１ 特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律の制定とその後の動き高レベル放射性廃棄物の処分事業を推進するため、２０００年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が制定された。主要なポイントは�｜倭惱菠�の事業主体として原子力発電環境整備機構（NUMO）を設立する。�⊇菠�地の選定調査の受け入れは全国の自治体から公募する。（公募開始は２００２年から）処分地選定調査は文献調査→概要調査→精密調査の３段階とされ、その結果により処分地選定詳細調査→処分地建設→操業→処分場閉鎖に進むこととなる。
その後、高知県東洋町の応募があったものの活動家による妨害行為により２００７年に応募が取り下げられた。この経緯を踏まえ、２０１３年には最終処分関係閣僚会議が創設され、２０１５年には「特定放放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針の改定」が閣議決定され、次の事項が主要ポイントとして盛り込まれた。
�� 現世代の責任として地層処分に向けた取組みを推進（同時に回収可能性を担保）
�� 受け入れ地域に対する敬意や感謝の念を国民で共有
�� 将来の幅広い選択肢を確保する観点から可逆性を担保する
�� 科学的により適正の高いと考えられる地域を提示する等国が前面に立って取組む
上記方針�い鯑Г泙┐董■横娃隠掲�に国は「科学的特性マップ」を公表した。マップは全国を科学的な見地から、好ましくない特性があると推定される地域（オレンジ、シルバー）と好ましい特性が確認される可能性が相対的に高い地域（グリーン）に大別し、その中で、海岸からの距離が２０�勸米發鯡椣造僕∩�面から陸上輸送が容易な場所として適性が高いと考えられる地域を濃いグリーン地域（グリーン沿岸部）に分類している。ただし、このマップは適地を具体的に示したものではなく全国各地で実施する対話活動のきっかけとなるものとして位置づけされており、各地で対話型説明会が実施されてきた。
その後、文献調査対象地域として２０２０年１１月には北海道の２地域が、２０２４年６月には佐賀県の１地域が選定されている。
２ 処分場確保の可能性と地層処分の安全性評価について
万年単位を超える超長期にわたって地質的に安定した処分場を日本で確保できるかについてこの分野の専門家は確保できるとしておりその懸念は払拭されている。国際機関（OECD/NEA）の報告においても岩塩層だけでなく堆積岩や結晶質岩も地層処分に適した地質環境となりうると評価されている。また、我が国では地層処分の安全性の評価に関する技術的検討は長期にわたり研究が続けられてきており、その成果は包括的技術報告（２０２１第二次セーフテイケース）として公表されており、日本の技術レベルは信頼に足るレベルに達していると考えられる。日本が取りまとめたセーフテイケースについて国際組織からのエンドース評価を受けるプロセスを国民に伝わる方式で実施することは国民理解を深める意味で意義深いと考える。具体的にはフィンランド、スエーデン、フランスなどを中心に国際機関の協力を得て実施することで、日本の技術力が国際的にも客観的に評価されることにつながる。
３ 処分事業に係る法制度の見直しについて
�� 地層処分事業の実施体制は国の直轄事業とすべき
地層処分の事業実施機関として２０００年にNUMOが設立されてから２４年経過している。NUMOは全国各地で地層処分に関する説明会を開催してきたほか、安全性の研究資料の公開、配布など、法に基づき事業推進してきたものの、処分事業実現の観点からみると現状において評価される活動実績は乏しいと言わざるを得ない。その意味から今後も地層処分事業をNUMOに託する法制度の仕組みでは処分事業は実現しないと考える。
一般論として、法に基づく独立機関であっても国の監督下のもとに事業推進することになるので、事業予算の執行、決算など監督官庁に相談、報告することが必要になる。従って、独立機関が自らの判断と責任で事業を推進することはできない仕組みになっている。
地層処分事業は地元との調整、政治関係、権利関係の調整など解決すべき課題はあらゆる分野に及ぶので、国の責任のもとに国が事業主体となり直轄事業とするべきと考える。たとえば、内閣総理大臣直下の地層処分事業庁を設立することが考えられる。NUMOは廃止するものの、適性のある人員を事業庁に移すと共に調査、研究主体の人員は原研機構に移すことが考えられる。
�� 調査対象地域を公募方式とする制度を、適地と想定される地域を国が自ら調査のうえ、何箇所か選定し調査実施の地元交渉にあたる制度に転換する
これまで第一段階の文献調査の対象地域は３地域にすぎない。第二段階に進めることができるか、それぞれ、地元知事の対応、ガス田などの地下構造が指摘されおりで不透明である。調査対象地域を増やすための呼び掛けがなされているものの応募の動きはみられない。公募方式は地元の首長さんに掛ける負担が大きく、東洋町の失敗もあり議論としては公募方式を見直すべきではないかとの意見はこれまでも述べられてきたが見直しの動きはみられない。地元の首長が公募に応じて応募する場合の判断基準は現状では科学的特性マップがあるが、地質構造をおおまかにとらえたものにすぎないので処分地としての適性については段階を踏んで詳細な調査が必要となる。また、公募に応じた地域が処分地として適正でないとの結論になるケースが多い場合は投下資金が結果的に無駄になる。
日本国土の地質構造については地質調査総合センター（旧地質調査所工業技術院傘下）のデーター蓄積が最大だろう。したがって、国の事業主体が必要予算を確保のうえセンターと協力してセーフテイケースの考え方に則り、最終処分適地の可能性が高いとみられる候補地を全国で数か所選定する制度に転換することで調査のための投下資金が有効活用されるとともに、調査実施の地元交渉が国との直接交渉となることから交渉の信頼度も高まることにつながるだろう。
以上の見直し実現のためには、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」の抜本改正が必要となる。
４ 地層処分技術の高度化の必要性と国民理解の増進
地下の地質、物性等の評価技術について最新の技術進歩、たとえば量子センサーによる微細物体の挙動監視技術、AI技術の応用などを用いて処分技術の高度化を図ると共に、ある程度規模の大きい実証施設を建設して、将来操業する地下処分施設の設備配置、仕組み、坑道の構造など直接内部に入って体験可能な場所とすることで処分技術、安全性、構造物への国民理解が飛躍的に進むことが期待される。
さらに、核変換技術によって長寿命核分裂生成物を安定核半減期の短い核種に変換する研究は多大の研究費がかかることから現実には進展していない。理科学研究所や原研機構などが助成金で研究を実施してきたがこれらも次の飛躍につながるためには思い切った大規模な予算の確保が必要となる。大強度陽子加速器の応用や、FBR試験炉の建設などが考えられているが、効率性が高く必要資金が抑えられる核変換技術の開発はコぺルニクス的発想の転換が必要ともいわれている。
５ 政治レベルの理解と具体活動が地層処分事業推進に不可欠かつ必須
地層処分は万年単位のプロジェクトであることから技術を越えて人間社会の持続的生存や社会倫理に直結する課題としてとらえる必要がある。その意味で国民理解を深める意味でも政治の果たす役割もまた大きいといる。しかし、現実には日本の国会では政治家が自ら原子力に関する法律提案したことも策定したことも、初期の原子力導入時を除いては聞いていない。
現状は原子力に関する国会内での活動は形式程度のものとなっていないか。たとえば、地層処分法の改正を国会発議とするくらいに政治家が関心と責任を示すことになれば行政官も本気でやる気を出すと考える。いずれにしても地層処分は該当地域の住民の同意を得ることがすべてともいえるが、このためには時間をかけて何回も何回も紆余曲折を重ねざるを得ないだろう。したがって、政治レベルの理解と具体活動が地域の判断と決断にきわめて重要な役割を果たすことになるので、今後、政治家への理解活動の働き掛けを行うマネジメントが必要になる。
（佐々木宜彦 記）
１０月１日に日本原子力学会シニア・ネットワークによって「原子力政策大転換をかけ声倒れにするな」をテーマとするセミナーが開かれたので、赤ペン親父も旧友と会えるかもしれぬとの思いで参加した。参加人数は約１７０名ということで、原子力関係者の集まりとしては懇親会も含めて、かなり盛況だったと思う。また、業界ではよく名の知られた有名人もかなりの人数が参加していたように見受けられた。
しかし、ここで思い至ったのは、原子力発電に従事している（あるいはしていた）人数は１７０人程の小規模なものではなく、１０万人程度はいるはずで、関係者が総力を結集すれば相当の数が集まり、それなりの圧力団体を形成できるのではないかということであった。ところが、ようやく地球温暖化問題や各地で起こっている戦争状態のお陰で原子力発電に追い風が吹いているというのに、原子力推進を謳うセミナーの参加者がせいぜい１７０人ではお話にならない。事態を動かすには政治家が腹を据えて原子力に取り組む姿勢を示すことが重要であり、原子力を支持している人々の集まりが原子力を推進する国会議員を後押しする一大勢力であることが示されないと、政治家も動こうとするはずがない。
今回のセミナーのテーマの通り原子力政策大転換をかけ声倒れにしないためには、発電ばかりではなく、懸案のHLW埋設事業の進展の為にも、政治主導の取り組みが求められているという基本点に賛同するものであるが、原子力に対する理解が進んでいないと思われる環境では、政治家は動かないのではないだろうか。
「猿は木から落ちても猿だが、議員は選挙に落ちればただの人」は、政治家の骨の髄まで沁み込んでいる恐怖心を表している。原子力支持者がまとまって政治家を後押しできるということを示さないと、政治主導で事態の進展を促すのは至難の業であろう。
統一教会のような胡散臭い組織でも、金があって数万人の信者の意思統一が可能であるとなれば政治家は当てにする。原子力に関係している人数はこれ以上だと信ずるが、まとまっていないために当てにして貰えない。おりしも、10月27日に総選挙が行われることとなったが、原子力関係者は今こそ一致団結して政治主導を実現する環境づくりに取り組むべきであろう。例えば、これまでに原子力発電を後押ししてきたにもかかわらず、収支報告書不記載の問題で自民党の公認を得られなかった候補者を原子力関係者が総力を挙げて支持をして当選させるような実績を作らなくては、政治家は動いてくれないのではないだろうか。
具体的なやり方としては、やはり原子力産業協会（以下「原産協」）を活用することが合理的な方策だと考えている。東日本大震災以降これまでに原子力に対する逆風が吹き荒れてきたが、この間13年以上が経過しているにも拘らず原産協はこの逆風を抑える目に見える環境改善の成果を出していない。原子力を進めなくてはならないと考えている原子力関係者の団体がこれだけの長期にわたり成果が出せないのであれば、抜本的に組織に手を入れなくてはならないだろう。
成果が出なかった大きな理由は、協会の理事長席が東京電力の天下り先となっており、その立場上政府に積極的な発言が出来るはずもなく、また強く発言をするような人材が来なかったことにあるものと思われる。会長を長く勤めてくれている新日鉄の幹部には頭が下がるが、実働部隊の長が東電出身者では、原子力発電を推進して欲しいと政治家と直談判するには、自ずと限界があると思わざるを得ない。少なくとも、理事長席は電力会社出身では無い且つ電力大量使用企業の経営層の人物を置くべきではないだろうか。会費の納入額でポジションを決めるような旧来のやり方をいつまでも踏襲していたのでは、成果を挙げることなど夢のような話である。
政治家に対する働きかけや影響力を強めることを目的に組織変更をして、原産協内に新たに「政治部」という実働部署を作り、選挙の際には原子力推進派の国会議員の当選を確実なものにする事をその主要な任務とする。選挙戦において原産協の会員会社全ての社員が力を合わせれば、原子力を進めようとする多くの政治家を国会に送り込むことが出来、原子力推進は日本が生きていくうえで必要であると心置きなく主張しそのための活動ができる環境が整うであろう。(E.I. 記)
pdfはこちらから（プリント版)
�� 受け入れ地域に対する敬意や感謝の念を国民で共有
�� 将来の幅広い選択肢を確保する観点から可逆性を担保する
�� 科学的により適正の高いと考えられる地域を提示する等国が前面に立って取組む
上記方針�い鯑Г泙┐董■横娃隠掲�に国は「科学的特性マップ」を公表した。マップは全国を科学的な見地から、好ましくない特性があると推定される地域（オレンジ、シルバー）と好ましい特性が確認される可能性が相対的に高い地域（グリーン）に大別し、その中で、海岸からの距離が２０�勸米發鯡椣造僕∩�面から陸上輸送が容易な場所として適性が高いと考えられる地域を濃いグリーン地域（グリーン沿岸部）に分類している。ただし、このマップは適地を具体的に示したものではなく全国各地で実施する対話活動のきっかけとなるものとして位置づけされており、各地で対話型説明会が実施されてきた。
その後、文献調査対象地域として２０２０年１１月には北海道の２地域が、２０２４年６月には佐賀県の１地域が選定されている。
２ 処分場確保の可能性と地層処分の安全性評価について
万年単位を超える超長期にわたって地質的に安定した処分場を日本で確保できるかについてこの分野の専門家は確保できるとしておりその懸念は払拭されている。国際機関（OECD/NEA）の報告においても岩塩層だけでなく堆積岩や結晶質岩も地層処分に適した地質環境となりうると評価されている。また、我が国では地層処分の安全性の評価に関する技術的検討は長期にわたり研究が続けられてきており、その成果は包括的技術報告（２０２１第二次セーフテイケース）として公表されており、日本の技術レベルは信頼に足るレベルに達していると考えられる。日本が取りまとめたセーフテイケースについて国際組織からのエンドース評価を受けるプロセスを国民に伝わる方式で実施することは国民理解を深める意味で意義深いと考える。具体的にはフィンランド、スエーデン、フランスなどを中心に国際機関の協力を得て実施することで、日本の技術力が国際的にも客観的に評価されることにつながる。
３ 処分事業に係る法制度の見直しについて
�� 地層処分事業の実施体制は国の直轄事業とすべき
地層処分の事業実施機関として２０００年にNUMOが設立されてから２４年経過している。NUMOは全国各地で地層処分に関する説明会を開催してきたほか、安全性の研究資料の公開、配布など、法に基づき事業推進してきたものの、処分事業実現の観点からみると現状において評価される活動実績は乏しいと言わざるを得ない。その意味から今後も地層処分事業をNUMOに託する法制度の仕組みでは処分事業は実現しないと考える。
一般論として、法に基づく独立機関であっても国の監督下のもとに事業推進することになるので、事業予算の執行、決算など監督官庁に相談、報告することが必要になる。従って、独立機関が自らの判断と責任で事業を推進することはできない仕組みになっている。
地層処分事業は地元との調整、政治関係、権利関係の調整など解決すべき課題はあらゆる分野に及ぶので、国の責任のもとに国が事業主体となり直轄事業とするべきと考える。たとえば、内閣総理大臣直下の地層処分事業庁を設立することが考えられる。NUMOは廃止するものの、適性のある人員を事業庁に移すと共に調査、研究主体の人員は原研機構に移すことが考えられる。
�� 調査対象地域を公募方式とする制度を、適地と想定される地域を国が自ら調査のうえ、何箇所か選定し調査実施の地元交渉にあたる制度に転換する
これまで第一段階の文献調査の対象地域は３地域にすぎない。第二段階に進めることができるか、それぞれ、地元知事の対応、ガス田などの地下構造が指摘されおりで不透明である。調査対象地域を増やすための呼び掛けがなされているものの応募の動きはみられない。公募方式は地元の首長さんに掛ける負担が大きく、東洋町の失敗もあり議論としては公募方式を見直すべきではないかとの意見はこれまでも述べられてきたが見直しの動きはみられない。地元の首長が公募に応じて応募する場合の判断基準は現状では科学的特性マップがあるが、地質構造をおおまかにとらえたものにすぎないので処分地としての適性については段階を踏んで詳細な調査が必要となる。また、公募に応じた地域が処分地として適正でないとの結論になるケースが多い場合は投下資金が結果的に無駄になる。
日本国土の地質構造については地質調査総合センター（旧地質調査所工業技術院傘下）のデーター蓄積が最大だろう。したがって、国の事業主体が必要予算を確保のうえセンターと協力してセーフテイケースの考え方に則り、最終処分適地の可能性が高いとみられる候補地を全国で数か所選定する制度に転換することで調査のための投下資金が有効活用されるとともに、調査実施の地元交渉が国との直接交渉となることから交渉の信頼度も高まることにつながるだろう。
以上の見直し実現のためには、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」の抜本改正が必要となる。
４ 地層処分技術の高度化の必要性と国民理解の増進
地下の地質、物性等の評価技術について最新の技術進歩、たとえば量子センサーによる微細物体の挙動監視技術、AI技術の応用などを用いて処分技術の高度化を図ると共に、ある程度規模の大きい実証施設を建設して、将来操業する地下処分施設の設備配置、仕組み、坑道の構造など直接内部に入って体験可能な場所とすることで処分技術、安全性、構造物への国民理解が飛躍的に進むことが期待される。
さらに、核変換技術によって長寿命核分裂生成物を安定核半減期の短い核種に変換する研究は多大の研究費がかかることから現実には進展していない。理科学研究所や原研機構などが助成金で研究を実施してきたがこれらも次の飛躍につながるためには思い切った大規模な予算の確保が必要となる。大強度陽子加速器の応用や、FBR試験炉の建設などが考えられているが、効率性が高く必要資金が抑えられる核変換技術の開発はコぺルニクス的発想の転換が必要ともいわれている。
５ 政治レベルの理解と具体活動が地層処分事業推進に不可欠かつ必須
地層処分は万年単位のプロジェクトであることから技術を越えて人間社会の持続的生存や社会倫理に直結する課題としてとらえる必要がある。その意味で国民理解を深める意味でも政治の果たす役割もまた大きいといる。しかし、現実には日本の国会では政治家が自ら原子力に関する法律提案したことも策定したことも、初期の原子力導入時を除いては聞いていない。
現状は原子力に関する国会内での活動は形式程度のものとなっていないか。たとえば、地層処分法の改正を国会発議とするくらいに政治家が関心と責任を示すことになれば行政官も本気でやる気を出すと考える。いずれにしても地層処分は該当地域の住民の同意を得ることがすべてともいえるが、このためには時間をかけて何回も何回も紆余曲折を重ねざるを得ないだろう。したがって、政治レベルの理解と具体活動が地域の判断と決断にきわめて重要な役割を果たすことになるので、今後、政治家への理解活動の働き掛けを行うマネジメントが必要になる。
（佐々木宜彦 記）
「赤ペン親父のつぶやき」 第１８話
原子力関係者は一致団結せよ！！
１０月１日に日本原子力学会シニア・ネットワークによって「原子力政策大転換をかけ声倒れにするな」をテーマとするセミナーが開かれたので、赤ペン親父も旧友と会えるかもしれぬとの思いで参加した。参加人数は約１７０名ということで、原子力関係者の集まりとしては懇親会も含めて、かなり盛況だったと思う。また、業界ではよく名の知られた有名人もかなりの人数が参加していたように見受けられた。しかし、ここで思い至ったのは、原子力発電に従事している（あるいはしていた）人数は１７０人程の小規模なものではなく、１０万人程度はいるはずで、関係者が総力を結集すれば相当の数が集まり、それなりの圧力団体を形成できるのではないかということであった。ところが、ようやく地球温暖化問題や各地で起こっている戦争状態のお陰で原子力発電に追い風が吹いているというのに、原子力推進を謳うセミナーの参加者がせいぜい１７０人ではお話にならない。事態を動かすには政治家が腹を据えて原子力に取り組む姿勢を示すことが重要であり、原子力を支持している人々の集まりが原子力を推進する国会議員を後押しする一大勢力であることが示されないと、政治家も動こうとするはずがない。
今回のセミナーのテーマの通り原子力政策大転換をかけ声倒れにしないためには、発電ばかりではなく、懸案のHLW埋設事業の進展の為にも、政治主導の取り組みが求められているという基本点に賛同するものであるが、原子力に対する理解が進んでいないと思われる環境では、政治家は動かないのではないだろうか。
「猿は木から落ちても猿だが、議員は選挙に落ちればただの人」は、政治家の骨の髄まで沁み込んでいる恐怖心を表している。原子力支持者がまとまって政治家を後押しできるということを示さないと、政治主導で事態の進展を促すのは至難の業であろう。
統一教会のような胡散臭い組織でも、金があって数万人の信者の意思統一が可能であるとなれば政治家は当てにする。原子力に関係している人数はこれ以上だと信ずるが、まとまっていないために当てにして貰えない。おりしも、10月27日に総選挙が行われることとなったが、原子力関係者は今こそ一致団結して政治主導を実現する環境づくりに取り組むべきであろう。例えば、これまでに原子力発電を後押ししてきたにもかかわらず、収支報告書不記載の問題で自民党の公認を得られなかった候補者を原子力関係者が総力を挙げて支持をして当選させるような実績を作らなくては、政治家は動いてくれないのではないだろうか。
具体的なやり方としては、やはり原子力産業協会（以下「原産協」）を活用することが合理的な方策だと考えている。東日本大震災以降これまでに原子力に対する逆風が吹き荒れてきたが、この間13年以上が経過しているにも拘らず原産協はこの逆風を抑える目に見える環境改善の成果を出していない。原子力を進めなくてはならないと考えている原子力関係者の団体がこれだけの長期にわたり成果が出せないのであれば、抜本的に組織に手を入れなくてはならないだろう。
成果が出なかった大きな理由は、協会の理事長席が東京電力の天下り先となっており、その立場上政府に積極的な発言が出来るはずもなく、また強く発言をするような人材が来なかったことにあるものと思われる。会長を長く勤めてくれている新日鉄の幹部には頭が下がるが、実働部隊の長が東電出身者では、原子力発電を推進して欲しいと政治家と直談判するには、自ずと限界があると思わざるを得ない。少なくとも、理事長席は電力会社出身では無い且つ電力大量使用企業の経営層の人物を置くべきではないだろうか。会費の納入額でポジションを決めるような旧来のやり方をいつまでも踏襲していたのでは、成果を挙げることなど夢のような話である。
政治家に対する働きかけや影響力を強めることを目的に組織変更をして、原産協内に新たに「政治部」という実働部署を作り、選挙の際には原子力推進派の国会議員の当選を確実なものにする事をその主要な任務とする。選挙戦において原産協の会員会社全ての社員が力を合わせれば、原子力を進めようとする多くの政治家を国会に送り込むことが出来、原子力推進は日本が生きていくうえで必要であると心置きなく主張しそのための活動ができる環境が整うであろう。(E.I. 記)
pdfはこちらから（プリント版)