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SEJ 日本のエネルギーを考える会

SEJだより 第7号 菅新首相の所信表明を踏まえて ー限界がある再エネ 見直そう原子力


カテゴリ:  エネルギー    2020-10-30 9:00   閲覧 (1732)


● 2020 年10月26 日菅首相が就任後初めての所信表明演説を行った。この中で首相は「2050 年カーボン・ニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。現行の第五次エネルギー基本計画ではCOP21 に基づき、2030年から2050年までに気温が2℃上がるのを許容していたが、COP24では1.5℃以下に抑制することとなりEUもこれに対応することになっていることから、日本も足並みをそろえたものと思われる。


また、従来の「原子力への依存度をできる限り低減する」との文言には触れず、「安全最優先で原子力政策を進める」との発言を行ったことを私達は大いに評価する。
● この所信表明演説の具体化は、現在進行中の第六次エネルギー基本計画に反映されることになるのであろう。この検討の中では、エネルギーの自立を最優先とするとともにエネルギー安全保障と温室効果ガス(CO2排出)低減が重要な目標となっており、更に化石燃料への依存度と電気料金の低減が注目される。


● また、この基本計画では、目標年次を2030年、2050年(CO2を80%削減)としているが、菅首相の宣言を実現するには、2050年を見据えたうえで、まず2030 年に向けての現実的な目標が必要とされている。今後の社会において実行可能な複数シナリオを想定し目標達成を目指すべきである。 やがては供給電力の数十%にもなろうとする太陽光発電などに由来する変動する電力を調整する仕組みや送電網の拡充を早急に実施する必要もある。それと同時に、既存の原子力発電所の再稼働に加え新たな建設も極めて重要である。
世界の現状を俯瞰したうえで、海外事例を参考にしながら我々が目標を達成するうえで必要な方策を考えてみよう。
1.世界を見よう エネルギーの取り組み
● 先進諸国では、原子力や水力、バイオ火力などを既に実用化技術として取り入れていることを重視することが必要であろう。日本では原子力に対してネガティブなマスコミや政党の感情論に基づく意見が多いが、脱炭素社会を実現するという目標を掲げた以上、原子力の在り方について理性的に議論をすべきである。



● 原子力の安全性が問題なら福島第一の教訓を取り入れて安全の仕組みの再構築を目指し、発電所に反映し、国民の不安を払しょくし原子力発電の復活に踏み出すべきである。それが日本の責任でもある。その為の鍵となるのは電源構成のなかでの再エネや原子力の位置付けである。
● 再エネの中では変動電源でない水力発電と安定電源の原子力の比率で世界の先進国の取組(電気料金、電力当たりのCO2排出量)を比較してみた。
● 電源構成を左右するのはそのコストであり、特に風力や太陽光など変動電源は発電装置のコストだけではなく変動対応の送電網や電力補償を行う仕組みを構築するための費用がある。ここではそのような影響の少ない原子力と水力の電源構成中の比率とCO2の排出、電気料金を各国について図に示す。
● 原子力と水力に大きく依存するスイス、フランス、スウェーデンなどの国はCO2排出量が少なく、電気料金は安い。日本、ドイツなどはCO2の排出量が多く、電気料金は高い。これらの国は原子力の導入を制限し再エネの導入を図っているが、電力網の整備されている欧州ですら変動電源の電力調整に費用が掛かり導入は進まず、電気料金が高くなっている。このため、電力調整のため一度水素に変換し利用するなど新技術を検討しているが、まずは電力会社が検討している昼間の揚水発電による電力預かりサービスや揚水を利用した仮想発電(電気新聞より)など既存のインフラを活用した検討をしてはどうか。


さらに欧州事情を詳しく見てみよう

各国が重視するのは電気料金、CO2の排出量、化石燃料依存度の低減、エネルギーの自給率であり、その手段として原子力の活用、再エネの導入の推進である。

● 通常原子力、再エネの導入などを発電の絶対量の大きい国のデータと比較することが多いが、一人当たりのデータで比較すると各国の取り組み方針が明確になってくる。
● 日本は2018年には原子力、再エネ、火力の比率がそれぞれ6%、20%、74%であったのに対して、第五次エネルギー基本計画では2030年にはそれぞれ21%、23%、56%が目標とされ、CO2の排出量は522 gCO2/Kwhから246gCO2/Kwhと約1/2になるとしている。
しかし、これはドイツを下回るもののフィンランド、スウェーデン、フランスには遠く及ばない。また化石燃料への依存度は大きく、エネルギー安全保障は解決していない。原子力の拡大が望めないなら中東に依存しない石炭への切り替えも考えなければならない。
● 日本が2050 年にフランス並みの70gCO2/kwhを実現しようとすると、実に電力需要の60%以上を原子力で賄わなくてはならないという試算もある。



日本でも、原子力中心のフランスの状況は良く知られているが、フィンランド、スウェーデンの事情はあまり知られていない。これらの国々は原子力と水力、風力、バイオ燃料など国土にあった再エネを採用している。英国はガス炉による原子力発電の発祥の国であり、軽水炉時代に乗り遅れたものの、石炭から自国の天然ガスに切り替えCO2排出量も低くなっている。
日本も国情に合った電源を追求するならば、水力発電の更なる開発、森林からの間伐材を利用するバイオ発電、地熱、海流発電なども検討の対象に含めるべきであろう。


2.どうする2030年に向けた原子力
現在のエネルギー基本計画では総電力需要10650憶Kwhの約21%を原子力で供給する必要があり稼働率などを仮定すると、原子力の総発電出力は約3,400万KWが必要になる。停止中の原子力発電所は新しい新基準に合格すれば運転を再開できる。原産協会の2020年10月現在の調べによれば原子力発電所の安全審査や運転再開および建設準備中、建設中の状況は以下の通りである。
● 、既存の発電所のうち現在営業運転を再開しているものが913万KW、工事計画認可済みが458万KW、審査書案了承が353万KW、申請書案審査中が859 万KW、で合計2,484万KWが比較的短期間で活用できる既存の原子炉である。これに加えて、建設中が414万KW、建設準備中が880 万KW、合計1,290万KWあることから、2030年の必要発電能力を何とか賄うことが出来そうであるとの試算はできる。
● しかし、運転開始後の経過年数が40年を超えると運転を認めず、延長をする場合は安全審査が必要になるのであるが、現在4基が延長を認可されているだけであり、今後運転開始後40年に到達する原子炉の活用が試算通りに行くかどうか予断は許されない。計画がまずは達成可能であるとしても、2050年に向けて今の段階から周到な将来計画を立てておくことが重要である。
3.政界、財界をあげて原子力を推進して欲しい
菅首相は原子力の活用を容認する意向であるが、公明党は「新規原発を認めず、原発ゼロをめざす」という方針をどうするのか不明である。このまま全電力を再エネで賄うのでは導入費用は莫大になり、高い電気料金という形で国民や産業界にしわ寄せされることになろう。
一方、民間でも、原子力を支持する声が出始めている。連合の神津会長が2020年8月27日、立憲民主党の枝野代表と都内の連合本部で会談したと報じられた。神津氏は、国民民主党との合流新党の綱領に「原発ゼロ」が盛り込まれたことに「強い懸念」を表明し、立憲民主党などが国会提出済みの原発ゼロ法案について、新党設立後の検証と見直しを求めたとのことである。神津氏は、発言や選挙公約でも「原発ゼロ」を使わないよう要請し、「スローガン的な言葉で扇動する政治ではなく、現実的なエネルギー政策を求めたい」と記者団に語ったという。原子力の重要性を理解しており、私達はこの意見を強く支持する。
おわりに
原子力推進のネックであった地層処分の問題が北海道の両首長の英断で文献調査へと一歩進んだ。これを機に、地層処分への両町村長の英断をきっかけに地層処分場の選定をさらに進め、安全な原子力発電の導入を推進し、菅首相によって大きく掲げられた地球温暖化対策やエネルギー安定供給を実現しながら経済再生を達成するための一歩として欲しい。

キーワード 菅首相 所信表明演説   2050 年カーボン・ニュートラル 脱炭素社会の実現 原発の再稼働 原発新たな建設も重要

 
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