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SEJ 日本のエネルギーを考える会

SEJだより 第15号 温暖化もあるが寒冷化もある ―地球の運動に伴って起きる気候変動 ミランコビッチサイクル―


カテゴリ:  エネルギー » 地球温暖化    2021-7-3 17:20   閲覧 (8975)

先進国が排出したCO2を原因とする地球温暖化対策は先進国が主として対応が求められる問題であるのに対し、今回、取り上げる「地球の運動に伴う気候変動は太陽と地球の運動」による気候変動は自然現象であることが特徴である。氷期の入るのは数万年後のこと(ただし、CO2の濃度が工業化前のレベルに下がると1500年後の説もある)で我々は心配ないが、気候には温暖化ではない寒冷化もあることを紹介したい。

先日、朝日の朝刊に【ニュースで連日取り上げられている気候変動問題。だが「地球の運動に伴って起きる気候変動」と「人間の活動に伴う気候変動」を混同せず理解するには科学的な知識が欠かせない。】とし東京大学の入試問題を主題に解説記事が1面を使い掲載された。
「地球の運動に伴って起きる気候変動」では、80万年19回続く氷河サイクルは約2万年まえに終わり、新しい氷河サイクルの間氷期に入っており、いつ氷期に入るかが注目されている。
IPCCや気候研究者は、大陸が氷河に覆われる氷期は3万年程度先であり心配ないと言うが、氷期は地球温暖化とは比較にならない厳しいものであるので、その見通しについて概要を紹介する。
1.氷期は人類にとって厳しい試練であった

前回の氷期MIS5e(注)は最長で、ネアンデルタール人が滅亡するほど寒冷な気候であった。また、新しい氷河サイクルMS1の間氷期に入ってからも、紀元前6〜7千年には、北米の氷床が溶け関東や大阪の内陸部まで海に覆われていた縄文海進を経験している。地球温暖化による影響とは規模が違うのである。このようなことから、次の氷期にいつ入るかを推定し、対策が考えられれば、人類の将来に大いに役立つのである。(注 MIS:Marine oxygen Isotope Stage)


2.太陽の日射(ミランコビッチサイクル)と気候変動は一致している

地球の公転軌道の離心率と自転軸の傾きの周期的変化、さらに自転軸の歳差運動という3つの組み合わせにより、氷河期・間氷期という氷河サイクルが生じると、セルビアの地球物理学者ミランコビッチが提唱した。これは、理論計算でき、過去から将来にわたり160万年分が計算されている。(右図)
2.1地球の傾斜角をずらすと間氷期のサイクルは一致する

80万年にわたる氷河期をミランコビッチサイクルのパラメータである地球の傾斜角(Obliquity)を地球の応答を考慮して若干ずらして比較すると、氷期の前の間氷期と山が一致し、地球の運動によって氷河期が正確に繰り返されることがわかる。
2.2現行のサイクルの推定--過去にミランコビッチに類似のパターンがある--
これからの現行の気候変動MIS1を推定するため、ミランコビッチパラメータが現在と類似するパターンを比べる。傾斜角が近く、公転軌道が円形に近い離心率、歳差運動が小さい特徴を有する(青い影)の氷河サイクルはMIS19 とMIS11が近いことがわかる(右図参照)。

3.進行中のMIS1がいつ氷期に入るか−過去の氷河期MIS19,MIS11との比較−
2.2の比較によりMIS19,MIS11を進行中のMIS1と比較する
現代のMIS1のミランコビッチサイクルに近いMIS19は人間活動のない時代の気候変動であり、「地球の運動に伴って起きる気候変動」を純粋に評価できるのが特長である。
P.C Tzedakis(ロンドン大教授)の評価によれば、日射量の違いは小さく、傾斜角、歳差運動と離心率も非常に似ていた。(注2)

「MIS19との比較」


図の青線はMIS19の当時の温度変化を示すが、海洋コアのデータなどから77.55 〜77.75万年(青い帯)に氷期に入ったと評価されている。これに対して現在の温度変化MIS1(赤線)は上回っており、多くの専門家がいうように数万年氷期に入らないという。しかし、(温暖化対策が徹底し、数十年後に、)工業化以前の280ppmまで下がった場合は、(北半球の気温が数度下がると、雪氷面積は急速に増え)1500年後には次の氷期に突入するという。(ということは、工業化していなかったら、1500年後に氷期に入るということなのか。)


「MIS11との比較」
現在は40万年前のMIS11(サイクル5)の線に沿って変化しており、寒冷化が進み氷河期に入るには(温度が-1〜-2℃としても)2万年以上はかかるように見える。

4.専門家の見立て 次の氷期は3万〜5万年後、CO2の濃度を大きく下げると1500年後
●IPCCは大気中のCO2濃度が300ppm以上もしくは累積炭素排出量が1000PgCを超えている場合、次の氷期は3万年後という。しかし、P.C Tzedakisは上記のようにCO2濃度が工業化以前の280ppmまで下がった場合には、あと1500年後には次の氷期に突入するという。しかし、現在地球温暖化対策としてCO2の削減を進めているが、280ppmまで下がるのはとても現実的ではないであろう。
●東大大気海洋研究所の阿部教授(女性研究者に与えられる猿橋賞受賞)によれば、CO2濃度が上昇しているために温暖化していることに加え、今の地球の公転軌道が40万年に1回という離心率が小さい円軌道に近づくために北半球の夏が涼しくならず、氷期に入りにくいので次の氷期は3〜5万年後という。
5.どう考える今後の気候変動
以上の検討から、当面気候変動は2,3万年先の問題であり直ちに対策をとる必要がないことが分かった。しかし、長期の気候変動の評価分析や北極航路の開発のためには極地観測の重要性も高まっている
SEJだより4号にも触れたが、北極の温暖化に伴い北極航路の重要性たかまり、「北極海の海上交通路が世界規模の交易主要水路となり、カムチャッカが現在の世界の海路の交差点であるシンガポールに置き換わることは必定である。
6.国がリードする気候変動の研究を期待したい.
「地球の運動に伴って起きる気候変動」にせよ「人間の活動に伴う気候変動」にせよ、気候変動はエネルギー、食料の自給にかかる国の政策に関わる重要なテーマであり、これからの気候の見通しは重要となる。そのため、地球温暖化も地球寒冷化を含め総合的な研究が必要であり、国の研究機関や大学の役割である。
おわりに
●地球温暖化対策は今目の前にある課題であり、寒冷化対策は今後技術の進展を踏まえながら着実に準備を進めていくべき課題である。現在に生きる我々は、まず目前の課題である温暖化の影響を最小化するために英知を絞るべきであろう。
●日本がここで考えなくてはならないのは、化石燃料や食料を大きく海外に依存している現状を改善して、エネルギー安全保障を確立し、食料の自給を達成することであろう。温暖化を食い止めるためには、日本はその技術力を駆使して化石燃料への依存をなくし、発展途上国のCO2排出低減に貢献すべきである。寒冷化は遠い先のこといえども事実として認識されれば、国際間での資源、食料の取り合いになるのは明らかであり、国土が広く資源の豊かな米国、中国、欧州と日本の取り組みは異なってしかるべきである。
●エネルギーの安全保障については、国産が可能な再生可能エネルギーと原子力を大きく伸ばす方策を検討すべきであろう。
食料の自給については、農地の縮小を伴わない再エネの拡大、海洋の漁業資源の拡大、養殖漁業の拡大など、寒冷化に耐える食料生産を日本固有の課題として取り組むべきである。
参考資料
注1 EPICA Dome C Ice Core 800KYr Deuterium Data and Temperature Estimates World Data Center for Paleoclimatology,Boulder and NOAA Paleoclimatology Program
注2 Glacial Inception in Marine Isotope Stage 19: An Orbital Analog for a Natural Holocene Climate
注3.Paleoclimate Cycles are Key Analogs for Present Day (Holocene) Warm Period Renee Hannon

キーワード sej 日本のエネルギーを考える会 氷河期 地球寒冷化 地球温暖化 ミランコビッチサイクル IPCC 

 

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