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SEJ 日本のエネルギーを考える会

SEJだより 第17号 太陽光発電の光と影-今のまま太陽光発電を拡大しても良いのか-


カテゴリ:  エネルギー » 再生可能エネルギー    2021-9-15 10:30   閲覧 (1546)

日本政府は、2050年にはカーボン・ニュートラルを目指すことを宣言した。これを実現するためには火力発電を最小限とし、原子力と再エネで賄う必要がある。なかでも太陽光発電の大幅な拡大を目指すには大きな問題を孕んでいる。河野総裁候補は脱原発の主張は取りやめ、再稼働は可とする主張に切り替えたが、2030年、2050年に向けては新規原発なしでは乗り切れない。最後の図参照

はじめに
日本は年10月に、2050年の時点でのカーボン・ニュートラルを目指すことを宣言した。これを実現するためには、まず電力供給において大量の炭酸ガスを排出する化石燃料の使用を最小限に抑える必要がある。この観点から、再生可能エネルギー、日本では特に太陽光発電に光が当てられており、政府もメガ・ソーラーなどの開発を強力に後押ししてきた。SEJも再生可能エネルギーの開発に否定的なわけではない。むしろ、大いに推進すべきであるとの考えであるが、電源構成を考える際には必ず全体とのバランスを取らなくてはならないと、IOJの時代から強く主張してきた。今の太陽光発電の偏重がどのような問題を孕んでおり、どのように解決すべきか考えてみたい。


1.太陽光発電偏重とは
太陽光発電がもてはやされてFITが採用されたことから、資産家は太陽光発電設備に投資をして大きな利益を享受し、全国民は割高な太陽光発電料金を賄うために再エネ発電促進賦課金を支払っている。太陽光発電が抱える問題点はこれまでにIOJで指摘してきたが、マスコミをはじめ官僚、国会議員まで問題点は無視をして良いところばかりを喧伝してきた。この結果、IEAの報告によると2019年にはついに日本での太陽光発電の累積設備容量は63GWほどになっており、これは世界第一位の中国の204.7GW及び第二位の米国の75.9GWに次ぐ第3位の容量となっている。


広大な土地と多くの人口を抱える両国と比較して、人口比及び狭い国土を考えるとこれがいかに突出した数値であるかが理解できよう。一方、再生可能エネルギーだけを考えてみても、太陽光以外に水力、地熱など日本にとってもっと採用されてしかるべき発電方式があるが、これらについては投下資本が大きいせいか、あまり力が入れられていない。また、脱炭素の切り札というべき原子力発電は人気取りしか考えない政治家や一般国民の反対意見に押されて減らす方向の話しか出てこない。



2.海外では太陽光は主力電源とはなっていない
太陽光の抱える問題点から、海外では太陽光発電を基幹電源に据えている国は皆無であるが、日本はその手軽さからか太陽光発電が脱炭素のためには最も良い発電方式だと思い込んでいる人が多いように見受けられる。太陽光発電の先進国としてよくドイツが引き合いに出されるが、実際は前出のIEAの報告では49.2GWと日本を下回っている上、産業用電力料金を低く抑えているために一般家庭では日本の2倍の料金を支払っており、大きな国内問題となっている。



3.太陽光発電の闇とは
太陽光発電の設置には広大な土地が必要となり、そのために日本では耕作放棄地をはじめ森林を伐採したり谷間に盛土をしたり、様々な環境破壊を行って太陽光発電設備の開発が行われてきた。今や日本中の土地がどのように使われているかグーグルなどの航空写真で詳細に見ることができる時代である。各地の太陽光発電設備が一目瞭然であるので、是非一度見て貰いたい。


その中にあるメガ・ソーラーと呼ばれる大規模発電設備には規制が適用されるが、50kw以下の設備は規制の対象外であるため、実際は大規模発電所と呼びうる設備を小分けにすることによって規制を逃れ、個人投資家などに販売するという悪徳商法も少なからず見受けられる。太陽光発電設備の脇に多数の受電設備を載せた電柱が立っているので、このように規制を逃れようとして小分けにした投資物件であることは素人にもわかる。太陽光発電所のそばを通りかかったらこのような目で見て貰いたい。
投資物件が全て杜撰な工事を行っていて災害を引き起こすとは言わないが、此れ等は有限責任の投資ファンドが運営しているので、なるべく安価に建設をし、投資家に高く販売しようとするのが常であり、不都合が起こりやすい。仮に発電事業が失敗しても、投資家が損をするだけでファンドは解散して終わりである。事業が失敗し放置された発電設備の周辺で災害が発生した場合にはさらに悲惨である。誰も責任を取る者がいない。


現に、日本各地で太陽光発電設備の開発への反対運動や制限を加える条例の制定などが見受けられるようになってきており、これ以上の大規模開発は差し控えるべき時が来ている。
日本の食糧自給率の低さ(約40%)についても注目すべきである。農家の高齢化が進む一方農地の集約は進まないために、耕作放棄地が増えてしまっている。これらの土地が太陽光発電事業者の餌食となっているというのは言い過ぎであろうか。北海道を除いて農産物の自給率が低く、60%もの食料を輸入に頼っている。食料自給率が低いまま地球規模の食糧危機が発生すれば、日本国民は直ちに飢餓に苦しむことになる。エネルギーの80%を輸入に頼っても何ら痛痒を感じないとして、エネルギー不足が起こった時には悲惨な状況が起こり得るという現実を見ようとしない国民であるから、農地がどの様な使われ方をしようが我関せずということか。農地の保全が極めて重要であり、太陽光発電などにこれ以上使ってはならないという危機感が必要ではないか。今後は建物の屋根に設置するなど、農地や国土の保全、環境破壊を防止する観点から、開発規制を適切に運用することが不可欠である。また、太陽光で発電された電力は地産地消という観点で活用すべきであろう。


4.実現可能な電源構成とは
私たちは、太陽光発電は不安定電源であるので、導入を支持はするがこれに過度に依存することは出来ないとたびたび主張してきた。雨天の日や夜には発電が出来ないので、その間の需要を補填する安定電源が必要である。現在は火力発電が調整の大部分を担っているが、このように利用されている火力発電が総発電量の75%以上を占めており、炭酸ガスを垂れ流している現実を直視すべきである。2050年を目指して、まず火力発電所での化石燃料の使用を可能な限り削減することに第一優先順位を与える必要がある。脱炭素がこれほどまでに重要になっている現状を鑑みると、再生可能エネルギーの利用を推進するとともに、原子力発電を真剣に復活させることが肝要であることは間違いないのではなかろうか。


福島事故の直前には、原子力発電が総需要量の約38%を供給していたわけで、ここまでの供給量を復活させることには今や技術的な障碍はほとんどない。それだけで化石燃料の使用を30%削減できることに目を向けるべきではないか。むしろ、太陽光発電だけで原子力が賄っていた電力を代替するという計画を立てるのは大変無責任である。夢物語のような新技術を当てにして長期計画を立てても、結局は絵に書いた餅を将来見ることになるだけであり、現実的な技術に基づき、実現可能性を見通した電源構成を今から念頭に入れて長期計画を策定すべきであろう。菅総理が総裁選には出馬しないとのことなので、現在議論されている第六次エネルギー基本計画も新政権によって結論が出されることになる。これが絵に描いた餅にならないように、しっかりと地に足の着いた計画を立てて貰いたい。

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