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SEJ 日本のエネルギーを考える会

96号 原子力発電所を地域活性化の起爆剤に


カテゴリ:  原子力政策    2014-6-10 10:50   閲覧 (3112)
全原発が停止して久しくなりますが、立地地域における再稼動の要求は切実なも のがあります。再稼動を果たして、地元に直接安い電気を供給する、交付金の活用などで立地地 域を活性化することは決してできないことではありません。
はじめに
我が国の貿易赤字額が、13年度には13兆7千億円となったが、その大半は化石燃料の輸入代であり、残りの赤字の大半は製造業の海外移転に伴う製品輸入代であるという。原子力発電所が稼働しないと、消費者の支払う電気料金が増えるだけでなく、電力コスト増に伴う我国内製造コストの押し上げによって、製造業が安価な製造コストを求めて海外に製造拠点を移転するという傾向に拍車がかかっているのである。このような現状から、原子力発電所の再稼働を求める声は強く、来る5月末から6月初めにかけて全国各地で、再稼働を求める大規模集会が開かれるという。

原子力立地地域の繁栄を考える
その再稼働を求める声は大きく分けて二つあり、一つは、電力コスト高騰に悩む経済界、並びに一般消費者からであり、もう一つは原子力発電所が稼働しないことによって定検作業関連の仕事、業種が減るために地元産業が衰退し、失業者が増加する、或いは宿泊、飲食業などの三次産業に客が来ないために不況になっている原子力発電所立地地域からである。
原子力発電所立地地域の再稼働の要求は、切実なものであるが、別の目で見ると原子力発電所の立地地域への貢献が、三次産業的なものに留まっているということは、地元に千億円単位の巨額な設備投資をし、重要なベースロード電源を担っている原子力発電のエネルギー供給での枢要な位置から考えると、いささか残念な気がしてならない。

この際、原子力発電所が真に立地点の繁栄に、もっと貢献するためにはどうしたらよいのかということを、抜本的に考える良い機会としたい。
つまり、これまでのような迷惑施設の設置に対する補償金的なものを電源三法を通じて支払うという従来の発想にとらわれるのではなく、原子力発電所の立地地域が原子力発電所の存在によるメリットを直接享受できるようにすることである。具体的には、原子力発電所で発電された電気を、給付金方式ではなく、直接、安価に立地地域に供給、配電することである。
原子力発電所構内には、必ず変電所があるので、一部に改修、追加工事をすれば、地元供給用の設備を設置出来る。定検などで発電しないときは、系統側から逆送すれば良い。原子力発電所がすぐ近くにあっても、そこで発電された電気は、地元を素通りして、そのまま遠く離れた電力大消費地に送電されていたのが、このようにすることで、原子力発電所で発電される電気を実感できるので、原子力発電所に対する親近感がわく効果も期待出来よう。そして、原子力発電所の電気が安価に使えるので、例えば、電炉産業のような電力多消費産業、或いは野菜栽培用の大規模植物工場の様な新しい農業、産業が進出し、その結果、人口、雇用が増えれば、立地地域にとって好ましいことになる。

つい最近発表された日本創成会議・人口減少問題検討分科会の資料によると、原子力発電所が立地する全国17自治体(福島県内を除く)の内、12自治体が2040年までに人口維持が困難になるとの予測結果もあるので、人口維持対策は現時点から重要である。



ちょうど今、電気事業法を改定して大きく電力自由化に踏み出そうとしている時に、立地地域に本当の意味で貢献するような電気事業体制、供給体制等の見直しにつながる方策を考え出すべき良い機会ではないのか。

交付金の用途
現状でも、都道府県内の発電電力量が消費電力量を1.5倍以上上回っている等の条件を満たす電力移出県に対しては、電源三法により販売電力量1KWh当たり37.5銭徴収されている税金を原資として(ちなみに、再生可能エネルギー発電促進賦課金は75銭/KWh)、「想定発電電力量等の1/3+実績(2年前)発電電力量2/3」より求めた発電電力量を基に、移出電力量を算出して、それに28円/MWhを交付単価として交付限度額を算定して、各種の交付金が交付されている(平成22年度予算の総計1248億円)。
3.11以前の原子力発電が通常ペースで行われていた時期の全国の電力移出県ごとの交付金一覧表を示す(下図参照)。この制度はすっかり定着しており、地方自治体の財政上、非常に貢献し、成果も上がっている。
原子力発電所所在県では、手厚く交付されて、この交付金の用途は広範囲に亘っており、箱モノだけに使われているのではなく、医学部生への修学金貸与、保育事業の送迎補助、漁業取締船の建造費、鳥獣被害防止用恒久金網柵設置、予防接種事業など、立地県内に対して広範囲に貢献しているのだが、意外と知られていない実態でもある。


立地地域の電力料金に対する補助にも使用されており、住民、企業の口座に、原子力発電所の出力、発電所からの距離に応じて県の定める給付金を振り込む方式をとっている。例えば、新潟県での平成19年度での予算は約63億円であり、柏崎市では月額1576円となっており、我国の標準的な一家庭当たりの支払い電気料金約8千円の約2割となっている。又、企業に対しては、工場の新増設の場合に、雇用創出効果がある場合にも交付金が出る制度もある。

立地地域に企業を誘致するには
立地地域近傍には殆ど、工業団地があるが、必ずしも企業の誘致がうまくいっている訳ではない。このように一種の電力料金割引制度があるにもかかわらず、立地地域に電力多消費産業が進出して活躍している例は殆どないのが実情であろ
う。
一つの原因は、現状の電気事業法では、電気料金の公平性が義務付けられ、立地地域だからといって割引制度を適用することができなかったため、国、自治体、(財)電源立地センター等を経由して交付業務を行う複雑なシステムとなった経緯がある。この制度も、第一次石油危機後に創設され、今年で40年目を迎え、それなりの実績、効果を上げてきたが、全原子力発電所停止という未曽有の事態を契機として、この際、大改定を検討してもよい時期である。

原子力発電所近傍に直接、原子力発電所からの電力を供給することは、一種の地産地消であり、長距離の送電コストがかからないので、その分安価な電力を使用できるメリットがあるが、魅力的なものとするためには3割引き、4割引きといった思い切った割引にする必要があろう。
当然、その費用をどう賄うかであるが、まずは電源三法の交付金を見直しして原資とすればよいが、割引対象、率にもよるが、不足する場合は、国策民営的な性格を有する原子力発電であるので、国の負担も考えねばならないだろう。地元の原子力発電所で発電された電気が、地元で割安で使用できるという姿は、電力会社に対する親近感を生むという効果も期待できる。東電は供給区域外に原子力発電所があるので、東北電力に宅配を代行してもらうか、或いは小売り自由化の制度を利用することが出来よう。

又、日本原電は一般電気事業者ではないので、日本原電という背番号を付けた形での消費者に直接、売電できるような制度も考えなければならないであろうが、新制度の目的、貢献度を考えた場合は、出来ないことではないだろう。六ヶ所の核燃施設、もんじゅ等の研究開発施設も然りである。
火力、水力発電所の立地地域にもこのような優遇措置をという声が出てきそうであるが、3.11後の原子力発電所の防災計画では、詳細、具体的なものとなっており、定期的な避難訓練などを行うことが義務付けられる。工場の操業中の避難訓練などは、一時的に操業を停止することになるので、それに対する補償措置的な意味合いもあるため、原子力発電所立地地域のみの適用である合理的理由づけができる。

まとめ
いささか刺激的な提言であるが、立地地域の活性化とは、人口増による産業活動の活性化、税収入増ということであれば、地産地消方式で原子力発電所近傍の住民、企業の電力料金に割引制度を設けて優遇することにより、住民の生活環境の向上、企業誘致に役立ち、結果として立地地域の過疎化を防ぐことにもなり、立地地域と電力会社がウィンーウィンの関係を構築できる出発点ともなるであろう。
現在、進められている電力自由化の制度設計において、民間である電力会社での原子力の位置づけが不明確ではあるものの、安定した原子力発電を維持するためには、本提言の様な視点が必要であることを力説したい。
(A.Y.記)
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96号 原子力発電所を地域活性化の起爆剤に


カテゴリ:  原子力政策    2014-6-10 10:50   閲覧 (3112)
全原発が停止して久しくなりますが、立地地域における再稼動の要求は切実なも のがあります。再稼動を果たして、地元に直接安い電気を供給する、交付金の活用などで立地地 域を活性化することは決してできないことではありません。
はじめに
我が国の貿易赤字額が、13年度には13兆7千億円となったが、その大半は化石燃料の輸入代であり、残りの赤字の大半は製造業の海外移転に伴う製品輸入代であるという。原子力発電所が稼働しないと、消費者の支払う電気料金が増えるだけでなく、電力コスト増に伴う我国内製造コストの押し上げによって、製造業が安価な製造コストを求めて海外に製造拠点を移転するという傾向に拍車がかかっているのである。このような現状から、原子力発電所の再稼働を求める声は強く、来る5月末から6月初めにかけて全国各地で、再稼働を求める大規模集会が開かれるという。

原子力立地地域の繁栄を考える
その再稼働を求める声は大きく分けて二つあり、一つは、電力コスト高騰に悩む経済界、並びに一般消費者からであり、もう一つは原子力発電所が稼働しないことによって定検作業関連の仕事、業種が減るために地元産業が衰退し、失業者が増加する、或いは宿泊、飲食業などの三次産業に客が来ないために不況になっている原子力発電所立地地域からである。
原子力発電所立地地域の再稼働の要求は、切実なものであるが、別の目で見ると原子力発電所の立地地域への貢献が、三次産業的なものに留まっているということは、地元に千億円単位の巨額な設備投資をし、重要なベースロード電源を担っている原子力発電のエネルギー供給での枢要な位置から考えると、いささか残念な気がしてならない。

この際、原子力発電所が真に立地点の繁栄に、もっと貢献するためにはどうしたらよいのかということを、抜本的に考える良い機会としたい。
つまり、これまでのような迷惑施設の設置に対する補償金的なものを電源三法を通じて支払うという従来の発想にとらわれるのではなく、原子力発電所の立地地域が原子力発電所の存在によるメリットを直接享受できるようにすることである。具体的には、原子力発電所で発電された電気を、給付金方式ではなく、直接、安価に立地地域に供給、配電することである。
原子力発電所構内には、必ず変電所があるので、一部に改修、追加工事をすれば、地元供給用の設備を設置出来る。定検などで発電しないときは、系統側から逆送すれば良い。原子力発電所がすぐ近くにあっても、そこで発電された電気は、地元を素通りして、そのまま遠く離れた電力大消費地に送電されていたのが、このようにすることで、原子力発電所で発電される電気を実感できるので、原子力発電所に対する親近感がわく効果も期待出来よう。そして、原子力発電所の電気が安価に使えるので、例えば、電炉産業のような電力多消費産業、或いは野菜栽培用の大規模植物工場の様な新しい農業、産業が進出し、その結果、人口、雇用が増えれば、立地地域にとって好ましいことになる。

つい最近発表された日本創成会議・人口減少問題検討分科会の資料によると、原子力発電所が立地する全国17自治体(福島県内を除く)の内、12自治体が2040年までに人口維持が困難になるとの予測結果もあるので、人口維持対策は現時点から重要である。



ちょうど今、電気事業法を改定して大きく電力自由化に踏み出そうとしている時に、立地地域に本当の意味で貢献するような電気事業体制、供給体制等の見直しにつながる方策を考え出すべき良い機会ではないのか。

交付金の用途
現状でも、都道府県内の発電電力量が消費電力量を1.5倍以上上回っている等の条件を満たす電力移出県に対しては、電源三法により販売電力量1KWh当たり37.5銭徴収されている税金を原資として(ちなみに、再生可能エネルギー発電促進賦課金は75銭/KWh)、「想定発電電力量等の1/3+実績(2年前)発電電力量2/3」より求めた発電電力量を基に、移出電力量を算出して、それに28円/MWhを交付単価として交付限度額を算定して、各種の交付金が交付されている(平成22年度予算の総計1248億円)。
3.11以前の原子力発電が通常ペースで行われていた時期の全国の電力移出県ごとの交付金一覧表を示す(下図参照)。この制度はすっかり定着しており、地方自治体の財政上、非常に貢献し、成果も上がっている。
原子力発電所所在県では、手厚く交付されて、この交付金の用途は広範囲に亘っており、箱モノだけに使われているのではなく、医学部生への修学金貸与、保育事業の送迎補助、漁業取締船の建造費、鳥獣被害防止用恒久金網柵設置、予防接種事業など、立地県内に対して広範囲に貢献しているのだが、意外と知られていない実態でもある。


立地地域の電力料金に対する補助にも使用されており、住民、企業の口座に、原子力発電所の出力、発電所からの距離に応じて県の定める給付金を振り込む方式をとっている。例えば、新潟県での平成19年度での予算は約63億円であり、柏崎市では月額1576円となっており、我国の標準的な一家庭当たりの支払い電気料金約8千円の約2割となっている。又、企業に対しては、工場の新増設の場合に、雇用創出効果がある場合にも交付金が出る制度もある。

立地地域に企業を誘致するには
立地地域近傍には殆ど、工業団地があるが、必ずしも企業の誘致がうまくいっている訳ではない。このように一種の電力料金割引制度があるにもかかわらず、立地地域に電力多消費産業が進出して活躍している例は殆どないのが実情であろ
う。
一つの原因は、現状の電気事業法では、電気料金の公平性が義務付けられ、立地地域だからといって割引制度を適用することができなかったため、国、自治体、(財)電源立地センター等を経由して交付業務を行う複雑なシステムとなった経緯がある。この制度も、第一次石油危機後に創設され、今年で40年目を迎え、それなりの実績、効果を上げてきたが、全原子力発電所停止という未曽有の事態を契機として、この際、大改定を検討してもよい時期である。

原子力発電所近傍に直接、原子力発電所からの電力を供給することは、一種の地産地消であり、長距離の送電コストがかからないので、その分安価な電力を使用できるメリットがあるが、魅力的なものとするためには3割引き、4割引きといった思い切った割引にする必要があろう。
当然、その費用をどう賄うかであるが、まずは電源三法の交付金を見直しして原資とすればよいが、割引対象、率にもよるが、不足する場合は、国策民営的な性格を有する原子力発電であるので、国の負担も考えねばならないだろう。地元の原子力発電所で発電された電気が、地元で割安で使用できるという姿は、電力会社に対する親近感を生むという効果も期待できる。東電は供給区域外に原子力発電所があるので、東北電力に宅配を代行してもらうか、或いは小売り自由化の制度を利用することが出来よう。

又、日本原電は一般電気事業者ではないので、日本原電という背番号を付けた形での消費者に直接、売電できるような制度も考えなければならないであろうが、新制度の目的、貢献度を考えた場合は、出来ないことではないだろう。六ヶ所の核燃施設、もんじゅ等の研究開発施設も然りである。
火力、水力発電所の立地地域にもこのような優遇措置をという声が出てきそうであるが、3.11後の原子力発電所の防災計画では、詳細、具体的なものとなっており、定期的な避難訓練などを行うことが義務付けられる。工場の操業中の避難訓練などは、一時的に操業を停止することになるので、それに対する補償措置的な意味合いもあるため、原子力発電所立地地域のみの適用である合理的理由づけができる。

まとめ
いささか刺激的な提言であるが、立地地域の活性化とは、人口増による産業活動の活性化、税収入増ということであれば、地産地消方式で原子力発電所近傍の住民、企業の電力料金に割引制度を設けて優遇することにより、住民の生活環境の向上、企業誘致に役立ち、結果として立地地域の過疎化を防ぐことにもなり、立地地域と電力会社がウィンーウィンの関係を構築できる出発点ともなるであろう。
現在、進められている電力自由化の制度設計において、民間である電力会社での原子力の位置づけが不明確ではあるものの、安定した原子力発電を維持するためには、本提言の様な視点が必要であることを力説したい。
(A.Y.記)
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