1.はじめ
日本では「エネルギー基本計画」で安全性(S)を前提に、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済性(Economic Efficiency)、環境適合性(Environment)の3Eの同時達成を目指してエネルギー・環境政策を進めている。これらの目標に対して現状はどうなっているのか、欧米の主要国との比較ではどういう状況にあるかについて検討した。
(1)安定供給(自給率)
主要国の エネルギー需給
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生活を営むうえでエネルギーを安定的に確保することが不可欠である。有事の場合にも対応できるように自給率を高めることが最も肝要であるが、国産の化石燃料に恵まれない日本は自前の原子力や再エネの導入が鍵となる。
図にエネルギー供給の先進国であるドイツ、フランス、英国、スウェーデン、米国そして日本の自給率を示す。(World Energy Bakances2019 より)。
化石燃料に恵まれないフランスは原子力、スウェーデンは原子力と水力、バイオでこれを補いそれぞれ55%、70%を維持している。太陽光や風力の導入がはかばかしく進まないドイツでも石炭を加えて37%の自給率である
これに対して日本では、オイルショック以降原子力の導入を積極的に進めてフランス並みの自給率を達成しようとしたが、福島事故で原子力に対する国民の信頼が失われ、事故前の18%の自給率が今では12%に過ぎない。このため原子力発電の安全性を高め再稼働や発電所を新設しフランス、スウェーデンのように原子力をエネルギーの主幹に出来るかどうかが鍵となっている。
燃料の備蓄
化石燃料の安定供給も大切で、火力発電や都市ガスの主力となるLNGは図に示すように主要国は地下に輸入量の20%程度貯蔵しているのに対し、日本は自給率が小さいのに海岸の通常使用するタンクに20日分、10%程度しか貯蔵していない。東京湾で地震や津波により地上の付帯設備が破損しLNGが海上に流失した場合、東日本大震災時の気仙沼での原油流失・火災とは比較できない規模の災害が起こり得ることにも注意が必要であろう。
(2)経済性
エネルギーの経済性を見るうえでの指標としての電気料金を図に示す。大量の化石燃料を産出し電気料金の安い米国は別格とし日欧を比べる。産業用の電気料金についてみると、原子力に代り再エネの導入を進めるドイツは、産業競争力に配慮して近隣諸国と同程度とするため産業用料金は安くし、その分家庭料金にしわ寄せしている。従って日本の電気料金はドイツを除く欧州諸国に比べ概ね高いが大きくは変わらない。電気料金の高低は後述の電源構成に左右される。
(3)環境適合性
図に主要国の分野別の一人当たりのCO2排出量を示す。電力、産業、輸送、家庭商業分野に大別される(CO2EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION(2019 editionより作成)。
中でも電力分野は原子力や再エネの多寡で化石燃料からのCO2排出が大きく異なる。
今後、運輸部門を始め産業、業務を含むあらゆる分野で電力化が進むものと予想されるので発電部門のCO2排出量の削減は非常に重要である。
最新の2017年の一人当たりCO2排出量は、米国は別として日本とドイツはフランス、スウェーデンの2倍も大きい。原子力の導入が少なく再エネも大きくないため火力発電が多く、発電分野でCO2が多く排出される。また、製鉄産業が盛んな日本は石炭を使用するためCO2の排出量が大きいのも特徴である。
(4)電力供給
図に1974から2018年までの電力供給の化石燃料、原子力、再エネの導入の状況を示す。フランス、スウェーデンは原子力を中心に再エネの導入も進み、化石燃料にはほとんど頼っていない。
ドイツ、日本は当初は原子力の導入を積極的に図ったが、チェルノブイリ事故、福島事故でブレーキが掛かってしまった。また再エネの導入も順調ではなく化石燃料に頼っているため、CO2の排出は減るようには見えずCO2削減目標を達成できそうもないことは明らかである。イギリスは石炭火力からから天然ガスに切り替えたため上図でも2017年には大幅に下がっている。
日本はCO2排出量を基準年の2013年から2030年には26%削減する必要があるが、火力発電はいっこうに減るようには見えない。その大きな要因は2030年には原子力は20〜22%の割合を占める前提でCO2排出量目標線が設定されているのに対して現実及び将来ともそれにははるかに及ばず、電力需要を満たすために火力がその分を代替しているからである。かつて民主党政権でもフランス並みの原子力を目指したが、福島事故を契機に脱原発に舵を切り、安定供給や温暖化対策には目をつぶろうとしている。日本と同様の推移を示すのはイギリスであるが新規原発の導入を図ろうとしている。
3.まとめ
● 現状技術では未来がない
前述のように2013年以降エネルギー自給率はわずかに増加しているがそれ以前の20%はおろか2030年の目標である25%には程遠い。再エネは自給率向上と温室効果ガスの削減に貢献することは確かであるが、日本は水力以外には自然環境に恵まれておらず、太陽光発電の積極的導入では大きな期待はできない。
● 原子力について
事故の経験を踏まえた規制委員会の基準に対応して安全対策をとっているが再稼働が遅れている。
原子力発電は21世紀には無くてはならない技術であり、福島事故を起こした日本は抜本的な安全で安心できる原子炉の開発をする責務がある。米国などと協力して取り組んでほしい。これらの新しい技術を開発することにより若い世代の技術者が育ち、日本の技術をけん引することになろう。
● 日本の特長を活かした技術
日本の周辺には大きな海流があり、海流発電を行えば2億KWの潜在発電容量を利用して変動が少なく安定した発電が可能である。実用化には高度の技術開発が必要であるが、NEDOはIHIと鹿児島県口之島沖で試験を開始し黒潮からの発電に成功した。今後、2030年度には100基程度を使う発電所として一般家庭3千世帯分にあたる200メガワット程度の単位で事業化したいとしている。
● ドイツは手本にできない
一部マスコミなどは、ドイツを手本として原子力と石炭火力を全廃し、省エネと太陽光や風力で需要を賄うことが出来るとしている。実態を見ると、ドイツは先進国の中では最も温室効果ガスの削減目標を達成しにくい国であることは自明で、日本はこれを手本にできないことを認識すべきである。
SEJは安全な原子力への復活に向けて今後内外の新情報を取り入れながら新たな取り組みを紹介していきたい。
以上
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1.はじめ
日本では「エネルギー基本計画」で安全性(S)を前提に、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済性(Economic Efficiency)、環境適合性(Environment)の3Eの同時達成を目指してエネルギー・環境政策を進めている。これらの目標に対して現状はどうなっているのか、欧米の主要国との比較ではどういう状況にあるかについて検討した。
(1)安定供給(自給率)
主要国の エネルギー需給
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生活を営むうえでエネルギーを安定的に確保することが不可欠である。有事の場合にも対応できるように自給率を高めることが最も肝要であるが、国産の化石燃料に恵まれない日本は自前の原子力や再エネの導入が鍵となる。
図にエネルギー供給の先進国であるドイツ、フランス、英国、スウェーデン、米国そして日本の自給率を示す。(World Energy Bakances2019 より)。
化石燃料に恵まれないフランスは原子力、スウェーデンは原子力と水力、バイオでこれを補いそれぞれ55%、70%を維持している。太陽光や風力の導入がはかばかしく進まないドイツでも石炭を加えて37%の自給率である
これに対して日本では、オイルショック以降原子力の導入を積極的に進めてフランス並みの自給率を達成しようとしたが、福島事故で原子力に対する国民の信頼が失われ、事故前の18%の自給率が今では12%に過ぎない。このため原子力発電の安全性を高め再稼働や発電所を新設しフランス、スウェーデンのように原子力をエネルギーの主幹に出来るかどうかが鍵となっている。
燃料の備蓄
化石燃料の安定供給も大切で、火力発電や都市ガスの主力となるLNGは図に示すように主要国は地下に輸入量の20%程度貯蔵しているのに対し、日本は自給率が小さいのに海岸の通常使用するタンクに20日分、10%程度しか貯蔵していない。東京湾で地震や津波により地上の付帯設備が破損しLNGが海上に流失した場合、東日本大震災時の気仙沼での原油流失・火災とは比較できない規模の災害が起こり得ることにも注意が必要であろう。
(2)経済性
エネルギーの経済性を見るうえでの指標としての電気料金を図に示す。大量の化石燃料を産出し電気料金の安い米国は別格とし日欧を比べる。産業用の電気料金についてみると、原子力に代り再エネの導入を進めるドイツは、産業競争力に配慮して近隣諸国と同程度とするため産業用料金は安くし、その分家庭料金にしわ寄せしている。従って日本の電気料金はドイツを除く欧州諸国に比べ概ね高いが大きくは変わらない。電気料金の高低は後述の電源構成に左右される。
(3)環境適合性
図に主要国の分野別の一人当たりのCO2排出量を示す。電力、産業、輸送、家庭商業分野に大別される(CO2EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION(2019 editionより作成)。
中でも電力分野は原子力や再エネの多寡で化石燃料からのCO2排出が大きく異なる。
今後、運輸部門を始め産業、業務を含むあらゆる分野で電力化が進むものと予想されるので発電部門のCO2排出量の削減は非常に重要である。
最新の2017年の一人当たりCO2排出量は、米国は別として日本とドイツはフランス、スウェーデンの2倍も大きい。原子力の導入が少なく再エネも大きくないため火力発電が多く、発電分野でCO2が多く排出される。また、製鉄産業が盛んな日本は石炭を使用するためCO2の排出量が大きいのも特徴である。
(4)電力供給
図に1974から2018年までの電力供給の化石燃料、原子力、再エネの導入の状況を示す。フランス、スウェーデンは原子力を中心に再エネの導入も進み、化石燃料にはほとんど頼っていない。
ドイツ、日本は当初は原子力の導入を積極的に図ったが、チェルノブイリ事故、福島事故でブレーキが掛かってしまった。また再エネの導入も順調ではなく化石燃料に頼っているため、CO2の排出は減るようには見えずCO2削減目標を達成できそうもないことは明らかである。イギリスは石炭火力からから天然ガスに切り替えたため上図でも2017年には大幅に下がっている。
日本はCO2排出量を基準年の2013年から2030年には26%削減する必要があるが、火力発電はいっこうに減るようには見えない。その大きな要因は2030年には原子力は20〜22%の割合を占める前提でCO2排出量目標線が設定されているのに対して現実及び将来ともそれにははるかに及ばず、電力需要を満たすために火力がその分を代替しているからである。かつて民主党政権でもフランス並みの原子力を目指したが、福島事故を契機に脱原発に舵を切り、安定供給や温暖化対策には目をつぶろうとしている。日本と同様の推移を示すのはイギリスであるが新規原発の導入を図ろうとしている。
3.まとめ
● 現状技術では未来がない
前述のように2013年以降エネルギー自給率はわずかに増加しているがそれ以前の20%はおろか2030年の目標である25%には程遠い。再エネは自給率向上と温室効果ガスの削減に貢献することは確かであるが、日本は水力以外には自然環境に恵まれておらず、太陽光発電の積極的導入では大きな期待はできない。
● 原子力について
事故の経験を踏まえた規制委員会の基準に対応して安全対策をとっているが再稼働が遅れている。
原子力発電は21世紀には無くてはならない技術であり、福島事故を起こした日本は抜本的な安全で安心できる原子炉の開発をする責務がある。米国などと協力して取り組んでほしい。これらの新しい技術を開発することにより若い世代の技術者が育ち、日本の技術をけん引することになろう。
● 日本の特長を活かした技術
日本の周辺には大きな海流があり、海流発電を行えば2億KWの潜在発電容量を利用して変動が少なく安定した発電が可能である。実用化には高度の技術開発が必要であるが、NEDOはIHIと鹿児島県口之島沖で試験を開始し黒潮からの発電に成功した。今後、2030年度には100基程度を使う発電所として一般家庭3千世帯分にあたる200メガワット程度の単位で事業化したいとしている。
● ドイツは手本にできない
一部マスコミなどは、ドイツを手本として原子力と石炭火力を全廃し、省エネと太陽光や風力で需要を賄うことが出来るとしている。実態を見ると、ドイツは先進国の中では最も温室効果ガスの削減目標を達成しにくい国であることは自明で、日本はこれを手本にできないことを認識すべきである。
SEJは安全な原子力への復活に向けて今後内外の新情報を取り入れながら新たな取り組みを紹介していきたい。
以上
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