今年5月、政府は地球温暖化対策計画として2030年度において2013年度比26.0％減、2050年までに80％減の温室効果ガスの排出削減を目指すことを閣議決定した。そのためには、原発への依存度を大幅に上げない限り不可能であることは明らかである。
１．まえがき
地球温暖化、我が国土の制約、先進的技術開発の3つ視点から我が国の長期的なエネルギー・セキュリティについて考えてみたい。
IPCCの検討では、気温上昇を1861〜1880年平均と比べて2℃未満に抑えるには、二酸化炭素などの排出を削減し21世紀末までにほぼゼロにすべきとしている。（右図参照）
そして、今年5月、政府は地球温暖化対策計画として2030年度において2013年度比26.0％減、2050年までに80％減の温室効果ガスの排出削減を目指すことを閣議決定した。
原子力への依存度を可能な限り削減するとする方針のもとでも、短期的な前者の26％減は可能であろう。しかしながら、2050年に80％減という目標は原発への依存度を大幅に上げない限り不可能であることは明らかである。
一方、環境省の審議会の委員からは、抜本的な排出削減を実現するには、政府においてエネルギーミックス実現に向けた戦略や、革新的技術戦略を早急に策定し、これらを踏まえた地球温暖化対策計画とすべきと異論が出されている。
資源もなく自然エネルギーの立地条件に恵まれない我が国が2100年までに二酸化炭素の排出をゼロ（化石燃料ゼロ）にするためには政府部内の意見を統一し、官民一丸となってこれを達成するビジョンをたて、これに沿って短期的、中期的な取り組み方針を立てなければならない。「原子力を可能な限り削減する」、あるいは「コストの安いシェールガスを導入する」などの耳障りの良い短期的取り組みの先には未来がないのは当然である。
２．世界が直面する大きな問題
１）二酸化炭素の循環のバランスに人類が急激に手を加えているのが地球温暖化の原因である。
化石燃料は6千万年〜2億年前の二酸化炭素濃度や酸素濃度が極めて高かった時代に、二酸化炭素が植物の光合成によって固定され、動植物が化石になったものである。産業革命以前は大気中の二酸化炭素 は地表、海面とでバランスし安定していたものを、現代社会が化石燃料を大量に使うことによって、太古の時代に光合成で固定した二酸化炭素をわずか100年、200年の短期間で再び大気に解放することで循環のバランスを狂わせている。
２）化石燃料の埋蔵量は有限であり、今後の利用可能年数は100年、200年のオーダとも言われている。しかしながら、発展途上国のエネルギー需要の増加によって、２１００年には現在の約2倍のエネルギーを消費するようになる。
OECD,中国、インド等を除くアフリカなどの発展途上国の需要は２０１１年現在では石油換算２７億トンで全世界消費量の２２%であったが、2100年には１４１億トンと53%に増加し、それは現在の世界全体のエネルギー消費量に匹敵する量になる（右図参照）。
３）次世代に残しておくべき化石燃料をこのまま放置すれば、我々の世代が使い尽くしてしまい、さらに、温室効果ガスが大量に放出されるであろう。
我が国では高放射性廃棄物の地層処分に反対する人々が、数万年後に残るかも知れないわずかな放射性物質の量を心配するが、現在の化石燃料の大量使用による弊害の方がはるかに大きく、化石燃料への取り組みは人類の存続にもかかわる大問題なのである。
地球温暖化問題の状況が理解されているにもかかわらず、相変わらず化石燃料を燃やし続けている先進国は、無責任と言われてもやむを得ない。このような背景を考慮すれば、先進国は化石燃料に頼らない経済的な代替エネルギーの開発（非化石化）を進めなければならない。
３．日本は、２１００年を目指し化石燃料の使用をどのように減らすのか
化石燃料資源を産出しない日本こそ、化石燃料に頼らない仕組みを作らなければならない。
最終エネルギーの75％に化石燃料（電力の2.7倍）が使われており、これを原子力や再生可能エネルギーで代替する必要がある（表参照）。具体的には、
�々�業分野の主体は熱源に石油、ガスが使われる他、鉄の還元に石炭が使われる。前者は電力で後者は非化石で製造した水素で代替できる。
��運輸分野での主体は自動車等の燃料である軽油、ガソリンであり、電気自動車や水素自動車で代替できる。
�Ｌ雲己�野での主体は石油、ガスによる暖房や給湯であり、オール電化や水素を改変したガスなどを用いた人工燃料の供給で代替できる。
このように、工業や民生分野の多くは電力を直接活用できるが、自動車の燃料や製鉄の還元には水素が必要になる。なお、ここでは水素を中心に書いているが、二酸化炭素にエネルギーを加えて人工燃料に変換する技術の開発も進められていることを付言しておく。
４．代替するエネルギーは何か
問題となるのは化石燃料を電力で代替するには発電量を約3倍にする必要があることである。現状技術では再生可能エネルギーはとても莫大な要求にこたえることは難しく、大半は原子力に頼らざるを得ない。なお、原子力に頼らない方法としてIPCCは二酸化炭素を地下に貯留する方式（CCS）も検討しているが、地球の将来に突然大気に放出される危険性をどう考えるのか？
非化石化を計画的に遂行するには、電気事業者間やエネルギー事業者間の自由競争だけでは実現不可能である。少なくとも、脱原発の風潮の蔓延や電力自由化などで体力が弱まった電気事業者に独自に原子力を大幅に拡大させることは難しい。長期にわたる開発リスクや規制リスクなどにより手がつけにくくなっている現状を改善し官民が協力するとともに、損害賠償制度や財政投融資など国の支援体制を充実させることが必要である。
１）再生可能エネルギー
再生可能エネルギーへの国民の期待は大きいが、自然条件や国土の広さによってどれだけエネルギーがとれるか変わってくる。日本は国土がせまく一人当たりの平地の面積は約1000�屐別�400坪）しかない。江戸時代以前はこれで成り立っていたが、現代では、自分の家だけの電力確保ならなんとかなるであろうが、その約十倍の電力を必要とする産業や公共サービスなどのエネルギー需要はとても賄えない。
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太陽光発電で利用するためには、それを集約しなければエネルギー資源としての価値は持たない。この集約のためには広い面積の土地が必要になる。
ちなみに東電、関西、中部電力の1000KW級のメガソーラ（年間発電量 約100万Kwh）の敷地面積あたりの発電量は約55Kwh／�屬任△襦�
100万kwの原子力発電所1基は年間70億kwhを発電するので、1000KWのメガソーラでは7000基が必要であり、現在の総発電量１兆Kwhを発電するのでも約２万K�� の土地が必要になる。日本は山地が多く、森林、農地を除く設置に適した土地は7万km2程度しかなく、多数のメガソーラの設置は現実的ではないであろう。ちなみに、米国は日本の60倍、欧州諸国も日本より広く、ドイツは人口を考慮すると2.5倍広い（図参照）。風力発電も面積当たりの発電量はほぼ同じオーダであるが、風が吹く適地は限られており、さらに立地は難しくなる。
��日本の条件に合った海洋の利用
日本の自然条件に合った自然エネルギーは広大な海洋を活用した風力発電や海流発電などである。しかしながら、日本の洋上風力発電は世界に後れをとっている。原因の一つには遠浅な海岸が少ないこと、台風、季節風など自然条件が厳しいことなどがある。それでも日本独自の浮上式の風力発電などを開発中である。日本は広大な排他的経済水域と黒潮などの世界最大級の海流が近くを流れている。
図はNEDOが開発中の浮上式のタービンで、通常は水深50mで運転し、保守の時には浮上する仕組みになっている。一年を通して安定した流れと大量のエネルギーが確保できる。太陽光発電のように森林や植生を変更してしまう結果、地球へ影響を与えるものとは異なるのである。
２）原子力の活用のために
原子力は狭い国土という制約条件は少ないが、地震や津波などの自然災害は厳しいものがある。原子力は福島原発事故の経験から国民に強い不信感があることから、将来に向けてさらなる安全性の改善に向けた原子炉の開発も必要であろう。
また、鍵となる水素は電気で水を電気分解する方法もあるが、高温ガス炉を用いて電気を介さず直接製造する技術をJAEAは開発している。
その他にも、ウラン資源を有効利用する高速増殖炉やウラン資源を必要としない核融合発電の開発は世界で共同研究が進められている。日本はこの分野の研究開発では世界をリードしており、研究成果を見極めつつ国として導入を積極的に支援すべきである。
この様な原子力発電の積極的な拡大を実現するには、これまで原子力発電システムの開発ではあまり重視されていなかった、一般への原子力発電の説明を普遍化するとともに、放射線の危険性について、科学的、疫学的に客観的評価をし、国民の不信感を払しょくすることが、本質的に重要である。
５．まとめ
我々の世代は、まず化石燃料を次世代に残すために最大限の努力を傾けなくてはなるまい。化石燃料を代替する新しいエネルギー源の創出のために原子力技術の更なる開発や大規模海洋エネルギー開発などを積極的に進めてゆかなくてはならない。我々が培った技術を次世代に継承し、新しい世代の若者たちに２１世紀後半までのこれら技術の実用化を目指して新しい感性をもって開発・推進して行って貰いたい。そのために、原子力推進アカデミーというような専門の教育機関の設立が望ましいであろう。世界の若者を集め、福島事故の本質に迫る分析をするなどによって、長期にわたる原子力利用が実現できるようにして貰いたい。これからの若者の活躍に大いに期待したい。
参考 経産省は本年7月に長期地球温暖化対策プラットフォーム（クリック）審議会を発足し、80%削減への道筋の基本的検討（クリック）を開始したところである。
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