2016年が明けました。年初の「IOJだより」は、新春座談会―原子力の理解を深めるには―というテーマで、編集委員の方々に日頃感じていること、考えていることを語っていただきました。原子力関係者、従事者の家庭の事情も垣間見え、本音トークが繰り広げられました。皆様も身近な問題としてお考えいただければ幸いです。
司会:明けましておめでとうございます。今年の第一回の「IOJだより」はこれまでのものと趣向を変えて、座談会形式での意見表明を企画しました。今回の参加者は「IOJだより」の編集委員の方々ですが、日頃感じていること、考えていることなど、忌憚のないご意見をお願いします。私たちの目標としているところは原子力発電が多くの国民に受け入れられることですが、これを妨げている問題点は、「日本ではエネルギー安全保障の問題、とりわけ原子力利用で国民の間の意見が大きく分かれてしまう」ということかと思われます。意見が分かれる原因とその影響についてまず議論して頂きたいと思います。
Eさん:原子力発電が日本で受け入られない理由は色々あると思いますが、やはり一部マスコミによる反原子力の刷り込みが一番大きいと思います。一方、このような反原発の刷り込みを否定する判り易い情報の提供が、推進する立場からは少ないということにも原因があると思います。そのへんのところについて議論をお願いします。
Sさん:マスコミ全般の情報源は一次的には電力会社であろうと思いますが、二次的にジャーナリスト・政府・学者・書籍などから得ていると考えられます。これに対して、一般人の情報源はTVやインターネットから(我が家は、15年以上新聞を購読していない)が圧倒的だと思いますので、彼等の報道姿勢に大きく影響を受けるのは避けられないと思います。
Uさん:一般人の情報源は内外を問わず、TVが圧倒的ではないでしょうか。国際会議(RICOMT2015)で発表された欧州(ベルギー)の調査でも60%を超える人がテレビから情報を得ていると報告されています。
Yさん:マスコミの対応を見ていますと、最近はインターネットの発達で、政府や研究機関、我々NPOや海外機関から正確な情報が発信されており、これらが大きな情報源なのでしょう。反対派の意見を鵜呑みにはしないようになってきました。朝日などは反原発の記事が減ってきているのも事実ですね。GEPRやIOJだよりなどは分かり易い情報を発信しており、間接的に参考にしているのではないでしょうか。
司会:やはりTVの影響は無視できないということですね。それでは次に、国民の間ではどうして原子力発電に対する反対意見が減らないのか、ご意見をお願いします。また、原子力に従事して禄を食んできた人達は、少なくとも家族については十分に説明をして、家族を挙げて原子力を支持するように務める義務があると思いますが、その点はどうでしょうか。
Yさん:原子力に携わる人達は、原子力がなぜ必要なのかを考えた上でその危険性などを顕在化しないように種々の検討したうえで進めています。しかし、国民性といいましょうか、一般の人はそこまで遡って理性的な判断をするわけではなくて、例えば、母親は第一に子供を守ることを中心に考えるということだと思います。
原子力の危険性はTV、新聞などが盛んに煽りますが、一般の人はそれが正しいという前提でもって考えることになってしまい、報道の片寄りに疑問を持つのは難しいようです。マスコミからの情報がおかしいという意見や正しい情報はTV、新聞には多くは出て来ませんので信じるしかないのだと思います。原子力に関わっている当事者や学者、公的機関、NPOがおかしな報道に対して、堂々と理由を示しながら反論をしてこなかったせいではないでしょうか。きちんとした反論や説明がないと、家庭内で説得しようとしても難しいですね。
K子さん:とりわけ原子力規制委員会が、新基準に従って安全性向上について施された対策などを国民に分かりやすく説明すべきですが、今のところ何もやっていませんね。
Iさん:原子力に関係者、従事者の子弟は原子力の必要性や放射線について理解を示していますが、息子の嫁のうち特に幼児の母親は放射能被害を心配しています。その理由は、放射線により人体への悪影響を受ける可能性はほんの僅かであっても、我が子にその影響が現れないとは言い切れないから、ということの様です。
また、原子力関係者であっても、専門外の事柄について聞かれると回答に窮する事があります。例えば、私が「原子力を継続せねばならない理由」、「地層処分の安全性」について聞かれると専門分野外なので深く立ち入って説明できないことが出て来ます。原子力関係者だからと云ってなんでも判るわけではありません。そういう意味で参考資料が必要ですね。
Uさん:私は原子力に従事していましたが、家族を特に説得したわけではないのですが、各人の考えで原子力の推進を支持しています。原子力に係らない友人の中には、原子力反対というわけでないが、福島の事故後、原子力についての賛否の意見は聞き飽きたという人がいます。また、原子力発電についての立場を決めかねて、様子見の人もいるようです。
K子さん:私がお母さん方に原子力の説明をしたときに、「エネルギーの安全保障って何?」との質問がありました。あまり、主婦層にはピンとこない言葉のようでした。そこで、「安全保障」というのは「外交的要素を必要とするため、軍事的問題と深く関わっていること。」そして、エネルギーを確実に確保するために『エネルギー安全保障』を理解することが必要であることを説明しました。本来なら国が行う仕事なので、何を国が行っているか、行うべきかを説明したところ熱心に聞いていただき、原子力発電の必要性についても十分に理解してもらうことが出来ました。その後の課題の説明にスムースに入っていけました。技術者の方々の説明は原子炉に偏り過ぎていて、大局観のある説明ができていないのではないでしょうか。まず、大きな点から理解してもらう努力が必要だと思います。
司会:それでは、どのような点が理解を得られないのでしょうか。
Iさん:反対派の論理はいつも同じで、「トイレなきマンション」「僅かな放射線でも危険」「福島事故はまた起こるものだ」「厳しい安全対策をしても、事故は再発する(「安全神話」の繰り返し)」「猛暑時に原子力がなくても対応できた」など紋切り型の主張が良く聞かれます。
Sさん:我が家で妻と娘2人は冷蔵庫に反原発パンフを貼っているほど原発反対なのですが、その理由を聞いてみると、原子力のベネフィットを実感できない、事故発生対策費用を考えると決して安くはない、原発が稼働せずとも自分たちの現在の生活に何ら支障がない、 地球温暖化による気象変動は実感するも自分とは無関係な話、「もんじゅ」などに大金をかけて推進する目的が理解できない・宇宙開発と同じように“男のロマン”を追いかけているだけなのではないのか、放射能汚染の疑いある食材は買わない・突然変異や癌発症のリスクが高くなるから、癒着という言葉が見え隠れする行政は信用できない、などマスコミや反対派が主張するテーマがそのまま出てくる傾向にあります。
Yさん:原子力発電反対の主張には感情的なものもありますが、比較的技術的なものもあります。彼等の主張は本質的に間違っている場合が多いのですが一見正しそうな論理を展開しているので、たとえば政府に対して批判的な立場の人達はその主張を受け入れてしまいます。原子力発電を肯定する説明は長くなりがちですし、専門家でも一貫した説明が難しいという困難な問題もあります。
Eさん:私達は「IOJだより」を情報発信の手段として、福島事故後の平成23年5月から既に120回発行して来ました。これは、夫々の時点でマスコミなどに取り上げられたテーマについての読者の理解を深めてもらうために、「分かり易い解説」を目指して2ページの資料として発行してきたものです。これらは、政策を実行する政治家や役所には適宜届けていますが、一般にはなかなか浸透していないようですね。
司会:「原子力国民会議」でこのような課題にについて、誤解を払しょくすべく活動をされていると聞いていますが、説明して頂けますか?
Iさん:原子力国民会議では、「原子力の誤解分析検討会」を立ち上げ、“なぜ、原子力の誤解が蔓延しているか”を分析しました。そして、いろいろな手法を駆使して判り易く「原子力の誤解」を解説する単行本や小冊子の編纂に取り組みました。現在、ホームページに原子力誤解集を順次掲載しています。これらの誤解集を「草の根セミナー」や「草の根対話集会」で使用し、一般市民の疑問や不安に応えていく地道な活動が今後も必要なのではないでしょうか。
司会:大方の意見が出尽くしてきたようですので、ここでこれまでの意見から引き出せる結論をまとめたいと思います。一般の方々はマスコミ報道やTV番組などで学者の意見をまず信用する前提で動いてしまいますので、間違った報道や片寄った報道などが為されたときには、これを否定するべく、我々は分かり易い説明をしていかなければならないと云うことでしょうか。我々も、専門分野の話以外については知っているようで人に説明するために十分な知識を持っているかと云えば、そうでもないという反省もあります。そんなことから、IOJだよりを活用しての正しい情報の一層の発信と「原子力誤解集」(正しい知識の分かりやすい解説書)を利用して、我々自身がよく勉強をするとともに、これを草の根活動で有効利用することが、何よりも重要だと結論付けることが出来ます。家庭内においても同様のことが言えるでしょう。
具体的な活動としては、
.一般に理解が得られないテーマについては、誤解集などの成果を活用しながら、IOJとして情報を発信していく
.原子力の必要性の根底にあるエネルギー問題について、日本のおかれた環境を踏まえて分かりやすく問題点に
ついての解説や情報を発信する
.IOJだよりや誤解集の成果を活用しながら、草の根対話活動に協力していく
などでしょうか。
以上有難うございました。 (新春座談会開催:2016年1月7日)
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司会:明けましておめでとうございます。今年の第一回の「IOJだより」はこれまでのものと趣向を変えて、座談会形式での意見表明を企画しました。今回の参加者は「IOJだより」の編集委員の方々ですが、日頃感じていること、考えていることなど、忌憚のないご意見をお願いします。私たちの目標としているところは原子力発電が多くの国民に受け入れられることですが、これを妨げている問題点は、「日本ではエネルギー安全保障の問題、とりわけ原子力利用で国民の間の意見が大きく分かれてしまう」ということかと思われます。意見が分かれる原因とその影響についてまず議論して頂きたいと思います。
マスコミの影響はどうなのか
Eさん:原子力発電が日本で受け入られない理由は色々あると思いますが、やはり一部マスコミによる反原子力の刷り込みが一番大きいと思います。一方、このような反原発の刷り込みを否定する判り易い情報の提供が、推進する立場からは少ないということにも原因があると思います。そのへんのところについて議論をお願いします。
Sさん:マスコミ全般の情報源は一次的には電力会社であろうと思いますが、二次的にジャーナリスト・政府・学者・書籍などから得ていると考えられます。これに対して、一般人の情報源はTVやインターネットから(我が家は、15年以上新聞を購読していない)が圧倒的だと思いますので、彼等の報道姿勢に大きく影響を受けるのは避けられないと思います。
Uさん:一般人の情報源は内外を問わず、TVが圧倒的ではないでしょうか。国際会議(RICOMT2015)で発表された欧州(ベルギー)の調査でも60%を超える人がテレビから情報を得ていると報告されています。
Yさん:マスコミの対応を見ていますと、最近はインターネットの発達で、政府や研究機関、我々NPOや海外機関から正確な情報が発信されており、これらが大きな情報源なのでしょう。反対派の意見を鵜呑みにはしないようになってきました。朝日などは反原発の記事が減ってきているのも事実ですね。GEPRやIOJだよりなどは分かり易い情報を発信しており、間接的に参考にしているのではないでしょうか。
家庭内に反原発意見はないのでしょうか?
司会:やはりTVの影響は無視できないということですね。それでは次に、国民の間ではどうして原子力発電に対する反対意見が減らないのか、ご意見をお願いします。また、原子力に従事して禄を食んできた人達は、少なくとも家族については十分に説明をして、家族を挙げて原子力を支持するように務める義務があると思いますが、その点はどうでしょうか。
Yさん:原子力に携わる人達は、原子力がなぜ必要なのかを考えた上でその危険性などを顕在化しないように種々の検討したうえで進めています。しかし、国民性といいましょうか、一般の人はそこまで遡って理性的な判断をするわけではなくて、例えば、母親は第一に子供を守ることを中心に考えるということだと思います。
原子力の危険性はTV、新聞などが盛んに煽りますが、一般の人はそれが正しいという前提でもって考えることになってしまい、報道の片寄りに疑問を持つのは難しいようです。マスコミからの情報がおかしいという意見や正しい情報はTV、新聞には多くは出て来ませんので信じるしかないのだと思います。原子力に関わっている当事者や学者、公的機関、NPOがおかしな報道に対して、堂々と理由を示しながら反論をしてこなかったせいではないでしょうか。きちんとした反論や説明がないと、家庭内で説得しようとしても難しいですね。
K子さん:とりわけ原子力規制委員会が、新基準に従って安全性向上について施された対策などを国民に分かりやすく説明すべきですが、今のところ何もやっていませんね。
Iさん:原子力に関係者、従事者の子弟は原子力の必要性や放射線について理解を示していますが、息子の嫁のうち特に幼児の母親は放射能被害を心配しています。その理由は、放射線により人体への悪影響を受ける可能性はほんの僅かであっても、我が子にその影響が現れないとは言い切れないから、ということの様です。
また、原子力関係者であっても、専門外の事柄について聞かれると回答に窮する事があります。例えば、私が「原子力を継続せねばならない理由」、「地層処分の安全性」について聞かれると専門分野外なので深く立ち入って説明できないことが出て来ます。原子力関係者だからと云ってなんでも判るわけではありません。そういう意味で参考資料が必要ですね。
Uさん:私は原子力に従事していましたが、家族を特に説得したわけではないのですが、各人の考えで原子力の推進を支持しています。原子力に係らない友人の中には、原子力反対というわけでないが、福島の事故後、原子力についての賛否の意見は聞き飽きたという人がいます。また、原子力発電についての立場を決めかねて、様子見の人もいるようです。
K子さん:私がお母さん方に原子力の説明をしたときに、「エネルギーの安全保障って何?」との質問がありました。あまり、主婦層にはピンとこない言葉のようでした。そこで、「安全保障」というのは「外交的要素を必要とするため、軍事的問題と深く関わっていること。」そして、エネルギーを確実に確保するために『エネルギー安全保障』を理解することが必要であることを説明しました。本来なら国が行う仕事なので、何を国が行っているか、行うべきかを説明したところ熱心に聞いていただき、原子力発電の必要性についても十分に理解してもらうことが出来ました。その後の課題の説明にスムースに入っていけました。技術者の方々の説明は原子炉に偏り過ぎていて、大局観のある説明ができていないのではないでしょうか。まず、大きな点から理解してもらう努力が必要だと思います。
どのような点が問題にされるのですか?
司会:それでは、どのような点が理解を得られないのでしょうか。
Iさん:反対派の論理はいつも同じで、「トイレなきマンション」「僅かな放射線でも危険」「福島事故はまた起こるものだ」「厳しい安全対策をしても、事故は再発する(「安全神話」の繰り返し)」「猛暑時に原子力がなくても対応できた」など紋切り型の主張が良く聞かれます。
Sさん:我が家で妻と娘2人は冷蔵庫に反原発パンフを貼っているほど原発反対なのですが、その理由を聞いてみると、原子力のベネフィットを実感できない、事故発生対策費用を考えると決して安くはない、原発が稼働せずとも自分たちの現在の生活に何ら支障がない、 地球温暖化による気象変動は実感するも自分とは無関係な話、「もんじゅ」などに大金をかけて推進する目的が理解できない・宇宙開発と同じように“男のロマン”を追いかけているだけなのではないのか、放射能汚染の疑いある食材は買わない・突然変異や癌発症のリスクが高くなるから、癒着という言葉が見え隠れする行政は信用できない、などマスコミや反対派が主張するテーマがそのまま出てくる傾向にあります。
Yさん:原子力発電反対の主張には感情的なものもありますが、比較的技術的なものもあります。彼等の主張は本質的に間違っている場合が多いのですが一見正しそうな論理を展開しているので、たとえば政府に対して批判的な立場の人達はその主張を受け入れてしまいます。原子力発電を肯定する説明は長くなりがちですし、専門家でも一貫した説明が難しいという困難な問題もあります。
理解を得るためにはどのような努力をすれば良いのでしょうか?
Eさん:私達は「IOJだより」を情報発信の手段として、福島事故後の平成23年5月から既に120回発行して来ました。これは、夫々の時点でマスコミなどに取り上げられたテーマについての読者の理解を深めてもらうために、「分かり易い解説」を目指して2ページの資料として発行してきたものです。これらは、政策を実行する政治家や役所には適宜届けていますが、一般にはなかなか浸透していないようですね。
司会:「原子力国民会議」でこのような課題にについて、誤解を払しょくすべく活動をされていると聞いていますが、説明して頂けますか?
Iさん:原子力国民会議では、「原子力の誤解分析検討会」を立ち上げ、“なぜ、原子力の誤解が蔓延しているか”を分析しました。そして、いろいろな手法を駆使して判り易く「原子力の誤解」を解説する単行本や小冊子の編纂に取り組みました。現在、ホームページに原子力誤解集を順次掲載しています。これらの誤解集を「草の根セミナー」や「草の根対話集会」で使用し、一般市民の疑問や不安に応えていく地道な活動が今後も必要なのではないでしょうか。
まとめ
司会:大方の意見が出尽くしてきたようですので、ここでこれまでの意見から引き出せる結論をまとめたいと思います。一般の方々はマスコミ報道やTV番組などで学者の意見をまず信用する前提で動いてしまいますので、間違った報道や片寄った報道などが為されたときには、これを否定するべく、我々は分かり易い説明をしていかなければならないと云うことでしょうか。我々も、専門分野の話以外については知っているようで人に説明するために十分な知識を持っているかと云えば、そうでもないという反省もあります。そんなことから、IOJだよりを活用しての正しい情報の一層の発信と「原子力誤解集」(正しい知識の分かりやすい解説書)を利用して、我々自身がよく勉強をするとともに、これを草の根活動で有効利用することが、何よりも重要だと結論付けることが出来ます。家庭内においても同様のことが言えるでしょう。
具体的な活動としては、
.一般に理解が得られないテーマについては、誤解集などの成果を活用しながら、IOJとして情報を発信していく
.原子力の必要性の根底にあるエネルギー問題について、日本のおかれた環境を踏まえて分かりやすく問題点に
ついての解説や情報を発信する
.IOJだよりや誤解集の成果を活用しながら、草の根対話活動に協力していく
などでしょうか。
以上有難うございました。 (新春座談会開催:2016年1月7日)
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