萩生田通産大臣は、2050年カーボンニュートラルや2030年削減目標達成に向けて、原子力発電等の分野でのイノベーション ・社会実装に向けた協力など日米の意見交換をし、NuScale社等が開発する小型モジュール炉などの国際連携による実証に日本政府として取り組む方針を伝達している。小型モジュール炉の小型の特性を取り入れた安全炉であり、工場生産であるので鉄道や船舶で発電サイトに搬入し組み立てればよく、あたかも航空機を購入すればよいように、短期間で発電が可能であろう。
SEJ第5号での小型モジュール炉（SMR）の報告以来１年半がたった。その後、各国政府、産業界、メディアの動きをみるとSMRに関する期待や小型核融合炉への期待が一層高まってきた。最近では、日本でも関心が高まると同時に米国での同炉の建設に参加する企業が出てきた。例えば、カナダのオンタリオ州電力会社はSMRとしてGE日立・ニュークリアエナジー（GEH）社製BWRX-300を選定したと発表した。(1)
今後日立GE社が建設に向けて参加することが期待される。
また、日揮やIHIは、NuScale社の小型モジュール炉のプロジェクトに出資を決定した。(2)(3)
SMRは、米国、英国、中国、ロシア、カナダで開発されてきたが、原産新聞、メディア情報などによれば、世界中の多くの国が関心を示している。フランスもマクロン大統領が2022年2月10日に大型炉EPRの建設の他、SMRの開発に取り組むと発表した。米国、カナダ、英国などではSMR開発が、民間企業が主体となり、政府は政策支援や国立研究所の利用のサービスを主にしていることも注目すべき点である。(4)
SMRは、資金リスクの軽減、再生可能エネルギーとの共存性、熱利用、水素製造、立地の柔軟性があることなどで、これから原子力発電に乗り出す国にとって取り組みやすい原子炉である。
２．SMRの定義と種類
IAEAの定義によれば、SMRは電気出力が30万kWe以下の炉を言う。また、出力1万kWe以下の炉はマイクロ炉と呼ばれている。
SMRには以下の炉型がある。
1）軽水炉型：軽水冷却、技術が最も確立している。
2）高速炉型：主としてナトリウム冷却、燃料増殖が可能
3）溶融塩炉型：ウランやトリウムを溶融塩に溶解した液体燃料炉
4）高温ガス炉：固有の安全性があり、炉心損傷が起こらない。発電とプロセスヒート利用が可能。
5）マイクロ炉(1万kWe以下)：舶用炉、宇宙炉（5）、基地用炉、災害救助用としての利用が可能
なお、米国では、SMRといえば軽水型モジュール炉のみを指す。非軽水型の炉は、先進型の炉と称している。
３．規制と安全性
SMRの規制は、軽水炉型と非軽水炉型とで対応が分かれる。軽水炉型は�―淑�な製造・運転経験があること。�⊂�型でウラン燃料の量が少ないこともあり炉心損傷事故時の放射能の放出量が少なく環境への影響が限られ、緊急時の準備計画地域（EPZ）が小さくて済むこと、�Ｎ箋儼呂覆匹盍蔑�化され炉では配管破断事故を考えなくてよい可能性がある、�ぜ�動的安全性の採用でクラス１Eの安全系の電源がなくてよいことなどの特徴を生かすため、従来の規制の枠組みを活用しながら、より適切な規制とするよう検討されている。
一方、非軽水型炉（先進型炉）では、高速炉、高温ガス炉、溶融塩炉などの多様な炉型があり開発段階のものが多いことを踏まえ、炉型に共通する規制を確立することが主テーマとされ、確率論的リスク評価の最大限の活用、パフォーマンスベースの規制、深層防御の適用の在り方などを、規制当局とベンダーとの密接な協力の下で検討されている。
小型の特徴を生かした例を挙げると、米国TVA社がクリンチリバーサイトに計画している2基の軽水型SMR（約80万K
We）のケースがある。EPZは、従来の炉では直径10マイルの大きさであるが、発電所サイトの境界内に限定する適用除外申請を行いNRCから事前申請の中で認められている（6）。（右図）
国際的枠組み
SMRの安全規制のため、米国、英国、ロシア、中国は規制当局を中心に、SMR Regulator’s Forumを結成し、審査知見を共有する枠組みを作っている（7）。
米国
1)前述のように米国では、直径10マイルのEPZを必要とするNRC規則の適用免除が申請され、認められた評価手法を適用してCOLの中で評価することになった。その他、事故時のソースターム（事故時に放出される放射能）の評価、安全系の電源の取り扱いなどが課題。
2)米国では、2019年1月、原子力エネルギー革新・近代化法案が成立した。商用新型炉（液体金属炉、高温ガス炉）を対象としたものである。NRCに以下の指示を出した。(8)
１）建設と運転段階を分けた許認可プロセスを採用し、リスク情報を活用したパフォーマンスベースの許認可評価技術とガイドに向けた戦略を開発すること。
２）2027年12月末までに炉型に依存しない規制の枠組みのルールを作成すること
英国
原子力規制庁（ONR）が対象設計の安全・セキュリティ面について、環境庁（EA）が環境保護と放射性廃棄物管理の側面について、英国の基準を満たしているか、約5年かけて評価を行う。包括的設計認証審査（GDA）の対象を小型モジュール炉（SMR）とその他の先進的原子炉設計を含む「先進的原子力技術」に広げると表明し、そのための申請ガイダンスを公表した。ビジネス・エネルギー・産業戦略省（BEIS）は、申請書を提出する3か月前に申請の意思を連絡するよう指示。(9）
カナダ
カナダ原子力安全委員会（CNSC）と米原子力規制委員会（NRC）とは、小型モジュール炉（SMR）や新型炉の技術審査を共同実施し、双方の専門的知見を共有するなど、原子力安全規制の実効性を高めることを目的とする協力覚書（MOC）を締結している。(10)
日本
日本では原子力学会安全部会でSMRの規制基準の在り方について、テクノロジーインクルーシブ（炉型に依存しない）、リスクインフォームド、パフォーマンスベースに基づいた規制について議論が進められている。また、原子力規制委員会も米国やカナダの規制動向に留意している(11)。
４．コストと建設費用
大型炉が安いか、SMRが安いかどうかは、絶えず論争の種になっている。大型炉は、大型化することによって単位発電量当たりの資本費、発電コストを引き下げることを狙っている。ＳＭＲは、できるだけモジュール化し工場で製作して、現地で組み立てすることで建設期間を短縮し発電コストを引き下げることを狙っている。一方で、国の地政学的条件、送電網の整備状況によっても導入の判断は影響を受けることにも留意しなければならない。この比較は難しくなる部分がある。ただ、ＳＭＲは出力を小さいので、需要が大きくない孤立しているところでも設置できるなど立地の柔軟性が増す。初期費用が小さくて済む点も有利である。
米国の非営利団体EIRP(Energy Innovation Reform Project)は開発中の新型炉のコストデータの調査を行っている。コスト評価の例としてその結果を下表に示す。（12）
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英国のロールス・ロイス社戦略・事業開発担当マネージャーは、「電気出力44万キロワットで、初号機の建設費は18億ポンド（約2700億円）、5機目で15億ポンド（約2300億円）にしたい。外部の金融機関などと資金調達コストの解析をした結果、資本費を20億ポンド（約3000億円）以下にとどめれば、調達の選択肢が広がり低コストの資金調達が可能になる。大型炉では資金調達コストが総建設費の40〜50%に相当することがあるが、SMRでは15%程度にとどめる」と述べている。（１4）
５．小型モジュール炉の標準化による需要の増大
NEAの報告書（１5）によるとSMRの市場の規模として、2035年までに21GWeまでのSMRの配備が見込まれるとしている。また、REPORTOCEANのレポートによると、2020年に35億ドルだった小型モジュール炉の市場は、2022年から2030年までの予測期間中、年平均成長率16%で成長し、2030年には188億米ドルに達する。（１6）一つの構想として、世界で共同・連帯し、小型モジュール炉の設計とモジュール部品の標準化、共通の規制が行われれば、例えば航空業界が航空機を調達するように、標準化した原子炉の調達が可能となり、建設コストが大幅に下る。小型モジュール炉の需要は世界全体が対象となり大幅に増える可能性がある。マイクロ炉だと、標準化と規制の共通化は一層容易であると考える。
６．まとめ
１）小型炉は、当初の資金負担が小さく立地の融通性が高いので、これから原子力発電に取り組む途上国にも取り組みやすい。
２）SMRは軽水型と非軽水型があり、軽水型では規制当局に建設の申請が出されている原子炉がある。一方、非軽水型は開発中であり、許認可申請をしたのは米国のオクロパワー社の高速炉（オーロラ）だけであり、今のところこの炉は却下されている。日本の規制の検討は基本思想の段階に留まっており、迅速化する必要がある。
３）短期的なSMRの市場規模は必ずしも大きくはない。しかし、世界中で徹底した設計とモジュール部品製作の標準化、共通の規制が行われるとすると小型モジュール炉・マイクロ炉の需要は大幅に増える可能性がある。
日本も福島事故の後遺症を早く克服し、小型モジュール炉を原子力の再興のきっかけにしてほしいものである。
参考文献
（１） 日本原子力学会誌2022年2月
（２）時事通信 2021-04-07 14:14日揮ホールディングスから投資を受ける＝米ニュースケール〔ＢＷ〕
（３）時事通信 2021-06-01 11:37企業 小型モジュール炉の普及でＩＨＩと提携＝米ニュースケール・パワー〔ＢＷ〕
（４）月に超小型原子炉、NASAが設計案を募集、2021/12/12(日) 8:00配信、Forbes JAPAN
（５）NEA No.7560, Small Modular Reactors: Challenges and Opportunities
（６）日本原子力学会安全部会フォローアップセミナー、日時：2021年1月19日（火）平野雅司（原子力規制庁）、「規制アプローチに関する国際動向」〜米国原子力エネルギー革新・近代化法を巡って〜
（７）堀尾健太 小型モジュール炉の開発と政策的支援の動向、電力経済研究、No.68、2022.1,pp.67-76
（８）鈴木清照、小型モジュール炉に係る諸外国の規制動向、原子力学会2020年秋の大会 原子力安全部会企画セッション革新炉の安全と安全規制について―今後の取組―2020年9月
（９）電気事業連合会、海外電力関連 トピックス情報［英国] 英政府がSMRと先進的原子炉設計を設計認証審査の対象に、申請ガイダンスを公表2021年5月21日
（１０）電気事業連合会、海外電力関連 トピックス情報[米国・カナダ] 米規制委と加安全委、ＳＭＲや新型炉の技術審査で協力覚書2019年9月18日
（１１）原子力規制委員会記者会見録、令和4年1月5日（水）
（１２）日本エネルギー経済研究所、平成30年度原子力の安全性向上に資する旧通期版整備のための技術開発事業（原子力技術開発に係る需要動向調査）報告書 平成31年2月
（１３）EIPP、WHAT WILL ADVANCED NUCLEAR POWER PLANTS COST? AN ENERGY INNOVATION REFORM PROJECT REPORT PREPARED BY THE ENERGY OPTIONS NETWORK
（１４）https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29598420Z10C18A4I10000/?unlock=1
小型原子炉の可能性は 英ロールス・ロイスに聞く、科学記者の目 編集委員 滝順一
コラム(テクノロジー)2018年5月6日
（１5）NEA, Small Modular Reactors: Challenges and Opportunities, NEA No. 7560, 2021
（１6）https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000004132.000067400.html
赤ペンおやじのつぶやき
文系理系を問わず老いぼれた元首相経験者が日本を滅ぼす
今年の１月２７日付でEUのフォン・デア・ライエン委員長宛に、元首相経験者５名が原子力エネルギーをEUの地球温暖化対策としてのタクソノミーから外すように要求する書簡を送った。事故当時政権についていて、ひたすら福島事故の対応を邪魔した菅を筆頭に、事故前までは原子力を容認しGHG排出を80％削減すると謳っていた鳩山由紀夫の二人の理系政治家、政権を取ったとたんに原子力容認に宗旨替えをした村山富市、いつまで経っても目立ちたがり屋の悪癖が直らない小泉純一郎、今や政治とは無縁の陶芸家細川護熙の3名の文系政治家の計5名である。（写真はNHKニュースと5人の首相経験者）
この書簡の内容がお粗末である。既に多くの識者が批判している通り、福島での子供の甲状腺がんは福島事故との因果関係が認められないとの結論が専門家の評価で出ているにも拘らず、これを取り上げて欧州委員会に「甲状腺がんで多くの子供が苦しんでいる」とうその情報を提供した。この人達は非常識を通り過ぎて、売国奴と呼ぶにふさわしい。
福島の方々がこの11年間誤った情報の拡散に苦労してきており、福島では原子力による汚染よりも、汚染された情報による被害の方がはるかに大きいとも言われている。そのような状況下で、責任ある立場を離れた元首相経験者が、無責任な書簡を送って更に福島の方々を苦しめるという老害をまき散らした。
目立つという自己満足のためにこのような行為を行った結果、この老人たちは日本を滅ぼすことに大きな貢献をしていると言わざるを得ない。
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