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SEJ 日本のエネルギーを考える会

164号 九州電力は優等生 −九州電力管内の太陽光発電を解き明かす


カテゴリ:  エネルギー  » 再生可能エネルギー    2019-2-28 11:20   閲覧 (832)

昨年秋九州電力(以下九電)において日本(離島を除く)で初めて太陽光発電の「出力制御」(出力抑制)が行われ大きな話題となりました。昨年は合計8回にわたってこのような措置がとられましたが、年間を通して抑制された電力量は0.3%で、大きな影響はなかったといえます。

1.はじめに
日本全体では再エネの中で太陽光発電の割合が異常に高くなっています。一方、需給調整に利用できる連系線は串型構造となっているうえ各電力会社間の接続容量も十分ではなく、電力の融通が取りにくい状況にあります。これは欧州での多様な再エネ電力を国際連系線を含むネットワーク的送電網を通して融通し合っている環境と大きく異ります。
本州と関門連系線だけで繋がる九電の電力需給状態を検討することは、今後の日本の電力需給状況を占う格好のモデルケースとなりそうです。
以下九電管内の電力需給状態を例にとり、その実態と「太陽光発電設備が今後2倍に増加した場合」、「原子力なしとした場合」にどうなるかについて検討してみます。
2.九電管内の電源別発電量内訳と発電・需給調整設備 >
2018年の九電の電源別発電出力と発電量割合(%)と対応する「エネルギー基本計画」で2030年に想定している発電割合を表1に示します。


原子炉が4基稼働してベースロードとして安定的電力供給に貢献しています。太陽光の導入も電力需要の11%を占めており、脱炭素については先進地区といえます。太陽光の大量導入を支えているのは、火力の設備容量が大きいため出力調整代が大きいこと、調整用の揚水発電設備と関門連系線の容量が大きいことがあげられます。この面でも良好な環境を整備していると言えます。一方火力は相当高い比率(74%)を占めていることに留意する必要があります。


3.太陽光の導入推移


図1に九州本土における2018年12月までの太陽光の導入推移を示します。現在接続済の設備容量は830万kWで、今後接続検討申込までを含めると1,697万kWとなり、現在の容量の2倍に達する見込みで、さらに増大する可能性があります。 



4. 電力需給状況と太陽光発電
電力需要は季節/気温、休日/平日、時間帯により大きく変動します。この中で最大需要は夏の高温時と冬の低温時の約1,600万kW、これに対し1日の最大需要の最小値(秋)は890万kWで年間での最大/最小比は1.8という大きな値を示しました。太陽光の変動幅は設備容量の0〜85%程度で、このような需要と太陽光発電量の変動に対して常に需給が一致するように他の設備により厳密に調整しなければなりません。これが実現できないと大停電が生じてしまいます。九電は火力の調整運転、揚水運転/発電、他電力会社への送電、原子力発電により、現状では太陽光の変動に対応できています。


5. ケーススタディ
1年を通して様々な需給パターンが見られますが、代表例として下の【ケース1】と【ケース2】を検討してみます。さらにそれぞれに対して近い将来に起こるであろう太陽光発電が2倍になった場合、さらに原子力の運転を止めた場合の影響を調べてみます。



【ケース1】 :電力需要小、太陽光中、原子力大(秋の休日2018年10月21日(日))(図2)
太陽光はその時点の電力需要の63%を占めていた。発電量を需要に合致させるために、火力は最低レベルと考えられる200万kWまで、水力も可能な量まで絞り、揚水負荷を最大限の200万kW、連系線による送電を最大限の200万kWとしてもなお供給量が過剰になるために止むを得ずに最大90万kW分の太陽光の出力抑制を行ったケースである。
【ケース1A】:太陽光を2倍にした場合(図3)
揚水と送電を最大にしても、640万kWの太陽光抑制量が必要になる。火力のこれ以上の減少はすでに下げしろ一杯なので困難である。
【ケース1B】 :太陽光を2倍、原子力0、連系線0の場合,昼間は430万kW余る。それ以外の時は最大230万kW不足する。不足への対応は火力の最大設備容量までの増加が必要であるが、火力をできるだけ抑制するという基本方針に逆行する。
【ケース2】 :電力需要大、太陽光大、原子力中(夏の平日2018年8月6日(月))(図4)
太陽光は最大限利用可能であり、火力の減少に貢献。
【ケース2A】 :太陽光2倍
昼間に550万kW余るのでその分火力を減らせる。ただし下げ代一杯の状態となる。
【ケース2B】 :太陽光2倍、原子力0
昼間に230万kW余るのでその分火力を減らすか揚水運転を行う。その他の時間帯では320万kW不足するので、揚水発電、火力の最大容量までの焚き増し(上限を超える?)原子力の稼働で対応する


6.どうすれば良いのか太陽光発電?
 これまでに述べてきた実データを踏まえて今後太陽光の導入が大きく進展した場合の状況と対策について総合的に考えてみましょう。
(1)電力需給
電力需要が大きい場合には火力の抑制に寄与する一方、需要が少ない場合には太陽光の出力抑制の大幅な拡大が避けられません。ケーススタディで検討したのはかなりの量の太陽光が利用できる場合でしたが、実際には天候不順の場合には2〜3日連続で100万kW(定格容量の12%)程度しか発電できないケースもあり、この場合には主に火力と原子力によって対応することになります。
(2) 変動性への対応の限界
揚水の利用:上の貯水池と下の貯水池に必要な時に必要な水が貯蔵されていないと電力の調整はできません(蓄電池でも同様の事態が生じます)。大規模揚水発電所はすでに開発し尽くされているので増設することは困難です。
・連系線の利用:他の電力会社と送受電を行う場合にも相手側の需給状況とマッチングしていない限り利用できません。連系線の最大送受電量は限られており、これを増強するには多額の費用と期間が必要です。現に関門連系線の増強も専門家の委員会で検討されたようですが、費用と効用の観点から見送られたとのことです。
・火力の利用:火力は量的にも、需給調整面でも依然として大きな役割を果たしていることが分かりました。九電の場合は火力の設備容量が大きいので、需要が多い場合もほぼ対応できています。しかし需要が少ない場合には設備容量の14%で運転しており、下げ代の限界に達していると想像されます。需要が多い場合には設備容量一杯で運用することになり、原子力発電が必要になります。
(3) 原子力の役割
原子力は電力の安定供給に重要な役割を果たしていることが分かります。原子力がない場合には火力の増大(場合によると設備の増設)で対処することになり、CO2の増加、エネルギー自給率(エネルギー安全保障)の低下、及び貴重な国富の流失になります。
(4)ではどうするか?
九電は他電力と比較しても太陽光の大量導入を可能にしていますが、上で述べたように例えば太陽光発電が2倍となると対応に大きな限界が見えてきます。その要因の一つは再エネの中で太陽光に極端に大きく依存していることが挙げられます。風力発電は今後大量の導入計画が見込まれていますが、実データを見る限り意外と変動性が大きく、太陽光の変動を補償する役割は期待できそうにありません。近未来の対策としては火力発電の供給力と調整力に期待するしか解が見つからないと考えられます。しかしそれではCO2の抜本的削減という国際的動向に沿わないことになってしまいます。やはり、原子力に電力の安定供給とCO2削減面で大きな役割を期待することになりそうです。
将来的にはより多様な安定再エネの開発・利用、蓄電池(EV用も含む)や余剰電力の水素への転換・利用、需要調整も考えられますが、いつ頃から本格利用が可能になるか見えない状況です。しかしこのような技術が進展しない限り変動型再エネの「主力電源化」は困難となります。これらの実用化に向けて世界を先導するつもりで、日本の総力をあげて革新的技術開発に取り組む必要があります。火力の出力の下げ代の限界が今後ネックになることも予想されることから、原子力も需給調整面で貢献するためには、フランスやドイツで実施されているように何らかの形での負荷追従運転が必要となり、中期的にはそれに向けて努力していく必要があると考えられます。

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164号 九州電力は優等生 −九州電力管内の太陽光発電を解き明かす


カテゴリ:  エネルギー » 再生可能エネルギー    2019-2-28 11:20   閲覧 (832)

昨年秋九州電力(以下九電)において日本(離島を除く)で初めて太陽光発電の「出力制御」(出力抑制)が行われ大きな話題となりました。昨年は合計8回にわたってこのような措置がとられましたが、年間を通して抑制された電力量は0.3%で、大きな影響はなかったといえます。

1.はじめに
日本全体では再エネの中で太陽光発電の割合が異常に高くなっています。一方、需給調整に利用できる連系線は串型構造となっているうえ各電力会社間の接続容量も十分ではなく、電力の融通が取りにくい状況にあります。これは欧州での多様な再エネ電力を国際連系線を含むネットワーク的送電網を通して融通し合っている環境と大きく異ります。
本州と関門連系線だけで繋がる九電の電力需給状態を検討することは、今後の日本の電力需給状況を占う格好のモデルケースとなりそうです。
以下九電管内の電力需給状態を例にとり、その実態と「太陽光発電設備が今後2倍に増加した場合」、「原子力なしとした場合」にどうなるかについて検討してみます。
2.九電管内の電源別発電量内訳と発電・需給調整設備 >
2018年の九電の電源別発電出力と発電量割合(%)と対応する「エネルギー基本計画」で2030年に想定している発電割合を表1に示します。


原子炉が4基稼働してベースロードとして安定的電力供給に貢献しています。太陽光の導入も電力需要の11%を占めており、脱炭素については先進地区といえます。太陽光の大量導入を支えているのは、火力の設備容量が大きいため出力調整代が大きいこと、調整用の揚水発電設備と関門連系線の容量が大きいことがあげられます。この面でも良好な環境を整備していると言えます。一方火力は相当高い比率(74%)を占めていることに留意する必要があります。


3.太陽光の導入推移


図1に九州本土における2018年12月までの太陽光の導入推移を示します。現在接続済の設備容量は830万kWで、今後接続検討申込までを含めると1,697万kWとなり、現在の容量の2倍に達する見込みで、さらに増大する可能性があります。 



4. 電力需給状況と太陽光発電
電力需要は季節/気温、休日/平日、時間帯により大きく変動します。この中で最大需要は夏の高温時と冬の低温時の約1,600万kW、これに対し1日の最大需要の最小値(秋)は890万kWで年間での最大/最小比は1.8という大きな値を示しました。太陽光の変動幅は設備容量の0〜85%程度で、このような需要と太陽光発電量の変動に対して常に需給が一致するように他の設備により厳密に調整しなければなりません。これが実現できないと大停電が生じてしまいます。九電は火力の調整運転、揚水運転/発電、他電力会社への送電、原子力発電により、現状では太陽光の変動に対応できています。


5. ケーススタディ
1年を通して様々な需給パターンが見られますが、代表例として下の【ケース1】と【ケース2】を検討してみます。さらにそれぞれに対して近い将来に起こるであろう太陽光発電が2倍になった場合、さらに原子力の運転を止めた場合の影響を調べてみます。



【ケース1】 :電力需要小、太陽光中、原子力大(秋の休日2018年10月21日(日))(図2)
太陽光はその時点の電力需要の63%を占めていた。発電量を需要に合致させるために、火力は最低レベルと考えられる200万kWまで、水力も可能な量まで絞り、揚水負荷を最大限の200万kW、連系線による送電を最大限の200万kWとしてもなお供給量が過剰になるために止むを得ずに最大90万kW分の太陽光の出力抑制を行ったケースである。
【ケース1A】:太陽光を2倍にした場合(図3)
揚水と送電を最大にしても、640万kWの太陽光抑制量が必要になる。火力のこれ以上の減少はすでに下げしろ一杯なので困難である。
【ケース1B】 :太陽光を2倍、原子力0、連系線0の場合,昼間は430万kW余る。それ以外の時は最大230万kW不足する。不足への対応は火力の最大設備容量までの増加が必要であるが、火力をできるだけ抑制するという基本方針に逆行する。
【ケース2】 :電力需要大、太陽光大、原子力中(夏の平日2018年8月6日(月))(図4)
太陽光は最大限利用可能であり、火力の減少に貢献。
【ケース2A】 :太陽光2倍
昼間に550万kW余るのでその分火力を減らせる。ただし下げ代一杯の状態となる。
【ケース2B】 :太陽光2倍、原子力0
昼間に230万kW余るのでその分火力を減らすか揚水運転を行う。その他の時間帯では320万kW不足するので、揚水発電、火力の最大容量までの焚き増し(上限を超える?)原子力の稼働で対応する


6.どうすれば良いのか太陽光発電?
 これまでに述べてきた実データを踏まえて今後太陽光の導入が大きく進展した場合の状況と対策について総合的に考えてみましょう。
(1)電力需給
電力需要が大きい場合には火力の抑制に寄与する一方、需要が少ない場合には太陽光の出力抑制の大幅な拡大が避けられません。ケーススタディで検討したのはかなりの量の太陽光が利用できる場合でしたが、実際には天候不順の場合には2〜3日連続で100万kW(定格容量の12%)程度しか発電できないケースもあり、この場合には主に火力と原子力によって対応することになります。
(2) 変動性への対応の限界
揚水の利用:上の貯水池と下の貯水池に必要な時に必要な水が貯蔵されていないと電力の調整はできません(蓄電池でも同様の事態が生じます)。大規模揚水発電所はすでに開発し尽くされているので増設することは困難です。
・連系線の利用:他の電力会社と送受電を行う場合にも相手側の需給状況とマッチングしていない限り利用できません。連系線の最大送受電量は限られており、これを増強するには多額の費用と期間が必要です。現に関門連系線の増強も専門家の委員会で検討されたようですが、費用と効用の観点から見送られたとのことです。
・火力の利用:火力は量的にも、需給調整面でも依然として大きな役割を果たしていることが分かりました。九電の場合は火力の設備容量が大きいので、需要が多い場合もほぼ対応できています。しかし需要が少ない場合には設備容量の14%で運転しており、下げ代の限界に達していると想像されます。需要が多い場合には設備容量一杯で運用することになり、原子力発電が必要になります。
(3) 原子力の役割
原子力は電力の安定供給に重要な役割を果たしていることが分かります。原子力がない場合には火力の増大(場合によると設備の増設)で対処することになり、CO2の増加、エネルギー自給率(エネルギー安全保障)の低下、及び貴重な国富の流失になります。
(4)ではどうするか?
九電は他電力と比較しても太陽光の大量導入を可能にしていますが、上で述べたように例えば太陽光発電が2倍となると対応に大きな限界が見えてきます。その要因の一つは再エネの中で太陽光に極端に大きく依存していることが挙げられます。風力発電は今後大量の導入計画が見込まれていますが、実データを見る限り意外と変動性が大きく、太陽光の変動を補償する役割は期待できそうにありません。近未来の対策としては火力発電の供給力と調整力に期待するしか解が見つからないと考えられます。しかしそれではCO2の抜本的削減という国際的動向に沿わないことになってしまいます。やはり、原子力に電力の安定供給とCO2削減面で大きな役割を期待することになりそうです。
将来的にはより多様な安定再エネの開発・利用、蓄電池(EV用も含む)や余剰電力の水素への転換・利用、需要調整も考えられますが、いつ頃から本格利用が可能になるか見えない状況です。しかしこのような技術が進展しない限り変動型再エネの「主力電源化」は困難となります。これらの実用化に向けて世界を先導するつもりで、日本の総力をあげて革新的技術開発に取り組む必要があります。火力の出力の下げ代の限界が今後ネックになることも予想されることから、原子力も需給調整面で貢献するためには、フランスやドイツで実施されているように何らかの形での負荷追従運転が必要となり、中期的にはそれに向けて努力していく必要があると考えられます。

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