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SEJ 日本のエネルギーを考える会

SEJだより 第12号 宇宙開発をささえる原子力:第二報 ―超小型原子炉の驚異ー


カテゴリ:  原子力政策    2021-4-9 11:00   閲覧 (3006)


原子力の宇宙分野への活用は、超小型炉を開発することとなった。月や火星での地表面での活動と、深宇宙へのロボットによる探査に使うことを目指してNASA(米航空宇宙局)で鋭意進められている。実は超小型炉は、地球上でも分散電源として幅広く使えるのである。一方、ロシアは原子力インターステラー宇宙船の開発を公表した 1)

中国航天科技集団公司は、2040年までに原子力推進による再使用型の宇宙船を製造する計画を公表した 2) 。しかし、それ以上の具体的な情報はない。米国は2021年1月に

「国防と宇宙探査のための小型モジュール炉の推進について」とする大統領令(Executive Order 13972)が発出されている。それによるとまず原子力エネルギーは米国の国家安全保障にとって極めて重要であると位置づけられている。そのうえで、小型モジュール炉の開発は米国の宇宙探査を再活性化し、国家防衛上の需要に対する多様なエネルギーの選択肢を開発するための追加的なステップを取るためと記述している。宇宙での原子力の応用を考える場合、原子力推進と電源として使う場合の2種類がある。
 前報(SEJだより第10号)では、宇宙探査機の推進に使う核熱ロケットと原子力電池について説明した。本報では、宇宙(月や火星表面)でのミッション(月や火星表面でのミッション)を遂行する際に電源として使う超小型原子炉について述べる。


超小型原子炉(マイクロリアクター)とは


超小型炉のイメージを得るために前述の大統領令を見てみよう。小型モジュール炉は、発電出力が30万キロワット以下で、一般には工場で製造し、シリーズでの製作、建設期間の短縮などの経済性が見込める。マイクロリアクターは、トラック、船舶、大型軍用の輸送機で移動できるものを指す。また、迅速な配備と1年間の全出力運転後1週間で除去できるものとする。宇宙探査とは、宇宙での科学的及び資源探査並びに宇宙における運搬用インフラの整備と大統領令は記述している。
図1に出力の大きさによりどのような用途があるのかを示す。最近注目を浴びている小型モジュール炉(SMR)は中都市の規模の電源に適しているとされる。5万キロワット程度の炉はプロセス用熱源として、原子力船や原子力空母・潜水艦に使われている。1万キロワット以下の原子炉は、マイクロリアクター(超小型炉)に分類される。10,000キロワット程度だと、災害救助や分散型電源として用いられる。100キロワット以下の炉が、宇宙用の動力源として用いられる。そのうち10~100キロワットの原子炉が核熱推進や電気推進用の電源として用いられる。10キロワット程度の小出力は太陽系端部までの深宇宙の探査に使われる。宇宙用原子炉は圧力をかけずに冷却ができる冷却材を利用することが普通である。
宇宙炉の設計で求められる特性

宇宙炉の設計で考慮すべき特性は、以下の通りと考えられる。
(1)配備前後の炉の輸送性
(2)(ほぼ)真空中で、(ほぼ)ゼロ重力の下での熱の取り扱い
(3)(ほぼ)ゼロ重力下での流動
(4)地上から打ち上げることができ宇宙で組み立てることができる
    炉のサイズと重量
(5)宇宙空間での原子炉の冷却
(6)電力需要
(7)有人探査ミッションの一部として運転を可能にする安全性
(8)燃料交換なしに運転できる期間
(9)宇宙環境で利用できる炉機器の条件

火星等表面でのミッション用原子炉


NASAは、宇宙炉の開発をするためキロパワープロジェクトを実行している。対象は、火星と、月の様にさらに過酷な環境でも使用できるものを目指している。その目標は、コンパクトで、コストの安い、拡張性の高い、科学用及び有人探査用の原子炉システムを作ることとされている。そのうち電力への変換装置としてスターリングエンジンを採用したものをKRUSTY(Kilopower Reactor Using Stirling TechnologY)と呼ばれている。以下にその原子炉の概要を紹介する。
図2に深宇宙探査用の原子炉と火星表面での活動用に使われる原子炉の概念図を示す。
同図上部は、電気出力が1キロワットくらいで木星、土星、海王星などの深宇宙探査用の原子炉の概念図である。イオンエンジン用の電源や計測などのシステム用の電源として使われる。原子力電池より大きな出力が得られるのでより広範囲のミッションが可能となる。同図 下部は、電気出力が10キロワットで火星表面に到着した際に実施するミッション用の原子炉の概念図である。図の上の円盤状の部品は原子炉の冷却用のパネルである 3) 。宇宙空間に向けて熱輻射で放熱する。



図3は火星表面で調査活動と生活に使うために4基の原子炉をセットした様子を示す想像図である。
原子炉の諸パラメータを表2に示す。全体システムの重量は電気出力が1キロワットの場合、約400キログラム、10キロワットの場合、約1.5トンであることが表から分かる 4)



この原子炉の斬新とされる特徴は以下の通りである。原子炉の熱はナトリウムヒートパイプを使って発電機に伝える。発電方式としてはスターリングエンジンを使う。燃料としては濃縮度を軽水炉より上げたウラン235、減速材にモリブデンを使う。地上での実証試験として、以下の目標が設定されている。


1)ウラン―8モリブデン炉と構造がシンプルなスターリングエンジン
  との組み合わせのテスト
2)ヒートパイプ放熱器の国際宇宙ステーションでの実証試験
3)火星用10キロワット炉への拡張のための詳細概念設計

図5は同炉の炉心構造を示している。1キロワット炉は8本のヒートパイプ、10キロワット炉は24本のヒートパイプで冷却する 5)
2018年1月25日に超小型原子炉「キロパワー(Kilopower)」について、NASAが実験に成功と報じられた。
図6は実験状況を示す 6)



終わりに:宇宙用原子炉開発の先進性
2021年1月16日に英国宇宙局とロールスロイス社が提携、宇宙での原子力利用を研究すると発表した(ヤフーニュース)。英国宇宙局長官のグラハム・タ―ノック氏は宇宙探査における原子力について「火星以遠の深宇宙探査を可能とする画期的なコンセプトである」と述べ、ロールスロイス社の英国上級副社長のデーブ・ゴードン氏は、「宇宙で利用される将来の原子力技術を定義する先進的なプロジェクトに英国宇宙局と共に取り組むことができてうれしく思う」とコメントしたとのこと。英国もいよいよ宇宙への原子力利用を研究し始めたようである。それほど宇宙への原子力利用には先進性と実用性に関する魅力があるということでもある。上記概要から見た感じであるが、技術的には日本も実現可能と思われる。日本も本格的な研究開発への取り組みを開始してほしいものである。

キーワード sej 日本のエネルギーを考える会  宇宙探査  nasa 小型モジュール炉 スターリングエンジン  100キロワット 超小型炉

 

参考文献
1) https://news.nifty.com/article/item/netal/12262-128424/
2) https://jp.sputniknews/science/201711224299333/
3) P. Mcclure, A very small nuclear reactor for space applications, Los Alamos National Laboratory March, 2018.
4) Marc A. Gibson, Lee Mason et al. Development of NASA’s Small Fission Power System for Science and Human Exploration, AIAA Journal)
5) M. Houts, Space Reactor Design Overview, https://ntrs.nasa.gov/citations/20150021391, Presentation for the Massachusetts Institute of Technology.
6) https://www.gizmodo.jp/2018/01/kilopower-nasa-succeeded.html


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