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SEJ 日本のエネルギーを考える会

SEJだより第41号 第7次エネ基改定作業における検討すべき事項―原子力発電部門における具体的議論が必要―


カテゴリ:  原子力政策    2024-6-7 12:19   閲覧 (500)
1. はじめに
第7次エネルギー基本計画改定作業のため、経産省の総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会での議論が5月から開始されている。エネルギーを取り巻く世界情勢は大きく変化しつつあるなかで、日本のエネルギー安全保障を確保していくうえで激動期であるとの危機感を共有し、想定される諸変化に対応し得る現実を考慮したバランスのとれた計画策定が求められている。一方、GX実行会議においてもエネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時達成を目指してGX2040年ビジョンの策定に向けた作業が開始されている。
これらの作業は今年度内に完了することが目標とされており、エネルギー基本計画(以下「エネ基」)改定とGX2040はたがいに連動した作業となる見込みであり、エネ基のエネルギー需給見通し策定の目標年度も2040年をベースに作業が進められることになるだろう。しかし、特に原子力発電部門についてはこれからの新増設が必要不可欠であることを考慮すれば、2050年を超え、21世紀を通して原子力の位置づけを明確にし、長期目標をあきらかにした上で2040年はその一断面として位置づけられるべきものと考える。原子力発電部門については、現状において核燃サイクルの確立、放射性廃棄物の処理処分、廃炉対応、安全性の更なる向上、安全規制の合理的改善など多くの課題を抱えているが、ここでは緊急的に取組むべき重要事項として、軽水炉を中心にこれからの新増設を進める上で取組まなければならない課題を中心に意見を述べたい。

2.長期的視点からの原子力発電の開発目標を明確化する
第6次エネ基においては、原子力への依存を将来にわたり低減させていくとする考え方をベースとしていた。昨年、GX会議が動き出して原子力の最大限活用が明確に示され、これまでの流れが大きく変化したところであり、第7次エネ基はこうした状況変化を踏まえて改訂されるものであり、とくに原子力に対してはきれいな作文でこれまで済ませてきたこともあり、現実対応が進んでいないことによるツケがたまり、このままでは日本の原子力発電の維持、発展が危うくなっているとの危機意識を持たざるを得ないところまで追いこまれてきていると認識したうえで改訂作業に取組むべきであろう。
(1)長期需要想定に基づき電力需給計画における原子力の位置づけを明確にするため、電力供給計画において原子力への依存度をどの程度確保すべきか、エネルギー安全保障の確保、他のエネルギー選択との比較考量、エネルギー供給の経済性の確保、脱炭素政策等の観点からその考え方の根拠を明らかにし提示する必要がある。
なお、近未来において、AI技術の進展などにより、データセンターの拡充などで大量の電力を継続的に安定供給する必要性も高まるとともに電力需要は増大すると見込まれている。
(2) 再生可能エネルギー(以下「再エネ」)の開発について技術的、経済性などの観点から開発目標をどの程度にすべきか明確な方針を示すことが必要である。賦課金制度との関連から電気料金の上昇をどの程度までに抑え込むべきかとも関連するが、賦課金制度は廃止の方向で検討すべきと考える。また、太陽、風力など変動再エネは、増やせば増やすほど電力供給は不安定化する事実を充分に認識して電力需給計画の適正なバランスを図ることが求められる。
(3)既設原子力発電の最大限活用の観点から、運転期間の更なる延長として80年運転の実現、定検合理化と定検期間の短縮による稼働率アップ方策の実施などを推進し、既設原子力発電供給力の年次展開を明らかにすべきである。
(4)(1)で提示した原子力依存度目標を達成するために必要なこれからの新規開発または増設必要量の規模はどの程度になるか、2040、2050、2060年と10年きざみの時点での必要開発量の展開を明らかにする必要がある。
(5)新設、増設原子力発電所の開発主体は誰なのか、いつどこの場所に開発が可能か、原子力開発に要するリードタイム、建設能力など現実を考慮して開発具体策を提示すべきである。
(6)基幹電源としての原子力発電の必要性や妥当性について、一般の人々が納得しうる説明の責任は国が負っているとの自覚が必要であり、国の最高責任者が自ら発信すべきと考える。

3.電力自由化環境下において事業者の開発インセンティブを阻害する要因を分析するとともに、これらの阻害要因を改善し是正すべき具体的な方策を提示すべきである
(1)原子力発電などの重要インフラは国家の基盤となるものであり、市場原理で動く自
由競争にはそぐわないとする考え方がある。すなわち、自由化以前の総括原価方式による垂直統合型の電気事業制度に戻すべきとする考え方である。これによって開発インセンティブ阻害要因がどこまで改善できるか、自由化と自由化以前に戻すことに対しそれぞれのメリット、デメリットを分析した上で今後の改善方策の提示が必要である。
(2)自由化のもとで原子力発電の開発を進める場合には、開発費用の調達に政府保証をつける、開発費用の一部を財政支出する、開発段階から開発投資が確実に回収できる料金制度を創設するなど投資回収方策の具体化、債務保証制度を整備するなど開発意欲を後押しする制度的仕組みやファイナンス体制など事業環境整備のための具体的方策を提示するとともに国の政策として法改正を含め必要資金確保を図り早急に実現することが求められる。

4. 原子力発電事業を民間事業として担うために何が必要か
(1) 新増設原子力発電の開発主体として現行の9電力体制で担えるのか。開発主体とし
て新たに原子力発電開発専門会社設立などを考慮する必要性をどの様に考えるか。また、既存炉メーカの一体化など原子力産業側の開発体制も整備が必要ではないか。
(2) 国策民営の考え方をつきつめるなら、口先だけの国の介入ではなく、国が負うべき
責任と国の役割を根本的に見直すべきではないか。国の役割を拡大すべき分野を明らかにして具体的方策を提示する。例えば、バックエンド事業のうち高レベル廃棄物の処理処分事業については国が責任を負い国の事業として法制化することも考えられる。
(3) 原子力損害賠償制度の事業者無限責任制度を見直し、諸外国の例を参考に一定額制限とするなど、賠償制度の根本的見直しが必要である。
(4) 原子力発電建設コストの大幅な低減、開発人材の集約化、設備メインテナンス容易性を確保する具体的方策を提示する。たとえば炉型選択の統一化のメリット、デメリット 新増設発電の出力規模の統一化と基本設計の標準化、合理性に欠ける過剰規制の排除などがあげられる。

5. 廃炉事業の円滑化と期間短縮を実現する具体策の提示
(1) 原子炉および炉まわりの中レベル廃棄物の処分地確保の具体的展開には国の役割が極めて重要と認識し行動を起こすべき。
(2) 廃炉作業実施専門会社の設立による廃炉事業実施の合理化と迅速化を実現すること
が必要不可欠
 今後の新増設の展開のためには既設発電所の廃炉跡地の活用可能性を高める必要があり廃炉実施の期間をいかに短縮できるかが大きなカギとなるので早急な取組みが必要となる。

6.原子力発電事業維持のためのサプライチェーンの維持・確保策の具体的提示
先進軽水炉モデルの実証開発炉、高温ガス炉、高速炉試験開発炉、中小型炉、研究炉などの国の開発投資による実需の予測・見通しが得られる情報提供を継続的に行うことが原子力産業側から求められており、国は明確な目標設定のもとに原子力開発投資に計画的、かつ継続的に必要資金を確保する努力が重要である。

7.原子力人材の継続的確保と維持策に関し国がリードして取組むべき事項の例示
(1)初等、中等教育におけるエネルギー教育教材の適正化と見直し
(2)高専、大学に対する原子力の現場研修の機会の拡大のための助成策
(3)原子力作業従事者に対する技術継承のための教育機関の設立と資金供給
(4)原子力大学校の設立に関する具体的検討

8 まとめ
 以上、日本の原子力発電の将来を考えた時、緊急に取り組むべき課題や、具体的進展が必要な諸課題について述べてきたが、原子力発電に係わる方々からすれば例示した課題は従来から指摘されてきているものの、強いリーダーシップのもとで思いきった改革を進めなければ日本の原子力発電の将来は本当に危ういと思っておられるのではなかろうか。
 日本はこれまで原子力発電に関して実務経験や技術改良などに基づくノウハウを蓄積してきたところであり、これを確実に継承していくことは最重要課題であるものの、現状のままの空白時代が続けば、原子力発電に携わる関係者の意識低下とともに技術やノウハウの継承も危うい事態を招くことになりかねない。
 こうした現実認識の上で、今回の第7次エネ基改定の議論においては、諸課題の解決に向けて実現すべき諸施策を具体的に深く突っ込んで提案して頂くと共に、どの様な道筋で、どの様な時間軸のもとで実現していくべきかについても議論を深めて頂きたいと思う。
 今後の議論において是非実現して頂きたい取組みについて二つの提案をさせて頂く。
第一は、原子力発電に携わる方々の現場の声を直接聞く機会を何回か設けて、現場の現実認識を深めて頂きたい点である。
第二は、行政官による作文方式のエネ基改定の取組み方から脱して、全く新しい取組み方を具体的に提案して頂くことで、現実にことが本当に動き出す実感を一般の方々にも伝わるような具体的なプロジェクト遂行の提案が必要だろう。たとえば、革新型軽水炉1号炉の開発には公共事業と同じように国が国債を発行することにより資金拠出することで、事業者、炉メーカー、地方自治体にも国の原子力発電開発に対する本気度が理解されることにつながると考える。
 以上はほんの一例にすぎないが、不確かな世界、日本の情勢などを考慮すれば、エネ基改定に係わる検討メンバーの皆さんの責任は重いといわざるを得ない。
(佐々木宜彦 記)

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