第5次エネルギー基本計画が近く決定される。完璧なエネルギー源がない現実を考慮すると2050年に向けて温室効果ガスを80%減らすためにはこれまでの技術の延長では不可能であり、非連続の技術革新が必要であるとしている。
はじめに
現在第5次エネルギー基本計画が総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で策定されており、間もなく閣議決定に至る段階にある。同時に昨年8月より経産大臣主催のネルギー情勢懇談会において2050年視点での長期的なエネルギー政策を検討してきており、この検討も参考にされている。
今回の改訂の視点は次のように述べられている。
2014年の計画の策定以降、大きな変化につながるうねりが見られるが、2030年の脱炭素を実現するエネルギーミックスを目指すに際して、完璧なエネルギー源がない現実に変化はない。まずは2030年の脱炭素の目標の実現に全力を挙げる。 また、2050年の目標を達成するためにはこれまでの技術の延長では不可能であり、非連続の技術革新が必要である。我が国は、化石資源に恵まれずエネルギー関連技術の主導権獲得が何より必要な国である。第5次に当たる今回のエネルギー基本計画では、2030年のエネルギーミックスの確実な実現へ向けた取組の更なる強化を行うとともに、新たなエネルギー選択として2050年のエネルギー転換・脱炭素化に向けた挑戦を掲げる。
今号では、これらの骨子を紹介すると同時に私たちの意見も紹介する。なお、早くも一部マスコミは従来の計画を踏襲するのではなく原子力の比率を大幅に下げるべきだと、内容も理解せず主張している。
1.現状はどうなっているのか
現在、安価で脱炭素化に近いレベルでのCO2削減を達成している数少ない国は、太陽光のような出力が変動する再生可能エネルギーの大量導入国ではなく、フランス90%(原子力78%、水力12%)やスウェーデン84%(原子力42%,水力42%,風力7%)、スペインは55%(原子力21%、風力19%、水力19%)など水力や原子力を主軸にする国が中心である。このことは、現状の技術で安定的な脱炭素化のツールと言えるのは主に水力と原子力であり、変動する再生可能エネルギーだけでは現時点では脱炭素化には及ばないという事実を示している、と基本計画原案でも言及している。
日本は、震災以降停止した原発のうち、21基(福島第二含む)158万KWが廃止、5基が再稼働、7基が設置変更許可がおり、14基が新基準で審査中、その他の未申請を含め39基3,900万KWがある。100万KWの原発1基は電力構成比の約0.7%に相当するのでこれらが一日も早く再稼働するとともに、建替えや新設が望まれる。原子力なしで再エネだけで将来の需要を賄おうとすると、現状の主要国のCO2削減レベルにも及ばない。
2.計画の全体シナリオ
2030年に温室効果ガスを26%減らすためには、一次エネルギーゼロエミッション比率24%(震災前19%)を達成するする必要があり、原子力の再稼働で10%、再エネで14%をまかなうという比率を実現するということであり、残りの76%を化石燃料により賄うことになる。そのためには、再エネの発電コストは40円/kwhから7円/kwhまで低減させることが条件となろう。更に加えて、省エネ(石油換算5000万KL分)も達成しなくてはならないとしている。
そして、30年先の2050年には温室効果ガスを80%減らさなければならないが、2030年までの技術の延長では目標を達成することは難しく、非連続の技術開発を実現しなければならない。そのためには、重点的に政策資源を投下する柔軟な戦略を決定する科学的メカニズムを設けなければならないとしている。
>3.どうしたら再エネを増やせるのか
需要と供給のミスマッチの解消
太陽光や風力は時間的・日々の変動が大きく、需要に供給を合わせるために系統制限を課している。欧州は国同士の連携線があり対策がしやすいが、日本では太陽光、風力などは共通に変動するので融通範囲が狭く、まずは既設の系統を用いた融通の仕組みを実現しなくてはならない。
今後、再生可能エネルギーの大量導入を踏まえた次世代型の送配電ネットワークに転換する必要があり、国民負担を抑制しつつ、系統増強等の必要な投資が行われるための環境整備が必要となるとしている。さらに、長期的には定置用蓄電池やEV(電気自動車)などの需要家側に設置される蓄電をまとめて活用するVPP(仮想発電所)からの電気を逆流させる方策、長期的には電力を水素として貯蔵・利用する技術など次世代の調整力を活用し、脱炭素化を進めていくことが重要であるとしている。
発電コストを下げる
日本の太陽光発電コストは2010年段階では欧州と大差なかったが、2016年には総コストで20円/kwhで欧州の10円/kwhの2倍である。原因はFITの高価格が高値を生むうえ、設置のための地理的条件が悪いこと、多段階の下請け構造などとされており改善が望まれている。まず2030年に向けて発電コストを低減するとともに、2050年に向けては電源系、蓄電系などを含むシステム・コストを原発並みの10円/kwh程度にする必要があるとしている。
4.水素利用の拡大
私達が直接使う最終エネルギーの内、電力の占める割合は2015年では30%弱であり、電力以外の分野では石油が約55%(内運輸25%、産業10%、建物10%、その他10%)を占めている。脱炭素を進めるため石油の代わりに水素を貯蔵・輸送しやすい、例えばアンモニアにして利用することが考えられている。
出力の大きな変動を伴う再エネ電源は、3.に述べたように送電網での融通、揚水発電や蓄電器などで調整が必要になるが、余剰の電気で水素を製造することも調整の手段として検討されている。また、電気を介さずに高温ガス炉を利用して水から直接水素を製造する技術も日本では研究しているので実用化を期待したい。
5.2050年に向けて 日本の潜在力を顕在化させる
現時点では、経済的で脱炭素化した変動するエネルギー需要を単独で満たす完璧なエネルギー技術は実現しておらず、技術間競争の帰趨は未だ不透明である。今問うべきは、日本のリスクと可能性を見極め、可能性を顕在化するための打ち手を構想することである。 技術・インフラ・産業構造・政策体系が複雑に絡み合うところに、エネルギー構造の特徴があり、その変革には時間もコストもかかる。
脱炭素化エネルギー・システムはなお開発途上であり、各国の挑戦も試行錯誤にある中、日本は、水素・蓄電・原子力といった脱炭素化技術の基盤を持ち、かつ、資源国と新興国、先進国と緊密な関係を構築している数少ない国である。 こうした日本が保持する大きな可能性を秘めた技術的な資産をどのように活用していくのか、どのような手を打てば日本の潜在力が開花しうるのかという視点で、2050年に向けたシナリオのあり方を検討すべきであると課題を指摘している。
私達の意見
第5次エネルギー基本計画の原案の印象では、今後10年間の取り組みは従来技術の延長であろうが、2050年に向けてはすべてを考え直さなければならいということであろう。
ここで紹介した問題点の多くは再生可能エネルギーを何が何でもエネルギーの主体にもっていこうとしたことにある。日本の国土面積は小さく、一人当たり3000m²、54m四方しか無い。陸上を中心とした国土から得られる自然エネルギーで我々の生活から産業活動を含めてすべてを賄うことができるとは考えられないのである。
フランスは原子力を中心に現在でも電力の80%、再エネを入れるとほとんど脱火力を実現しており、全エネルギー消費の50%のエネルギーをクリーンな電力で供給しているのである。フランスはもう一歩で2050年の目標が達成できる段階にある。
日本も、再生可能エネルギーにとらわれず、国民の理解を得ながら安全な原子力発電に軸足を移すことを考えるべきである。フランスを参考に原子力の比率を高め、いつまでもドイツをお手本にするのはやめたいものである。
最後にこの計画を検討してきたエネルギー情勢懇談会の委員からのコメントを紹介する。
一部原子力反対の委員からは、「再エネ主力電源化」、「原発依存度の可能な限りの低減」、「分散化が位置付けられており良い]という短期的な視点の意見が出されているが、概ね、以下のように長期的な視点に立った合理的な意見が主体となっている。
2050年のCO2 80%削減が達成できるか
● 原発依存度を可能な限り低減するという従来の方針は、2050年80%減を念頭に置いたときに合理的な整合性がなく、反対。
● 2030年に再エネ・原子力の比率が44%でもCO2は26%減。原子力無しでどうやって2050年80%減を達成するのか。
● 原子力なしで80%削減を目指す場合にどうなってしまうのかを、簡単にでもよいから試算できないか。
● 原発依存度低減でどのような世界になるのか検証する必要がある。いくつかの独立系研究所は2050年シナリオを公表しており、再生可能エネルギーだけで成り立つことができるというところもあれば、無理というところもある。結果を持ち寄り前提や結論の相違を議論することが重要。
原発の取り組み
● 原子力は技術開発だけでは社会的な信頼を回復することはできないが、新型炉開発やバックエンド対策には積極的に取り組むべき。
● 原子力問題から逃げてはいけない。同じ島国の英国は原発を追求している。ドイツは隣国に電力融通を依存しており、日本とは状況が違う。
エネルギー・セキュリティ
● 一番本質的な課題は、化石資源が枯渇した後にエネルギーをどう確保するか。
● 日本はエネルギー・セキュリティが脆弱であるという認識を社会全体で共有すべき。石油危機を思い出して、福島事故がどれだけ日本を脆弱にしているか真正面から考える必要がある。
● 石油危機時には省エネイノベーションを政府・国民が一丸となって実行した。今回の提言が同じように行動を促すきっかけになることを期待。
● 原子力は脱炭素化の一つの選択肢でもあるが、むしろエネルギー・セキュリティの観点から残しておくべきオプション。安全規制のリスク・ガバナンスとバックエンド対策が前提。
● 自国のエネルギー安全保障が確保できない国が、国際的な約束を守れるとは思えない。再エネもユーラシアグリッドなど地政学的なリスクを伴うことを認識すべき。
再エネの取り組み
● 再エネ主力電源化を打ち出しているが、都合の悪い事実が隠蔽されないよう、再エネを正義にしないことが重要。
● 再エネの大規模供給と地域分散型は分けて考えるべき。日本は森林資源に恵まれており、バイオマスの持続可能な活用を、熱の視点を含めて検討してほしい。
そのほかの重要な観点
● 産業界の立場から見て、日本のポテンシャルは下がっている印象。太陽光・風力・送配電では海外勢に大きく後れている。ユーティリティ産業だけでなく、エネルギー設備の産業においても、世界の競争相手と比べて規模で劣る傾向にあることを認識することが重要。産業競争の主役は民間セクターであり、全体を見直す必要がある。
● 提言案の大きな方向性は2つ。1つは再エネの主力電源化・原子力を選択肢として残したこと。もう1つは分散化・デジタル化で消費者が需要を管理する方向性。
● 複線的シナリオの中にも、時間軸で考えると共通項もある。例えば次世代送電網やインフラ再構築は共通する。予見可能性を上げて技術開発・投資促進を期待。2050年は長期だが、足下の取組みは早急に実施すべき。
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第5次エネルギー基本計画が近く決定される。完璧なエネルギー源がない現実を考慮すると2050年に向けて温室効果ガスを80%減らすためにはこれまでの技術の延長では不可能であり、非連続の技術革新が必要であるとしている。
はじめに
現在第5次エネルギー基本計画が総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で策定されており、間もなく閣議決定に至る段階にある。同時に昨年8月より経産大臣主催のネルギー情勢懇談会において2050年視点での長期的なエネルギー政策を検討してきており、この検討も参考にされている。
今回の改訂の視点は次のように述べられている。
2014年の計画の策定以降、大きな変化につながるうねりが見られるが、2030年の脱炭素を実現するエネルギーミックスを目指すに際して、完璧なエネルギー源がない現実に変化はない。まずは2030年の脱炭素の目標の実現に全力を挙げる。 また、2050年の目標を達成するためにはこれまでの技術の延長では不可能であり、非連続の技術革新が必要である。我が国は、化石資源に恵まれずエネルギー関連技術の主導権獲得が何より必要な国である。第5次に当たる今回のエネルギー基本計画では、2030年のエネルギーミックスの確実な実現へ向けた取組の更なる強化を行うとともに、新たなエネルギー選択として2050年のエネルギー転換・脱炭素化に向けた挑戦を掲げる。
今号では、これらの骨子を紹介すると同時に私たちの意見も紹介する。なお、早くも一部マスコミは従来の計画を踏襲するのではなく原子力の比率を大幅に下げるべきだと、内容も理解せず主張している。
1.現状はどうなっているのか
現在、安価で脱炭素化に近いレベルでのCO2削減を達成している数少ない国は、太陽光のような出力が変動する再生可能エネルギーの大量導入国ではなく、フランス90%(原子力78%、水力12%)やスウェーデン84%(原子力42%,水力42%,風力7%)、スペインは55%(原子力21%、風力19%、水力19%)など水力や原子力を主軸にする国が中心である。このことは、現状の技術で安定的な脱炭素化のツールと言えるのは主に水力と原子力であり、変動する再生可能エネルギーだけでは現時点では脱炭素化には及ばないという事実を示している、と基本計画原案でも言及している。
日本は、震災以降停止した原発のうち、21基(福島第二含む)158万KWが廃止、5基が再稼働、7基が設置変更許可がおり、14基が新基準で審査中、その他の未申請を含め39基3,900万KWがある。100万KWの原発1基は電力構成比の約0.7%に相当するのでこれらが一日も早く再稼働するとともに、建替えや新設が望まれる。原子力なしで再エネだけで将来の需要を賄おうとすると、現状の主要国のCO2削減レベルにも及ばない。
2.計画の全体シナリオ
2030年に温室効果ガスを26%減らすためには、一次エネルギーゼロエミッション比率24%(震災前19%)を達成するする必要があり、原子力の再稼働で10%、再エネで14%をまかなうという比率を実現するということであり、残りの76%を化石燃料により賄うことになる。そのためには、再エネの発電コストは40円/kwhから7円/kwhまで低減させることが条件となろう。更に加えて、省エネ(石油換算5000万KL分)も達成しなくてはならないとしている。
そして、30年先の2050年には温室効果ガスを80%減らさなければならないが、2030年までの技術の延長では目標を達成することは難しく、非連続の技術開発を実現しなければならない。そのためには、重点的に政策資源を投下する柔軟な戦略を決定する科学的メカニズムを設けなければならないとしている。
>3.どうしたら再エネを増やせるのか
需要と供給のミスマッチの解消
太陽光や風力は時間的・日々の変動が大きく、需要に供給を合わせるために系統制限を課している。欧州は国同士の連携線があり対策がしやすいが、日本では太陽光、風力などは共通に変動するので融通範囲が狭く、まずは既設の系統を用いた融通の仕組みを実現しなくてはならない。
今後、再生可能エネルギーの大量導入を踏まえた次世代型の送配電ネットワークに転換する必要があり、国民負担を抑制しつつ、系統増強等の必要な投資が行われるための環境整備が必要となるとしている。さらに、長期的には定置用蓄電池やEV(電気自動車)などの需要家側に設置される蓄電をまとめて活用するVPP(仮想発電所)からの電気を逆流させる方策、長期的には電力を水素として貯蔵・利用する技術など次世代の調整力を活用し、脱炭素化を進めていくことが重要であるとしている。
発電コストを下げる
日本の太陽光発電コストは2010年段階では欧州と大差なかったが、2016年には総コストで20円/kwhで欧州の10円/kwhの2倍である。原因はFITの高価格が高値を生むうえ、設置のための地理的条件が悪いこと、多段階の下請け構造などとされており改善が望まれている。まず2030年に向けて発電コストを低減するとともに、2050年に向けては電源系、蓄電系などを含むシステム・コストを原発並みの10円/kwh程度にする必要があるとしている。
4.水素利用の拡大
私達が直接使う最終エネルギーの内、電力の占める割合は2015年では30%弱であり、電力以外の分野では石油が約55%(内運輸25%、産業10%、建物10%、その他10%)を占めている。脱炭素を進めるため石油の代わりに水素を貯蔵・輸送しやすい、例えばアンモニアにして利用することが考えられている。
出力の大きな変動を伴う再エネ電源は、3.に述べたように送電網での融通、揚水発電や蓄電器などで調整が必要になるが、余剰の電気で水素を製造することも調整の手段として検討されている。また、電気を介さずに高温ガス炉を利用して水から直接水素を製造する技術も日本では研究しているので実用化を期待したい。
5.2050年に向けて 日本の潜在力を顕在化させる
現時点では、経済的で脱炭素化した変動するエネルギー需要を単独で満たす完璧なエネルギー技術は実現しておらず、技術間競争の帰趨は未だ不透明である。今問うべきは、日本のリスクと可能性を見極め、可能性を顕在化するための打ち手を構想することである。 技術・インフラ・産業構造・政策体系が複雑に絡み合うところに、エネルギー構造の特徴があり、その変革には時間もコストもかかる。
脱炭素化エネルギー・システムはなお開発途上であり、各国の挑戦も試行錯誤にある中、日本は、水素・蓄電・原子力といった脱炭素化技術の基盤を持ち、かつ、資源国と新興国、先進国と緊密な関係を構築している数少ない国である。 こうした日本が保持する大きな可能性を秘めた技術的な資産をどのように活用していくのか、どのような手を打てば日本の潜在力が開花しうるのかという視点で、2050年に向けたシナリオのあり方を検討すべきであると課題を指摘している。
私達の意見
第5次エネルギー基本計画の原案の印象では、今後10年間の取り組みは従来技術の延長であろうが、2050年に向けてはすべてを考え直さなければならいということであろう。
ここで紹介した問題点の多くは再生可能エネルギーを何が何でもエネルギーの主体にもっていこうとしたことにある。日本の国土面積は小さく、一人当たり3000m²、54m四方しか無い。陸上を中心とした国土から得られる自然エネルギーで我々の生活から産業活動を含めてすべてを賄うことができるとは考えられないのである。
フランスは原子力を中心に現在でも電力の80%、再エネを入れるとほとんど脱火力を実現しており、全エネルギー消費の50%のエネルギーをクリーンな電力で供給しているのである。フランスはもう一歩で2050年の目標が達成できる段階にある。
日本も、再生可能エネルギーにとらわれず、国民の理解を得ながら安全な原子力発電に軸足を移すことを考えるべきである。フランスを参考に原子力の比率を高め、いつまでもドイツをお手本にするのはやめたいものである。
最後にこの計画を検討してきたエネルギー情勢懇談会の委員からのコメントを紹介する。
一部原子力反対の委員からは、「再エネ主力電源化」、「原発依存度の可能な限りの低減」、「分散化が位置付けられており良い]という短期的な視点の意見が出されているが、概ね、以下のように長期的な視点に立った合理的な意見が主体となっている。
2050年のCO2 80%削減が達成できるか
● 原発依存度を可能な限り低減するという従来の方針は、2050年80%減を念頭に置いたときに合理的な整合性がなく、反対。
● 2030年に再エネ・原子力の比率が44%でもCO2は26%減。原子力無しでどうやって2050年80%減を達成するのか。
● 原子力なしで80%削減を目指す場合にどうなってしまうのかを、簡単にでもよいから試算できないか。
● 原発依存度低減でどのような世界になるのか検証する必要がある。いくつかの独立系研究所は2050年シナリオを公表しており、再生可能エネルギーだけで成り立つことができるというところもあれば、無理というところもある。結果を持ち寄り前提や結論の相違を議論することが重要。
原発の取り組み
● 原子力は技術開発だけでは社会的な信頼を回復することはできないが、新型炉開発やバックエンド対策には積極的に取り組むべき。
● 原子力問題から逃げてはいけない。同じ島国の英国は原発を追求している。ドイツは隣国に電力融通を依存しており、日本とは状況が違う。
エネルギー・セキュリティ
● 一番本質的な課題は、化石資源が枯渇した後にエネルギーをどう確保するか。
● 日本はエネルギー・セキュリティが脆弱であるという認識を社会全体で共有すべき。石油危機を思い出して、福島事故がどれだけ日本を脆弱にしているか真正面から考える必要がある。
● 石油危機時には省エネイノベーションを政府・国民が一丸となって実行した。今回の提言が同じように行動を促すきっかけになることを期待。
● 原子力は脱炭素化の一つの選択肢でもあるが、むしろエネルギー・セキュリティの観点から残しておくべきオプション。安全規制のリスク・ガバナンスとバックエンド対策が前提。
● 自国のエネルギー安全保障が確保できない国が、国際的な約束を守れるとは思えない。再エネもユーラシアグリッドなど地政学的なリスクを伴うことを認識すべき。
再エネの取り組み
● 再エネ主力電源化を打ち出しているが、都合の悪い事実が隠蔽されないよう、再エネを正義にしないことが重要。
● 再エネの大規模供給と地域分散型は分けて考えるべき。日本は森林資源に恵まれており、バイオマスの持続可能な活用を、熱の視点を含めて検討してほしい。
そのほかの重要な観点
● 産業界の立場から見て、日本のポテンシャルは下がっている印象。太陽光・風力・送配電では海外勢に大きく後れている。ユーティリティ産業だけでなく、エネルギー設備の産業においても、世界の競争相手と比べて規模で劣る傾向にあることを認識することが重要。産業競争の主役は民間セクターであり、全体を見直す必要がある。
● 提言案の大きな方向性は2つ。1つは再エネの主力電源化・原子力を選択肢として残したこと。もう1つは分散化・デジタル化で消費者が需要を管理する方向性。
● 複線的シナリオの中にも、時間軸で考えると共通項もある。例えば次世代送電網やインフラ再構築は共通する。予見可能性を上げて技術開発・投資促進を期待。2050年は長期だが、足下の取組みは早急に実施すべき。
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