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SEJ 日本のエネルギーを考える会

82号 原子力規制について −より適切な規制活動を目指して−


カテゴリ:  原子力安全    2013-8-30 15:51   閲覧 (2933)
IOJだより 原子力規制 編集局

福島原発事故を受けて、当時の民主党政権下で原子力規制委員会の設置が決定されました。
本年7月から再稼働にむけて審査が開始されましたが、本当に適切でバランスのとれたものでしょうか。
IOJだより pdf
はじめに
福島原発事故が発生して、2年4カ月を過ぎたが原発の再稼動のめどは立たず、いくつかの原発は廃炉になる可能性も出てきている。
大震災後に、福島第一原子力発電所の事故の原因究明が行われ、それを踏まえて早急に取るべき対策が当時の原子力安全・保安院から指示された。各電力会社はこの指示を受けて対策を講じており、その結果民主党政権時であったにも拘らず、当時の野田総理の決断により大飯原発3・4号機は昨年7月には再稼動がされたのである。しかしながら、民主党はそれまでの原発容認から脱原発に舵を切り、大飯以外の原発は新しい安全基準による審査を経ないと再稼動を許容しないとした。

原子力規制委員会はこのような背景の下に、以前の原子力安全委員会が八条委員会だったのに対して、より独立性の高い三条委員会として急遽立ち上げられ、再稼働のために必要な安全基準の策定、旧体制での耐震バックチェックで検討が先送りされていた大飯、敦賀の活断層の審査などを開始して今日に至っている。
これまでに行ってきた、安全基準の制定や活断層の審査などの実績については一定の評価をすべきであると考えるが、その一方で、本来あるべき規制活動に反するような行動も散見される様になっている。IOJでは、この段階で浮かび上がってきた色々な課題について指摘を行い、本質的な点で改善が必要と考えられる項目についての提言をしてみたい。

1.原子力規制委員会の強化
原子力規制委員会設置法(以下「設置法」)では、規制委員の専門性が求められているが、そこに想定されている趣旨は原子力安全規制に係る総合的な判断ができることを期待しているのであって、規制委員の個々の分野における専門性を求めているものでない。規制委員の個々人の専門知識は限定されたものと認識すべきで、その限られた専門分野の知識を以って判断をしないことが大前提である。

原発の安全規制には広い分野の専門性が求められるが、専門分野にかかわる問題についての判断材料は原子力規制庁(以下「規制庁」)のスタッフや原子力専門のコンサルタント等がその知見を提供すべきもので、決して数名の規制委員がその専門分野における知見を駆使して対応すべきものではない。
規制委員の選定は、当時の民主党政権が国会閉会中を理由に緊急措置として国会の同意なしに決めた経緯があり、必ずしも規制委員会全体としての人材のバランスが良いとは言えない。現在の規制委員の顔ぶれをみると、原子炉、地震及び放射線防護の3分野の専門家が選ばれているが、これから安全基準やシビアアクシデント対策、地震対策などの抜本的な見直しを行うためには、現在の委員の構成では不十分であるように思われる。現在の人材に加えて行政庁経験者や、プラント設計、シビアアクシデント対策、土木工学等の安全規制を経験した数名の委員を追加することが望ましいであろう。

2.審査手続きの遵守
規制にかかわる審査手順としては、まず規制委員会のスタッフとして機能すべき原子力規制庁が申請を受理して審査を行い、技術的知見が規制庁内では不十分であると判断された場合には、JNES等の原子力技術の専門家集団をコンサルタントとして起用し、技術的課題についての検討を深めるとともに、有識者によって組織される原子炉安全専門審査会において検討を尽くし、これらの組織が取りまとめた報告を総合して規制庁から規制委員会に提出し、その判断を仰ぐという手続きを遵守する必要


がある。
規制委員が中心となって外部有識者とともに評価会合を立ち上げ、その結果を規制委員会の事実上の結論にしようとした活断層の審査のような手続きは繰り返されてはならない。正しい手続きを踏む事で、広い視点から安全性についての判断が可能となり、一部の規制委員の暴走を防ぐこともできるのである。
念のために、これまでに見受けられた一部規制委員の暴走の実例を下記する。
活断層にかかわる有識者会合では、電力会社からの断層調査結果を聴取し、敦賀原発では断層の可能性を否定できないと結論付けた。島崎委員はこの結論を受けて、昨年の衆議院選挙前には敦賀原発は廃炉にするかのような発言をした。このような重大な判断は、規制委員会で十分な審議を行い下すべきところ、他の委員には地震の専門家がいないことから、ほとんど審議なしに有識者会合の検討結果が承認されたのである。

ちなみに敦賀原発の例をとると、旧体制では同様な審査が、原子力安全委員会、原子力安全・保安院

の下で行われていた。保安院の地盤耐震意見聴取会での20数回にわたる合同審議、同ワーキング・グループ、合同サブ・ワーキング・グループにおける数十回の審議がなされ、その結果は適宜原子力安全委員会ワーキング・グループにおいて審議され、250時間以上が費やされている。これに対して、現体制の有識者会合での審議が20時間弱、規制委員会での審議はわずか1時間にも満たないことが記録の上からも明らかなのである。

3.原子炉安全専門審査会の活用
設置法では、規制委員会の活動を補佐する事を目的として、原子炉安全専門審査会を設置する事が想定されているにも拘らず、これが未だに設置されていない事も、一部規制委員の暴走を許す原因となっていると考えられる。規制委員や
規制庁スタッフが審査を進めるにあたり、外部有識者の活用は重要であり、原子炉安全専門審査会を早期に立ち上げるべきであろう専門審査会のメンバーの選任にあたっては、これまで安全審査にあたってきた有識者などを排除するなどせずに、豊かな経験を持つ技術的に優れた有識者を選ぶという基本的な選定基準を忘れてはならない。

4.国会による規制委員会活動の監視
規制委員会は、三条委員会として安全性向上の規制について絶対的な権限を有しており、省庁や総理大臣すら干渉できないとされている。安全性向上は重要な使命ではあるが、安全性を重視する余り、経済性を無視する傾向が高まりつつあることは再考の余地がある。


原子力発電の利用については、原子力規制委員会設置法の上に位置する原子力基本法があり、その第一条で「将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上を図る」とされており、規制委員会といえどもこの法律の趣旨に従う義務を負っているのである。規制委員会にとって、その規制の根拠となっている原子炉等規制法の範囲で絶対的な権限があるが、原子炉等規制法の運用においては、原子力基本法で想定されている規制の範囲を逸脱してはならないのである。規制委員会の一部の委員の行動を見ていると、安全性についての判断を偏重し、エネルギー資源の確保に関わるコストや産業の振興、国民生活の水準向上などの経済面を軽視していると言わざるを得ない。

この様な規制委員会の問題点を解決するには、国会が規制委員会の活動を監視し、不適当な活動が有ると認識された際には、国会の場において正すべきである。国会がこの機能を果たすことを目的として、衆議院に原子力問題特別委員会が設置されており、規制委員会に対する質疑が行われることになっている。しかし、規制委員会の発足から日が浅いことから、これまでは一般的な質疑にとどまっていた。
今後は、
? 本来あるべき審査手順の遵守についての監視
? 外部有識者の活用についての監視

原子炉安全専門審査会への付議項目の妥当性、審査会メンバー選任の妥当性など
? 規制委員会の判断が経済性に及ぼす影響の監視

原子炉再稼動の安全審査の後回し、原子炉寿命の40年限定、科学的根拠の薄いバックフィット要求などの経済性に影響の有る事項にかかわる監視
など既に問題化しつつある規制委員会の挙動について順次、衆議院原子力問題特別委員会で審議することによって、規制委員会の監視を強めることを期待したい。


(参考)電事連海外解説情報より
米国連邦議会によるNRC(原子力規制委員会)監視の実例
NRCはその独立性と強い権限が保証されているが、一方でNRCが独走しないように、連邦議会上院の環境公共事業委員会と下院のエネルギー商業委員会が監視権限をもっている。 NRCは、連邦議会が監視機能を果たせるよう、半年に一度は上院と下院の歳出委員会に活動報告書を提出するとともに、連邦議会は必要に応じて供述書の提出をNRCに要求することが出来る。また、折に触れてNRC委員や上級スタッフを呼んで公聴会を開き、状況説明を行わせている。

(1)フィルター付きベントの規制要求をめぐる議論の紛糾
NRCスタッフは2012年11月に「BWRマーク?・?型格納容器にフィルターベント設置の指令を発令する」という案をNRC委員に提案した。これに対して、産業界やNRCの原子炉安全諮問委員会はフィルターベントを直接規制要求するよりも放射性物質放出を抑制する総合的な性能規定アプローチ(仕様ではなく性能を規定する方法)を要求する方が効果的だとする見解を示した。

(2)重みある連邦議会からNRCへの書簡
このような議論の紛糾を背景に、下院エネルギー商業委員会のアプトン委員長ら21人の議員や上院環境公共委員会の議員7人は、NRCによる過度な規制変更を懸念し、それぞれ2013年1月、2月にNRC委員長宛に以下の様な内容の書簡を送った。
● 問題は、NRCが厳密な技術的評価や費用対効果分析を怠っていることを起因として生じている。また、NRCは原子炉の安全が各発電所の違いを踏まえた性能規制アプローチにより守られてきたという歴史的事実を放棄しようとしているのではないか。
● 原子力は国家のエネルギー・セキュリティ確保に多大な貢献をしており、原子力基本法では「原子力エネルギーは、社会の幸福へ最大限貢献すべきである」とうたわれている。議会は「公衆の健康と安全」と「原子力による利益」のバランスを保つように努めてきた。立法者としての議会のゴールと規制者としてのNRCのゴールは、バランスが保たれるべきである。
● NRCスタッフは、他の対策も合わせた放射性物質放出抑制の性能要求とせずに、多大な初期投資が必要なフィルターベントの設置を要求することを提案している。これは費用対効果分析の法令要求を満たしていない可能性があり、訴訟対象にもなり得る。
● NRC原子炉安全諮問委員会は、「フィルターベント設置要求は、リスク情報を活用した費用対効果分析により正当化されていない」と指摘している。産業界も「フィルターベントという単一の対策だけでは放射性物質放出の抑制に成功しない」とし、冷却水の注入、格納容器スプレイ、格納容器圧力を調整しながらの排気などを組み合わせた方法を考慮すべきだとしている。

(3)NRCの最終判断

こうした議会からの提言もあり、慎重な審議を重ねてきたNRC委員は投票を行い、2013年3月19日に最終的な決定を下した。NRC委員はNRCスタッフに対して?フィルターベント設置の指令は即時に出さず、他の対策も含めた総合的な規則制定に向けた検討を行う?2012年3月に出したベント強化の指令をシビア・アクシデント(過酷事象)にも耐え得る内容に改訂する―という2つの指示を出したのである。
(M.Y.記)

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