我が国の原発は東日本大震災(以下震災)以前にはＢＷＲを含め54基が稼働していた。現在10基のみが再稼働しているに過ぎない。 再稼働しているのはＰＷＲのみであるが、震災前に稼働していた24基のうち、震災以降8基が廃炉となり、現時点で新規制基準の審査を受けているものが4基、設置変更の許可を受けたものが2基である。詳細は図1「原子力発電所の現状」をご覧いただきたい。このような状況の中でも原子力のサプライヤーは将来に向けた戦略を立てている。そこでサプライヤーの取り組みを調べてみた。
図１ 原子力発電所の現状（経産省ホームページから）
１．三菱重工の取り組み概要
三菱重工はより安全な原子炉を目指して解析評価、海外不具合事例等から重要機器の取替等に取り組み、阪神大震災の経験から耐震性の向上や東日本大震災後の新規規制基準に合致したプラントにすべく電力事業者と共に諸対策を実施し、安全性向上、電力安定供給、地球温暖化対策、エネルギーセキュリティーの確保に努めてきたと言う。 然し乍ら、三菱重工も震災後福島事故を踏まえて制定された新規制基準対応検討等で技術陣は多忙を極めたと推定されるが、機器、設備面では国内電力向けの製作活動に停滞時期もあったのではないかと推察された。
２．脱炭素に向けた原子力事業の取組
２．１当面の取組
�ヾ�設プラント再稼働及び特定重大事故等対処施設(以下特重)設置を推進。世界最高水準の国内新規規制基準に適合させるべく、各種解析、評価、試験等により電力事業者を支援
�■贈廝劼魎泙畉堂堝�に向け多数の安全対策工事
�４�設プラント再稼働後の保全再稼働後の60年運転を見据え、大型保全工事(炉内構造物取替工事、蒸気発生器取替工事、中央制御盤取替工事)を計画的に実施
�こ貿確船汽ぅ�ルの確立。六ケ所再処理工場、MOX燃料加工工場の早期竣工に向け工事推進と共に輸送・貯蔵兼用キャスクの量産
２．２将来に向けた取組
図2 三菱重工の次世代プラントの取り組み（原子力小委員会第５回革新炉 WG資料３）
�ー＼ぢ綏攷縅Д廛薀鵐�(SRZ1200)
革新技術の採用による世界最高水準の安全炉を2030年代半ば実用化、世界最新の溶融炉新対策であるコアキャッチャー等を導入
��高速炉について国際協力含め開発推進中
�９皺好�ス炉の開発
超高温を活用した大量かつ安定的な水素製造の実現に向けて開発推進中
�こ僕珊�(ITER計画)
トロイダル磁場コイル初号機を世界に先駆けて出荷、研究開発にも積極的に参加
３．具体的事例
３．１機器・設備関係の実績(2011年以降のもの)
(1)国内
��2011年11月福島第一向け放射性廃棄物貯蔵設備（スラッジ貯蔵タンク他）納入
��2014年福島第一発電所向けに工場完成型汚染水貯蔵タンクを10基出荷
��2016年４月関西電力美浜発電所3号機で炉内構造物取替工事を受注し、2021年7月に完工
��2020年9月時点で九電川内1/2号機、同玄海3/4号機、関電高浜1/2,3/4号機、四電伊方3号機について特重の認可を取得し、本格的工事フェーズに移行。2020年12月には九電川内1/2号機が完工、2022年2月には東北電女川2号機向けを受注、2022年7月に関電美浜3号機を完工
「注」特重は原子炉補助建屋等への故意による大型航空機の衝突その他テロリズムにより、原子炉が冷却できなくなり著しく損傷した場合に備えて、放射性物質を閉じ込める機能を有する施設で、新規制基準において設置が求められている。
��2021年九電玄海向使用済燃料プールの使用済燃料体貯蔵容量拡大工事を完工
��2022年4月使用済燃料を輸送、貯蔵可能な「乾式キャスク」を四電伊方向けに15基受注
(2)海外
�．屮薀献襯▲鵐哀藐業�に2010年4月納入した取替用原子炉容器上蓋及び
2012年8月に納入した制御棒駆動装置の取替工事を2013年３月完工
��2014年スウェーデン向け原子炉加圧器の管台(ノズル)取替工事を受注
��2017年5月に2010年受注したフランス電力向取替用蒸気発生器3基をフランス原子力規制当局からの認証を受けて納入
��2022年7月南フランス、ITER向け核融合ブランケットの安全実証試験装置群を量子科学技術研究機構に納入した。試験装置群は「大面積高熱負荷試験装置」「高温高圧噴出、漏洩実権装置」「ベリリウム・水蒸気反応性データ評価装置」「高温高圧腐食試験ループ」から構成され、安全性確認等の試験で使用される。ITER向けでは既に主要機器であるトロイダル磁場コイルについても全19基中内4基を出荷済である他、ダイバータの構成要素の一つである外側垂直ターゲット6基も受注で製作中
３．２ソフトウェア関係の状況
�．侫薀鵐晃胸厠楼汰患�制当局から三菱重工と仏ATMEA社(三菱重工とAREVAとの合弁会社)は2012年2月最新原子炉「ATMEA1」の安全設計について評価結果を受け取った。これにより第三世代プラス原子炉として世界でも厳しい安全要求に応える原子炉である事が証明された。その後ヨルダンやカナダ、アルゼンチンからも安全設計が確認された。
��2014年10月には三菱重工が欧州電力要求(EUR)に対する適合性審査を申請していた世界最大級(170万kW)の第3世代プラス炉である原発「EU-APWR」がEUR認証を取得した。
�８胸厠蝋�学に関する講座も2014年にハノイ工科大学、ベトナム電力大学で開校
４．まとめ
世界で原発を製造している会社は三菱重工、日立、東芝、 フラマトム(仏)、ＷＨ、ＧＥ、斗山重工業(韓国)、ロスアトム(ロシア)、中国核工業集団（中国）と限られている中、三菱重工には国内はもとより海外においても、これまでの技術蓄積、製造実績を活用して、原発建設を推進すると共に原発で培った様々な技術を広めて行くことを期待したい。他社もそれぞれ戦略を持って取り組んでいる。よい意味での技術競争になることを期待したい。一方、政府や資源エネルギー庁には原発の新設・リプレース推進に向け、電気事業者への資金面を含めたより強力な支援を期待する。
pdfはこちらから（プリント版)