第６次エネルギー基本計画において2050年カーボンニュートラルを目指して、太陽光発電の拡大が盛り込まれているが、適地の減少を考慮し農業と発電を両立させる「営農型太陽光発電」に期待が寄せられている。このような政策は、日本の厳しい農業状況の中で食料自給力向上と両立できるのであろうか？
2020年度の食料自給率はカロリーベースで37％、1965年度の73％から減少を続けており、2030年度に45％とする政府目標からは大きく隔たっている。一方、生産額ベースの自給率は67％である。日本の食料自給率がここまで下がってしまった要因は、消費面では肉やパンの需要が急激に増えていったこと、生産面では就農者数と農地の減少がある。品目別自給率によれば、現在、米の自給率はほぼ100％、いも類や野菜が高い。肉や牛乳・乳製品はある程度の自給水準にあるが、飼料をほぼ全量輸入に頼っているので途絶すれば表の( )内の数字のように非常に低い値になる。主要先進国と比べると、欧州各国は日本に比べてはるかに高い自給率を示していることが分かる 2019年時点での農地は468.4万haで、約41%は中山間地域にあり、機械化と効率化が難しい。うち耕地面積は440万haでピーク時の７割程度までに減った。農地の中で荒廃農地は神奈川県の面積とほぼ同じ28.4万ha（農地の6.１％）に上り、そのうち再生可能は9.1万ha、再生困難は19.2万haである。再生利用可能な農地の割合は10年前の53％から32％に低下した。農地荒廃となる要因は、土地の面では山あいや谷地田など自然条件が悪いこと、人の面では高齢化や後継者不足があげられる。農業就業人口の減少も著しく2019年168万人と2000年389万人から半減した。うち65歳以上が7割を占める。農業就業人口は減少を続けているが、法人組織としての農家は年々増加し、また耕地面積でも一経営体当たりの耕地面積は徐々に増加している。 促進に向けての施策の動向：「営農型太陽光発電（ソーラーシェアリング）」は適切な遮光率と架台設計により適した植物の選定が重要である。設置には農地法に基づく一時転用の許可が必要であるが、2018年に一時転用期間が３年以内から10年以内に延長された。2020年度末に営農型太陽光発電の運用について、「周辺の農地の平均水準と比べ8割以上」とされてきた単収要件が、荒廃農地については撤廃され、農地が適正かつ効率的に利用されているか否かによって判断するように見直された。これにより、荒廃農地での設置のハードルが低くなった。FIT制度では近年全量買い取り条件に制限が設けられるようになっているが、2020年度から地域活用要件の例外として特定営農型太陽光発電という枠が設定され、3年以上の一時転用許可を受ける場合には低圧規模でも全量買取が適用されている。 そこで想定されているように地上設置分を営農型太陽光発電で賄おうとし、基本政策分科会での想定数字0.5MW/haを用いると30.4万ha(全農地468万haの6.5％)の農地が必要になる。予想される発電量は1,730億kWhで、これは第6次エネルギー基本計画において2030年に想定される発電量の約17％、2050年発電量の12％程度となる。一方再生困難な荒廃農地は前述のように19.2万haで、仮にここで営農型太陽光発電を行うとすると96GW分を設置できるに過ぎないことになる。
食料はエネルギーと並んで国の安全保障に関わる重要問題である。日本の2020年における食料自給率は37％で長期にわたり低下傾向が続いている。国内または国外の農業生産が異常気象、火山噴火、病虫害、紛争等により極端に低下する事態は過去に何回も経験している。このような非常時においては、今より高い代金を払って輸入する、あるいはそもそも食料が輸入できない事態も起こりえるが、それへの備えを持っていなければならない。
一方第６次エネルギー基本計画において2050年カーボンニュートラルを目指して、再エネ特に太陽光発電の拡大が盛り込まれている。近年適地の減少の影響もあり、農地へ太陽光パネルを設置することにより農業と発電を両立させる「営農型太陽光発電」に期待が寄せられており、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において「荒廃農地の活用等による営農型太陽光発電の導入拡大策の強化」が掲げられている。このような政策は、上述のような日本の厳しい農業状況の中で食料自給力向上と両立できるのであろうか？またどの程度の発電量が期待できるのであろうか？
これらの問題に関する情報を整理するとともに、どのような課題が顕在化しているのか、どうすれば良いのかを検討してみた。
2. 日本の食料自給状況
３. 日本の農業の状況
４. 営農型太陽光発電
促進に向けての施策の動向：
導入状況：
営農型太陽光発電設備を設置するための農地転用許可実績は2019年度までに2,653件、742ha（1ha当たり500kWとすると発電容量は37万kW）である。下部農地での栽培作物は米・麦は少なく、特定の野菜や観賞用植物が多くなっており、作付けが多い順にミョウガ、榊（サカキ）、水稲となり、その他ほうれん草、レタス、じゃがいも等日照が少なくとも生育する植物が栽培されており、食料自給率向上につながる作物は少ない。
太陽光発電量の試算：
現在までに約56ＧＷの太陽光発電設備が導入された。これに対し経産省は５月、2050年電源ミックスの発電電力量の「参考値」1.3〜1.5兆kWhを達成するためには2050年までに260〜370ＧＷ規模の太陽光が必要との見方を示した。約370ＧＷの太陽光発電導入のためには屋根置き型107ＧＷ、地上設置型152ＧＷ、メガソーラー発電所110ＧＷ程度が必要と見積もられている（基本政策分科会第43回資料1）。
5．まとめ
狭義の意味での食の安全保障は、国内外の万一の異常事態に備えて一定の栄養価の食料を提供できることである。広義の意味は、通常時において国民に高品質で低廉な食物を提供できることであり、食のカロリー需要を満たすことに限定されるものではない。
・狭義の食の安全保障に直結するカロリーベースの食料自給率は漸減傾向が続き、目標の45％には今後とも届きそうもなく、米作に大きく偏っている。
・広義の安全保障に関わる生産額ベースの自給率は67％で一見高いように見えるが、輸入が困難な野菜や果物、飼料を輸入に頼っている肉類が多いためで、国民は高い食料費を負担していることになる。
・自給率が下がった原因は国民の食生活の変化と農地と就農者の減少によるところが大きい。
・営農型太陽光発電は緒についた段階であるが、自給率向上に寄与する作物は極めて少ない。
・2050年での電力のベストミックスの「参考値」を満足するために仮に設定されている「営農型太陽光発電」の設備容量152GWの実現性は極めて困難である
6．考察
今後の農業の在り方を営農型太陽光発電との関連も含めて考えてみる。
�ゞ控舛凌�の安全保障に関しては、麦や畜産飼料用も含む大豆、トウモロコシ等の拡大を図るべきである。就農者の減少に対応し生産性を高めるためには大規模化が不可欠である。海外の大規模農法による安価な作物輸入に対応するための方策として国産作物の買い取り保証も考えられる。営農型太陽光発電では大規模化は難しいので適応は無理であろう。
��農業規模の拡大とスマート化は生産性向上に寄与し、若者の期待にも合致すると考えられるので推進すべきである。その一環として現在進展中の農業法人化の拡大も望ましい方向といえる。
��今後貿易自由化の進展が予想される中で、自給率確保に伴う高い国産食物費負担と安い輸入品の拡大に伴う日本農業経営の困難さにどのように折り合いをつけるか大きな問題である。自給率の向上には直接つながらないが付加価値の高いブランド的作物を世界的嗜好に合わせて生産・輸出することも持続的農業経営の手段になり得るだろう。
�て�本の農業は農地の形態、気象・日照条件、就農者の状況によって大規模経営が困難な場合が多いと考えられる。この場合には太陽光パネル下で日照条件に適合する付加価値の高い作物を栽培するとともに、発電による収入を得ることは持続可能な農業を営むための一つの方策として考えられる。ただし単収の減少を極力少なくする必要がある。
�ス喃冉醒呂里Δ塑得減て颪杷醒呂箸靴禿�さなくなったものは、中途半端な農業は長続きしないので農地から外し、太陽光発電に当てた方が現実的だろう。
日本の農地が少ない宿命を克服するためにはより長期的な別の観点からは以下が考えられる。
(1)非常時の食の安全保障対策としてエネルギー作物の備蓄が考えられる。備蓄に適した改質方法や保管技術の開発を進めるべきであろう。
(2)農畜水産物の新たなニーズの掘り起こし、開発、生産性の向上を目指す。そのためにはバイオ技術も積極的に活用する。
(3)日本の太陽光発電は農地を潰して量を増やすのではなく、2050年に向けては高性能な太陽光パネルの開発・普及に注力すべきではないか！（ペロブスカイト型、量子ドット型、透過型等）
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