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SEJ 日本のエネルギーを考える会

155号  原子力の将来のための有力な選択肢 −小型モジュール炉に米国、カナダ、英国が注目−


カテゴリ:  原子力安全    2018-3-30 22:40   閲覧 (3147)

日本では原発廃止の声が大きくなっているが、世界では新しい原発想の原発を作ろうとする動きがある。米国では国が主導して小型モジュール炉で、動力を用いない受動的安全性、工場生産の原子炉モジュール新しい発想の原発が実用化しようとしている。主要国も検討を開始した。

1.小型炉が注目されている

日本では野党が原子力発電を廃止する法案を提出しようとしているが、世界は必ずしもそうではない。現在は大型軽水炉が主流であるが、新しい着想の小型モジュール軽水炉が世界で注目されている。
● 小型炉は大型炉に代わりうる


大型炉は事故時にポンプや非常用電源を必要とし、高度な運転管理も必要とされたが、小型炉ならば受動的安全技術といわれる自然の原理で安全にできるし、構造も極めて簡素でコストダウンできるという逆転の発想から小型モジュール炉が生まれたようだ。
発電容量は最大で54万KW程度であり、このままでは大型炉の代替は難しい。しかし、安全性に対する理解が定着すれば、臨海部ばかりではなく内陸や島嶼などにも建設が可能であり、分散型電源という新しい未来が出てくるかもしれない。また、このような原発は発展途上国でも利用できるので、日本にとって大きな輸出品にもなる可能性を秘めている。


2.主要国の取り組み

日本では、経産省のエネルギー情報懇談会において、2017年2月にNuScale 社から同社のSmall Modular Reactor(以下「SMR」)の説明を受けて注目された。詳細に興味のある方はNuScale社のホーム・ページを参照して欲しい(http://www.nuscalepower.com/)
● 米国NuScale社は、SMRの設計承認を 2016 年 12 月31 日付でNRCに申請した。申請書(約1200頁)の記載情報に不足がないかを確認した後、40 ヶ月以内を目標に設計承認審査を行うこととなる。 同社の発表によれば、初のプラントはアイダホ国立研究所の敷地内に建設される予定である。所有者はUAMPS(Utah Associated Municipal Power Systems )、運転者はEnergy Northwest社となる予定 であり、商業運転開始の目標年は2026 年とされている。 同社は、米国内のみならず海外への輸出も視野に入れており、控えめに見積もった結果として、2035 年までに世界で55〜75GW、モジュールに換算して1,000 本以上の同社製SMR が運転することになるとの予測を紹介している。
● カナダの原子力安全委員会はNuScale社とウェスチングハウス(WH)社がそれぞれ開発中のSMR設計について、許認可申請前設計審査を実施することになったと発表した。
● 英国政府はロールスロイス社、NuScale社、日立、ウェスチングハウス社等からのヒアリングを実施してきたが、2017年9月15日、2〜3ヶ月中にSMRの開発戦略に関する政府方針を決定すると発表した。今後商業化、資金調達方法、輸出可能性を評価するとしている。
3.NuScale 社のSMRの主な特長

●原子炉モジュール


1つのモジュールは、原子炉(電気出力4.5万KW)、熱交換器、格納容器が一体で工場で製造され、中にはポンプ等の動的機器はなく、自然循環、伝熱、重力などの自然原理で原子炉の熱をタービンに送り出すことができる。モジュールは原子炉の外側の格納容器と一体構造になっており、格納容器は大幅に小さくなっている。このモジュール(最大12基)毎に原子炉プールに設置され電気出力は最大54万KWである。


● 安全性



福島事故では原子炉から出続ける崩壊熱は、逃がし弁を通して格納容器内のサプレッションプールに移動したが、プール冷却に失敗して格納容器の内圧があがり、内部の放射能を外部に放出することになった。この間の操作の難しさは皆さん承知のことであり、大型炉であるがゆえである。
この点を改善したのがSMRであるといえる。格納容器・原子炉容器一体型の小型モジュール炉は全体を原子炉プール水中に設置することにより、事故時に原子炉を停止しても出続ける崩壊熱をポンプなどの機器に頼らず、熱伝導、対流等の自然の原理で原子炉プールに放出できる。
全電源喪失事故など、原子炉からタービン系へ熱を送れなくなると、原子炉容器下部の弁を開き格納容器に水を流し同じ水位にし、外側の原子炉プールで冷却し高い崩壊熱を除去する。3日目以降はプール水位は下がるが、崩壊熱も下がるので継続して安全に冷却でき、30日目以降は原子炉プール水がなくても空冷で冷却できる。
その間、コンピューターや作業員の操作は不要であり、交流電源や追加的な冷却なしに半永久的に冷却できる。福島事故での複雑な操作や移動式の電源車の必要性などは全くない安全な原子炉である。その結果、内圧が上がり放射能を外部に放出する必要がない。また、炉心溶融確率は極めて小さく、避難区域を発電所敷地内(400m×400m)に収めることが可能となる。


●燃料交換


原子炉が多数並べられるため、燃料交換が気になるが、以下のように行われ迅速にできそうである。原子炉建屋は原子炉プール、原子炉容器フランジツール、格納容器フランジツールなどからなり、燃料交換をする場合の手順は概略次のとおりである。
?モジュールからの格納容器下部の取り外し
?原子炉容器(炉心含む)下部取り外し
?格納容器上部は仮置き場に退避
??の炉心にある使用済燃料を隣接する使用済プールへ移動
?炉心に新燃料を装荷後に再組み立て


● 炉心設計

燃料集合体や制御棒設計はPWRの技術を取り入れ、長さのみを約60%にしており、新たな燃料開発は必要ない。原子炉は電力需要や再生可能エネルギーからの出力の急変要求に応じ以下のように対応できる
● 受給急変への対応:需要の低下や再生可能エネルギー発電からの供給の急激な増加の際に発電を維持させるため、一つあるいはそれ以上のモジュールを一定期間停止
● 出力変更: 24時間負荷変更サイクル100%→20%→100%、1時間に40%の出力変動、10分間に20%のステップ変化などが可能
● タービンバイパス:タービン蒸気を100%コンデンサーにバイパス(短時間枠)
●発電コスト


日本と直接比較はできないが先進的PWRやCCS火力、バイオマス、太陽光発電より安いと評価している。
 運転コストが高かった燃料交換がルーチン化、
 メンテナンスをほとんど必要としない小型タービン、
 原子力機器が少なく故障の減少と保守の減少、複数のモジュールサイトによって保守の集中化、保守コストを低減、
 信頼性の向上により停止期間を減らし稼働率を上げること
などがあるとしている。



● 工場生産しサイトに運搬できる



小型炉のモジュールは原子炉、蒸気発生器、格納容器などが一体化されており、工場で完成品にまで仕上げることにより高い品質を容易に実現できる上、将来的には規格化されたモジュールを大量生産するにも適している。完成後には、トラックやバージで発電所まで輸送し据え付けができ、必要とあれば原子炉モジュール数の変更もできるという。その結果、現地での設置作業は最低限で済み、あらかじめ建設された原子炉建屋、原子炉プールに入れて組み立てればよく、建設期間を大幅に短縮することができる。


4.まとめ

構造がシンプルであり、複雑な安全系は少なく、運転員や国の規制や検査機関への負担が少なく、そして過酷事故に極めて高い安全性を有している。このような特性が国民に認められるならば、新しい原子力発電の展望が開けることであろう。
この小型炉のタービンは空冷であり海水冷却を必要としないので、内陸の地域に設置する再生可能エネルギーと組み合わせ安定した電力を供給することも可能である。また、運転も容易であることから必ずしも電気事業者でなくても事業に参加できる可能性がある。このような新しい小型軽水炉が世界の一つの流れになる可能性があるので、軽水炉の大型試験装置を有している日本原子力開発機構は、安全性の実証業務や設計の日本化などにおいてこれらの装置を活用し、小型軽水炉の普及に貢献するという道も開けて来るであろう


参考資料
1.Nuscale 社 http://www.nuscalepower.com/
2.経産省エネルギー情報懇談会資料
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/007/pdf/007_005.pdf


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155号  原子力の将来のための有力な選択肢 −小型モジュール炉に米国、カナダ、英国が注目−


カテゴリ:  原子力安全    2018-3-30 22:40   閲覧 (3147)

日本では原発廃止の声が大きくなっているが、世界では新しい原発想の原発を作ろうとする動きがある。米国では国が主導して小型モジュール炉で、動力を用いない受動的安全性、工場生産の原子炉モジュール新しい発想の原発が実用化しようとしている。主要国も検討を開始した。

1.小型炉が注目されている

日本では野党が原子力発電を廃止する法案を提出しようとしているが、世界は必ずしもそうではない。現在は大型軽水炉が主流であるが、新しい着想の小型モジュール軽水炉が世界で注目されている。
● 小型炉は大型炉に代わりうる


大型炉は事故時にポンプや非常用電源を必要とし、高度な運転管理も必要とされたが、小型炉ならば受動的安全技術といわれる自然の原理で安全にできるし、構造も極めて簡素でコストダウンできるという逆転の発想から小型モジュール炉が生まれたようだ。
発電容量は最大で54万KW程度であり、このままでは大型炉の代替は難しい。しかし、安全性に対する理解が定着すれば、臨海部ばかりではなく内陸や島嶼などにも建設が可能であり、分散型電源という新しい未来が出てくるかもしれない。また、このような原発は発展途上国でも利用できるので、日本にとって大きな輸出品にもなる可能性を秘めている。


2.主要国の取り組み

日本では、経産省のエネルギー情報懇談会において、2017年2月にNuScale 社から同社のSmall Modular Reactor(以下「SMR」)の説明を受けて注目された。詳細に興味のある方はNuScale社のホーム・ページを参照して欲しい(http://www.nuscalepower.com/)
● 米国NuScale社は、SMRの設計承認を 2016 年 12 月31 日付でNRCに申請した。申請書(約1200頁)の記載情報に不足がないかを確認した後、40 ヶ月以内を目標に設計承認審査を行うこととなる。 同社の発表によれば、初のプラントはアイダホ国立研究所の敷地内に建設される予定である。所有者はUAMPS(Utah Associated Municipal Power Systems )、運転者はEnergy Northwest社となる予定 であり、商業運転開始の目標年は2026 年とされている。 同社は、米国内のみならず海外への輸出も視野に入れており、控えめに見積もった結果として、2035 年までに世界で55〜75GW、モジュールに換算して1,000 本以上の同社製SMR が運転することになるとの予測を紹介している。
● カナダの原子力安全委員会はNuScale社とウェスチングハウス(WH)社がそれぞれ開発中のSMR設計について、許認可申請前設計審査を実施することになったと発表した。
● 英国政府はロールスロイス社、NuScale社、日立、ウェスチングハウス社等からのヒアリングを実施してきたが、2017年9月15日、2〜3ヶ月中にSMRの開発戦略に関する政府方針を決定すると発表した。今後商業化、資金調達方法、輸出可能性を評価するとしている。
3.NuScale 社のSMRの主な特長

●原子炉モジュール


1つのモジュールは、原子炉(電気出力4.5万KW)、熱交換器、格納容器が一体で工場で製造され、中にはポンプ等の動的機器はなく、自然循環、伝熱、重力などの自然原理で原子炉の熱をタービンに送り出すことができる。モジュールは原子炉の外側の格納容器と一体構造になっており、格納容器は大幅に小さくなっている。このモジュール(最大12基)毎に原子炉プールに設置され電気出力は最大54万KWである。


● 安全性



福島事故では原子炉から出続ける崩壊熱は、逃がし弁を通して格納容器内のサプレッションプールに移動したが、プール冷却に失敗して格納容器の内圧があがり、内部の放射能を外部に放出することになった。この間の操作の難しさは皆さん承知のことであり、大型炉であるがゆえである。
この点を改善したのがSMRであるといえる。格納容器・原子炉容器一体型の小型モジュール炉は全体を原子炉プール水中に設置することにより、事故時に原子炉を停止しても出続ける崩壊熱をポンプなどの機器に頼らず、熱伝導、対流等の自然の原理で原子炉プールに放出できる。
全電源喪失事故など、原子炉からタービン系へ熱を送れなくなると、原子炉容器下部の弁を開き格納容器に水を流し同じ水位にし、外側の原子炉プールで冷却し高い崩壊熱を除去する。3日目以降はプール水位は下がるが、崩壊熱も下がるので継続して安全に冷却でき、30日目以降は原子炉プール水がなくても空冷で冷却できる。
その間、コンピューターや作業員の操作は不要であり、交流電源や追加的な冷却なしに半永久的に冷却できる。福島事故での複雑な操作や移動式の電源車の必要性などは全くない安全な原子炉である。その結果、内圧が上がり放射能を外部に放出する必要がない。また、炉心溶融確率は極めて小さく、避難区域を発電所敷地内(400m×400m)に収めることが可能となる。


●燃料交換


原子炉が多数並べられるため、燃料交換が気になるが、以下のように行われ迅速にできそうである。原子炉建屋は原子炉プール、原子炉容器フランジツール、格納容器フランジツールなどからなり、燃料交換をする場合の手順は概略次のとおりである。
?モジュールからの格納容器下部の取り外し
?原子炉容器(炉心含む)下部取り外し
?格納容器上部は仮置き場に退避
??の炉心にある使用済燃料を隣接する使用済プールへ移動
?炉心に新燃料を装荷後に再組み立て


● 炉心設計

燃料集合体や制御棒設計はPWRの技術を取り入れ、長さのみを約60%にしており、新たな燃料開発は必要ない。原子炉は電力需要や再生可能エネルギーからの出力の急変要求に応じ以下のように対応できる
● 受給急変への対応:需要の低下や再生可能エネルギー発電からの供給の急激な増加の際に発電を維持させるため、一つあるいはそれ以上のモジュールを一定期間停止
● 出力変更: 24時間負荷変更サイクル100%→20%→100%、1時間に40%の出力変動、10分間に20%のステップ変化などが可能
● タービンバイパス:タービン蒸気を100%コンデンサーにバイパス(短時間枠)
●発電コスト


日本と直接比較はできないが先進的PWRやCCS火力、バイオマス、太陽光発電より安いと評価している。
 運転コストが高かった燃料交換がルーチン化、
 メンテナンスをほとんど必要としない小型タービン、
 原子力機器が少なく故障の減少と保守の減少、複数のモジュールサイトによって保守の集中化、保守コストを低減、
 信頼性の向上により停止期間を減らし稼働率を上げること
などがあるとしている。



● 工場生産しサイトに運搬できる



小型炉のモジュールは原子炉、蒸気発生器、格納容器などが一体化されており、工場で完成品にまで仕上げることにより高い品質を容易に実現できる上、将来的には規格化されたモジュールを大量生産するにも適している。完成後には、トラックやバージで発電所まで輸送し据え付けができ、必要とあれば原子炉モジュール数の変更もできるという。その結果、現地での設置作業は最低限で済み、あらかじめ建設された原子炉建屋、原子炉プールに入れて組み立てればよく、建設期間を大幅に短縮することができる。


4.まとめ

構造がシンプルであり、複雑な安全系は少なく、運転員や国の規制や検査機関への負担が少なく、そして過酷事故に極めて高い安全性を有している。このような特性が国民に認められるならば、新しい原子力発電の展望が開けることであろう。
この小型炉のタービンは空冷であり海水冷却を必要としないので、内陸の地域に設置する再生可能エネルギーと組み合わせ安定した電力を供給することも可能である。また、運転も容易であることから必ずしも電気事業者でなくても事業に参加できる可能性がある。このような新しい小型軽水炉が世界の一つの流れになる可能性があるので、軽水炉の大型試験装置を有している日本原子力開発機構は、安全性の実証業務や設計の日本化などにおいてこれらの装置を活用し、小型軽水炉の普及に貢献するという道も開けて来るであろう


参考資料
1.Nuscale 社 http://www.nuscalepower.com/
2.経産省エネルギー情報懇談会資料
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/007/pdf/007_005.pdf


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