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SEJ 日本のエネルギーを考える会

136号 エネルギーの将来を考えましょう(2) −再生可能エネルギーの限界について−


カテゴリ:  エネルギー    2017-2-8 15:40   閲覧 (1515)

日本では、あたかも再生可能エネルギーが救世主のように扱われていますが、本当にそうでしょうか?

再生可能エネルギーの導入


 135号に引き続き、日本の電力供給の将来像について考えてみましょう。日本では、あたかも再生可能エネルギーが救世主のように扱われ、たとえ原発をなくしても、太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーを拡大してゆけば、地球温暖化防止に寄与できるし電力供給も問題が無くなるかのような風潮が蔓延しています。本当にそうでしょうか?
再生可能エネルギーは、技術的に無理のない範囲で導入して、電源のベスト・ミックスの中でしかるべき位置を占めるようになるのが好ましいことだと考えられます。再生可能エネルギーには、安定的に発電に使用できる水力、地熱、バイオマスなどもありますが、残念ながら我が国の資源の賦存量と立地の条件から今後の開発余地が限られています。従って、再生可能エネルギーを増加させるには、現状では太陽光や風力などの天候に大きく左右される発電が主力を占めることになります。今回は、再生可能エネルギーの中で最も注目を浴びており、設置が進められている太陽光発電と風力発電の問題点を取り上げます。

2.需要と供給を一致させるための調整が必要


 電気は、需要と供給が常に一致する「同時同量」が必要です。この需給バランスが崩れると電圧や周波数が変動し、医療用機器や精密機械の制御が突然出来なくなります。最悪の場合には大規模停電発生の恐れがある為、瞬時瞬時の需給バランスを保つことが重要になります。
このために、電力会社は従来から需要の変動に応じて発電側の出力を調整して高品質の電気を維持していたのですが、再生可能エネルギーを優先的に利用することが義務付けられるようになったので、発電側の供給の変動にも対応しなくてはならなくなっています。ここで、太陽光、風力などによる発電の特徴を見てみましょう。


 風力発電は年間を通して比較的風が吹く場所に設置されていますが、風は必ず止まる時がありますし、何日間も風の吹かない日もあります。太陽光発電については、夜間の発電が期待できないばかりではなく、曇りの日や雨の日には大幅に発電される電力は減ってしまいます。経産省の検討資料でも、「太陽光や風力は日照や風況によって分単位で出力が変動」すると指摘しています。このような特徴がありますので、太陽光発電や風力発電は安定供給を期待できない変動電源と呼ばれています
電力会社は需要に対し供給が多すぎる場合、火力発電の発電量を抑えることや他の系統に属する電力会社と電気のやりとりを行うなどで供給量を絞り込みますが、それでもなお供給が多すぎると見込める場合は再生可能エネルギーの発電量を抑えることが必要となり、太陽光等による電力の接続可能量を制限することになります。


このように、分単位で変動する発電設備は極めて取り扱いが難しく、日本の電気を質の高い状態に留めておく為には、変動電源の導入量には自ずと限界が出てきます。
国内で発生した余剰電力を陸続きの外国と融通し合うことが可能なスペインやドイツ等の先行国の例を見ても、変動電源が20〜25%になると火力発電などによる調整の負担が増えて、変動電源の導入には自ずとブレーキが掛かる現象が見られます。


3.他の調整設備の活用はできないのか


 余剰電力対策として大規模に調整を行うには、電力間の連繋線(送電線)を使って行う電力の融通が最も適しているのですが、日本の場合にはこの連携線の容量がそれ程大きくなく、欧州の電力会社のように簡単に融通することができません。電力の融通以外には、揚水発電所で高出力ポンプを稼働させて水を上部ダムに揚げたり、畜熱式ヒートポンプ等の熱電源機器と電気自動車の普及及び大型蓄電池への蓄電とアイデアはいろいろあるのですが、前号で紹介した国際エネルギー機関(IEA)のレポート(WEO2016)によると世界の蓄電の99%は揚水発電によって行われているということです。


その揚水発電所でも自分の持つ発電容量の5時間程度分しか貯蔵できません。蓄電池も同様に5時間分程度しか貯蔵ができません。つまり短期のバランス調整には利用できても、3日間というような長期の悪天候に備えることができるような大型蓄電設備の開発が今後の課題です。
 蓄電池の性能が大幅に上がり、安くなるのであれば、変動電源で発電された電力は全て一旦蓄電池に貯めておくこととし、需要に応じて系統に安定的に電力を供給するようにできれば、以上に述べた様な問題は解決するでしょう。


4.大変な額の費用や歳月が必要になります


 3.で取り上げた電力間の連携線を強化して電力の融通を大規模にやれるようにする・蓄電池をもっと大幅に採用して変動電源をなくす・揚水発電所を各地に多く作るなど、問題を解決する方法は沢山有ります。しかしながら、これらを実現するには全て大変な額のお金や歳月が必要になります。同時同量の電力を安定的に供給することが欠かせない高度に制御される機器が多い日本で、今すぐにこれらの方法で必要な電力を賄うには間に合いませんし、とてつもない金額を誰が負担するのか決めるだけでも簡単な話ではありません。(実は必ず最終需要者である消費者が負担することになるのですが・・・)。



もうひとつの問題として再エネ発電賦課金があります。電気料金の請求書を見て貰いたいのですが、月に1万円程度しか電気代を支払っていない家庭でもそのうち千円程度が再エネ発電賦課金として徴収されています。やり繰りが厳しい家計や小規模工場では負担が増すばかりです。「再生可能エネルギーが日本を救う」という間違った考えのために、このような不合理な制度がまかり通っています。太陽光発電・風力発電に出力制御を装備させると共に大型蓄電池の早期開発と低価格化を実現し併せて国民負担を極力抑えるために、固定価格買取制度(FIT)を需要に応じて買取価格が変動する制度へ移行させることが望まれます。

5.結び


 どのような設備でも長所と短所があることを改めて認識し、再生可能エネルギーだけですべての問題が解決するとの幻想を捨てて、バランスのとれた電力供給仕組みの開発を進めるべきではないでしょうか。
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136号 エネルギーの将来を考えましょう(2) −再生可能エネルギーの限界について−


カテゴリ:  エネルギー    2017-2-8 15:40   閲覧 (1515)

日本では、あたかも再生可能エネルギーが救世主のように扱われていますが、本当にそうでしょうか?

再生可能エネルギーの導入


 135号に引き続き、日本の電力供給の将来像について考えてみましょう。日本では、あたかも再生可能エネルギーが救世主のように扱われ、たとえ原発をなくしても、太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーを拡大してゆけば、地球温暖化防止に寄与できるし電力供給も問題が無くなるかのような風潮が蔓延しています。本当にそうでしょうか?
再生可能エネルギーは、技術的に無理のない範囲で導入して、電源のベスト・ミックスの中でしかるべき位置を占めるようになるのが好ましいことだと考えられます。再生可能エネルギーには、安定的に発電に使用できる水力、地熱、バイオマスなどもありますが、残念ながら我が国の資源の賦存量と立地の条件から今後の開発余地が限られています。従って、再生可能エネルギーを増加させるには、現状では太陽光や風力などの天候に大きく左右される発電が主力を占めることになります。今回は、再生可能エネルギーの中で最も注目を浴びており、設置が進められている太陽光発電と風力発電の問題点を取り上げます。

2.需要と供給を一致させるための調整が必要


 電気は、需要と供給が常に一致する「同時同量」が必要です。この需給バランスが崩れると電圧や周波数が変動し、医療用機器や精密機械の制御が突然出来なくなります。最悪の場合には大規模停電発生の恐れがある為、瞬時瞬時の需給バランスを保つことが重要になります。
このために、電力会社は従来から需要の変動に応じて発電側の出力を調整して高品質の電気を維持していたのですが、再生可能エネルギーを優先的に利用することが義務付けられるようになったので、発電側の供給の変動にも対応しなくてはならなくなっています。ここで、太陽光、風力などによる発電の特徴を見てみましょう。


 風力発電は年間を通して比較的風が吹く場所に設置されていますが、風は必ず止まる時がありますし、何日間も風の吹かない日もあります。太陽光発電については、夜間の発電が期待できないばかりではなく、曇りの日や雨の日には大幅に発電される電力は減ってしまいます。経産省の検討資料でも、「太陽光や風力は日照や風況によって分単位で出力が変動」すると指摘しています。このような特徴がありますので、太陽光発電や風力発電は安定供給を期待できない変動電源と呼ばれています
電力会社は需要に対し供給が多すぎる場合、火力発電の発電量を抑えることや他の系統に属する電力会社と電気のやりとりを行うなどで供給量を絞り込みますが、それでもなお供給が多すぎると見込める場合は再生可能エネルギーの発電量を抑えることが必要となり、太陽光等による電力の接続可能量を制限することになります。


このように、分単位で変動する発電設備は極めて取り扱いが難しく、日本の電気を質の高い状態に留めておく為には、変動電源の導入量には自ずと限界が出てきます。
国内で発生した余剰電力を陸続きの外国と融通し合うことが可能なスペインやドイツ等の先行国の例を見ても、変動電源が20〜25%になると火力発電などによる調整の負担が増えて、変動電源の導入には自ずとブレーキが掛かる現象が見られます。


3.他の調整設備の活用はできないのか


 余剰電力対策として大規模に調整を行うには、電力間の連繋線(送電線)を使って行う電力の融通が最も適しているのですが、日本の場合にはこの連携線の容量がそれ程大きくなく、欧州の電力会社のように簡単に融通することができません。電力の融通以外には、揚水発電所で高出力ポンプを稼働させて水を上部ダムに揚げたり、畜熱式ヒートポンプ等の熱電源機器と電気自動車の普及及び大型蓄電池への蓄電とアイデアはいろいろあるのですが、前号で紹介した国際エネルギー機関(IEA)のレポート(WEO2016)によると世界の蓄電の99%は揚水発電によって行われているということです。


その揚水発電所でも自分の持つ発電容量の5時間程度分しか貯蔵できません。蓄電池も同様に5時間分程度しか貯蔵ができません。つまり短期のバランス調整には利用できても、3日間というような長期の悪天候に備えることができるような大型蓄電設備の開発が今後の課題です。
 蓄電池の性能が大幅に上がり、安くなるのであれば、変動電源で発電された電力は全て一旦蓄電池に貯めておくこととし、需要に応じて系統に安定的に電力を供給するようにできれば、以上に述べた様な問題は解決するでしょう。


4.大変な額の費用や歳月が必要になります


 3.で取り上げた電力間の連携線を強化して電力の融通を大規模にやれるようにする・蓄電池をもっと大幅に採用して変動電源をなくす・揚水発電所を各地に多く作るなど、問題を解決する方法は沢山有ります。しかしながら、これらを実現するには全て大変な額のお金や歳月が必要になります。同時同量の電力を安定的に供給することが欠かせない高度に制御される機器が多い日本で、今すぐにこれらの方法で必要な電力を賄うには間に合いませんし、とてつもない金額を誰が負担するのか決めるだけでも簡単な話ではありません。(実は必ず最終需要者である消費者が負担することになるのですが・・・)。



もうひとつの問題として再エネ発電賦課金があります。電気料金の請求書を見て貰いたいのですが、月に1万円程度しか電気代を支払っていない家庭でもそのうち千円程度が再エネ発電賦課金として徴収されています。やり繰りが厳しい家計や小規模工場では負担が増すばかりです。「再生可能エネルギーが日本を救う」という間違った考えのために、このような不合理な制度がまかり通っています。太陽光発電・風力発電に出力制御を装備させると共に大型蓄電池の早期開発と低価格化を実現し併せて国民負担を極力抑えるために、固定価格買取制度(FIT)を需要に応じて買取価格が変動する制度へ移行させることが望まれます。

5.結び


 どのような設備でも長所と短所があることを改めて認識し、再生可能エネルギーだけですべての問題が解決するとの幻想を捨てて、バランスのとれた電力供給仕組みの開発を進めるべきではないでしょうか。
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