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SEJ 日本のエネルギーを考える会

SEJだより  第28号 太陽光発電の希薄性と緯度依存性から見た制約


カテゴリ:  エネルギー » 再生可能エネルギー    2022-12-30 14:21   閲覧 (876)

地球表面積当たりの太陽エネルギーは極めて希薄であり、発電設備の設置には広大な土地を必要とする。SEJだよりでは、これまでに土地利用にともなう環境破壊が現実性を帯びていること、更には営農型など農地利用の太陽光発電が食料自給率の低下につながる懸念があることなどを明らかにしてきた。
太陽光発電のエネルギー入力は太陽と発電地点の位置関係で決まる日射量である。この日射量は地球の自転、自転軸の傾き、公転にともない変動する。この変動特性は地球科学に起因する本質的なものである。実際の変動はこの特性に気象要因が加わる。この結果、太陽発電には次のような制約が課される。
 地球表面積あたりの日射量には、本来希薄な太陽輻射エネルギーにさらに天候等による減少が加わり、希薄性が増大する
 この結果、太陽光発電設備には広大な設置面積を必要とする
 我が国のような中緯度地域では、冬は夏の約5割減という年一回の季節変動が生ずる
 夏の発電量を蓄電により冬に充当するには、蓄電設備の投資回収が困難である
これらの制約を課す本質的な特性を以下に詳述する。

1.地球表面で受光する日射量は太陽輻射エネルギーの2割以下
太陽と地球との距離を半径とする球面の面積当たりの太陽輻射エネルギー(S)は1.37kW/m2である。これに地球の断面積(地球半径をRとすればπR2)を乗じたものが、地球への太陽エネルギーの総入射量となる。
地表面(表面積4πR2)が受光する太陽エネルギー(E)は地球大気や地表面からの散乱、反射(反射率Aは約30%)を差引き、下記により求めることができる。
E=(1−A)✕S✕πR2/4πR2=0.7✕1.37/4=0.24kW/m2
これが地球表面の平均的な太陽光からの受光エネルギー量であり、全て電気に変換し尽くした場合の最大値となる。
実際の地表面では受光地域や昼夜の差、さらに天候により受光量は減少する。その結果、後述するように定格発電量に対し年間の発電量は概ね14%程度となり、設置面積当たりの発電量は0.1kW/m2程度と極めて希薄な電源と言える。


2.日射量の変動
1) 日中日照量変動・夜間はゼロ・定格出力は正午のみ

図1は昼夜が同時間となる春・秋分点における日中の日照量の変動である。正午の発電設備の出力を1kWとすると、1日当たりの累積発電量は約7.6kWhとなり、1日24時間定格発電した場合とくらべ、1日当たりの設備利用率は32%となる。
7.6kWh/1kW・24h=0.32(32%)
実際の設備利用率は天候により減少し、全国平均は10%〜18%程度となる。







2) 蓄電貯蔵困難な緯度への依存性・日照量と季節変動

図2は北回帰線上で夏至の正午の日照量を1とした場合の春秋分、夏至、冬至における各緯度の正午における入射量である。
北半球では緯度が高くなるほど発電量が低下するとともに、夏冬差が拡大する。




表1は北半球の緯度による夏冬比率を示し、関東から関西の太平洋岸地域の北緯35度圏では冬は夏の約5割に減少する。この5割という大規模な差を夏に蓄電、冬に放電して充当するために必要な蓄電への投資は回収が不可能と想定される。別の電源で補完するのが妥当と考える。










3) 気象条件を加えた実際の発電量の年間変動

太陽光発電量は発電地点の位置により定める条件に、雨天、曇天など気象現象とともに、大陸性気候、海洋性気候、乾燥地帯など地域特有の気候条件が加わる。
図3は我が国における2021年2月から22年1月までの1年間の全国平均の月間発電量と設備利用率である。
梅雨の影響もあり晴天の多い4〜5月が最大、最少は12月〜1月、年間平均は14%程度である。天候が良好な7〜8月が必ずしも高くないのは、パネルが高温になると発電量が低下することによるものであろう。
これらの影響を加えても、実際に5割程度の夏冬の差があることがわかる。


3.太陽光発電の設備利用率
火力や原子力発電では、点検や保守による停止期間を除き、通常定格出力で運転する。年間の定格総発電量に対する実際に発電した発電量を稼働率と呼んでおり、通常80〜90%程度である。
一方、太陽光発電は定格発電量で発電できるのは晴天の正午を中心とする時間に限られる。評価期間の発電量と、その期間定格出力で運転した発電量の比率を設備利用率と呼んでおり、次の式で算出する。
設備利用率=評価期間発電量/(発電設備定格出力✕評価期間)
通常報告されるのは評価期間を年間とする場合が多いが、図3のように月間の設備利用率の推移を見れば、前述のように太陽光の科学特性に依存する季節間変動の実体を評価することができる。


4.太陽光発電に必要な発電設備設置面積
環境省の令和3年の推計による太陽光発電設備の標準的な単位面積当たり発電量を下記に示す。
 戸建住宅棟以外の建物・地上設置等:0.111kW/m2
 戸建住宅:0.167kW/m2
一方、第6次エネルギー基本計画立案の際検討された、2050年度再生可能エネルギーによる発電比率5〜6割を目指す場合の太陽光発電設備導入量を260GWとした場合、約2300km2の設置面積が必要となる。これは耕地面積(約44,000km2)の約5%に相当する。また、太陽光発電や陸上風力発電設備を設置可能な場所は、耕地を含めた平地や丘陵地で国土面積(約3.73✕105km2)の約3割に限られよう。これらの地域はすでに居住、産業、流通、観光などに活用されている。食料自給率の低さを考えると耕地面積の転用はもとより、平地・丘陵地の活用にも限界があろう。
因みに太陽光発電設備の設置面積2300km2は、たとえば太平洋沿岸の陸域に、長さ1000km、幅2.3kmに太陽光パネルを敷き詰めた規模に相当する。エネルギー基本計画では太陽光に加え風力発電の大量導入も計画されている。風力発電の設置面積は0.01kW/m2程度で太陽光以上に希薄な電源である。陸上風力も太陽光と類似の場所で風況が良好な場所が選択されることになる。仮に2050年の導入規模を100GWとすればパネル設置の長さ1000kmのベルト地帯の幅が数倍必要となり、適切な設置場所の有無が導入量の限界となろう。


5.まとめ
発電地点の太陽光日射エネルギーの量やその希薄性と変動性は地球科学の本質的な特性により定まる。実際の発電量はこの本質的特性に加え、日々変動する気象現象により大きく低減する。これらの制約から必然的に広大となる太陽光発電の設置面積は、季節変動量と設置面積の許容限界を規定することになろう。
太陽光発電の約50%に及ぶ夏冬の季節変動は、高発電期の発電量で低発電期を賄うには規模が大きく、他電源に依存せざるを得ないであろう。同じような変動電源である風力発電で相殺するにしても相殺の可否は偶然に期待するしかなく、相殺による変動性の解消には限度がある。
これらの変動再エネは脱炭素電源として大きな役割を期待されており、我が国は世界に先駆けて技術開発と実用化に努めてきた。太陽光発電は低発電時の他電源による補完の有無に拘らず重要な電源であることに変わりはない。それにも拘らず近年は安価な外国製品に取って代わられるようになり、エネルギーの安全保障が懸念されるに至っている。早急に次の先端技術を開発、有意な地位を取り戻すことを期待したい。
なお太陽光電力で製造した水素で再発電するなど、太陽光発電の変動を補完する方式が検討されているが、最終的に得られるエネルギーと投入エネルギーの比率(エネルギー収支比)が減少するので適切な方法とは言い難い。資源量に限界があるにせよエネルギー収支の良好な水力、バイオや地熱と、一定規模を安定して供給できる原子力とを組み合わせて活用する方法が望ましい。
以上

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