2050年に向けてエネルギー政策のカギとなるのは、地球温暖化対策とエネルギー自給率の向上である。そのためには、原子力と再生可能エネルギーをいかに共存させるかである。
その実現のための課題を検討した。
平成29年10月22日の総選挙では与党が圧勝した。政府与党はその原子力政策については「原子力は安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベース・ロード電源と位置付け、安全と認められた原発の再稼働を推進するとともに、エネルギー基本計画を踏まえ、再生可能エネルギーの最大限の導入、火力発電の高効率化などにより、原発依存度を可能な限り低減する」としていたが、その方針が与党圧勝という選挙結果で認められたことで、原発ゼロを主張した多くの野党の公約は否定されたと言えるであろう。
しかしながら、自民党や国の原子力政策は具体的内容が明確ではなく、経産省の基本政策分科会やエネルギー情勢懇談会で本年8月から検討が開始されたところである。
そこで、これら委員会の議論を踏まえて今後の方向性について検討してみたい。
＜２０５０年の不確実性＞
1.大切なエネルギーの安全保障
図に示すように、原子力の再稼働が遅れている日本では、自給率は主要国が40〜80％なのに対して8％と極端に低く、2050年にはこれら主要国の水準に近づけなければならないだろう。
日本が自給率を高めなくてはならないのは、化石燃料の輸入先が紛争の絶えない中東に偏っており、また欧州のように隣国からの融通が受けられないからである。
しかし、原子力以外にこれを代替していくべき再生可能エネルギーには自然災害によるリスクなどで長期に供給が途絶える可能性も否定できず、供給に不安が少ない石炭火力の革新技術の追求と役割を見直すことも視野に入れておくべきであろう。
このように、2050年までに原子力、再生可能エネルギー等の長期の目標をどう見込むのかだけではなく、考慮すべき変数がどういうものがあるかを冷静に見極め、状況の変化に応じ柔軟に対応できるよう準備を整えておくべきだろう。
2.地球温暖化対策
米国がパリ協定を離脱したとしても脱CO2のトレンドは変わらない。しかし、この協定の目標設定や達成には法的拘束力がないので、多くの関係国では自国の対策を怠り他国任せになる傾向がある。表は主要国の再生可能エネルギー、原子力、火力導入の取り組みと、WEO2016の450シナリオ（地球環境の温度上昇を２℃以下に）を達成しようとする場合の2040年での電力並びに電力以外の2014年から2040年までのCO2削減量と削減比率を示す。
電力からのCO2削減比率は東欧、ロシアは40%程度に過ぎないが、他の主要国では80%程度である。また、電力以外（産業用、自動車などの燃料）では70%程度にとどまる。この評価の前提は、火力発電や産業用からのCO2の一部を回収して地下または海底に貯留するCCSを前提としている。
再生可能エネルギーや原子力の大幅導入をしない限り火力発電の継続利用はさけられず、 まだ完全には技術が確立していないCCSの導入や産業構造の大幅変更が必要とされ、現状では解決策のない課題（wicked Problem）とされている。
経産省の基本政策分科会やエネルギー情勢懇談会では、再生可能エネルギーと原子力の積極的拡大方法及び国民のコンセンサス獲得策を検討すべきであろう。
一部の政党やマスコミの主張する脱原発ではCO2削減問題の解決ははるか遠くにあるに違いない。
3.原子力発電の安定的利用
2050年には、CO2の排出を抑制するため電源の大半を再生可能エネルギーと原子力発電にする必要があるので、原子力発電の安全性の強化や寿命延長、新規原発の建設が鍵となる。
しかしながら、福島事故対策関連の新たな規制強化により対策費の増大でBWRはおろかPWRまで廃炉しようとしている。これでは、2030年の電源構成において原子力が2割を担うことには遠く及ばなくなりつつあり、このままだと2050年には原子力はほぼなくなってしまうことが危惧される。また、既存の原子力発電所の運転費用は新たな改造費用がない限りコストの安い電源であり、電気事業者にとってなくてはならないものである。廃炉を進めることや新規原発を否定することは、電力会社の事業基盤が失われてしまう結果となる。それでは、新規原発の建設や再生可能エネルギーの導入を可能とする系統安定化のための送電網の整備、蓄電設備の増強などは困難になるであろう。そのためにも、原子力発電事業を維持していくにはどうすればよいかを議論していくことが必要である。
4.再生可能エネルギーの拡大のために
�‖斥杆�発電
エネルギー情勢懇談会の委員から、「日本はもはや再生可能エネルギー後進国ではない! 2016年5月4日のピークの1時間(12〜13時) には日本全体の電力需要のうち、 再生可能エネルギーがまかなったのは 45.7％ 四国電力では79% 九州電力が77% 北海道電力が71%弱 東北電力が62%弱であった。 5月4日の1日間をとると27.5%、 5月の1ヶ月間で20％、 2016年度の1年間が13.8%であった。2050年以後、再生可能エネルギーでコ スト的にも量的にも電力がまかなえるようになっても、原発 は必要なのか?」という意見が出された。
私たちは、140号で九州電力の時間ごとの電力供給の実態を示したが、一見良いようであるが、恐ろしい問題を抱えている。
図は2017年4月から6月の3か月の毎時の太陽光発電のピーク出力を示す。この出力は3か月の平均120万KW に対して約5倍の600万KW の電気が出ている。2050年には数倍の発電量を期待しているので、3倍としても1800万KW となり九州管内の需要約1000万KWを大きく超えることになる。
電気は短時間といえども需要と供給がバランスしていなければならず、このまま太陽光発電が伸びるならば、日照のある時間は他の電源の接続を外さなければならない。送電網を拡充して他地域に余剰分を送ればよいとの指摘もあろうが、晴天、雨天も広範囲の地域で共通の気候条件なのであまり期待できない。
雨天が長期間続く場合に備えて代替する火力発電所を待機させると、火力発電所の稼働率は低下して経済性が極端に落ちるし、あるいは晴天続きで余剰となる太陽光からの電力を蓄電するか水素などへ転換して貯蔵するなどの方法もあるが、いずれの対策も膨大なコストがかかり、現時点では非現実的である。
��風力発電
風力発電は発電規模が大きく時間変動が比較的少ない優良な電源であるが、適地が少なく、また設置、運転保守管理が容易でないところが多く普及が進んでいない。
洋上の風力発電は比較的全国に広がっているが、欧州のように遠浅で風が安定して吹く北海のような洋上は少なく、また台風や日本海側の冬の荒天など気象的に厳しく保守も難しい。日本の洋上風力は着床が難しく浮体式が検討されており、コスト面や沿岸漁業との共存などこれからの課題である。 
�３の�発電
日本の有利な点は広大な経済水域と安定した海流である。NEDOの支援のもとに、IHIは沖縄で海流発電の試験をしている。これが実現すれば電力が安定して得られるので、日本は一大エネルギー生産国になるかもしれない。
5.系統への円滑な受入れのために
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短時間の出力調整には火力発電が向くが、CO2削減のために2050年には火力は最小限に抑える必要があり、揚水発電や蓄電池の拡大が期待される。しかし、太陽光だけで需要の大半を占める場合はその調整範囲をはるかに超える。主力である原子力発電をベース・ロードにするだけではなく、フランスのように、予見可能性を高め出力の制御の調整余裕がとれるような方法を導入する必要がある。
��現在の送電網には電力間の送電余裕はない
日本は電力会社地域内の送電網は充実しているが、所管地域外からの送電網は水力発電や原子力発電、石炭火力などが自社管内にないため、計画的に長距離の送電線を設置してきた。このように、これらはもともと自社内の送電能力確保を目的として設置したものであって、原子力発電をやめるのならともかく、再生可能エネルギー拡大のために利用するような余裕はない。
したがって系統の拡充も必要であるが、原子力のベース・ロード利用とともに負荷変動にも対応させて、系統増強の必要性を軽減することも考えるべきであろう。
��需要家を入れての調整
現在は家庭用の太陽光発電は余剰分を電力網に売却している。フランスでは冬季は電気温水器を夜間だけではなくピーク時にも使用する仕組みになっている。
日本でも、太陽光で得られた家庭の電力を系統に入れるのではなく、自家で使用（EVの充電、温水器）するか、あるいは蓄電する仕組みも考える必要がある。また大規模需要家に対しては、太陽光発電のピーク時に需要を促進するための値下げも考えられる。
6.まとめ
今回の与党圧勝という総選挙の結果を踏まえ、政府は原子力発電推進に自信を持ち積極的に開発を進めるように舵を大きく切り直すべき時が来たと認識すべきであろう。確信的反対派は別として、原発推進をためらっている人たちには丁寧に日本の置かれている状況や自給率向上の必要性を説明すれば、分かって貰える情況になってきたと考えてはどうだろうか。以上に述べてきた通り、2050年という長期を見据えると、再生可能エネルギーと原子力を合理的に組み合わせたエネルギー政策への転換が望まれるのであり、このような大方針を打ち出すべき時は今しかないのである。
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