IEAは地球温暖化対策などについて、エネルギー供給の視点に立ち2016年11月にWorld Energy Outlook 2016を発行しました。大変なことになっています。
このような状況ひとつを取ってみても、これからは世界や日本でのエネルギー政策の抜本的な見直しが求められていると認識しています。 私たちIOJは,このような認識に基づいて、新年号からエネルギーの将来にとって基本的と考えられるいくつかのテーマについてシリーズで報告して参ります。今回は、地球温暖化対策について検討しました。
1.エネルギー供給の展望と2016年パリ協定
日本では福島第一事故の影響で原子力発電所の再稼働が遅れるとともに、2014年のエネルギー基本計画では「再生可能エネルギーを積極的に進め、可能な限り原発を減らす」という方針が立てられ、これを5年ごとに見直すこととしております。2015年には長期エネルギーの見通しが立てられ、また対外的には、温室効果ガスを2013年の26%減の約束をしています。
現在、ほとんど原発が動いていない状況で、電力不足に陥ることもなく、電気料金も大きく増加していないので、日本国民は危機感を持つ必要を感じていないかも知れません。しかし、私達が問題にするのは当面の問題ではなく、例えば、数十年に亘るエネルギー供給の見通しを得ることなのです。
IEA(国際エネルギー機関)は世界のエネルギー供給や地球温暖化対策などについて、エネルギー供給の視点に立ち2016年11月にWorld Energy Outlook 2016(以下「WEO216」)を発行しました。これによれば、国際的にはこれからエネルギー消費が激増するという環境に置かれているのであり、これを踏まえたうえで、2016年のパリ協定に基づき二酸化炭素を2050年には地球全体で現在より80%も減らさなければならないとしています。
「再生可能エネルギーを積極的に進め、可能な限り原発を減らす」方針というきれいごとではとてもこの目標を達成できないことが示されています。
2.WEO2016の地球温暖化対策提案
WEO2016では、COP21で提案された地球温暖化対策を、再生可能エネルギーや原子力などの導入、各種の省エネルギー対策、化石燃料の開発などについて分析しています。この分析に際しては、OECD諸国および非OECD諸国からの取り組み方針を参考にしております。
?各国の約束では対応は不十分
WEO216 の検討では各国の現在の政策(Current Policies)では温暖化を防止するには不十分ですので、各国の約束草案を考慮した新政策(New Policies)、そして地球の温度上昇を2℃以下に抑えるため二酸化炭素濃度を450ppm以下にするシナリオ(450シナリオ)について、各国のデータ等を集約して世界のCO2排出量を検討しています。その結果は新政策(New Policies)では、とても2℃以下に抑えるとの目標は達成できず、少なくとも450シナリオが必要であることが示されました。
(図:確実に上昇する地球の二酸化炭素濃度 温室効果ガス観測衛星「いぶき」の測定結果)
?450シナリオでの取り組みの骨子
最終エネルギー(実際に使われるエネルギー)の分野別のCO2の排出量が2014年から2040年までにどれだけ削減することになるかを図に示します。
電力の分野では、先進国では原子力や再生エネルギーが積極的に導入され25%まで削減されます。電力以外の分野では省エネが中心ですが、新興国の需要が増えるため、ほとんど減っていません。本来、CO2排出を削減するには非化石の電力を大幅に増やし、自動車、暖房、給湯などの分野を電力化することだと考えられますが、そこまでは検討されていません。大量で安価な電力の供給を、非化石の再生可能エネルギーだけで供給しようとしても、不可能であることを示しています。
?大変な費用になります
450シナリオを達成するためには、2016年から2040年までにエネルギー供給分野とエネルギー効率化の分野合計では114円/ドルとすると8,500兆円、年間340兆円という費用が必要です。
電力関係を詳細に見ると、原子力、再生可能エネルギーと電源系統などに要する費用は発電部門で1730兆円、送電等の分野で820兆円を要すると試算されています。
?450シナリオの先には1.5℃以内する厳しい対策が控えている
450 シナリオでは気温上昇を2℃以下に抑えることを当面の目標としているのですが、2050年までに80%の削減を実現するには、気温上昇を1.5℃以内に抑えるとする更に厳しい変革が必要となります。このためには2040 年から2060 年にかけてゼロエミッションを達成する必要があり、例えば、エネルギー部門を今世紀末までに、あらゆる燃料燃焼からの排出分を回収貯留するか、または大気から炭素を取り除く技術によって相殺するという段階に達する軌道に乗せなければならないのです。
?450シナリオでの具体的に発電量
2040年の450シナリオでの各地域の電力供給を集計すると、その割合は図の通りとなります。化石燃料は世界全体では16%まで削減され、原子力は26%、水力、バイオ、再生可能エネルギーの合計は44%を占めかなりの非化石化が進みます。しかし新技術を取り入れ地球温暖化対策に取り組むことが出来る欧州、米国、日本、韓国などのOECD諸国は世界の30%程度であり、ロシア・東欧、中国、インド等の対策が進まない限りCO2の削減には限界があります。
これらの国にも適用できる安価な技術の開発が必要となるのです。
?CCS(地中貯蔵)が前提
原子力の拡大が前提となっているのですが、CO2放出を更に防ぐため、発電所からの排気や産業活動で発生するCO2を地下に貯蔵する技術(CCS)の採用も考慮されています。この技術が採用された場合には、450シナリオでの2040年までの貯蔵量は5Gtとなると試算されています。
3.まとめ
地球温暖化の原因は、数億年前長期間大気中にあった二酸化炭素が光合成を経て動植物によって固定され、それが化石燃料となって地中や海底に蓄えられていたものを、ここ100~200年で燃やしつくし、それによって再び大気の二酸化炭素を増やしていることにあります。
地球の温度上昇を何度以下に抑えるかを検討することも重要ですが、また、化石燃料を我々が100年、200年で使いきっても良いのかが人類に問われているのです。
現在考えられている温暖化対策を現実的なものにする新技術、新政策が出てこない限り人類の未来がないかも知れません。
IEAのような客観的な分析を行う国際機関でも、今回のWEO2016に示しているように、日本を含む先進国が大幅に原子力発電を採用してゆかなくては地球温暖化は防げないということを示しています。日本はフランスとともに原子力先進国であり、原子力発電だけではなく高温ガス炉による水素製造、小型原子炉などの技術を有しておりますので、フランスなどと協力して、途上国でも安価で安全に運転できる原子力発電を推進するなど、厳しい目標もクリアーする努力を重ねて行くことが期待されているのです。
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IEAは地球温暖化対策などについて、エネルギー供給の視点に立ち2016年11月にWorld Energy Outlook 2016を発行しました。大変なことになっています。
このような状況ひとつを取ってみても、これからは世界や日本でのエネルギー政策の抜本的な見直しが求められていると認識しています。 私たちIOJは,このような認識に基づいて、新年号からエネルギーの将来にとって基本的と考えられるいくつかのテーマについてシリーズで報告して参ります。今回は、地球温暖化対策について検討しました。
1.エネルギー供給の展望と2016年パリ協定
日本では福島第一事故の影響で原子力発電所の再稼働が遅れるとともに、2014年のエネルギー基本計画では「再生可能エネルギーを積極的に進め、可能な限り原発を減らす」という方針が立てられ、これを5年ごとに見直すこととしております。2015年には長期エネルギーの見通しが立てられ、また対外的には、温室効果ガスを2013年の26%減の約束をしています。
現在、ほとんど原発が動いていない状況で、電力不足に陥ることもなく、電気料金も大きく増加していないので、日本国民は危機感を持つ必要を感じていないかも知れません。しかし、私達が問題にするのは当面の問題ではなく、例えば、数十年に亘るエネルギー供給の見通しを得ることなのです。
IEA(国際エネルギー機関)は世界のエネルギー供給や地球温暖化対策などについて、エネルギー供給の視点に立ち2016年11月にWorld Energy Outlook 2016(以下「WEO216」)を発行しました。これによれば、国際的にはこれからエネルギー消費が激増するという環境に置かれているのであり、これを踏まえたうえで、2016年のパリ協定に基づき二酸化炭素を2050年には地球全体で現在より80%も減らさなければならないとしています。
「再生可能エネルギーを積極的に進め、可能な限り原発を減らす」方針というきれいごとではとてもこの目標を達成できないことが示されています。
2.WEO2016の地球温暖化対策提案
WEO2016では、COP21で提案された地球温暖化対策を、再生可能エネルギーや原子力などの導入、各種の省エネルギー対策、化石燃料の開発などについて分析しています。この分析に際しては、OECD諸国および非OECD諸国からの取り組み方針を参考にしております。
?各国の約束では対応は不十分
WEO216 の検討では各国の現在の政策(Current Policies)では温暖化を防止するには不十分ですので、各国の約束草案を考慮した新政策(New Policies)、そして地球の温度上昇を2℃以下に抑えるため二酸化炭素濃度を450ppm以下にするシナリオ(450シナリオ)について、各国のデータ等を集約して世界のCO2排出量を検討しています。その結果は新政策(New Policies)では、とても2℃以下に抑えるとの目標は達成できず、少なくとも450シナリオが必要であることが示されました。
(図:確実に上昇する地球の二酸化炭素濃度 温室効果ガス観測衛星「いぶき」の測定結果)
?450シナリオでの取り組みの骨子
最終エネルギー(実際に使われるエネルギー)の分野別のCO2の排出量が2014年から2040年までにどれだけ削減することになるかを図に示します。
電力の分野では、先進国では原子力や再生エネルギーが積極的に導入され25%まで削減されます。電力以外の分野では省エネが中心ですが、新興国の需要が増えるため、ほとんど減っていません。本来、CO2排出を削減するには非化石の電力を大幅に増やし、自動車、暖房、給湯などの分野を電力化することだと考えられますが、そこまでは検討されていません。大量で安価な電力の供給を、非化石の再生可能エネルギーだけで供給しようとしても、不可能であることを示しています。
?大変な費用になります
450シナリオを達成するためには、2016年から2040年までにエネルギー供給分野とエネルギー効率化の分野合計では114円/ドルとすると8,500兆円、年間340兆円という費用が必要です。
電力関係を詳細に見ると、原子力、再生可能エネルギーと電源系統などに要する費用は発電部門で1730兆円、送電等の分野で820兆円を要すると試算されています。
?450シナリオの先には1.5℃以内する厳しい対策が控えている
450 シナリオでは気温上昇を2℃以下に抑えることを当面の目標としているのですが、2050年までに80%の削減を実現するには、気温上昇を1.5℃以内に抑えるとする更に厳しい変革が必要となります。このためには2040 年から2060 年にかけてゼロエミッションを達成する必要があり、例えば、エネルギー部門を今世紀末までに、あらゆる燃料燃焼からの排出分を回収貯留するか、または大気から炭素を取り除く技術によって相殺するという段階に達する軌道に乗せなければならないのです。
?450シナリオでの具体的に発電量
2040年の450シナリオでの各地域の電力供給を集計すると、その割合は図の通りとなります。化石燃料は世界全体では16%まで削減され、原子力は26%、水力、バイオ、再生可能エネルギーの合計は44%を占めかなりの非化石化が進みます。しかし新技術を取り入れ地球温暖化対策に取り組むことが出来る欧州、米国、日本、韓国などのOECD諸国は世界の30%程度であり、ロシア・東欧、中国、インド等の対策が進まない限りCO2の削減には限界があります。
これらの国にも適用できる安価な技術の開発が必要となるのです。
?CCS(地中貯蔵)が前提
原子力の拡大が前提となっているのですが、CO2放出を更に防ぐため、発電所からの排気や産業活動で発生するCO2を地下に貯蔵する技術(CCS)の採用も考慮されています。この技術が採用された場合には、450シナリオでの2040年までの貯蔵量は5Gtとなると試算されています。
3.まとめ
地球温暖化の原因は、数億年前長期間大気中にあった二酸化炭素が光合成を経て動植物によって固定され、それが化石燃料となって地中や海底に蓄えられていたものを、ここ100~200年で燃やしつくし、それによって再び大気の二酸化炭素を増やしていることにあります。
地球の温度上昇を何度以下に抑えるかを検討することも重要ですが、また、化石燃料を我々が100年、200年で使いきっても良いのかが人類に問われているのです。
現在考えられている温暖化対策を現実的なものにする新技術、新政策が出てこない限り人類の未来がないかも知れません。
IEAのような客観的な分析を行う国際機関でも、今回のWEO2016に示しているように、日本を含む先進国が大幅に原子力発電を採用してゆかなくては地球温暖化は防げないということを示しています。日本はフランスとともに原子力先進国であり、原子力発電だけではなく高温ガス炉による水素製造、小型原子炉などの技術を有しておりますので、フランスなどと協力して、途上国でも安価で安全に運転できる原子力発電を推進するなど、厳しい目標もクリアーする努力を重ねて行くことが期待されているのです。
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