SEJ　日本のエネルギーを考える会 - 福島第二原発派なぜ事故にならなかったか

福島第二原発派なぜ事故にならなかったか

カテゴリ: ニュースレター 2017-2-7 9:20 閲覧 (711)

大津波を受けた翌日の3/12、東京電力福島第二原子力発電所（以下「福二」と略す。）も緊急事態の状態（原子炉を冷却できない状態）に陥っていた。ところが、福二はその後、緊急事態を回避した。安全に冷温停止したのである。

核燃料の溶融事故寸前になっていた原発が安全停止したのは世界でも初めての出来事である。このことは意外と国民に知られていない。この出来事は事故時に運転者の専門知識がいかにする。

福二は外部電源があったのになぜ緊急事態になったのか

福二は４基の原発全基がフル操業していたが１、大津波に襲われた際、東電福島第一原子力発電所（以下「福一」と略す。）と同じように大津波で海水冷却ポンプと電気系統が浸水し、1,2,4号機の最終冷却源が失われた。
しかし、福一と違ったのは、津波の後、外部電源1系統（富岡線1号線）が生き残っていたことと、環境放射能が低かったことである。これが以下に述べる対策を可能とした。
福二は制御棒挿入による原子炉停止の後、原子炉隔離時冷却系（RCIC）と主蒸気逃し安全弁（SR 弁)を使って原子炉容器の圧力と温度を下げる努力を続けた。しかし、これらはいずれも格納容器下部の圧力抑制室（SC 室）内に貯めた水の効用に拠るものだったため、SC 室の水温が徐々に上昇し、蒸気になる100℃に達した。このため、3/12早朝には東電から政府に原子力緊急事態が通報されることとなった。

福二が無事停止したのは稀有な経験

緊急事態に陥った福二はなぜ生還したのか。その理由は、仮設ケーブルの敷設とポンプモーターの交換によって、海水冷却ポンプを稼働させたことにある。
それは上述したとおり、福二の環境が良かったことと運転員の緊急時判断が的確だったためである。福二の運転員とは、東電の増田尚宏所長（当時）他の東電職員、原子力安全・保安院の宮下明男原子力保安検査官他6名４及び協力会社社員たちである。
海水冷却ポンプを稼働させた仮設ケーブルの敷設とポンプモーターの交換のことを以下に示す。

総延長９km、約270 トンもの仮設ケーブルを引いた

福二の運転員は大津波の後、原子炉の冷温停止には海水冷却ポンプの稼働が必須と判断し、水で濡れた本設ケーブルを諦めて海水冷却ポンプまで、総延長9km 総重量約270トンもの仮設ケーブルを約200人で敷設した。
福二は福一と違い、炉心の冷却水を海水で直接冷却せず、中間に純水を使う間接冷却方式を採用している。このため、冷却に必要なポンプが福一の場合より多い点が厄介だった。必要になるポンプは、1,2,4号機の残留熱除去機器冷却系(RHRC)ポンプ、残留熱除去機器冷却用海水系(RHRS)ポンプそして残留熱除去系ポンプ(RHR)を冷却する非常用海水ポンプ（EECW）の３種類である。RHR ポンプは水没を免れていた。
上記のケーブル敷設には福二の手持ちケーブルだけでは足りない。そのため、3/11中に本店対策本部経由で柏崎刈羽原子力発電所に追加手配が依頼され、3/13朝には必要なケーブルが福二に届けられた。
これらのケーブルを使って、廃棄物処理建屋の地下１階（RW/B1）のパワーセンター（1WB-1）から3号機タービン建屋東側に配置した高圧電源車へ、そして3号機海水熱交換器建屋(Hx/B)のパワーセンター（3D-2）から1号機、2号機及び4号機のRHRC ポンプ、RHRS ポンプ及びEECW ポンプへのケーブル敷設が行われた。

ポンプのモーターを自衛隊機で工場から取寄せて交換

3/12の11:24頃福二から1号機用のRHRC ポンプ(1B 及び1D)並びにEECW ポンプ(1B)を復旧させるためのモーター手配の依頼を受けた柏崎刈羽原発は、すぐに製造元の三重工場に連絡した。これらのモーターが工場にあることが判り、これらを直ちに自衛隊小松基地経由で福島空港を経由して広野町役場まで自衛隊によって輸送され、その先は福二の職員により輸送された。
4号機のRHRC(4B 及び4D)ポンプのモーターは柏崎刈羽原発から3/13朝までに福二に届けられた。

福二は過酷事故寸前（原災法第15 条状態）から復帰した

以上のアクシデント・マネージメント対策(SAM)が功を奏し福二は過酷事故の寸前（原災法第15条状態）まで陥っていたのに安全に停止できた。これは世界の原発史上初めての出来事である。
福二のこの成功例は発電所の環境と運転員の的確な判断があればSAM が成功する可能性が高いことを示した貴重な実例である。原子力規制庁は現在、専門性向上を目指して法律を改正予定であるが、そのような努力を積み重ねていくことが安全性向上に大いに役立つことを、この例は示している。以上