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SEJ 日本のエネルギーを考える会

85号 原子力の正常化を願う技術者の要望


カテゴリ:  原子力規制    2013-11-15 11:00   閲覧 (3063)
  IOJだより    原子力規制 編集局 

『国会議員による原子力規制の監視ーより良い規制を実現するための提言ー』です。
原子力規制の問題を国会議員に対する提言というかたちでまとめてみました。
IOJだより pdf

我が国では、現在、全ての原子炉が運転停止している。事業者の運転再開に向けた努力は悲壮とさえ言えるが、安全審査の進捗ははかばかしくない。原子力の正常化が早期に実現できるかどうかは、世界の規制組織の運用を見ても、安全性と経済性をバランスさせることにあるが、我が国の場合、あまりにも安全性サイドに偏り過ぎている。


国民経済や産業界、ひいては国の将来を考えて、私たちは原子力技術者が求めている要望をまとめてゆくことにより、バランスの取れた規制が実現することを目標にしていこうと考えた。現在の規制体制において安全性と経済性のさじ加減を図ることができるのは衆参両院の「原子力問題調査特別委員会」(以下「特別委員会」)しかない。私たちは現状を見て、この特別委員会が技術的助言を確保していくメカニズムが必要と考え、現状を分析し、解決策としてこの提言をまとめた。是非国会議員諸氏に熟読願いたい。
1.問題の所在−原子力規制委員会の運営の改善
現在、規制委員会の運転再開に関わる規制業務は、進捗がはっきり見えない状況にある。適切な司令塔を欠いており、運転再開の見通しさえ得られず、いたずらに非効率的な審査に埋没しているように見える。原子力の安全規制に関する適切な判断がなされているようには思えない。
一方、原子力規制委員会のこれまでの振舞を見るに、
イ) 新規制基準策定時に多数の専門家からのパブリック・コメント(以下「パブコメ」)が投稿されたが、そのほとんどが無視されたという。そのため、施設の運用上、非現実的要求が少なくない。それでは何のためのパブコメかだったのかという思いは消えない。
ロ) 日本原電の活断層問題に関する規制委員会の結論の出し方は、一方的で強引な運営の下で導かれており、それに対する事業者の反論が正当に扱われておらず、担当委員の公正さが疑われる結果になっている。このような一方的な措置では、民間の意見が安易に軽視されて、事業者と協力して高い安全性を向上させようという本来あるべき姿勢が見られない。
ハ) 原子力規制委員会が海外の有識者に諮問した検討内容と答申を公開しようとしないが、公開の原則をうたった理念に反している。
ニ) 破砕帯問題では、多くのシンポジウムが開催され、規制委員会の対応が批判されているが、それらを無視している姿勢は規制委員会の理念に反している。
このように、看過できない矛盾が多く露呈しており、規制委員会に対する信頼感は醸成されないままである。
原子力規制委員会の本来の姿は、委員の見識に基づくコンセンサスの形成であり、その時の判断基準や合意に至った過程を明示することであるが、形を繕う形式的な言明を公開するだけでは真の公開とは言えず、国民への説明責任を果たしたことにならない。

一方、このような規制業務の停滞は、規制経験に欠けるが強い権限を持つ規制委員と規制庁担当者の連携が円滑であれば避けられるはずであるが、現在の停滞や電気事業者に対する対応の遅れなどを見ると、両者の間に齟齬が発生していないか懸念される。規制担当者がやる気を持てず却って委縮しているという最悪の職場環境は後に述べるQMS(品質マネジメントシステム)の適用とも関連して避けられなければならない。そうでなければ、このような事態は原子力の正常化を遅延させる要因になってしまう。運転再開等に向けて円滑な業務の遂行を求めたい。
稼働している原子炉がゼロである状況は、国富の流出や多くの産業の停滞を招いており、電気料金の更なる値上げなどが必須であり、次第に限界に近づきつつある。現在これらの諸課題を解決できるメカニズムは特別委員会にしか求められない。特別委員会は、原子力規制委員会が、仕組みとしてその役割を適切に果たしているか、議論を広く深く尽くしているか、判断基準、判断の経緯について透明性を以て被規制者と国民に伝えているか、などの視点から監視することが要請されている。特別委員会は、このような問題点を根幹的に解決する対策を打つべきではないだろうか。
ここではそのような状況を踏まえて以下の3点を政府・政権与党に要望したい。
2.要望事項
(1) 衆参両議院の「原子力問題調査特別委員会」の下に、世界的レベルの力量を有する「原子力諮問委員会」を早急に設置すること


米国の規制委員会(通称 NRC)をモデルにして設置されたといわれる我が国の原子力規制委員会は、NRCに比べて、制度的に、規制マインドの在り方に関して、また技術的力量に関して、未熟である(下図NRCの機能図)。制度に関わる諸欠陥は本来なら法改正によって抜本的に解決されるべきであるが、それには時間を要することから、特別委員会は機敏性を重視する観点から規制業務の非合理性を監視・矯正する機能を効果的に果たすべきである。そのためには国会事故調の提言にあるように、世界レベルの「原子力諮問委員会」を設置し、その専門的知見を有効利用することではないだろうか。
また、外国の規制に通暁する専門家や識者を委員に含め、諸外国における規制行政との比較・照合を行い、絶えず日本の規制の合理性を確認していくことは有効な手立てであると
考える。
特別委員会の場で、原子力規制委員と原子力諮問委員が公開の場で建設的に意見を戦わせ、最良の選択を探求するという姿は、米国NRCの運営を見ても判るように、本来の規制の在り方ではないだろうか。その討論の結果をもとに、特別委員会が改善策を規制委員会に要請する。こうすることで現状に比べどれだけ事態が改善されるか計り知れない。
また、組織がQMSを持つのは世界の常識であるが、それを事業者には要求していながら、未だに規制委員会・規制庁に存在しないのは、規制委員会の規制が十分に機能していない根幹的な要因ではないだろうか。これは制度運用の根幹的な欠陥の一例で、委員長が独断で個人的見解を記者会見する事態は、組織にQMS的意識が欠けていることを端的に示していないだろうか。
(2) 規制委員会の権威を高める将来に向けた方策

現行法の改正が直ちにできない状況下では、“任期切れ”による委員の交代は規制委員会の権威を高める唯一無二の機会である。政府や政権党はそのための最善の方策を確定すべきである。
まず、規制委員及び委員会の実績と実態を評価する。人選や選考過程に透明性を持たせる。選考委員会の設置に際し委員に高い見識が求められるのは当然であるが、規制の本質を知る外国人識者も複数加えることが望まれる。現規制委員会の意見は参考程度にとどめるべきである。この時には、評価委員会も設置されると思われるが、多数のパブコメを無視したと思われても仕方がない状態で策定された新規制基準は改正の視点から再評価されるべきである。
このようなPDCAサイクルの適用に基づいた検討を絶えず実施することで原子力規制委員会の権威は高まるであろう。
(3) 国会事故調の誤った記述の再検証

事故調報告書には「福島第一原発は、あの大地震で津波が来る前に格納容器の中の重要構造物が壊れていないとは言えない」という記載がある。地震で配管が破断し、内部溢水で非常用ディーゼル発電機が損傷したかも知れないという巧妙な表現である。この指摘が間違っていることは原子力学会事故調査報告書などで検証されている。これは「活断層問題」をゼロ原発に導く有力な技術的根拠として利用できることから、一部規制委員がこの指摘に固執していると思われるのである。またそれがタービン建屋内の重要度が高くないBC級の配管が地震で全周破断することを仮定せよ、という非合理的な規制要求(内部溢水問題)の論拠にもなっている。


この全周破断問題は過去に十分議論され、解決済みの問題であるにも拘わらず、活断層の危険性を誇張することで運転再開にブレーキをかけようとしているとしか思えない。問題は根深く深刻である。
このような非合理的な規制要求に、規制委員の良識以外にブレーキをかけることができるのは、国会議員しかいない。
議論の元は、国会事故調の聴き取り調査の意図的な偽証性に原因がある。国会事故調報告書のこの部分を取り上げるのは「今さら何を」と思われるが、これを放置しておくと、「活断層」から「内部溢水」問題、次いで竜巻問題、など、次から次へと無理難題の「後出しじゃんけん規制」が行われ、いつまで経っても再稼働にこぎつけることが難しくなるかも知れないからである。
3.結言
原子力界は福島事故を起こした責任を原罪として永久に背負っていかなければならないだろう。しかし、事故は意図的なものではなかった。対策を怠った原子力界の運営方法に問題があったにしても、原子力界は我が国のエネルギー無資源国という欠点を克服するという理想を掲げて真摯に努力してきた。原子力なくしてこの国は立ち行かないという信念は、事故という十字架を負わされてもゆるぎないものではないだろうか。この観点から、事故によって、同時に民主党の悪しきマネジメントによってもたらされたこの「原子力の混迷」を何とかして克服し、早期に「原子力の正常化」を図り、国の基盤の確立に貢献することは、国民へのせめてもの償いになるというものであろう。
このような観点から、原子力規制委員会が正常に機能し、世界の規制の標準に遜色のない合理的な規制行政が実施されることを心から期待したい。

85号 原子力の正常化を願う技術者の要望


カテゴリ:  原子力規制    2013-11-15 11:00   閲覧 (3063)
  IOJだより    原子力規制 編集局 

『国会議員による原子力規制の監視ーより良い規制を実現するための提言ー』です。
原子力規制の問題を国会議員に対する提言というかたちでまとめてみました。
IOJだより pdf

我が国では、現在、全ての原子炉が運転停止している。事業者の運転再開に向けた努力は悲壮とさえ言えるが、安全審査の進捗ははかばかしくない。原子力の正常化が早期に実現できるかどうかは、世界の規制組織の運用を見ても、安全性と経済性をバランスさせることにあるが、我が国の場合、あまりにも安全性サイドに偏り過ぎている。


国民経済や産業界、ひいては国の将来を考えて、私たちは原子力技術者が求めている要望をまとめてゆくことにより、バランスの取れた規制が実現することを目標にしていこうと考えた。現在の規制体制において安全性と経済性のさじ加減を図ることができるのは衆参両院の「原子力問題調査特別委員会」(以下「特別委員会」)しかない。私たちは現状を見て、この特別委員会が技術的助言を確保していくメカニズムが必要と考え、現状を分析し、解決策としてこの提言をまとめた。是非国会議員諸氏に熟読願いたい。
1.問題の所在−原子力規制委員会の運営の改善
現在、規制委員会の運転再開に関わる規制業務は、進捗がはっきり見えない状況にある。適切な司令塔を欠いており、運転再開の見通しさえ得られず、いたずらに非効率的な審査に埋没しているように見える。原子力の安全規制に関する適切な判断がなされているようには思えない。
一方、原子力規制委員会のこれまでの振舞を見るに、
イ) 新規制基準策定時に多数の専門家からのパブリック・コメント(以下「パブコメ」)が投稿されたが、そのほとんどが無視されたという。そのため、施設の運用上、非現実的要求が少なくない。それでは何のためのパブコメかだったのかという思いは消えない。
ロ) 日本原電の活断層問題に関する規制委員会の結論の出し方は、一方的で強引な運営の下で導かれており、それに対する事業者の反論が正当に扱われておらず、担当委員の公正さが疑われる結果になっている。このような一方的な措置では、民間の意見が安易に軽視されて、事業者と協力して高い安全性を向上させようという本来あるべき姿勢が見られない。
ハ) 原子力規制委員会が海外の有識者に諮問した検討内容と答申を公開しようとしないが、公開の原則をうたった理念に反している。
ニ) 破砕帯問題では、多くのシンポジウムが開催され、規制委員会の対応が批判されているが、それらを無視している姿勢は規制委員会の理念に反している。
このように、看過できない矛盾が多く露呈しており、規制委員会に対する信頼感は醸成されないままである。
原子力規制委員会の本来の姿は、委員の見識に基づくコンセンサスの形成であり、その時の判断基準や合意に至った過程を明示することであるが、形を繕う形式的な言明を公開するだけでは真の公開とは言えず、国民への説明責任を果たしたことにならない。

一方、このような規制業務の停滞は、規制経験に欠けるが強い権限を持つ規制委員と規制庁担当者の連携が円滑であれば避けられるはずであるが、現在の停滞や電気事業者に対する対応の遅れなどを見ると、両者の間に齟齬が発生していないか懸念される。規制担当者がやる気を持てず却って委縮しているという最悪の職場環境は後に述べるQMS(品質マネジメントシステム)の適用とも関連して避けられなければならない。そうでなければ、このような事態は原子力の正常化を遅延させる要因になってしまう。運転再開等に向けて円滑な業務の遂行を求めたい。
稼働している原子炉がゼロである状況は、国富の流出や多くの産業の停滞を招いており、電気料金の更なる値上げなどが必須であり、次第に限界に近づきつつある。現在これらの諸課題を解決できるメカニズムは特別委員会にしか求められない。特別委員会は、原子力規制委員会が、仕組みとしてその役割を適切に果たしているか、議論を広く深く尽くしているか、判断基準、判断の経緯について透明性を以て被規制者と国民に伝えているか、などの視点から監視することが要請されている。特別委員会は、このような問題点を根幹的に解決する対策を打つべきではないだろうか。
ここではそのような状況を踏まえて以下の3点を政府・政権与党に要望したい。
2.要望事項
(1) 衆参両議院の「原子力問題調査特別委員会」の下に、世界的レベルの力量を有する「原子力諮問委員会」を早急に設置すること


米国の規制委員会(通称 NRC)をモデルにして設置されたといわれる我が国の原子力規制委員会は、NRCに比べて、制度的に、規制マインドの在り方に関して、また技術的力量に関して、未熟である(下図NRCの機能図)。制度に関わる諸欠陥は本来なら法改正によって抜本的に解決されるべきであるが、それには時間を要することから、特別委員会は機敏性を重視する観点から規制業務の非合理性を監視・矯正する機能を効果的に果たすべきである。そのためには国会事故調の提言にあるように、世界レベルの「原子力諮問委員会」を設置し、その専門的知見を有効利用することではないだろうか。
また、外国の規制に通暁する専門家や識者を委員に含め、諸外国における規制行政との比較・照合を行い、絶えず日本の規制の合理性を確認していくことは有効な手立てであると
考える。
特別委員会の場で、原子力規制委員と原子力諮問委員が公開の場で建設的に意見を戦わせ、最良の選択を探求するという姿は、米国NRCの運営を見ても判るように、本来の規制の在り方ではないだろうか。その討論の結果をもとに、特別委員会が改善策を規制委員会に要請する。こうすることで現状に比べどれだけ事態が改善されるか計り知れない。
また、組織がQMSを持つのは世界の常識であるが、それを事業者には要求していながら、未だに規制委員会・規制庁に存在しないのは、規制委員会の規制が十分に機能していない根幹的な要因ではないだろうか。これは制度運用の根幹的な欠陥の一例で、委員長が独断で個人的見解を記者会見する事態は、組織にQMS的意識が欠けていることを端的に示していないだろうか。
(2) 規制委員会の権威を高める将来に向けた方策

現行法の改正が直ちにできない状況下では、“任期切れ”による委員の交代は規制委員会の権威を高める唯一無二の機会である。政府や政権党はそのための最善の方策を確定すべきである。
まず、規制委員及び委員会の実績と実態を評価する。人選や選考過程に透明性を持たせる。選考委員会の設置に際し委員に高い見識が求められるのは当然であるが、規制の本質を知る外国人識者も複数加えることが望まれる。現規制委員会の意見は参考程度にとどめるべきである。この時には、評価委員会も設置されると思われるが、多数のパブコメを無視したと思われても仕方がない状態で策定された新規制基準は改正の視点から再評価されるべきである。
このようなPDCAサイクルの適用に基づいた検討を絶えず実施することで原子力規制委員会の権威は高まるであろう。
(3) 国会事故調の誤った記述の再検証

事故調報告書には「福島第一原発は、あの大地震で津波が来る前に格納容器の中の重要構造物が壊れていないとは言えない」という記載がある。地震で配管が破断し、内部溢水で非常用ディーゼル発電機が損傷したかも知れないという巧妙な表現である。この指摘が間違っていることは原子力学会事故調査報告書などで検証されている。これは「活断層問題」をゼロ原発に導く有力な技術的根拠として利用できることから、一部規制委員がこの指摘に固執していると思われるのである。またそれがタービン建屋内の重要度が高くないBC級の配管が地震で全周破断することを仮定せよ、という非合理的な規制要求(内部溢水問題)の論拠にもなっている。


この全周破断問題は過去に十分議論され、解決済みの問題であるにも拘わらず、活断層の危険性を誇張することで運転再開にブレーキをかけようとしているとしか思えない。問題は根深く深刻である。
このような非合理的な規制要求に、規制委員の良識以外にブレーキをかけることができるのは、国会議員しかいない。
議論の元は、国会事故調の聴き取り調査の意図的な偽証性に原因がある。国会事故調報告書のこの部分を取り上げるのは「今さら何を」と思われるが、これを放置しておくと、「活断層」から「内部溢水」問題、次いで竜巻問題、など、次から次へと無理難題の「後出しじゃんけん規制」が行われ、いつまで経っても再稼働にこぎつけることが難しくなるかも知れないからである。
3.結言
原子力界は福島事故を起こした責任を原罪として永久に背負っていかなければならないだろう。しかし、事故は意図的なものではなかった。対策を怠った原子力界の運営方法に問題があったにしても、原子力界は我が国のエネルギー無資源国という欠点を克服するという理想を掲げて真摯に努力してきた。原子力なくしてこの国は立ち行かないという信念は、事故という十字架を負わされてもゆるぎないものではないだろうか。この観点から、事故によって、同時に民主党の悪しきマネジメントによってもたらされたこの「原子力の混迷」を何とかして克服し、早期に「原子力の正常化」を図り、国の基盤の確立に貢献することは、国民へのせめてもの償いになるというものであろう。
このような観点から、原子力規制委員会が正常に機能し、世界の規制の標準に遜色のない合理的な規制行政が実施されることを心から期待したい。

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