福島原発の事故が起きて3年有余過ぎた現在でも地元福島では風評被害に悩まさ れています。ISO(国際標準化機構)の審査員である筆者は、審査の要領を用いて、朝日新聞 を例に風評被害の源泉を探ってみました。
審査の視点
福島原発の事故が起きて3年有余過ぎた現在も、深刻な風評被害が続いている。このことは看過できない。筆者はISO品質及び環境の主任審査員のひとりである。かねがね新聞社等の審査をしてみたいと考えていた。今の風評被害は何がもたらしたのか、マスコミの報道にも責任があるのではないか
と考え、「朝日新聞」を例にして、ISO審査員の視点から源泉を探ってみた。(ISO:国際標準化機構を指す)
審査の視点は以下のとおり。
1)朝日新聞の報道方針
2)原発事故に伴う食物汚染について
3)発生している「風評被害」を軽減するには
4)朝日新聞が「風評被害」の世論調査をしたことがあるのか
5)朝日新聞は「風評被害」に関して倫理性をどう認識し、
行動しているのか
朝日新聞と報道方針
質的なトップランナーと勝手に自負している「朝日新聞」が、それなりに社会に影響を及ぼしている報道機関と見做して概観する。
綱領:「不偏不党の地に立って言論の自由を貫き、民主国家の完成と世界平和の確立に寄与す。正義人道に基づいて国民の幸福に献身し、一切の不法と暴力を排して腐敗と闘う。真実を公正敏速に報道し、評論は進歩的精神を持してその中正を期す。常に寛容の心を忘れず、品位と責任を重んじ、清新
にして重厚の風をたっとぶ。1952年制定」基本方針:「国民の知る権利に応えるため、いかなる権力にも左右されず、言論・表現の自由を貫き、新聞をはじめ多様なメディアを通じて公共的・文化的使命を果たします」朝日新聞も組織としては内部監査、CSR等々のチェック機能は揃っている。肝腎なのはそのチェック機能が果たして有効に機能しているのかなので、これから具体的な記事に基づい
て評価して行きたい。
なお綱領や基本方針は日本新聞協会の『新聞倫理綱領』と殆ど変わりなく、独自性は見られないものの一応明確化されている。問題は、実際の報道プロセスのPDCAが回って機能しているのか、いないのかである。
「食物汚染の風評被害」についての社説
筆者は「IOJだより」第44号で原発事故以降1年間の朝日・読売新聞の社説すべてを解析し、俯瞰した。更に第69号でその後の1年間の社説も追った。今回は更にその後の1年間の社説をすべて検証した。結果として「風評被害」に自ら言及していないことが分かる。これは内部監査/CSR__の力量が備わっていない証左である。
2011年から2年間では、2012年1月20日・朝日新聞の社説「毎日の食事で実際にどれくらいの放射性物質を取り込んでいるのか。・・・・政府は、福島県を重点にして食事の調査を計画的に進めるべきだ。こうした記事は、いろいろなことを教えてくれる」が、唯一あげられる。
表向き《調査を計画的に進めるべき》と前向きに提言しているように見えるが、《その結果が出るまでは、農産物や酪農製品や海産物などを摂取すべきではない》と逆説的に風評を煽っていると解釈できるのではないのか。
3年有余経過して、ある酪農家が乳製品の放射性物質は基準値以下でそれを表示しても、福島県産というレッテル・情報が消費者に刷り込まれて購入してくれない。従って海外から牧草を輸入すると補償金がカットされ困っている、とある
報道機関のインタビューにて答えていた。卸売市場では他県産の農作物の価格の約三分の一に今もなっていると聞くが、それらの記事にはお目にかかれない。報道機関にとって都合の悪い事実は報道しない姿勢を読み取れる。
逆に、不安を煽る記事は沢山ある。例えば2013年8月9日・朝日新聞の社説では「1日300トンの汚染水が海に流出している可能性があるという」。続いて8月17日の社説では「放射性物質で汚染された水が流出し、地下や海を汚染し続けている。」と汚染水が流出している事実を報道している。しか
し、科学的・放射線医学的に、どの程度、海産物に影響するのかの説明を省略し、《ただ300トンだ、海を汚染している》と喧伝している。これはまさに自ら「風評被害」を発信しているにほかならない。
発生している「風評被害」を軽減するには
「風評被害」の源を発信していることは、ISO用語でいう「重大な不適合事例」そのものである。
筆の力をフルに発揮できる新聞業界は、その「不適合事例」の原因を深く掘り下げ、再発防止策、予防処置を確実にしなければならない。そのような対策がとられたのかを紙面上では今まで読み取ることができない。
ISOは、PDCAを有効に回しているかを審査ポイントにしている。報道プロセスをその観点から見ると、記者による取材(Do)が基本である。その事実が正しいのかどうか、根拠を検証するのが編集(Do→Check)であろう。毎日発刊される新聞記事は、全体的に綱領や基本方針に合致しているかの
Checkをするのは当然である。発刊し、購読者からの意見を聞き、代表例を言えば「新聞の日」に1年間の総括をして、Actionをとるのであろう。しかし、本来は、毎日行われる報道プロセスでPDCAが回ることが必要となる。
不適合事象が発生した場合に、修正処置が先ず必要で、訂正記事の掲載が要求される。更に是正処置には、真の原因の追求が求められる。今まで訂正記事が載った事例は極めて希なことである。つまりたったの10数時間で編集した記事は、ほぼ完璧だと自ら宣言していることに等しい。果たして
それは本当だろうか。不適合であるかどうかは一人舞台だからなかなか気づかない。それらに気づくには内部監査/CSRや、読者からの意見(外部コミュニケーション)を真摯に受け止め、PDCAを回すことが肝要である。そのような視点からも、購読者に関心のある「風評被害」をなぜ取りあげてい
ないのか、不思議に思われる。
「風評被害」の世論調査をしたことがあるのか
朝日新聞も含め通常の世論調査は、統計学的手法で無作為に抽出して電話調査をしたと表向き発表する。しかし多くの調査は外注化され、回収率はせいぜい60%である。千人強のデータを分析して、あたかも国民の意見だと発表している。
今や固定電話所有者は老人が多く、丁寧に答える。今はスマホの時代である。若者の意見を反映していないことにも気づいていない。いや、まともな調査をしている振りをしているのであろう。内閣府の調査手法《国勢調査のデータを統計的手法に則り、抽出している》に、少なくとも見習いたい
ものである。
またQ&Aは「賛成」「良くわからない」「反対」の答えを選択させるのが一般的。しかし「良くわからない」が半数の調査結果は意味をなさないことを自ら認めているようなもの。「大いに評価する」「どちらとも言えない」「まあまあ評価する」「あまり評価しない」「評価しない」の選択肢で
ある。これまた「どちらとも言えない」が圧倒的に多い。また質問が誘導的であり、なぜそう考えるのかを答えにくい質問が殆どである。
では、何のために世論調査をしているのだろうか。単なる目玉記事、国政選挙の事前予測、消費税増税・原発再稼働是非など大きな事象への国民の判断などを知るのが目的なのか。その中で「風評被害」の源泉について調査している事例を今まで見たことがない。福島産のものを買わない理由につ
いては、「偉い学者が危ないと言っているから」「新聞が問題だと煽っているから」「行政の広報が信用できないから」「近所の仲間が言っているから」「ブログに書いてあるから」「放射線量の検査結果を信用できないから」「チェルノブイリの被害を見て心配だから」「何しろ子供に健康被害が
あっては困るから」など、色々な理由がありそうであるが、本当のところは何を根拠に購入しないと判断しているのか。
消費者は自分がどこから情報を得て、自ら結論をどうやって引き出しているのかのプロセスが不明確であるように思われる。逆に、報道がコントロールすれば、世論を誘導できると勘違いしているのではないか。でも近時の国政選挙結果を見れば、報道機関の思惑と大きな乖離があることが明白である
が、それに気づいていない、いや気づいていても知らん顔なのかと勘ぐりたくなる。なぜ、「風評被害」の世論調査を、根拠のある、信用できる手法でもって報道機関はしないのか。「風評被害」は逆説的に世論誘導には向かないのかとも
判断できる。
「風評被害」に関して倫理性をどう認識し行動しているのか
日本新聞協会の『新聞倫理綱領』は、【前文】【自由と責任】【正確と公正】【独立と寛容】【人権の尊重】【品格と節度】で構成され1946年に制定。2000年に見直されたが、概ね旧綱領を踏襲している。
ISOで言う法規制その他の要求事項は、その綱領には何も織り込まれていない。
憲法21条の「知る権利」を充足させるのに、報道機関の活動は重要と考え、報道の自由が保証されていることは言うまでもない。下位の法律では、メディア三法がある。個人情報保護法(2003年成立)、人権擁護法(廃案)、青少年有害社会環境対策基本法(国会提出断念)である。これ等メディア三法が義務を要求するものであるも、いずれも憲法に謳われている「知る権利」を盾に「報道の自由」という権利ばかりを強調しており、マスコミによる義務の履行の実現はままならない状況にある。従って『倫理綱領』という自己規制する枠組みしかないのが現実である。権利と義務とのバランスが余りにも悪い。故に前述の「朝日新聞の不適合事象・・」での不適合事例が頻発するのではないのか。今やマスコミは第4の権力となっているのである。その報道が社会に大きな影響を及ぼし、上記のような風評を巻き起こしていると言える。その影響を検証し、PDCAを回して報道を修正することは義務といえるだろう。それができないのであればマスコミによる、「風評被害」を訴訟に持ち込んで係争する道しか残されていないとも思える。
総括所見
福島県産の農産物・乳製品・肉類・海産物・林業製品(火力発電用の間伐したチップ)等々多岐に亘る諸製品が、未だに甚大な「風評被害」に遭っている。
福島第一原発の事故が第一義的責任を負わねばならないことは当然であるが、東電は諸外国の力も借りて、国の全面的な後押しも受けて、現在必死になって事故からの復興に取り組んでいるのは事実である。
しかし、事故から3年有余経った現在でも、「風評被害」は我々の前に姿を見せ続けている。朝日新聞も含めたマスコミは、「報道の自由」を後ろ盾に読者や視聴者に報道しているが、「風評被害」の発信源が自分達であることに気づいていない。「権利」だけを享受し、「義務」を姿の見えない「倫理綱領」にお任せで、自意識がないのではないかと判断する。少なくとも「風評被害」の事実を「報道の源泉」として捉え、果敢に切り込むことが喫緊に求められている。
国民は、主に新聞などのマスコミの報道を見て放射能汚染を定性的に理解している。しかし、福島県産のものは、残留放射線が心配だと言い、どうしても購入したがらない。その不安を煽るのは誰か、なぜそうなるのかを今回見てきた。この「IOJだより」を新聞社が見て倫理規定を見直して、直ぐにPDCAを回すとは思えないが、こう言う切り口でもって「風評被害」を真摯に考えて欲しいと思うところである。
一方国民の側も、朝日新聞等の報道を鵜呑みにせず、好奇心を持って汚染の状況を知ろうとする姿勢を持つ、あるいは市中に出回っている福島県産など被災地からの食料品は厳密な検査を経て出荷されていることを正しく理解する等して、放射能汚染を必要以上に恐れる事の無いようにしたいものである。
(Y. S. 記)__
印刷(pdf)はこちらから
IOJだより pdf
福島原発の事故が起きて3年有余過ぎた現在も、深刻な風評被害が続いている。このことは看過できない。筆者はISO品質及び環境の主任審査員のひとりである。かねがね新聞社等の審査をしてみたいと考えていた。今の風評被害は何がもたらしたのか、マスコミの報道にも責任があるのではないか
と考え、「朝日新聞」を例にして、ISO審査員の視点から源泉を探ってみた。(ISO:国際標準化機構を指す)
審査の視点は以下のとおり。
1)朝日新聞の報道方針
2)原発事故に伴う食物汚染について
3)発生している「風評被害」を軽減するには
4)朝日新聞が「風評被害」の世論調査をしたことがあるのか
5)朝日新聞は「風評被害」に関して倫理性をどう認識し、
行動しているのか
朝日新聞と報道方針
質的なトップランナーと勝手に自負している「朝日新聞」が、それなりに社会に影響を及ぼしている報道機関と見做して概観する。
綱領:「不偏不党の地に立って言論の自由を貫き、民主国家の完成と世界平和の確立に寄与す。正義人道に基づいて国民の幸福に献身し、一切の不法と暴力を排して腐敗と闘う。真実を公正敏速に報道し、評論は進歩的精神を持してその中正を期す。常に寛容の心を忘れず、品位と責任を重んじ、清新
にして重厚の風をたっとぶ。1952年制定」基本方針:「国民の知る権利に応えるため、いかなる権力にも左右されず、言論・表現の自由を貫き、新聞をはじめ多様なメディアを通じて公共的・文化的使命を果たします」朝日新聞も組織としては内部監査、CSR等々のチェック機能は揃っている。肝腎なのはそのチェック機能が果たして有効に機能しているのかなので、これから具体的な記事に基づい
て評価して行きたい。
なお綱領や基本方針は日本新聞協会の『新聞倫理綱領』と殆ど変わりなく、独自性は見られないものの一応明確化されている。問題は、実際の報道プロセスのPDCAが回って機能しているのか、いないのかである。
「食物汚染の風評被害」についての社説
筆者は「IOJだより」第44号で原発事故以降1年間の朝日・読売新聞の社説すべてを解析し、俯瞰した。更に第69号でその後の1年間の社説も追った。今回は更にその後の1年間の社説をすべて検証した。結果として「風評被害」に自ら言及していないことが分かる。これは内部監査/CSR__の力量が備わっていない証左である。
2011年から2年間では、2012年1月20日・朝日新聞の社説「毎日の食事で実際にどれくらいの放射性物質を取り込んでいるのか。・・・・政府は、福島県を重点にして食事の調査を計画的に進めるべきだ。こうした記事は、いろいろなことを教えてくれる」が、唯一あげられる。
表向き《調査を計画的に進めるべき》と前向きに提言しているように見えるが、《その結果が出るまでは、農産物や酪農製品や海産物などを摂取すべきではない》と逆説的に風評を煽っていると解釈できるのではないのか。
3年有余経過して、ある酪農家が乳製品の放射性物質は基準値以下でそれを表示しても、福島県産というレッテル・情報が消費者に刷り込まれて購入してくれない。従って海外から牧草を輸入すると補償金がカットされ困っている、とある
報道機関のインタビューにて答えていた。卸売市場では他県産の農作物の価格の約三分の一に今もなっていると聞くが、それらの記事にはお目にかかれない。報道機関にとって都合の悪い事実は報道しない姿勢を読み取れる。
逆に、不安を煽る記事は沢山ある。例えば2013年8月9日・朝日新聞の社説では「1日300トンの汚染水が海に流出している可能性があるという」。続いて8月17日の社説では「放射性物質で汚染された水が流出し、地下や海を汚染し続けている。」と汚染水が流出している事実を報道している。しか
し、科学的・放射線医学的に、どの程度、海産物に影響するのかの説明を省略し、《ただ300トンだ、海を汚染している》と喧伝している。これはまさに自ら「風評被害」を発信しているにほかならない。
発生している「風評被害」を軽減するには
「風評被害」の源を発信していることは、ISO用語でいう「重大な不適合事例」そのものである。
筆の力をフルに発揮できる新聞業界は、その「不適合事例」の原因を深く掘り下げ、再発防止策、予防処置を確実にしなければならない。そのような対策がとられたのかを紙面上では今まで読み取ることができない。
ISOは、PDCAを有効に回しているかを審査ポイントにしている。報道プロセスをその観点から見ると、記者による取材(Do)が基本である。その事実が正しいのかどうか、根拠を検証するのが編集(Do→Check)であろう。毎日発刊される新聞記事は、全体的に綱領や基本方針に合致しているかの
Checkをするのは当然である。発刊し、購読者からの意見を聞き、代表例を言えば「新聞の日」に1年間の総括をして、Actionをとるのであろう。しかし、本来は、毎日行われる報道プロセスでPDCAが回ることが必要となる。
不適合事象が発生した場合に、修正処置が先ず必要で、訂正記事の掲載が要求される。更に是正処置には、真の原因の追求が求められる。今まで訂正記事が載った事例は極めて希なことである。つまりたったの10数時間で編集した記事は、ほぼ完璧だと自ら宣言していることに等しい。果たして
それは本当だろうか。不適合であるかどうかは一人舞台だからなかなか気づかない。それらに気づくには内部監査/CSRや、読者からの意見(外部コミュニケーション)を真摯に受け止め、PDCAを回すことが肝要である。そのような視点からも、購読者に関心のある「風評被害」をなぜ取りあげてい
ないのか、不思議に思われる。
「風評被害」の世論調査をしたことがあるのか
朝日新聞も含め通常の世論調査は、統計学的手法で無作為に抽出して電話調査をしたと表向き発表する。しかし多くの調査は外注化され、回収率はせいぜい60%である。千人強のデータを分析して、あたかも国民の意見だと発表している。
今や固定電話所有者は老人が多く、丁寧に答える。今はスマホの時代である。若者の意見を反映していないことにも気づいていない。いや、まともな調査をしている振りをしているのであろう。内閣府の調査手法《国勢調査のデータを統計的手法に則り、抽出している》に、少なくとも見習いたい
ものである。
またQ&Aは「賛成」「良くわからない」「反対」の答えを選択させるのが一般的。しかし「良くわからない」が半数の調査結果は意味をなさないことを自ら認めているようなもの。「大いに評価する」「どちらとも言えない」「まあまあ評価する」「あまり評価しない」「評価しない」の選択肢で
ある。これまた「どちらとも言えない」が圧倒的に多い。また質問が誘導的であり、なぜそう考えるのかを答えにくい質問が殆どである。
では、何のために世論調査をしているのだろうか。単なる目玉記事、国政選挙の事前予測、消費税増税・原発再稼働是非など大きな事象への国民の判断などを知るのが目的なのか。その中で「風評被害」の源泉について調査している事例を今まで見たことがない。福島産のものを買わない理由につ
いては、「偉い学者が危ないと言っているから」「新聞が問題だと煽っているから」「行政の広報が信用できないから」「近所の仲間が言っているから」「ブログに書いてあるから」「放射線量の検査結果を信用できないから」「チェルノブイリの被害を見て心配だから」「何しろ子供に健康被害が
あっては困るから」など、色々な理由がありそうであるが、本当のところは何を根拠に購入しないと判断しているのか。
消費者は自分がどこから情報を得て、自ら結論をどうやって引き出しているのかのプロセスが不明確であるように思われる。逆に、報道がコントロールすれば、世論を誘導できると勘違いしているのではないか。でも近時の国政選挙結果を見れば、報道機関の思惑と大きな乖離があることが明白である
が、それに気づいていない、いや気づいていても知らん顔なのかと勘ぐりたくなる。なぜ、「風評被害」の世論調査を、根拠のある、信用できる手法でもって報道機関はしないのか。「風評被害」は逆説的に世論誘導には向かないのかとも
判断できる。
「風評被害」に関して倫理性をどう認識し行動しているのか
日本新聞協会の『新聞倫理綱領』は、【前文】【自由と責任】【正確と公正】【独立と寛容】【人権の尊重】【品格と節度】で構成され1946年に制定。2000年に見直されたが、概ね旧綱領を踏襲している。
ISOで言う法規制その他の要求事項は、その綱領には何も織り込まれていない。
憲法21条の「知る権利」を充足させるのに、報道機関の活動は重要と考え、報道の自由が保証されていることは言うまでもない。下位の法律では、メディア三法がある。個人情報保護法(2003年成立)、人権擁護法(廃案)、青少年有害社会環境対策基本法(国会提出断念)である。これ等メディア三法が義務を要求するものであるも、いずれも憲法に謳われている「知る権利」を盾に「報道の自由」という権利ばかりを強調しており、マスコミによる義務の履行の実現はままならない状況にある。従って『倫理綱領』という自己規制する枠組みしかないのが現実である。権利と義務とのバランスが余りにも悪い。故に前述の「朝日新聞の不適合事象・・」での不適合事例が頻発するのではないのか。今やマスコミは第4の権力となっているのである。その報道が社会に大きな影響を及ぼし、上記のような風評を巻き起こしていると言える。その影響を検証し、PDCAを回して報道を修正することは義務といえるだろう。それができないのであればマスコミによる、「風評被害」を訴訟に持ち込んで係争する道しか残されていないとも思える。
総括所見
福島県産の農産物・乳製品・肉類・海産物・林業製品(火力発電用の間伐したチップ)等々多岐に亘る諸製品が、未だに甚大な「風評被害」に遭っている。
福島第一原発の事故が第一義的責任を負わねばならないことは当然であるが、東電は諸外国の力も借りて、国の全面的な後押しも受けて、現在必死になって事故からの復興に取り組んでいるのは事実である。
しかし、事故から3年有余経った現在でも、「風評被害」は我々の前に姿を見せ続けている。朝日新聞も含めたマスコミは、「報道の自由」を後ろ盾に読者や視聴者に報道しているが、「風評被害」の発信源が自分達であることに気づいていない。「権利」だけを享受し、「義務」を姿の見えない「倫理綱領」にお任せで、自意識がないのではないかと判断する。少なくとも「風評被害」の事実を「報道の源泉」として捉え、果敢に切り込むことが喫緊に求められている。
国民は、主に新聞などのマスコミの報道を見て放射能汚染を定性的に理解している。しかし、福島県産のものは、残留放射線が心配だと言い、どうしても購入したがらない。その不安を煽るのは誰か、なぜそうなるのかを今回見てきた。この「IOJだより」を新聞社が見て倫理規定を見直して、直ぐにPDCAを回すとは思えないが、こう言う切り口でもって「風評被害」を真摯に考えて欲しいと思うところである。
一方国民の側も、朝日新聞等の報道を鵜呑みにせず、好奇心を持って汚染の状況を知ろうとする姿勢を持つ、あるいは市中に出回っている福島県産など被災地からの食料品は厳密な検査を経て出荷されていることを正しく理解する等して、放射能汚染を必要以上に恐れる事の無いようにしたいものである。
(Y. S. 記)__
ページのトップへ戻る
印刷(pdf)はこちらから
IOJだより pdf