いながら、数10年から100年は人的管理を併用する必要がありますので、この期間を有効利用して新技術の開発や適用をすることも考えられています。例えば、高速炉や加速器を使って廃棄物に含まれる高レベルの放射線を出す核種を消滅させる(「消滅処理」と言います)技術が開発されつつあります。この処理方法が実現した時には地層から取り出して処理をし直すことも現実的な方法として考えられます。
技術は日進月歩ですから、地層処分に関しても、より安全性の高い処分方法が出てきた際にはそれが採用され易いような取り組みも続けておくことが肝要でしょう。
また、技術開発を行う際には、地層処分を受け入れようとする地域の発展に繋がるような取り組みが必要でしょう。廃棄物を受け入れる地域の地上設備の周辺に、このような新技術を開発する研究機関を残しながら実施すること等が現実的な地域振興策として考えることが出来ます。地域の発展に繋がるように、立地地域への産業立地を促すような政策誘導も必要でしょう。これらは、政府や原子力業界のみにまかせるのではなく、政治家の役割も期待されるところです
原子力反対派の脅しに惑わされること無く、今の世代が作り出してしまったゴミは今の世代で処理してしまうという大原則を全うするために、是非合理的な考えをもって、高レベル廃棄物の処分をどのようにすれば良いか、考えて頂きたいと思います。 (記 吉村元孝 伊藤英二)
参考までに、現在諸外国で進められている廃棄物処分の方針を表に示します。多くの国では処分のし直し(可逆性、回収可能性)も視野に入れているようです。