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SEJ 日本のエネルギーを考える会

131号 400 年の責任、10 万年の責任−「天声人語」にもの申す−


カテゴリ:  会員の声    2016-9-14 18:10   閲覧 (2668)

廃炉に伴い原発からは大量の廃棄物その処分方法について「天声人語」は,その処分方法について「超現実的な」現実に戦慄すると主張している。

1.はじめに


 廃炉に伴い原発からは大量の廃棄物が出てくるが、そのうち1%程度は放射性廃棄物である。これらは地層処分を行う高レベル放射性廃棄物より、放射線レベルが数ケタも低く、国は100m程度の地下に中深度処分をすることとしている。原子力規制委員会はその安全規制の検討を始めたところ、朝日新聞の「天声人語」(2016年9月2日)はその一部の処分方法について「超現実的な」現実に戦慄すると主張している。国民に恐怖を与えようとしているかのようである。


2.天声人語はいう


「約20万年前にアフリカ大陸で生まれた現生人類ホモ・サピエンス。そこから各地へ旅立つという人類史のドラマが始まったのは、約6万年前とみられている。やがて日本列島にも足を踏み入れた▼旧石器時代、新石器時代を経て稲が植えられる。はるか昔に思いをはせたのは、ほかでもない。原発の廃炉に伴う放射性廃棄物の処理についての報道で、「10万年」の数字を見たからだ▼放射能レベルが下がって人体に害がなくなるまでにはとてつもない時間がかかり、地中深く埋めて保管する。原子力規制委員会は、原子炉の制御棒など放射能レベルが高い廃棄物について、電力会社が300〜400年間管理し、そのあとは国が10万年面倒を見るという基本方針を決めた」といい、

 
 「▼未来の子孫が過って埋設地に入ったり掘り出したりするのを防ぎ、地震や火山の影響も避けなければいけない。電力会社が数万年も管理するのは現実的でないとなった。日本の電力各社も、これから400年企業になることを運命づけられたのか▼400年だろうと10万年だろうと、今を生きる世代が責任をとれるような話ではない。「超現実的」な現実に戦慄(せんりつ)する。」と締めくくる。

 原子炉の廃炉の際に出る放射化した制御棒や金属材などは全体の1%以下であり、線量が高くても数十年から数百年では減衰してしまい、長期にわたり減衰しない核種があってもその線量は低い。それらは「中深度処分」(100m程度以下)が可能になるので、その線量や管理のあり方について支障がないよう規制の検討をしようとしているのである。深層処分が必要な高レベル放射性廃棄物とは異なるものである。


3.手段と目的の取り違い


題記、「天声人語」の主張はどのように安全に廃炉措置を行わせるかではなく、原発を頭から否定し、感情に訴える主張である。
通常ある行動を取るときには、目的と手段を考える。原発の推進の目的は、資源の無い日本のエネルギー・セキュリティの確保、地球温暖化対策などであるが、このような重要な目的を推進するための手段である原発をこれほどにまで否定するのは、何を目的としているのか。
 極左勢力は、日本を他国の植民地とするかのように日本の発展を妨害することを目的としており、原発推進を妨害すればその効果は歴然としているので多くの手段を取り上げ喧伝しているが、まさか朝日の立場はそうではないのであろう。
それでは、脱原発の目的は何なのであろうか。人命尊重なのか?
 今回の台風10号では数十人の貴重な人命が失われたし、東北大震災では津波で2万人余りの人命が失われた。福島原発事故により蔓延した恐怖を煽って脱原発を主張するが、福島原発事故で人命は失われていない。人命尊重では朝日は説明できないであろう。
 人の命が自然災害で失われるのは仕方がないが、原発事故では許せないのか。他産業で人命が失われているが、原発では人命が失われていないのに執拗に攻撃するのは何故なのか?具体的な説明を是非してもらいたいものである。

4.10万年を問題にするなら



 10万年を問題にするなら、氷河期にいつ突入するかを考えなければならない。ホモ・サピエンスの活動が明らかになってきたのは10万年ほど前の最後の氷河期ころであり、現在は間氷期に入り1.3万年が経過している。
 過去80万年、およそ氷河期は約10万年、間氷期は約1万年が繰り返されており、いつ次の氷河期に入るのかは楽観できない。北米、ヨーロッパ、ロシアなどの主要工業国は数キロメートル厚の氷河でおおわれることになる。このような時代になった時には、自然エネルギーに頼っていてどれだけ人類が生き残れるのであろうか。
 長期に存続する企業といってもせいぜい400年であり、10万年もの長期にわたって廃棄物を管理するのは「今を生きる世代が責任を取れるような話ではない。」と言い切っている。今の世代は、今の活動の責任をすべて取ることが出来るという前提でモノを言っているが、本当か。
 脱原発を推進し、自然エネルギーだけで生き残れるのか。現状では今からほんの数世代で化石燃料を使い尽くすことになるが、後世に残さなくて良いのか。少なくとも数100年後には化石燃料は掘りつくされるが、今の世代には責任は無いのか。
どこかの企業が生き残るかどうかの問題ではない。人類の消滅の可能性を無くす方策を考えなければならないのである。



5.自然災害と原子力災害


ここで、話が大きく変わるが、人命尊重の観点から災害について考えてみよう。
台風の進路予想の精度は以前にも増して向上し、TVなどを見ている人々には早く避難しなさいとの情報は十分に伝達されていた。それにも拘わらず、なぜ老人ホーム入居者が多数犠牲になったのか、多くの人々はその背景をあまり考えてはいないのではないかと思われる。
 台風という人間が制御できない事象に対して、これまでに多くの人々がそれに対応して、徐々に被害の程度を下げてきた歴史や事実に焦点を当てるべきではないだろうか。地震や火山噴火の後に、近隣の影響を受けた住民が緊急避難することになるので事後処理になり、やむを得ない現実であると考えられる。
 しかし、原子力事故や台風の襲来は、事前に発生の予測が可能であり、予防処置や地道な対応改善、訓練、そして実際に起こった場合の緊急避難等で被害の程度を最少化できるのである。
国土交通省では従来の気象用レーダに比べて5倍の高頻度、16倍の解像度、そして地上の水位計に頼ることなく降雨量をリアルタイムでデータを配信できるXRAINを設置中であるが、岩手以北、北海道はこれからというところであった。さらなる設置の加速が望まれる。
 原子力も同様である。万全の対策をしてきたつもりが、未曽有の大地震と大津波に襲われ、福島原発事故が発生した。電源喪失や格納容器からのベントは世界各国の安全性評価で対策が必要とされていたもので、これらの問題が絶対ない、起きないと過信していたことにより、大きな事故になってしまったのである。
 この過ちを教訓として、過去の貴重な諸データ(ビッグデータ)を科学者や社会学者たちが解析し、発生確率と影響を及ぼす程度を算出し、これらの検討結果に基づいて提言し、対策をできる範囲で優先順序をつけて実施しているのである。何も一発逆転を狙うような革命的な対策は必要なく、継続的により良くするという観点が必要なのである。



6.マスコミのすべきこと


マスコミは被害の悲惨さを伝達するばかりで、ではどうすれば徐々にでも対策を改善できるのかに言及しない。読者やTV、スマホを見る人は概ね被害を知ることで満足し、同情するだけで時が経ってゆくのもやむを得まい。しかし、マスコミ関係者やジャーナリストも大衆迎合に走り、販売部数の増大や、視聴率が上がれば良いとしているように見受けられるのはいかがなものかと思う。つまり不安を煽り、「読者、視聴者たちにも被害が降りかかるのだよ」と天声を発しているとの思い上がりだけで満足している。それでは社会の公器としての役目を果たしているとは言えまい。
 日本にとって原子力がエネルギー・セキュリティのためには是非とも必要なのだから、どうしたら安全にできるのか、国や電気事業者に対策を求めることが重要なのだという視点を失わないで貰いたい。

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