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SEJ 日本のエネルギーを考える会

SEJだより第43号 米国の原子力政策に学べ 〜アドバンス法の成立:日本の国会の機能の強化が必要〜


カテゴリ:  原子力政策    2024-9-24 2:27   閲覧 (460)
1. はじめに
 日本のエネルギーを考える会SEJでは早くから原子力の重要性を指摘してきた。(資料1)SEJ第41号では第7次エネ基の策定にあたって、原子力界の現実を踏まえて議論すべき論点を示した。(資料2)SEJ第25号では米国において原子力の復活・加速に向けてGAINプロジェクトなど様々な取り組みに着々と手を打っていることを報告した。このような動きを支援する法制的取り組みが米国議会で行われている。
 2024年6月、米国において新型炉の原子力の活用に向けて加速法(S.1111 - Accelerating Deployment of Versatile, Advanced Nuclear for Clean Energy Act of 2023)(通称アドバンス法)が上院を通過し、7月9日にバイデン大統領が署名した。
日本がこの法案から学ぶ点が多いと考えるので法案(資料3)と米メディアで報じられたニュース(資料4)(資料5)に基づいて論点を紹介し、提言をしたい。

2.法の趣旨
 超党派によるこのアドバンス法(ADVANCE法)の成立は、原子力エネルギーに対する重要な立法府としての支援であり、2019年に制定された原子力エネルギー革新・近代化法(NEIMA:Nuclear Energy Innovation and Modernization Act(January 2019))に続き、原子力の役割をしっかりと確立する動きを加速するものといえる。法の趣旨は上院の環境・公共事業員会の(資料4)を見ると以下の通りで理解しやすい。

1)原子力エネルギーにおける米国のリーダーシップを促進する
2)新しい原子力技術の開発と普及を支援する
3)既存の原子力エネルギーを守る
4)事故耐性燃料および新型核燃料の品質認定・認可能力を強化する
5)NRCの任務(ミッション)の声明の更新を義務付ける
6)NRCの資源(人材と予算)を強化するとともに規制の効率性を改善しかつ測定する

原子力に関する米国の哲学と政策が示されている。米国原子力規制委員会(NRC)の強化と改革、監視など日本ではとりあげられにくい課題である。

3.アドバンス法の内容について
 アドバンス法の具体的規定の代表的な条項の概要を表1に示した。ただし、表中の記載は、あくまで概要で法の全文を翻訳したものではないことに注意していただきたい。法全体の概要はurl=http://ioj-japan.com/xoops/download43/SEJ43003.pdfまたは、ダウンロード版をご覧ください。



重要と思われる内容について以下に説明をする。
米国の原子力リーダーシップと安全保障の強化
 米国が国際市場に進出する準備として以下のことを行う。
・NRCに専門の国際部門「国際原子力輸出・技術革新部門」を設置し、そこが経済協力開発機構(OECD)加盟国との原子炉および核燃料物質の輸出入に関する調整作業を行なう。
・エネルギー省長官に対し、民生用原子力産業とそのサプライチェーンの世界的な状況について、法制定後1年以内に包括的な評価を実施するよう指示。この調査には、原子力産業に対する長期的なリスクの評価、原子力が気候変動をもたらす排出ガスの削減、外交政策における原子力部門の役割などを含めている。

国家安全保障に係る規定と外国人の所有
ロシアと中国で製造された未照射の低濃縮ウラン(LEU)燃料の輸入を禁止。一方で、ある条件の下で外国人(団体)が米国での原子力施設を所有することを認めている。

NRCの審査処理能力強化のための人材採用
NRCの活動に注文を付けるだけでなく、法案には、新型炉申請の殺到に備え、NRCの処理能力を強化するため専門性を有する新規職員の採用を支援している。

原子力規制委員会(NRC)の効率化に向けて
 ・NRCの任務声明(ミッションステートメント)を効率的かつ、民間の原子力利用を不必要に制限しないように法制定後1年以内に改定することを求めている。
・NRCに、その効率性を確保するため、許認可および規制活動に関する業績評価指標とマイルストーン・スケジュールを作成させ、3年ごとに更新することを義務付けている。
なお、規制については、リスク情報に基づいた性能規定とすることも強調されている。
 
新しい原子力技術の開発と展開
 ・NRCによる先進原子炉申請審査の料金を引き下げるため、NEIMAを改正し、手数料の上限を設ける。
・先進原子炉賞の設置:先進原子力技術の開発と配備にインセンティブを与える「賞金」を導入する。DOE長官が表彰する。

発電以外の用途の申請に対する認可
法案は、NRCに対し、9ヶ月以内に、先進炉の柔軟な運転(出力の急変や電力と熱の切り替え)、先進炉の発電以外の用途、産業施設との協業に関連する独自の許認可の課題や要件に対応する報告書を議会の委員会に提出するよう求めている。水素や他の燃料の生産、海水淡水化、熱生産、地域暖房、エネルギー貯蔵との関連、アイソトープ生産などの用途に焦点を当てているとのこと。

核融合装置の規制
核融合の研究開発が急速に展開する現状を踏まえ、核融合装置の規制を原子力の規制とは別枠とし、リスク情報に基づいた性能ベースの認可枠組みについて研究し議会に報告するようNRCに対し指示。

ブラウンフィールド用地における原子力施設の許認可プロセスを合理化
汚染物質があるかその恐れがあり使われなくなった工業・商業用地、石炭火力発電所跡地を原子力発電所への転換を推進するための規制上の課題の摘出をNRCに指示。

複合ライセンス審査手続き
新規先進原子炉の配備を加速するため、複合ライセンスの迅速な発行手順を確立するようにNRCに指示。

マイクロリアクターの規制要件
NRCは3年以内に、マイクロリアクターに関するリスク情報に基づいた性能ベースの規制戦略を策定し実施するよう指示している。認可申請があった場合18か月以内に認可するように指示。

先進技術の採用と核燃料サイクル
 先進製造プロセス、先進建設技術などの利用に向けて既存の基準の枠組みで対応できるもの、できないものに対する許認可上の課題と要求事項の整理をすることと、使用済み燃料と高レベル放射性廃棄物のインベントリについて、DOEに2年ごとに議会への報告を求めている。また、先進燃料(事故耐性燃料、セラミック材料、シリコンカーバイド被覆燃料、濃縮度の高い低濃縮ウラン燃料、溶融塩燃料、使用済み燃料由来の燃料、劣化ウラン)に関する調査をDOEとNRCで行い、議会へ報告するよう規定している。

4.米国と日本との違い及び提案
1)米国では分散型でもあり遠隔地や宇宙でも利用でき、融通性に富む利用が可能なマイクロリアクターの開発が想像以上に盛り上がっているようである。米軍の基地での電力確保にマイクロリアクターを活用するプロジェクトがあることも関連している。
 2)日本のような大型高速炉を開発し核燃サイクルを完成させるという計画はない。また、ユッカマウンテンは法律上最終処分場とされているが、それ以外の処分場候補地を探す必要性、それから最終処分する放射性廃棄物の量を減らす核燃料再処理の必要性を謳う論調もないではない。(資料5)
 3)超党派の本法案は、米国が世界の原子力にリーダーシップを取り戻す決意を示し、実現には、NRCに大幅な改革を求める必要があると判断し、規制活動を強力かつ効率的にする法制化を行ったものと解釈される。NRCには具体的な目標を設定し期限を切って実行を迫るやり方も取っている。一方、牽制だけでなく、NRCの人的資源を増やし権限を強化する支援も行っている。
4)米国では議会が原子力行政のリーダーシップを発揮している。日本の国会でこのような具体的な論点と実行策を議論し政府に指示したことはあったであろうか。日本の国会はどうしてこうなったのであろうか。国会の「原子力問題特別委員会」の議論は実効性を伴わない形式的な議論にとどまっている。同委員会の権限の抜本的強化を提案したい。(植田脩三 記)

参考文献

(資料1)SEJ第41号:SEJ 日本のエネルギーを考える会 - SEJだより第41号 第7次エネ基改定作業における検討すべき事項―原子力発電部門における具体的議論が必要― (ioj-japan.com)
(資料2)SEJ第25号:SEJ 日本のエネルギーを考える会 - SEJ だより 第25号  アメリカのクリーンエネルギー ―原子力開発の流れー (ioj-japan.com)
(資料3)(S.1111 - Accelerating Deployment of Versatile, Advanced Nuclear for Clean Energy Act of 2023)
(資料4)https://www.epw.senate.gov/public/index.cfm/2024/7/signed-bipartisan-advance-act-to-boost-nuclear-energy-now-law
(資料5)Congress Wants to Solve Nuclear Waste. The Solutions Are Known.; https://www.powermag.com/congress-wants-to-solve-nuclear-waste-the-solutions-are-known/


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