はじめに
福島第一原子力発電所の事故から早くも4年以上が経過し、発電所周辺市町村の残留放射線は大幅に減少していて、帰還困難区域(5年を経過してもなお、年間積算放射線量が20mSvを下回らないおそれのある、計測時点で年間積算放射線量が50mSvを超える区域)
に指定されてしまっている大熊町、浪江町の一部などでも、いまや帰還が全く問題にならないレベルまで下がっている。それにも拘らず帰還が実現する兆候すら見られないのは、ひとえに放射線影響を研究している科学者たちの怠慢で、
事故当時政権を担っていた民主党が確たる理由も無く設定した1mSvという数値を否定せず、放置していることが根本的な理由であると考えていた。
ところが、2015年3月24日(火)に衆議院第一議員会館で終日掛けて開催された「第一回放射線の正しい知識を普及する研究会」に出席して有力な科学者たちの話を聞き、帰還が進まない大きな理由はやはりマスコミが公正、中立な報道を継続的に行わないからだとの思いを新たにした。
放射線影響の専門家の中には、この研究会で講演を行った高田純教授、モハン・ドス准教授、服部禎男氏、中村仁信名誉教授、ウェード・アリソン名誉教授の様に、日本の被曝線量基準が間違っており、早急に正すべきだとの意見を積極的に発信している人々が居るのである。この様な著名な方々が、科学的な根拠に基づいて福島住民の地元への帰還が問題ないということを公開で発表しているにも拘らず、この日の研究会に取材に来た新聞社は産経新聞だけ。NHKをはじめテレビ局は皆無。この様な不真面目な報道機関ばかりの日本の不幸が心から嘆かわしい。
報道機関がやらないのであれば、IOJがやるしかないと考え、当日の話でとりわけ興味深いものをいくつかここで紹介したい。
1.高田純(札幌医科大教授)
現場主義であり、積極的に汚染されていると言われている地域に出向くことにしている。2011年4月9日、10日と2日間浪江に滞在して自身の被曝線量を測った結果は、0.1mSvであった。この時に浪江の住民40名の被曝線量を測ったが、最大で8mSvであり、政府の推定が大きく間違っていることが実証出来た。
発電所の現場での最大被曝線量は東電社員が200mSv、自衛隊員が80mSvという数値も得られている。
チェルノブイリではメルト・ダウンが起こり消防士等30名余りが死亡したが、福島ではメルト・スルーしか起こっておらず、死者は居ない。
広島の原爆投下後の生存者78名の記録がある。彼等の平均被曝線量は2.8Svであったが死亡時の平均年齢は81歳であり、当時の平均寿命より長かった。同じく原爆投下後に電車内で被曝して生き残った人が居り、3.5以上4.5Sv未満の被曝があったと推定されているが、90歳代まで生き延びた。
ストロンチウムについて述べると、日本人は中国の核実験によって最大7mSv/年のストロンチウム90を長期間浴びてきたという事実もある。
ICRPでは、放射線従事者で年間50mSv、5年間の累積で100mSvを上限とする様に勧告しているが、日本ではこれを震災後1mSvという非科学的な数値にしてしまった。菅総理(当時)の指示した強制避難は全く不要だったと言わざるを得ない。
2.モハン・ドス(フォックス・チェイス・癌センター准教授)
現在の日本の被曝管理の根拠となっているLNT仮説は誤りであることは多くの専門家の指摘するところであるが、一方、放射線の専門家にとってこれを活かしておいた方が研究資金等を得やすいのでこれを変えようとしない研究者も多い。そのために、日本では不要なお金を掛けて除染が進められているのである。
海の希釈能力は大変高いので、現在程度の汚染が海に流れ出ても、反対派が主張するような食物連鎖による放射性物質の蓄積などあり得ない。
事故当時の日本の原子力安全委員会委員等は、文献のみの学習に終わっており、実態に対する注目が足りなかったと言える。
3.服部禎男(元電力中央研究所名誉特別顧問)
ホルミシス効果の研究の第一人者となっているが、元々は原子力災害対策研究が発端の安全研究者であった。
人間は60mSv〜600mSv程度の低線量を浴びると細胞が活性化し健康の増進に役立つ。250mSvのマウスへの照射で細胞膜の透過性が高まり20歳程度の若返り効果があることが分かっている。インシュリン、アドレナリン、βエンドルフィン等のホルモンの分泌の増加も確認されている。
カリウム40は4000Bq程度人体内に存在するが、この放射線は1.3百万エレクトロン・ボルトあり、この放射線がDNAに目覚まし効果を与えているのではないかと考えられている。
米国の原子力学会でカリウム40を含まないカリウムを製造し、これでマウスを育てたところ死んでしまったという実験結果もある。
4.中村仁信(大阪大学医学部名誉教授、放射線防護委員会の前委員長、ICRP元委員)
阪大名誉教授の近藤宗平氏は、年間30mSv、生涯600mSvを安全線量の上限としている。
政府は福島事故ののち周辺の空間線量を測り公表したが、110μSv/時が最大値であり、50〜60μSv/時の場所が数か所あった。これに対して政府は年間線量の計算時に屋外8時間、屋内16時間滞在を前提として、低減係数0.6を採用したために計算上110μSvの地点の線量を578mSv/年とした。しかし、現地で実測した数値によれば低減係数は0.05〜0.2の範囲内であったことが明らかになっている。政府は6倍大きく間違っていたのである。これから言えることは、誰も強制避難をさせる必要が無かったという事である。
5.ウェード・アリソン(オックスフォード大学名誉教授)
1987年にブラジルのゴイアニアの被曝事件というのがあった。閉鎖された病院の放射線機器からセシウム137を盗み出して多くの人に見せびらかした人が居り、249人がそれによって被曝したという事件であった。その結果4名が急性放射線症状(ARS)で死亡したが、それ以外に死亡した人はおらず、被曝時に妊娠していた女性も無事正常出産したという報告がある。また、被曝2年後に出産した女性も正常児を生んでいるという。
この様に大被害に至らなかった最大の理由は、低線量では被害は出ず、ある量を超えた時にだけ死亡に至るということが分かる。チェルノブイリ事故の死者は4000〜6000mSvを被曝しておりARSで死亡した。米国では紫外線によって皮膚がんを発症し7000人/年の死者が居る。
福島では、津波によって17000人余りが死亡したが、発電所の事故で死亡した人はいない。福島のセシウム137の放出量は12,000Bq程度であるが、ゴイアニアでは1億Bqであった。結果的に福島の被曝量はゴイアニアの1000分の1以下となる。
この研究会後、この日に講演を行った科学者5名は「放射線の正しい知識を普及する会」を通じて、以下のような提言を日本政府に対して提出している。
(以下同会のWebから引用)
****************************************
5人の科学者は、日本および世界が正しい放射線の知識を得て、社会の混乱を終息させるために、次のことを日本政府へ提案いたします。
1. 福島県民の低線量率放射線の事実と住民に健康リスクがないことの科学理解を、国内外へ普及するために、
日本政府は最大限努力する。
2. 全ての国民、そして特に福島県で強制避難している人たちに正しい放射線の情報と科学が届くように、科学
講習が受けられる環境を整えること。
3. 政治的判断で強制された食品中の放射能の基準を、前原子力安全委員会の指標による基準に戻すこと。
4. 福島20km 圏内の放射線の線量の現実的な評価をするために、専門科学者および、あるいは放射線管理官が
個人線量計を装着した形で、住民のように住宅に滞在したり暮らすことが許可されるべきである。
5. 福島第一原子力発電所20km 圏内のブラックボックス化した状況をあらため、浪江町で継続する和牛の飼育
試験の民間プロジェクト等の帰還へ前向きな取り組みを国としても認識し、支援すること。
6. 福島第一原子力発電所20km 圏内の地震津波で破壊されたインフラの早期な復旧を実現し、帰還希望者の受
け皿を整えること。
7. 日本の原子力施設は適切な改善がなされた後、可能なかぎり迅速に再稼働されるべきである。
**************************************
終わりに
IOJは、このような地道な活動を展開している科学者たちを積極的に支援し、現在の福島県を覆っている混迷から早く脱却出来るように活動を続けて行きたいと考えている。
(伊藤 英二 記)
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事故当時政権を担っていた民主党が確たる理由も無く設定した1mSvという数値を否定せず、放置していることが根本的な理由であると考えていた。
ところが、2015年3月24日(火)に衆議院第一議員会館で終日掛けて開催された「第一回放射線の正しい知識を普及する研究会」に出席して有力な科学者たちの話を聞き、帰還が進まない大きな理由はやはりマスコミが公正、中立な報道を継続的に行わないからだとの思いを新たにした。
放射線影響の専門家の中には、この研究会で講演を行った高田純教授、モハン・ドス准教授、服部禎男氏、中村仁信名誉教授、ウェード・アリソン名誉教授の様に、日本の被曝線量基準が間違っており、早急に正すべきだとの意見を積極的に発信している人々が居るのである。この様な著名な方々が、科学的な根拠に基づいて福島住民の地元への帰還が問題ないということを公開で発表しているにも拘らず、この日の研究会に取材に来た新聞社は産経新聞だけ。NHKをはじめテレビ局は皆無。この様な不真面目な報道機関ばかりの日本の不幸が心から嘆かわしい。
報道機関がやらないのであれば、IOJがやるしかないと考え、当日の話でとりわけ興味深いものをいくつかここで紹介したい。
1.高田純(札幌医科大教授)
現場主義であり、積極的に汚染されていると言われている地域に出向くことにしている。2011年4月9日、10日と2日間浪江に滞在して自身の被曝線量を測った結果は、0.1mSvであった。この時に浪江の住民40名の被曝線量を測ったが、最大で8mSvであり、政府の推定が大きく間違っていることが実証出来た。
発電所の現場での最大被曝線量は東電社員が200mSv、自衛隊員が80mSvという数値も得られている。
チェルノブイリではメルト・ダウンが起こり消防士等30名余りが死亡したが、福島ではメルト・スルーしか起こっておらず、死者は居ない。
広島の原爆投下後の生存者78名の記録がある。彼等の平均被曝線量は2.8Svであったが死亡時の平均年齢は81歳であり、当時の平均寿命より長かった。同じく原爆投下後に電車内で被曝して生き残った人が居り、3.5以上4.5Sv未満の被曝があったと推定されているが、90歳代まで生き延びた。
ストロンチウムについて述べると、日本人は中国の核実験によって最大7mSv/年のストロンチウム90を長期間浴びてきたという事実もある。
ICRPでは、放射線従事者で年間50mSv、5年間の累積で100mSvを上限とする様に勧告しているが、日本ではこれを震災後1mSvという非科学的な数値にしてしまった。菅総理(当時)の指示した強制避難は全く不要だったと言わざるを得ない。
2.モハン・ドス(フォックス・チェイス・癌センター准教授)
現在の日本の被曝管理の根拠となっているLNT仮説は誤りであることは多くの専門家の指摘するところであるが、一方、放射線の専門家にとってこれを活かしておいた方が研究資金等を得やすいのでこれを変えようとしない研究者も多い。そのために、日本では不要なお金を掛けて除染が進められているのである。
海の希釈能力は大変高いので、現在程度の汚染が海に流れ出ても、反対派が主張するような食物連鎖による放射性物質の蓄積などあり得ない。
事故当時の日本の原子力安全委員会委員等は、文献のみの学習に終わっており、実態に対する注目が足りなかったと言える。
3.服部禎男(元電力中央研究所名誉特別顧問)
ホルミシス効果の研究の第一人者となっているが、元々は原子力災害対策研究が発端の安全研究者であった。
人間は60mSv〜600mSv程度の低線量を浴びると細胞が活性化し健康の増進に役立つ。250mSvのマウスへの照射で細胞膜の透過性が高まり20歳程度の若返り効果があることが分かっている。インシュリン、アドレナリン、βエンドルフィン等のホルモンの分泌の増加も確認されている。
カリウム40は4000Bq程度人体内に存在するが、この放射線は1.3百万エレクトロン・ボルトあり、この放射線がDNAに目覚まし効果を与えているのではないかと考えられている。
米国の原子力学会でカリウム40を含まないカリウムを製造し、これでマウスを育てたところ死んでしまったという実験結果もある。
4.中村仁信(大阪大学医学部名誉教授、放射線防護委員会の前委員長、ICRP元委員)
阪大名誉教授の近藤宗平氏は、年間30mSv、生涯600mSvを安全線量の上限としている。
政府は福島事故ののち周辺の空間線量を測り公表したが、110μSv/時が最大値であり、50〜60μSv/時の場所が数か所あった。これに対して政府は年間線量の計算時に屋外8時間、屋内16時間滞在を前提として、低減係数0.6を採用したために計算上110μSvの地点の線量を578mSv/年とした。しかし、現地で実測した数値によれば低減係数は0.05〜0.2の範囲内であったことが明らかになっている。政府は6倍大きく間違っていたのである。これから言えることは、誰も強制避難をさせる必要が無かったという事である。
5.ウェード・アリソン(オックスフォード大学名誉教授)
1987年にブラジルのゴイアニアの被曝事件というのがあった。閉鎖された病院の放射線機器からセシウム137を盗み出して多くの人に見せびらかした人が居り、249人がそれによって被曝したという事件であった。その結果4名が急性放射線症状(ARS)で死亡したが、それ以外に死亡した人はおらず、被曝時に妊娠していた女性も無事正常出産したという報告がある。また、被曝2年後に出産した女性も正常児を生んでいるという。
この様に大被害に至らなかった最大の理由は、低線量では被害は出ず、ある量を超えた時にだけ死亡に至るということが分かる。チェルノブイリ事故の死者は4000〜6000mSvを被曝しておりARSで死亡した。米国では紫外線によって皮膚がんを発症し7000人/年の死者が居る。
福島では、津波によって17000人余りが死亡したが、発電所の事故で死亡した人はいない。福島のセシウム137の放出量は12,000Bq程度であるが、ゴイアニアでは1億Bqであった。結果的に福島の被曝量はゴイアニアの1000分の1以下となる。
この研究会後、この日に講演を行った科学者5名は「放射線の正しい知識を普及する会」を通じて、以下のような提言を日本政府に対して提出している。
(以下同会のWebから引用)
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5人の科学者は、日本および世界が正しい放射線の知識を得て、社会の混乱を終息させるために、次のことを日本政府へ提案いたします。
1. 福島県民の低線量率放射線の事実と住民に健康リスクがないことの科学理解を、国内外へ普及するために、
日本政府は最大限努力する。
2. 全ての国民、そして特に福島県で強制避難している人たちに正しい放射線の情報と科学が届くように、科学
講習が受けられる環境を整えること。
3. 政治的判断で強制された食品中の放射能の基準を、前原子力安全委員会の指標による基準に戻すこと。
4. 福島20km 圏内の放射線の線量の現実的な評価をするために、専門科学者および、あるいは放射線管理官が
個人線量計を装着した形で、住民のように住宅に滞在したり暮らすことが許可されるべきである。
5. 福島第一原子力発電所20km 圏内のブラックボックス化した状況をあらため、浪江町で継続する和牛の飼育
試験の民間プロジェクト等の帰還へ前向きな取り組みを国としても認識し、支援すること。
6. 福島第一原子力発電所20km 圏内の地震津波で破壊されたインフラの早期な復旧を実現し、帰還希望者の受
け皿を整えること。
7. 日本の原子力施設は適切な改善がなされた後、可能なかぎり迅速に再稼働されるべきである。
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終わりに
IOJは、このような地道な活動を展開している科学者たちを積極的に支援し、現在の福島県を覆っている混迷から早く脱却出来るように活動を続けて行きたいと考えている。
(伊藤 英二 記)
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