福島第一原発の事故から6年余が経過した現在も原発の再稼働に反対するという国民の意見が広く報道されています。これらの反対意見のなかで、太陽光発電などの再生可能エネルギーを積極的に増やせば“原発ゼロ”でも良いのではないかという意見について取り上げます。
IOJでは、長期的な観点から原子力問題を考えるべきであるとの立場から、135号からの「エネルギーの将来を考えましょう」というシリーズ、そして、141号 ここをクリックからの「２０５０年に向けての考慮すべき課題」のシリーズによって、日本の２０５０年のあるべき姿を想定し、それを実現するための方策についての意見、主張を発表してきました。しかしながら、福島第一原発の事故から6年余が経過した現在も原発の再稼働に反対するという国民の意見が広く報道されています。これらの反対意見の骨子は、以下の4点に集約されると考えております。
�（‥臑莪豸業�により、多くの住民が避難を余儀なくされ、彼らの精神的・経済的な負担は計り知れず、未だ多くの住民が帰還できていない。このような大惨事が再び起きないとは誰も言いきれない。➡【原発に対する「絶対安全」の要求】
�∋�故原因も未だ解明されていない。国は、福島第一原発事故の教訓を生かした安全対策について国民への説明責任を果たしていない。➡【事故後の「安全対策」の公表】
�８業�から出る高レベル放射性廃棄物の安全な処分方法も未だ確立されていない。このような状況下で放射性廃棄物を更に増やす原発の再稼働は認められない。➡所謂【「トイレなきマンション」の解消】
�い海凌�年間、“原発ゼロ”でも国民は経済的な負担は強いられたが日常生活には支障を来たさなかった。今後は、太陽光発電などの再生可能エネルギー（再エネ）を積極的に増やせば“原発ゼロ”でも良いのではないか。➡【再エネ導入による“原発ゼロ”政策】
IOJでは、139号 ここをクリックで原子力発電所の安全性がいかに高められているかを取り上げて、�，鉢△紡个垢觧笋燭舛硫鹽�を発表しています。そして、144号 ここをクリックで��が既に技術的には解決されていることを説明しました。廃棄物問題は、技術問題から政治問題へとその性格が変化していると言えるでしょう。
今回は�い悗硫鹽�として、本当に支障がなかったのか、再生可能エネルギーが原発を代替できるのかを検証したいと思います。
再生可能エネルギー導入の技術的限界については、136号 ここをクリックと137号 ここをクリックで説明をいたしました。今回は、経済的な負担を強いられたが、日常生活には支障を来さなかったという意見の間違いについて指摘をしたいと考えています。
2.停電がなかった理由
原子力発電所が稼働していなくても困らなかったと考えているのは、停電が無かったことと、電気料金がそれほどの上昇をしなかったことによるのでしょう。短期的にはそのような印象を受けるのは当然かもしれません。
４千万KW以上の発電能力が一気に失われたのですから、電力会社が何もしなければ直ちに供給不足になるところです。これまでのやり方ですと夜間に原子力発電所や（流水式）水力発電所で供給し、発電単価の高い石油火力発電所等は夜間に停止して昼間の需要の大きいときに運転していました。全体の発電容量は夏や冬のピークでも余裕をもって安定供給するために技術的に必要な３％の予備率を確保していました。したがって、コストの高い火力発電所を夜間も使用すれば、原発の停止分をある程度まではまかなうことができます。しかし、それには限界があります。
実は、供給不足で停電にならないように、供給安定を目的として従来から電力会社が持っていた余剰設備（最大需要の８％以上が供給予備力として確保されていました）を最大限活用したことと、短納期で設置することが可能なLNG火力発電所（ガスタービン・複合発電設備）を、メーカの多大な協力を得て多数設置できたからです。勿論家庭や企業の節電努力も大いに影響したものと思われます。LEDの普及がこれを助けた面もありそうです。
しかし、余剰設備の中にはかなり老朽化した発電設備（４０年以上稼動している老朽火力発電設備）も含まれていますが、古い発電設備は万一のために定期的な補修、点検をして維持していました。これらの発電所が突然フル・パワーで運転を継続しなくてはならない状況になったのです。
もともと、古い発電設備は万が一対応ですから、需要が突然急伸した時に短期間の運転に耐えれば良いものでしたが、原子力発電所が止まってしまったことから、これらの老朽発電所設備が一斉に稼働し始めたのです。２０１４年度についてのエネルギー白書によりますと、多い時には需要の２０％以上の電力がこのような老朽火力発電設備から送られていたのです。
景気の後退により電気の使用量が減少したことに加えて、円高がある程度定着しており、原油安が継続している事から電力料金がそれほど上がらなかったことが要因です。発展途上国の電力消費は急増しつつありますので、化石燃料獲得競争はますます熾烈になってゆく可能性がありますので将来電気代が上昇することも覚悟しておく必要があると考えられます。
3.原発を代替するためにいくらのムダをしたか
福島事故後、当時の政権の不適切な判断で稼働していた原発まで停止することになってしまった結果原発が稼働していない分を賄うために化石燃料が購入され、その額は毎年３兆円以上にのぼっています。経産省の試算では原発の不稼働の影響で電力料金は家庭用で約２５％、産業用では何と４０％弱の上昇を見ており、電力多消費産業では競争力が低下し死活問題となっています。
現在に至っても、稼働している原子力発電所は僅かに５基（川内１・２号機、伊方３号機、高浜３・４号機）です。既に安全性が確認された原子力発電所を早期に再稼働させて、これ以上のムダの垂れ流しを止めるべきでしょう。
4.再生可能エネルギーを増やすために必要なこと
再生可能エネルギーは変動電源ですので、需要と供給のギャップを埋めるために火力や原子力発電所の運転で調整を行う必要がありますが、原子力発電所を止めると、CO2を発生する火力発電所だけで調整を行うことになります。この調整用の発電能力の必要性を無視している論調が多すぎるように思われます。原子力発電所を活用しながらこの供給調整を行うための解決策としては、原子力発電所の負荷追従運転の許容が重要だと考えます。現在は原子力発電所では出力一定運転をしていますが、フランスのように負荷追従運転に切り替えて再生可能エネルギーの変動に応じた運転出力の調整に使用するべきです。これまでは原子力発電所の夜間電力の一部は揚水発電に振り向けていましたが、これを再生可能エネルギーの余剰出力を揚水発電に振り向けるという方式に切り替えることが可能になります。
5.まとめ
もう一度日本の置かれている立場や環境を見直していかに危機的状況にあるかを認識し、まともなエネルギー政策が立案されるようになることが必要であると考えます。
目の前の高い電力料金もさることながら、原子力発電なしに、再生可能エネルギー中心では地球温暖化対策を乗り切ることは不可能です。脱原発は東芝の経営の危機にみられるように、最先端で裾野の広い原子力産業が破綻するならば、日本の景気後退を加速することになるでしょう。
「ゆで蛙」になる前に、このための必要不可欠な対策として、まず、原子力発電所の早期再稼働を働きかけていこうではありませんか。
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