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SEJ 日本のエネルギーを考える会

SEJだより 第10号 宇宙開発をささえる原子力―大きな推力と長期使用に適した原子力―


カテゴリ:  原子力安全  » 原子力技術    2021-3-2 9:50   閲覧 (728)


菅総理は就任直後の所信表明演説で「2050年にカーボン・ニュートラルを達成する」と宣言した。この宣言は地球温暖化対策と同時に先進国でエネルギーの自給率の最低の日本が対策をすることを意味する。

宇宙への挑戦は、国威をかけて米国、ロシア、中国が取り組んでいる。現在、国際宇宙ステーションのような地球圏の宇宙利用から、月面探査、火星探査、太陽圏の探査へと進化している。宇宙への挑戦は、無人と有人の両方があるが、有人の探査であれば必要なエネルギーも飛躍的に増え原子力の利用が有利となる。原子力の利用には原子力電池と原子炉の2種類があるが、原子炉の方はまだ開発途上にある。日本も威信をかけて積極的に取り組んでほしいものである。



1.問題はエネルギーである
 
大宇宙探査には、推進のためのエネルギーと有人探査の場合に滞在先での活動のためのエネルギーが必要になる。最初に思いつくのは太陽光の利用である。
しかし、太陽系の宇宙探査を考えた場合、右図に示されているように火星より遠くなると太陽光の強度が極端に弱くなりエネルギー源としては十分ではない。それに替わるエネルギー源が必要になるが各エネルギー源には特徴がある。各種動力源の性能を比較した次の図を見ていただきたい。
数年以上長期間利用しているのは主に太陽電池や原子力電池であるが、太陽から遠く離れた宇宙では太陽光は使えない。< 


2.原子力電池
原子力電池(アイソトープ電池)は発電に熱電変換を利用することができるため動的な部品がなく故障しにくくメンテナンスも不要で、最大のメリットは100年以上という長寿命が実現できることにある。欠点としては、プルトニウムなどの放射性物質を利用することから破損した場合のリスクが高いことが挙げられる。主流はプルトニウム238を使うが、生産が困難でアメリシウム、ストロンチウムなどを替わりに使う計画が進められている。
一例を挙げると1997年に打ち上げられた土星探査衛星カッシーニに搭載されている(右図)。この原子力電池はプルトニウム238を8Kg搭載し出力は250wである。



3. 新たな開発段階に入った宇宙用原子炉 
3.1 イオンロケット
火星に近い距離の「りゅうぐう」を往復した日本のイオンエンジンを搭載するロケット「やぶさは」は使用電力量は小さく、太陽光に近いためリチウムイオン二次電池を充電しながら飛行することで可能となっている。遠距離の惑星など深宇宙探索には原子力電池のように容量の大きい動力源が必要になろう。
3.2 推進用の原子炉(原子力ロケット)
●  1960年代から1970年代にかけて、主に米国とロシアで原子力エンジンの研究開発が行われたが、安全性の問題がクリアできず、多額の費用を要したことで中止となった。
●  ロシアや中国との宇宙開発競争に直面したオバマ大統領は、2010年の4月新しい宇宙政策を発表し、この中で2030年代半ばまでに宇宙飛行士を火星の軌道に送り込むという目標を宣言した。2016年にも同じ趣旨を確認し、後のトランプ政権も引き継いだ。
● これに対応して米国航空宇宙局(NASA)は2017年8月3日、将来の有人太陽系探査を見据え、新しい「原子力ロケットエンジン」の実現に向けた技術の開発を始めると発表した。太陽系内ではあるものの月よりもはるかに遠い宇宙(深宇宙)の有人探査を目指している。地球を飛び出すと、宇宙飛行士は宇宙線を被ばくする。世界原子力協会の資料によれば、火星までの往復行程で660ミリシーベル超と評価されている。これを避けるためには宇宙旅行期間を短縮する必要があり、原子力エンジンが大いに有利になる。
2015年7月に発表されたNASAのテクノロジー・ロードマップによると、核熱ロケットの技術目標は以下の通りとなっている。
技術目標:高推力とより高い推力比を目指す。その他の設計パラメータは、最悪のミッションを想定して決める。
推力:3〜25,000ポンド(約11.3トン)
比推力:900秒、推進剤として水素を用いる。
燃焼時間:1回の燃焼時間 46分まで
累積燃焼時間 85〜102分
燃焼と燃焼の間隔時間:5時間(Xe135の毒性を最小にするため)
地球の低軌道への打ち上げ:化学ロケット、比推力290〜316秒
ミッション:火星への有人軌道投入、火星表面でのミッション遂行
ミッション開始時期:2033年
 
有人となると火星へのミッションを一段階で達成するのは課題が多いので、NASAとしてはNEA(Near Earth Asteroid、小惑星などの天体)へのミッションを計画し十分な経験やデータを得たのち火星に向かう戦略を立てているようである。
図 地球に近い小天体を探査する宇宙船の概念図(48th Joint Propulsion Conference & Exhibit, Atlanta, GA, July 30 - August 1, 2012)(SEJ注:火星へのほぼ同様のシステムで探査)
 
火星ミッションへの宇宙船概念 

有人となると火星へのミッションを一段階で達成するのは課題が多いので、NASAとしてはNEA(Near Earth Asteroid、小惑星などの天体)へのミッションを計画し十分な経験やデータを得たのち火星に向かう戦略を立てているようである。図 は宇宙船の概念図と各種の試験である。

NASAによる試験の実施
有人となると火星へのミッションを一段階で達成するのは課題が多いので、各種の試験を実施している。(右図)
 終わりに 
日本は「はやぶさ1号、2号」で太陽光パネルと画期的なイオン推進エンジン搭載し小惑星の探索と資料持ち帰りに成功している
現在の米国の深宇宙探査機にはエネルギー源として原子力電池が搭載されている。しかし有人の宇宙探査を行う場合には、使うエネルギーも飛躍的に増え、原子炉の活用が望まれるが原子炉の利用はまだ開発途上にある。日本には日本原子力研究開発機構という基礎的な原子力の研究母体や原子力発電を担ってきた原子力メーカもあり、JAXAと協力して、新しい分野の技術に取り組んで欲しい。
夢を語ることが許されるならば、さらに先進的な原子力ロケット推進方式に核融合エンジン、物質・反物質を利用した光子ロケットなどの構想がある。これらの実現は、子供たちの仕事であり、本報が子供たちに関心をもってもらえるきっかけになれば幸せである。
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SEJだより 第10号 宇宙開発をささえる原子力―大きな推力と長期使用に適した原子力―


カテゴリ:  原子力安全 » 原子力技術    2021-3-2 9:50   閲覧 (728)


菅総理は就任直後の所信表明演説で「2050年にカーボン・ニュートラルを達成する」と宣言した。この宣言は地球温暖化対策と同時に先進国でエネルギーの自給率の最低の日本が対策をすることを意味する。

宇宙への挑戦は、国威をかけて米国、ロシア、中国が取り組んでいる。現在、国際宇宙ステーションのような地球圏の宇宙利用から、月面探査、火星探査、太陽圏の探査へと進化している。宇宙への挑戦は、無人と有人の両方があるが、有人の探査であれば必要なエネルギーも飛躍的に増え原子力の利用が有利となる。原子力の利用には原子力電池と原子炉の2種類があるが、原子炉の方はまだ開発途上にある。日本も威信をかけて積極的に取り組んでほしいものである。



1.問題はエネルギーである
 
大宇宙探査には、推進のためのエネルギーと有人探査の場合に滞在先での活動のためのエネルギーが必要になる。最初に思いつくのは太陽光の利用である。
しかし、太陽系の宇宙探査を考えた場合、右図に示されているように火星より遠くなると太陽光の強度が極端に弱くなりエネルギー源としては十分ではない。それに替わるエネルギー源が必要になるが各エネルギー源には特徴がある。各種動力源の性能を比較した次の図を見ていただきたい。
数年以上長期間利用しているのは主に太陽電池や原子力電池であるが、太陽から遠く離れた宇宙では太陽光は使えない。< 


2.原子力電池
原子力電池(アイソトープ電池)は発電に熱電変換を利用することができるため動的な部品がなく故障しにくくメンテナンスも不要で、最大のメリットは100年以上という長寿命が実現できることにある。欠点としては、プルトニウムなどの放射性物質を利用することから破損した場合のリスクが高いことが挙げられる。主流はプルトニウム238を使うが、生産が困難でアメリシウム、ストロンチウムなどを替わりに使う計画が進められている。
一例を挙げると1997年に打ち上げられた土星探査衛星カッシーニに搭載されている(右図)。この原子力電池はプルトニウム238を8Kg搭載し出力は250wである。



3. 新たな開発段階に入った宇宙用原子炉 
3.1 イオンロケット
火星に近い距離の「りゅうぐう」を往復した日本のイオンエンジンを搭載するロケット「やぶさは」は使用電力量は小さく、太陽光に近いためリチウムイオン二次電池を充電しながら飛行することで可能となっている。遠距離の惑星など深宇宙探索には原子力電池のように容量の大きい動力源が必要になろう。
3.2 推進用の原子炉(原子力ロケット)
●  1960年代から1970年代にかけて、主に米国とロシアで原子力エンジンの研究開発が行われたが、安全性の問題がクリアできず、多額の費用を要したことで中止となった。
●  ロシアや中国との宇宙開発競争に直面したオバマ大統領は、2010年の4月新しい宇宙政策を発表し、この中で2030年代半ばまでに宇宙飛行士を火星の軌道に送り込むという目標を宣言した。2016年にも同じ趣旨を確認し、後のトランプ政権も引き継いだ。
● これに対応して米国航空宇宙局(NASA)は2017年8月3日、将来の有人太陽系探査を見据え、新しい「原子力ロケットエンジン」の実現に向けた技術の開発を始めると発表した。太陽系内ではあるものの月よりもはるかに遠い宇宙(深宇宙)の有人探査を目指している。地球を飛び出すと、宇宙飛行士は宇宙線を被ばくする。世界原子力協会の資料によれば、火星までの往復行程で660ミリシーベル超と評価されている。これを避けるためには宇宙旅行期間を短縮する必要があり、原子力エンジンが大いに有利になる。
2015年7月に発表されたNASAのテクノロジー・ロードマップによると、核熱ロケットの技術目標は以下の通りとなっている。
技術目標:高推力とより高い推力比を目指す。その他の設計パラメータは、最悪のミッションを想定して決める。
推力:3〜25,000ポンド(約11.3トン)
比推力:900秒、推進剤として水素を用いる。
燃焼時間:1回の燃焼時間 46分まで
累積燃焼時間 85〜102分
燃焼と燃焼の間隔時間:5時間(Xe135の毒性を最小にするため)
地球の低軌道への打ち上げ:化学ロケット、比推力290〜316秒
ミッション:火星への有人軌道投入、火星表面でのミッション遂行
ミッション開始時期:2033年
 
有人となると火星へのミッションを一段階で達成するのは課題が多いので、NASAとしてはNEA(Near Earth Asteroid、小惑星などの天体)へのミッションを計画し十分な経験やデータを得たのち火星に向かう戦略を立てているようである。
図 地球に近い小天体を探査する宇宙船の概念図(48th Joint Propulsion Conference & Exhibit, Atlanta, GA, July 30 - August 1, 2012)(SEJ注:火星へのほぼ同様のシステムで探査)
 
火星ミッションへの宇宙船概念 

有人となると火星へのミッションを一段階で達成するのは課題が多いので、NASAとしてはNEA(Near Earth Asteroid、小惑星などの天体)へのミッションを計画し十分な経験やデータを得たのち火星に向かう戦略を立てているようである。図 は宇宙船の概念図と各種の試験である。

NASAによる試験の実施
有人となると火星へのミッションを一段階で達成するのは課題が多いので、各種の試験を実施している。(右図)
 終わりに 
日本は「はやぶさ1号、2号」で太陽光パネルと画期的なイオン推進エンジン搭載し小惑星の探索と資料持ち帰りに成功している
現在の米国の深宇宙探査機にはエネルギー源として原子力電池が搭載されている。しかし有人の宇宙探査を行う場合には、使うエネルギーも飛躍的に増え、原子炉の活用が望まれるが原子炉の利用はまだ開発途上にある。日本には日本原子力研究開発機構という基礎的な原子力の研究母体や原子力発電を担ってきた原子力メーカもあり、JAXAと協力して、新しい分野の技術に取り組んで欲しい。
夢を語ることが許されるならば、さらに先進的な原子力ロケット推進方式に核融合エンジン、物質・反物質を利用した光子ロケットなどの構想がある。これらの実現は、子供たちの仕事であり、本報が子供たちに関心をもってもらえるきっかけになれば幸せである。
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